ギシ、というベッドの軋む音で、徐々に意識が上にのぼってくる。
なにかひんやりとしたものが額に乗っている。タオルとはまた違う…小さくて柔らかくて、少し頼りない小さな何か。
私は不思議に思って、それを掴んだ。
「!? お、起きてたのかよ!」
「あ…ローくん…か……」
じゃあこれは、と手に掴んだものを見ると、それはローくんの小さな手だった。
手を掴まれて身動きがとれないのか、めちゃくちゃ睨んでくるローくんの手をパッと離す。
…ローくんの手、冷たくて気持ち良かったな。それに、思っていたより小さかった。
やはり子供なんだなと改めて感じる。ドフィが夜寝付けないときに入ってくる用にかなり規格外になっているこのベッドで、ローくんの身長は小さすぎた。
どうしてここへ、という視線に気付いたのか、ローくんは視線をあっちこっちへやる。
少し緊張しているのは女の部屋だから? とニヤニヤしていたんだけど、その考えは打ち砕かれた。
「…お前、体弱いんだろ。なのに、おれなんかのために無茶したからそうなったんじゃねェのかよ?」
驚いた。素直に驚いた。この子、そんなこと考えていたのか。
それで責任を感じて、心配して、ここに来たのか。
いつもはかなり濁った目をしているローくんだけど、今だけはただの可哀想な子供に見えた。
本来はきっと、こう見えるべきなんだろうけれど。
健康的な肌とは対照的な白い部分が増えてきていることが、日に日に悲しかった。ローくんも焦っているのか、日に日に荒んでいる気がする。
けれど心から心配できるその気持ちがあるのなら、まだ手遅れじゃない。
ふかふか帽子に手を乗せて、軽く微笑む。
「違うわよ。免疫力がなくなってただーけ。心配しないで?」
「…けど」
「それに、自分のこと“おれなんか”って言うの、やめて? あなたはそんな小さな存在じゃないんだから」
ここの子たちは、そんな言葉に目を輝かせやしない。
なにもしなくていい、なにもしなくても好きだとベビーちゃんに言っても、あり得ないと怒られる。心の底から否定される。
ローくんだってそうだ。あなたは小さな存在じゃない、と言っても表情は動かなかった。きっとあり得ないと思っている。
ここの子たちの心はかなり複雑で、傷付いている。でも、必要なものはひとつのはずなんだ。
もう少ししてから言おうと思っていたことを、言うことにする。
ちょっと薄暗いルートからの情報だけど、確かだ。
「あのね、ローくん。もしローくんを助けられる悪魔の実ってのが手に入ったら、肝臓を治すのよ」
「肝臓?」
「珀鉛病っていうのは、体に鉛が蓄積されることによって発症するものなの。そしてその鉛は、肝臓に散らばってる」
「なっ…」
どうしてそんなことが、という顔をされる。そりゃそうだよね。誰も知らない情報なんだもの。信じられなくても、仕方がない。
けれど言っておくべきだと思った。医者の息子のローくんだから、理解は難しくないだろうし。
「肝臓を全て切除することはできないけど、その悪魔の実ってのの能力で何とかできたら…いいなって」
集めた情報はこれだけ。あとは悪魔の実任せだけど、私はそれができそうな悪魔の実を、ひとつだけ知っている。
“守るということは、自分を蔑ろにすることじゃないと分からんのか!!?”
オペオペの実。
私を救ってくれた、生きることを教えてくれた、恩人の実。
それをローくんに見つけてあげたい。私もローくんに生きることと救いを与えてあげたい。
あなたは生きていいんだよって、胸を張って言いたい。自分は生きていいと、言わせてやりたい。
「…ぜったい、ローくんを助けるから」
もう一度掴んだ小さな手は、震えていた。