それから数ヵ月して、引っ越しの業者が家に入ってきた。その頃には全員誕生日は過ぎて、1歳増えていた。かといって、変わったところがあるかと聞かれれば特にないんだけど。
豪華な装飾品や食器、テーブルや椅子などを丁寧に包み、運んでいく。
大人たちの慌ただしい雰囲気というか、そういうものに耐えかねたらしいドフィとロシーが、窓辺に座っている私のもとへと駆けてきた。
「姉上、下界に引っ越すのかえ?」
「うん、そだよー」
「やったえ。奴隷が取り放題だえ!」
「いやいや…それはどうかと」
「なぜだえ?」
産地直送だえだと何だのと騒いでいるドフィは置いておいて、問題はロシーだ。
私は屈んで同じ目線になると、「お引っ越し、いや?」とロシーに聞いた。
「嫌だったら言ってくれれば、姉上が止めてあげるよ?」
「ううん…いいんだ。父上と母上の夢だもの」
「そっか…」
「それにね姉上、みんな下界は汚いって言うけど、ぼくまだ信じないよ。自分の目で見て、感じて、考えて…そうして、自分で決める!」
でしょ? と首を傾けてはにかんだロシーに、心臓を撃ち抜かれた。こ、この子ってやつは…!! とんだ小悪魔に育ててしまったものだ。
かわいいなあ、とドフィとロシーの頭をなでくりまわして、散々撫でて撫でてーー気がすんだところで、「荷物をまとめておいで」と二人の背中を押した。
さて、これで後戻りはできない。
下界に天竜人が護衛もなしに行ったーーしかも住むとなって、無事でいられるなんて思っていない。
「父上、母上」
「なあに? レン」
「どうしたんだい?」
「…下界で怖いことがあったら、どうしよう?」
「怖いこと?」
両親はほぼ確定した未来を言った私を、その言葉を、たぶん冗談だと聞き流した。
そして初めての引っ越しと下界に対する不安が娘をこうするのだろう、とでも思ったのか。私をぎゅうと抱き締めてきた。
「怖いことなんてないさ。私たちも彼らも、同じ人間なのだから」
「…そうだったらいいね、父上」
「ああ」
本当に、そうだったらいい。
でも、そんなわけない。
「そう」なってしまったとき、1番に心配なのはドフィとロシー…そして母上。母上は、体が弱いから。
「母上。下界に住んだら、家事手伝うね。あんまり忙しくしちゃ、ダメだからね!」
「ええ、ありがとう、レン」
母上は花のような人だ。
可憐で、きれいで、可愛らしくて、ーー脆くて弱い。
そして、その血は少なからず私にも受け継がれていて。
ストレスに弱くて、運動神経は良いのにあんまり長い時間動くと、体力をすぐ消耗するところ。それが私の体の欠点だ。これは、母上も同じ。
まずいな、これからの生活大丈夫かな、と不安が募るけれどーー仕方ない、親がこんなだから。
「…大丈夫、大丈夫」
私をつき動かすのは、きっと家族愛。