【ONE PIECE】天駆ける竜   作:柚木 彼方

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4.優しくない(ロー視点)

隣で命乞いをしていた男の頭が撃ち抜かれて、おれはあわてて路地裏へ逃げた。

この町はもう終わりだ。そう告げるように大きな炎が町を包み、飛び散った臓物や血が地面を見えなくする。

 

珀鉛病。それは恐ろしい“感染症”として周りの国々に伝わり、フレバンスは隔離された。

原因はこの町を「白い町」と言わしめていた珀鉛という鉱物。それはなんと毒で、自分達は金のために珀鉛を掘らされ、そのせいで死んでいけと言うのだ。

あらりにも残酷で、受け入れがたい現実。

けれど友人やシスター、家族の死を見たあとではもう何もかも、受け入れるしかないと悟った。

 

発砲音があちらこちらで響く。助けてくれと喚く声が消されていく。

 

生き残りは、と仲間に確認する他国の兵。その声に、どうしようもなくゾッとした。

おれたちを人として見ていない声。駆除の対象としてしかおれたちを見ていないその声は、自国に帰れば優しいものに変わるんだろう。

その人間の二面性というものがとてつもなく怖くて、震えた。

 

おれたちが死んでいって、喜ぶ人がいる。

おれたちが駆除されて、安心する奴等がいる。

おれたちが消えることで、ほくそ笑むところがある。

それが何より悔しくて、生きている意味も価値もないと言われているようで、腹立たしかった。

 

復讐したい。

 

おれの仲間を、家族を殺して安心した奴等をぶち殺したい。

ぶち殺して、笑ってやりたい。

お前らの命の価値だってこんなものなんだ、と。

 

 

「…っ!? おい貴様、何者だ!!」

 

「止まれ! 止まらないと撃つ…ぐっ!?」

 

 

突然、兵たちの慌てたような声がして、建物の間から覗き見る。

するとそこに、明らかに兵ではないーーしかもこの国の人間でもない女が、兵をなぎ倒してそこに立っていた。

先程まで人を撃ちまくっていた兵は倒され、気絶している。

…な、なんだ、あいつ。

 

パチリ。目が合ってしまって慌てる。

やべえ、どうしよう。

 

 

「…あ!!」

 

「!?」

 

 

女は目を輝かせておれを見ると、すごい勢いでこちらへ来てーーおれを抱き締めた。

突然の謎の行動に、俺はなにもできなかった。

生きてたよかった!! と意味のわからないことを言って抱き締めてくる、こいつは誰だ?

その声に何だか聞き覚えがあるような気がして、首を捻った。

こんなおかしな知り合い、いた覚えはない。

 

 

「ローくんだよね? そうだよね? トラファルガー・ローくん」

 

「…あ、……っ、だ、誰だよ」

 

「ハァ、…何でも屋です! 覚えてないかも知れないけど!」

 

 

何でも屋。その名前が引っかかった。

昔どこかで聞いた気がする。何でも屋です。……何でも屋です、か。

ハッと記憶が呼び覚まされて、思い出す。

メスだ。メスを修理してくれた女。

幼い頃の記憶だから曖昧だけど、変な女だったから覚えていた。

それが、どうしてここに。

 

 

「な、…なんでいるんだよ!?」

 

「フレバンスが滅亡寸前だって聞いて、ハァ、飛んできたの…っ、他の人は?」

 

「…分からねェよ! 父様も母様も、妹も死んだ!!」

 

「っ!!」

 

 

何でも屋と名乗る女はそれを聞いて、うんと悲しそうな顔をする。

何でだ。何で関係無いお前がそんな悲しそうな顔してんだよ。意味わかんねェよ、と泣きそうになった。

それからものすごい力で抱き締められて、「つらかったね」なんて。

 

 

「バッ…近寄んな!!」

 

「え…?」

 

「珀鉛病は感染症だって思ってんだろ!? なら近付くなよ!!」

 

 

知識不足のバカが、そう言っているだけなのに。それを鵜呑みにしたやつらのせいで、こうなっている。

珀鉛病は感染症じゃない、中毒だ、と他国の医者に訴えかけ続けていた父様。それを無視し、殺した政府。

政府は確実にこの国を地図から消す気だ。語り継がれるだけの、おとぎの国にしちまうつもりだ。

 

おとぎの国じゃなくていい。幻想的じゃなくたって、そんなに裕福じゃなくたっていい。

望まれて生きたかった。家族と生きたかった。

どうしてそれが、許されない? おれたちはただ、生きたいだけなのに。

 

 

「ーー珀鉛病は感染症じゃないよ。知ってる。…知ってるよ」

 

 

優しい掌と共に、そんな声が降ってきておれは反射的に顔を上げた。苦しそうな笑顔がおれを見つめている。

ぽかん、と口を開けたまま見つめていると、まっすぐな目で見つめ返されて、戸惑ってしまう。

 

 

「なん、で……」

 

「…ちょっと、ね。けど、珀鉛病は中毒だって知ってるから、私はきみから離れない」

 

 

理解してる人がここにいるよ、と微笑まれて、困る。

どんな反応をしたらいい? だっておれは今、絶望と歓喜…両方に呑まれている。

はは、と乾いた笑いが口をついて出た。なんだ。…なんだ。

 

 

「わかってくれてるやつが、いたのか」

 

 

それだけで少し、救われた気がした。

……けど、世界はそんなに甘くない。

 

 

「居たぞ!!」

 

「ーー…っ!」

 

 

嫌な発砲音と共に、女の胸から血が噴き出した。

目の前に舞う血に後ずさりしてしまったが、すぐに何が起きたか理解して血の気が引く。おれといたせいで、この女が、撃たれた。

やっぱりおれは、生きていない方が…。

 

 

「逃げて、ロー!!!」

 

「…っあ、」

 

「なにボーッとしてんの、生き延びろ!!」

 

「で、でも」

 

 

血が噴き出ているのに立ち上がり、次々と兵をなぎ倒す女の強さに驚いた。

女はキッと自分を睨み、叫ぶ。

 

 

「いいから、生きなさいって言ってんの!!! ばか!!」

 

 

まるで、悲鳴のような声だった。

その声に押されるように足が動き、地面を蹴る。

後ろからおれを狙って撃つ音が聞こえたが、そのあとすぐに女が兵を殴る音もした。

なんなんだ、あの女。どうしておれを助けてくれたんだ?

白い悪魔。ホワイトモンスター。…ああ、なんてひどい言葉だろうか。

 

庇ってくれた女のせいで死ぬに死ねなくなったおれ。

なのに、生きててほしいひとは居ない。どこにも。

 

 

世界は、おれに優しくない。

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