「とりあえず、姉上に言っておきたいことがある」
「うん?」
「…今すぐここを出ていってくれ」
…うん? ともう一度聞き返しそうになってしまった。ここを、出ていってくれ? それは、一体どういう意味なんだろうか。
あっもしかして、潜入の上で私、めちゃくちゃ邪魔だとか?
それとも、姉が職場(?)に居るって、嫌かな? ロシーにとっては。
そうなんだったらドフィに相談して出ていこうかな、なんて考えた。
けれど違うようで、周りを窺うような仕草をしてから、ロシーがひそひそと話し出す。
「…ドフラミンゴの姉上に対する執着と愛は、深すぎる」
「え?」
「おかしいんだ、本当に。…姉上、頼むから逃げてくれ。ドフィの手の届かないところに。じゃないと、冗談なんかじゃなく姉上、鎖に繋がれて一生ドフラミンゴのところに居させられる可能性だってある!!」
「鎖!? い、いや、いやいや…」
大袈裟な、とロシーを宥めるが、ロシーは止まらない。頼むから、と可愛い弟にここまで懇願されると心が揺れるが、とにかくロシーを落ち着かせることが第一だ。
昔やってあげていたように背中を叩いてあげると、ロシーはぐっと押し黙る。
そこから頭を撫でてやり、一旦落ち着いたらしいロシーは、「取り乱して悪かった」と息を吐いた。
けど、…鎖かぁ。やらない、とも言い切れないし…なんか苦い気持ち。
それでもロシーが言うほど緊急事態でもないでしょ? と聞き返せば真顔で首を横に振られた。うそん。
そんなにヤバいの? ドフィのシスコンって。あの子どっちかってーとマザコン側だと思ってたんだけど。
…いや、うちでファザコンの方があり得ないからしょうがないんだけど。
「私そんなに愛されてたのね。フフ」
「姉上、笑い事じゃ…」
「だいじょーぶよ、ロシー」
愛されてて怖い、なんてないから…と笑うけど眉間にシワ寄ってるぞー。信じてないだろ。
けど嬉しいことは嬉しいし、鎖に繋がれるのは御免だけど、ロシーが私を心配してくれたのも嬉しい。
なんだろう、今日は悲しくて嬉しい日だ。
「もし何かあっても、私姉上よ? ドフィぶっ倒して逃げるに決まってんじゃない。あの天夜叉より先に産まれた女をナメないでよ!」
「そ、そんなこと…」
「天上天下唯我独尊みたいなドフィも、ドジで優しいロシーも、二人合わせたみたいな存在が私だから! あんたたち、私似だからね!?」
「…………」
あァ……みたいな顔された。おいなんだその顔。分かるってか? 分かるってかチクチョウ。
納得したようなしてないような顔をしているロシーをぎゅうううっと抱きしめて、にっっっこり笑ってやった。
ドフィとロシーが自由に生きてきたように、私も今まで自由に生きてきたんだ。自由さでは負ける気しないからね!
それに、私の心配するより自分の心配しなさい。潜入海兵さん。
「ロシー?」
「……姉上、でもおれ」
「“大丈夫”」
「!」
昔から使ってきた、魔法の呪文。
私を縛り付ける、まさに鎖。
私が大丈夫と言ったことは大丈夫。だって私が大丈夫にするのだから。
今までも大丈夫だった。問題なし。大丈夫!!
「ロシー、私の名前はドンキホーテ・ロレンソだよ? …自分のことくらい守れる、つよーい姉上になって、戻ってきたんだから!」
「姉上…」
「だからロシー、心配しないで。…ありがとう」
誰より優しい私の天使。
例えあなたがここから逃げても、誰も責めやしないでしょうに。
実の兄なのに怖い。常に死が近い。だってドフィは身内でも裏切れば殺すから。
なのに本気で嫌えないロシー。兄を止めたいだけの、ロシー…。
気づいてた。ドフィとロシー、日常生活の中で見ても、どこかに決定的な溝かあると。
(…今度こそ神様に、振り向いてほしいんだけどな)
今までの人生で神に祈ること計数回。
そのうち願いを叶えてもらったことはない。
元天竜人という存在でありながら神様に嫌われてるなんて、どこまでツイてないんだか。
さあ、また神様にアピールしてみよう。
私の愛しい弟たちに、幸せがありますように。