こんな悩んだのは人生初じゃないだろうか。暖かい春島を歩きながらそう思う。
というかどうしてこんな、どっちの弟を選ぶかなんかで悩まなくちゃいけないんだ。最初からドフィが海軍にいれば良かったんだ。
運命というものにムカムカとしたやりようのない気持ちをぶつけたかったけど、どうしようもない。
草木をかき分けかき分け、息を切らしながら歩く。近道しようとしたのに、とんだ道に入ってしまったものだ。木と草と虫しかない。うぇ…。
私は飛ぶ虫が嫌いだ。なぜなら飛ぶから。どこから来るか分からないからだ。
逆に地を這う虫は踏まないようにすれば良いからなんとも思わない。
さすがに疲れて、切り株に座って休憩する。久しぶりに外へ出したからか、シャクがはしゃいでいた。よかったね。
「先に行って居るかどうか見てきて」と頼むと、嬉しそうに行った。うーん、できる子。
私はリュックを開けて、十数年前から集めていた珀鉛病に関する資料を取り出す。
クロコダイルさんから話を聞いたときから、少しずつ集めていたものだ。中にはまだ珀鉛病なんて知られていなかったから予想に近い症状や原因が記されているものもあるが、ないよりマシだろう。
その中には前ローくんに言ったように、肝臓のことも書いてあった。
医療に疎い私が、分からないなりに頑張ってみた。あとは運次第。
「…あ、居た?」
シャクがご機嫌そうに戻ってきた。
大方ロシーが怖がったんだろう。シャクはそういうの喜ぶからね。
ありがとう、と頭を撫でて案内してもらう。ーーすると、分かりやすい声が響いてきた。
「ギャー!! ヘビが戻ってきた!!」
「っ、コラソン、どうすんだよ!?」
「そ、そうだな、えーっと…“怖いものが逃げていくの術”!!」
「屁じゃねェか!!!」
…このペア、なんか割と仲良くやっているらしい。
コントみたいなやり取りが聞こえて、思わず笑いながら顔を出してしまった。
とたんにロシーの顔が綻び、ローくんは対照的に顔をこわばらせる。
「姉上!」
「やっほう、ロシー。久しぶり、ローくん」
「…お前、何しに来たんだ? もしかして、ドフラミンゴに命令されてきたのか?」
「えっそうなのか!?」
「いや違うし」
すぐ信じちゃうロシーは何なんだ。
ファミリーでもないし、そんなわけないでしょと首を横に振る。ローくんの顔が安心したようにゆるんだ。…そんな顔するようになっちゃって、まー。
ロシーといると安心するのかな。まだコラソン呼びとはいえ、他の大人たちと違うということは頭の片隅で分かっているようだし。
とりあえず重いリュックを下ろして、地面にどかっと座る。
その横に堂々とシャクもやって来た。
「それも、姉上の?」
「うん。ペット。シャクといいます」
「お前のだったのか…」
驚いて損した、とローくんが口を尖らせる。驚いたのか、可愛いな。
ロシーは興味津々で頭を撫でてみたり体を触ってみたり、やりたい放題。
ローくんはローくんで「解剖してみたい」なんて物騒なこと言ってるし、困ったもんだ。
ちらとローくんを見る。白いとこ、だいぶ増えたな。
「とりあえずさ、私の船に来ない? 話しておきたいこととかいっぱいあるし、お風呂入ってないでしょ? ご飯だってファミリーから荷物ひっつかんで抜け出してきて良いもの買えてると思ってないし…」
「ぐっ…そ、そうだな」
案の定、ロシーのお腹がきゅうと鳴った。
ローくんのお腹も小さく鳴る。
(…これは、ドフィを選ぶとかロシーを選ぶとかじゃない。ローくんを助ける、それひとつだけ)
弟を選ぶんじゃない。だってローくんを助けてあげたいって思いは、ドフィもロシーも一緒なんだから。
だったら私も私のやり方で、ローくんを助けるだけ。
もう、救えないのはまっぴらだ。