突然だが。ドフィは私をアジトから少し離れたところにある倉庫には近付けない。
それはなぜかって言うと答えは簡単で、そこでは人が売られているからだ。
常にディアマンテやトレーボル、その他幹部たちが見張っているから私は入れさせてもらったことがなくて、だから彼らが居ない今日、少し見てみたいと思う。
ドフィが私をここに入れないのは、たぶん私がこういうことを嫌うのを知っているから。
初めて知ったときは驚いたし、詰め寄った。可哀想な子供の気持ちは、貴方が誰より理解しているはずでしょうと。
けれどドフィは笑みをまったく崩すことなく、私の話を聞かなかったのである。
私の前ではあまりこの仕事は見せないが、それでもファミリーが経済的破綻はせず儲かっているということは、人身売買が活発に行われているという証拠。
天竜人としての感覚が残っているのか、奴隷はゴミにも等しいという考え方を未だしているらしいドフィには困ったものである。
「あっ……ロレンソ様! どうしてこんなところへ?」
「んー? …弟の仕事、見たくて」
だからどっかいけ、と手を振ると男はヘコヘコしながら下がっていった。
調子のいい男はキライだ。さっきまで子供を容赦なく殴っていたクセに。
どこを見ても汚い。
糞尿は垂れ流しだし、どう見たって家畜小屋より汚い。全員の首には首輪と鎖が繋がっているし、目はほら、私の大嫌いな濁った目。
助けてくれ、と喚く気力さえ失ってしまっているそれは、どこまでも悲しい色に染まっていた。
ズキ、と胸がいたくなる。ドフィはどうしてこんなことをするんだろう?
自分を虐げた人間たちに対する恨みが天竜人のような考え方を増幅させ、この人たちをゴミとしてしか映しださないのだろうか。
そう考えてみれば、ドフィは昔からプライドの高い子であったし、そうかもしれない。
いつの間にか隣に来ていたロシーが、私の手をぎゅっと握った。見上げると、眉を下げて首を横に振っている。だめよ、ロシー。そんな顔したら、貴方が優しいままだってバレちゃうじゃない?
子供嫌いだって最近頑張って演じているのに。
「……ロシー」
むせかえるような臭い。普通だったらすぐに出ていきたいと思うだろう。体に臭いが染み付いてしまう前に、と思うだろう。けれど何だか、そんな気持ちにはなれなかった。
彼らも母親から生まれ育てられてきた、同じ人だというのに、ドンキホーテファミリーに捕まってしまっただけで、もう人生を諦めなければならなくなってしまったの?
そんなの、あんまりだと思う。
「…目を逸らしちゃだめよ、ロシー」
「!」
「絶対、目を逸らしちゃ、ダメ」
これが現実だと、受け止めなければいけない。目を逸らしてばかりじゃ生きていけない。何もかもに背中を向けていちゃ、いけないんだ。
受け止めなければいけない。私たちはこの人たちの人権で食べていっていると。
横からロシーの歯ぎしりが聞こえた。強い悲しみと怒りが、ひしひしと伝わってくる。
さすがにこれは、弟が可愛いからなんて言って許す訳にはいかないことだった。
ドフィの生き方に口を出すつもりはないけど、これはひどいと思うんだ。
くるりと踵を返して、出口へ向かう。
恨めしそうな視線が、とても痛かった。とても怖かった。
いつかこの視線に殺される日が来る、と直感した。
「…ふーっ」
外へ出て、あんまりいい空気とは言えない空気を吸い込む。
あそこは空気が云々というか、雰囲気が最悪だった。
「見ておいて良かった。またひとつ勉強になったもの」
「?」
「…光の部分ばっかり見てても生きていけないのよ」
照らされる人がいる。照らされない人がいる。
今日フレバンスを見てそう感じたから、今日ドフィが居ようが居まいが、ここは見に来るつもりだった。
おかげで悲しさは増したけど、私の世界は広がったと思う。
あそこにいる人たちは救えない。無力だということも知れた。勝手な自己満足だけど、それでも良かった。
光の部分ばっかり見てきた幼少期よりは、マシだと思いたいしねぇ。
「ロシーも、頑張るのよ」
「……あァ」
「! ちょ、能力解かない!」
「す、スマン。つい、返事したくなって」
姉弟付き合いも、マシに出来るようになりたいし。