【ONE PIECE】天駆ける竜   作:柚木 彼方

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10.言い訳をさせてほしい

しばらくすると、あの不気味な涙もぴたりと止まって、私の目には泣いたあと特有の赤みと、ひりひりした感じだけが残る。泣いたって知られたくないから、ドフィたちの元に戻る前に少し外へ行こうと思った。

窓を開けて外に出ると、そこは小鳥のさえずりなんか聞こえなくて、聞こえるのはうるさい人の声。

助けてくれって泣き声ひとつでも聞こえてくればこの胸も痛むんだろうけど、生憎そんな声を出すような人は殺されたか売られたかで居ないだろう。

 

 

(…魚、釣りたい)

 

 

唐突にそんなことを思った。けれどこんなゴミ処理場じゃ無理だからと船に向かう。

そこには久しぶりの私の帰還に喜ぶシャクが居た。

シャクは放っておいても魚を獲るから普通に生きていけるし、逃げてもいいよと言っているのに逃げない。それは言葉を分かってないからなのか、ただ一緒に居たいと思ってくれているからなのかはわからないけれど。

でも船に戻ったときに誰かが待っててくれているのは、素直に嬉しかった。

 

船の倉庫から釣竿を取り出して、途中買った魚を刻んで丸めた魚団子的なものを針にくっつける。釣りは初心者だけど、釣れるだろうか。

 

 

「…おっ」

 

 

意外。あんまり経たないうちに釣れてしまった。

慌てて持ってきたバケツに水を張り、その中に魚をぽーん。

すごい私才能あるかも、とか思っている間にもどんどん魚が釣れてしまう。やばーい。

さすがにとりすぎて食卓が魚料理ばっかってのもドフィとかバッファローとかが不機嫌になりそうだから、ほどほどにしておこう。

…デリンジャーって半魚人だけど食べるのかな? 魚。

 

というかバケツごとファミリーに持って帰ることにしたんだけど、どうにも重い。まあバケツには水と魚が入ってるから重くて当たり前なんだけど、重すぎない? もうちょっと水少なくして、魚も減らせば良かった。後悔の極み。私としたことが。

 

けれどバケツを持って数メートル歩いてしまったし、今更戻るのも面倒くさい。

ゴミ処理場までそんなないんだから、トレーニングだとでも思って頑張ろう。ロレンソふぁいと。自分で自分を応援しながら、アジトへ向かう。

あっ、あと少し! この階段上ればすぐだわ、やった!

 

 

「ただいま! …え?」

 

「なッ…、お前!?」

 

「えっえっ、どういう状況!? と、とりあえず…わー!!」

 

「わぶっ!!?」

 

 

ーーガチャンコ、とドアを開けたら目の前に手榴弾ぐっるぐるに巻き付けた男の子が立ってました。なぜ?

 

その顔にはすーんごい見覚えあったんだけど、とにかく手榴弾、目の前にはドフィ、とあったんでとりあえず可愛い弟と幼い少年のために、持っていたバケツの中身…要するに魚ごと水をぶっかけてしまった。混乱してたと言い訳させてください。

びちびちぃ、と心から気持ち悪い動きで魚が跳ねる。釣っといてごめんなさい。けど、キモいんだもの。

使い物にならなくなってしまった手榴弾を呆然と眺めていた男の子が、顔を上げて食ってかかってきた。どうどう…。

 

 

「てめェ、なにしてくれてんだ!! つーか、なんでここに居るんだよ!!?」

 

「え!? ご、ごめん…? ロー、くん。…ていうか生きてたんだね、良かった!」

 

「うるせェ!! お前のせいで、おれの計画はオジャンだ!!」

 

「あはは、ごめん」

 

「笑ってんじゃねェ!!」

 

 

うーん、荒んだな。…変わってない気もしなくも……いや、荒んだな。

ていうかフレバンスの悲劇からほんとすぐにここまで来るとか、やべぇな!?

いやこれからローくんどうすんだろって思ってたけど、まさかこんな早くにまた再会するとは。しかも、手榴弾なんて物騒なもの巻き付けて。

 

 

「私ねぇ、ここのボス…ドフィのお姉ちゃんなの。名前はドンキホーテ・ロレンソ。よろしくね!」

 

「…………」

 

 

姉、ということに少し目を見開いていたローくんだったけど、すぐにフンと顔を背けると、ドフィに向き直った。

あー、無視された。とりあえずビチビチキモい魚を回収しておこうかな?

拾っているとベビーちゃんも手伝ってくれて、嬉しかった。うん。

 

拾いながら聞いた話だと、ローくんはこの世界に復讐したいだとかなんとか。だからドフィのもとへ来たのか。ふーん、へーぇ、ほーぉ。

 

フレバンスの件が昨日の深夜で、今日の夕方にここにいるってのは……うん、すごいなこの子。

やっぱり医者の息子だからか、頭が良いのかな。

私が釣りにいってる間にいつの間にか居なくなっていたロシー。居たら即ぶっ飛ばされてたね、良かったね。水をぶっかけられてぶっ飛ばされてはさすがに不憫すぎるからね。

とにかくドフィはその心意気は認めたのか、滞在は許可していた。ファミリーに加えるか否かは少ししてから決める、というのだ。審査制なの!?

 

 

「…とにかく姉上。アンタがやったんだ、魚くせェそのガキを洗ってやれ」

 

「おっけー。ごめんねぇ、ローくん」

 

「っ、うわ、離せよ!」

 

「離さナーイ」

 

 

ひょい、と持ち上げれば悔しかったのか小さな拳で叩いてきた。へっへーん、痛くも痒くもないんだな!

子供相手に大人げないけど、ちょっとしたおふざけってやつだ。

 

浴室の扉をおもいっきり開けて、服を脱がせたローくんを中に放り込む。

「女とは入らねェ!!」って叫んでたけど無視だ。だって血みどろだし汚いし。

そんな思春期の男の子みたいな台詞は捨ててからファミリー入んないとダメよ、と私もお風呂に入る。…あーでも視線を背けてくれるのは紳士だね。

 

 

(……白い…)

 

 

聞いた話の通りだ、とあんまりじろじろ見ているのがばれない程度に痣を見る。

これが、珀鉛病。…つらそうだなあ。

ちゃぽん…と平和な音しか響いていない静かなお風呂で、そんなことを考えた。

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