案内されたのは、少し離れたところの船だった。
中には大量の物があり、奥には倉庫らしい部屋の扉が見える。
今まで見たことのないような装飾の壺や食器類が並んでいるのを見ると、やはり自分の姉は何でも屋をやっているのかと実感する。
「はい、これ」
パサ、と唐突に机に投げて渡された資料の量に、ロシナンテは目を見開いた。
座れと促され、ローと共に座ったソファーはふかふか。寝転がれば数秒で眠りについてしまえそうなほどのふかふかさだったが、ロシナンテに今そこはどうでもよかった。
いくつもの封筒に、これでもかと資料が詰め込まれている。
資料をいくつか取り出してみると、そこには珀鉛の解析結果やその毒性についてこと細かに記されていたり、似たような中毒を調べたものが載っていた。
ただ日付を見ると、珀鉛病というものが世に知れ渡る前に調べていたらしく、中毒だけでなく感染症も疑っていたらしい。それにはバツ印がついているが。
「こ、こんな…どうして? どうやって?」
「どうしてって問いに対しては、ローくんを助けたかったから。どうやってって問いには…うーん、あんまり答えられないかも。グレールートだから」
ロシナンテもローも呆気にとられていた。
グレールートなのは仕方ないとして、このロレンソという女の情報収集力と人脈に、ただただ圧倒された。
目の前の彼女はものすごくドヤッている。どうだ、ビックリしたか、という心の声が今にも声になりそうだ。
けれど、ロシナンテが日付を指し「このころから知ってたのか?」ともうひとつ問うと、その顔はすぐに曇ってしまった。
一気にお通夜のような雰囲気になった船内に、ロシナンテはドジったと頭を抱える。
「…今更、言い訳するつもりはないわ」
「…? 言い訳?」
うつむくロレンソと、首をかしげるロー。
言わなくていい、言わなくてもいいんだぞという視線をロシナンテは向けるものの、自分が作ってしまった雰囲気。
今更ブレイクするのも空気の読めない男となってしまう。どうあがいてもロシナンテはドジっていた。
覚悟したような姉の顔に、ロシナンテは何を言うのかとソワソワする。
本当にすまん。思いきり地雷を踏み抜いてしまったかもしれん。
「……フレバンスが滅亡することを、私は十数年前から知っていた」
「なんだって!!?」
ーーだが、叫んだのはロシナンテであった。
思いきり立ち上がると同時に椅子に足をとられ、後ろにスッ転ぶ。
くらりとするほど強く後頭部を打っても、今回はすぐに立ち上がることができた。
信じられない。だって珀鉛の正体が毒であることは、政府しか知らなかったはず。
この人は、政府にまで繋がっているというのか?
自分より落ち着いているローと、自分が起き上がるのを心配そうに見る姉。
けれど今、ロシナンテはそんなことより姉のカミングアウトの方が重要であった。
椅子に座り直し、落ち着いたフリをしながらいつの間にか用意されていたお茶をすすりーー熱くて吹いた。
「お前のせいで話が前に進まねェじゃねェか!!」
「だ、だって姉上!! そんな情報、一体どこから!?」
「私の、…うーん……知り合い? 商売相手?」
…うやむやにされた、のか? ロシナンテは眉をひそめる。
姉の商売相手というのがすごく気になる。
その商売相手は、恐らく政府の情報が入ってきやすい立場だということだ。
そしてひとつの国が滅亡するかもしれない、なんて情報を、そんなやつがタダで渡すか? 普通。
姉はなにか弱味でも握っているのだろうか。それとも、情報を教えてもらえるような関係だった? 例えば、恋人とかーーそれとも、体を……?
「いや姉上はそんなことしねェェェ!!!」
「うるっせェよコラソン!!!」
いい加減黙れ、とローに一喝されて、ロシナンテは一旦正気に戻った。いや、……いやいやいやいや。あり得ねェ。万が一にもそれはねェ。万が億にかわってもねェ。
だって姉上はそういうことをして金を稼ぐことは嫌いなはずだ。
だとしたら、どうして……?
頭にクエスチョンマークが躍り狂う。
「あ、姉上。その情報をくれたやつは…何か見返りを求めてきたか? 何かされたりしなかったか?」
「見返り? 情報の? ないよ、まさか! いつもの礼だ~っつって。ドフィの居場所教えてくれたのもその人だしね。いい人だよ。…怖いけど」
「ドフィの、居場所も…?」
ますますおかしい。
そんな人が、姉上に情報を…無償で…?
「…あっ」
「ん?」
わかった。ロシナンテは昔を思い出した。
そういえばロレンソは気づいちゃいなかったが、昔彼女本人がひっぱたいたというドフラミンゴの知り合いの天竜人は、姉のことが好きだったはずだ。
生意気なクソガキ、と珍しく姉が睨んでいる存在だったから何をしたのかと思えば、弟であるドフラミンゴに姉をからかうようなことを言い、怪我をさせたとか。
そんなことをすれば嫌われるに決まっているのに、解せないと喚いていたあいつはバカだったんだろうか。
そんなように姉が気づいていないだけで、その情報源のやつは姉が好きなんだろう。…あくまで仮定だが。
だが彼女の話しぶりからして、男だとロシナンテは直感した。
「話を続けていいかな? …えと、だからね? ローにはほんと、なんて言っていいか、わかんないんだけど…珀鉛病のことを事前に知ってても何もできないって分かったから、医療がわかんないなりに頑張ったつもり。…これで許してほしいって言うわけじゃないけど、少しでもローの助けになれたらって…思ったの」
「!!」
そこで、二人は理解する。
出会ったときからずっと、ロレンソがローに向けていた目は、いつもどこかに悲しみを宿していた。
その理由は、珀鉛の毒性を知っていたのに救えなかったという罪悪感からのものだったのか、と。
でも、机に頭をつけて詫びる彼女に、ローはぽつりと呟く。
「許してほしいって、何がだよ?」
「え? だ、だって」
「アンタはおれを撃たれてまで助けてくれた。今だって助けようとしてくれてるその気持ちには感謝してるよ。それに、十数年前から調べてくれてたんだろ? …謝ることなんか何もねェじゃねェか」
それは、この旅でローの徐々に溶かされてきた心から出た、素直じゃない感謝の言葉。
まだ、病院は怖い。コラソンだって少し怖い。ロレンソだって怖いであろうローにとって、この言葉は大きな一歩であった。
まだ、ドフラミンゴのようになりたいという気持ちが消えたわけじゃない。
けれど、少し悪くないとも思えるローがいた。
「ろ、…ロ"ー!!!」
「うわァ!!?」
突然、ロレンソが机を越えて抱きついてきた。
その勢いにのけぞったスピードのまま、椅子ごと後ろに倒れてしまう。
それでもお構いなしにロレンソはぎゅうぎゅう締め付けてくる。苦しい。暑苦しい。
「私、決めた!!」
横のコラソンも鼻をすすっている。
いきなり大声をあげたロレンソは、ローから体を離した。その顔には、今まで見たことのないようなキラッキラとした笑み。
その顔に一瞬呆気に取られると同時、一抹の不安が。
「ーーローを救って、ローを幸せにする!!!」
けれど発せられたそれは、…ローがもう望まないと決めたものを与えてみせるという、決意と約束の言葉だった。
今回はなぜか珍しくこんなに長くなりました。驚きましたか?
長いお話を読んでいただいた後で恐縮なのですが、1日の更新量が売りであった私から、更新量が減るというお知らせです。
今まで1日3話が可能だったのは、春休みだったからです。正直に言います。夜更かししてたからです。
なのですが、実は私柚木 彼方、今年で受験生という大変忙しい時期になってしまい、1年ぶっ通し(特に受験シーズン)は更新が1日1~2話となってしまいます。最悪1日更新がないこともあります。
「お前更新量だけが売りのクセに何言ってんだ」という方、そうですよね、すみません!
拙い文章ながらも応援してくださる方、待っていてくださる方も、すみません!
なるべく更新できるよう頑張るつもりでいます。これからも応援いただけると嬉しいです!
ifストーリーの募集はコメント欄にてしていますので、そちらは停止しません。お気軽にどうぞ!