「…お前、どうして珀鉛病のこと知ってたんだよ?」
「!」
背を向けられたまま投げられた質問に、驚いた私は何も返すことができずにうつむいてしまう。
それは、と何か言おうとしても、言い訳のようにしか聞こえないであろう。
だって言えるわけがない。ずっと前から珀鉛というものの毒に気付いていたなんて。フレバンスが滅亡することを知っていたなんて。こんな少年に、言えるわけがない。
ギリギリと胸を締め付ける罪悪感。ずっと無言を貫く私を不審に思ったのか、ローくんが振り向いた。
私はそれをぎゅっと、抱き締める。
慌てたような声を出すローくんにお構いなしに抱き締める。ごめん、と呟きながら。
「…言えないの。ごめんなさい……」
「…………べつに」
「けど、あなたを助けたいと思う気持ちは本当よ。もし、あなたを救う手だてが見つかったら…そのとき、改めてローくんに話すわ」
「……」
言えない私は、まだ弱い。
結局終始無言で私とローくんはお風呂を上がった。抱き締めたとき以外、ローくんはこっちを向いてくれなかった。
さっさと体を拭いてしまったローくんが、ボロボロの服を着て戻って行ってしまう。ちょ、新しい服くらい用意するのに!
慌ててローくんを追いかける。途中会ったジョーラにローくんの洋服を頼んでおいた。
たぶんさっきの部屋に戻ったんだろうな、と考えて、私は濡れた髪を結わえてドアを開けた。……が。
「!?」
ガシャンとものすごい音が目の前の窓からしたと気付くのに、数秒かかった。
前には、しまったという顔をしたロシーとディアマンテとトレーボル。そして「しんだ!!」と顔を真っ青にしているベビーちゃんとバッファローだった。
……なんだ、えーと? うちの弟が、ローくんを…窓割って投げた、で合ってるのかな?
「ばっ……バカ!!!」
「!!?」
ばっちーん! とロシーの顔を平手打ち。心がいたいけどしょうがない。ローくんになんてことすんだ!!
「ディアマンテもトレーボルも見てないで助けなさいよ役立たず!!」
「オイオイ、仮にも最高幹部のおれたちに役立たずってのは…」
「子供ひとり守れない男なんか居なくても一緒よ!!! もー信じらんない!!」
こっちにとばっちり飛んでくると思った、とげんなりしているディアマンテだけど、ほんとに毎回毎回…! ロシーも少しやりすぎだけど、止めもしないなんて信じらんない!!
後ろでジョーラとラオG、意味がわかってるのか知らないけどデリンジャーが大爆笑していた。
「やっぱドフィの姉だな…」なんて目をしてるディアマンテとトレーボルは無視。
私はこの二人となかなか相性が悪いらしい。
ドフィは何してるのか知らないけど、注意してもらわなきゃ。敵わん。
ゴミ山に突っ込んだ! とベビーちゃんが言っていたので、走ってローくんを探す。
すると言った通り、ゴミ山の上で血まみれのローくんが腕や足を震わせて、血の流れている頭を押さえていた。せっかくお風呂入ったのに。あーあ。
「ローくん、大丈夫? 骨は折れてない? ごめんね、ロ…コラソンが」
「ッ…ゆるさねェ……あの、男…!」
「えっ」
「復讐してやる…!!」
子供らしからぬ声で、怒りを露にしたローくん。その眉間にはシワが寄っていて、拳は強く強く握られていた。あー、ヤバいかもロシー。この勢いだと殺されちゃうかも。
じわ、と背中に冷や汗が広がる。…この感覚、小さい頃のドフィが怒ったときとよく似てる。
よく似すぎてて、すごく心配になるのだけど。
「ローくん…」
「…近寄んな」
伸ばした手は、払われてしまった。
まっすぐにコラソンを睨むローくんに、心が締め付けられる。
救えないのかな。昔のドフィみたいに。この子の心は、助けてほしいと泣いているはずなのに。それが、見えないだけのはずなのに。
その感情を覆い隠すのは、恨みと悲しみ。
(…そんな感情をエネルギーにして生きてたら、目が見えなくなっちゃうんだよ)
大事なものが見えなくなっちゃうんだよ。
でも、フレバンスのことを事前に知っていたくせになにもしなかった私に、そんなことを説く資格があるはずもなかった。