【ONE PIECE】天駆ける竜   作:柚木 彼方

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20.親と呼べる人がほしい

それからというもの、ロレンソはローをくん付けせずにそのまま呼ぶようになり、今までコラソンとローの徒歩か小型の船での旅だったのが、ロレンソの船に乗り治療法を探す少し大きな旅になった。

 

その途中、食料補給に立ち寄った町で、ローは港近くの階段に座り、コラソンとロレンソを待っている。

コラソンは食料を買いにいくと言い、ロレンソはドジってそれをぶちまけないようについていったからだ。

一緒にいくか、と問われたけど、ローは首を横に振って答えた。

なんだか今は、明るい二人と町を歩く気分ではなかったというのが理由。

 

ーーこの町は親子が多いな。

 

ぐるりと周りを見ての感想はそれだった。

風船片手に夕飯の買い物をする親子。一緒に遊んでいる親子。叱られて泣いている子供も、褒められて笑っている子供もいた。

幸せそうな町だ。いつでもお祭りのように賑わっている。

 

 

「おかあさーん、早く早く!」

 

 

もう捨てたと思っていた心の片隅が、なぜかずきりと痛んだ気がした。

とても哀しくなる。惨めになる。だんだん息が苦しくなって、あの日の業火を思い出す。

 

 

「ねーねーおかあさん、あの子はどうしておとうさんやおかあさんといないの? 他の子はみーんないるのに」

 

 

無邪気な言葉が、死にたくなるくらい深く胸に刺さった。どうして、……どうして?

どうしておれの両親が死ななきゃならなかったのか。どうしてラミが死ななきゃならなかったのか。どうしてフレバンスは滅亡しなきゃならなかったのか。どうしてなんて考えていたらキリがない。

けれど、どうしてだったんだろう。

どうしておれじゃなきゃダメだった? みんなそうだろうけど、おれはあんな思いしなくなかったよ。

 

ぎゅっと帽子を目深にかぶる。哀れみと純粋な疑問の視線が、つらかった。

いつもは憎まれ口しか叩かないこの口なのに、心の本当に深いところを抉られた時には声が出やしないなんて、情けねェ。

くやしい、くやしい、くやしい。やっぱりおれは、ドフラミンゴのようになって、世界をーーー。

 

 

「ロー!」

 

 

そんなことを考えていたローの耳に、明るい女の声が届いた。

ふっと現実に戻ってきたような気がして振り向く。そこには、袋に大量の食材を詰め込んでブンブン腕を振るコラソンとロレンソがいた。ローはぎょっとする。

 

なぜなら、ーーそれはコラソンとロレンソの格好にあった。

コラソンはいつも通りドジでも踏んだのかびしょ濡れだし、その上コートにタバコが点火している。上は大火事、下は洪水、これコラソン…てな具合である。

だがローを何よりぎょっとさせたのは、ロレンソまでもがびしょ濡れだということだ。

袋とその中身は大丈夫なのに、本人たちだけビッショビショ。一体何があったというのだ。

 

 

「買い物終わったぞ、ロー! 異常はねェか?」

 

「今目の前に」

 

 

「ん? 目の前?」と首をかしげるコラソンに、「お前のことだよ!」と怒鳴りつけると、ロレンソがまぁまぁと咎めてきたので一旦落ち着く。

だが同時に、ロレンソのその格好についても疑問しかなかったので、ローは聞いてみた。

 

 

「え? あ、いやぁ…水に落ちそうになるロシーを助けようと思ったら、一緒にドボンって。いやぁ、シャクがいてよかったよ」

 

「アンタもか…っ!」

 

「へへ、私ロシーといたらドジっ子になっちゃうみたい」

 

 

とまんざらでもなさそうに笑うロレンソは、やはりかなりのブラコン。

あのドフラミンゴに対してもだいたい「可愛いからな」で許してしまうし、ワガママは聞いてあげているところをよく見た。

あんなイカツイ男でも、姉から見たらいつまでも可愛い弟なもんなのかとローが学んだ瞬間である。

その間にもコラソンは転けているし、火は消えていないし。このかなりのドジにプラスして、一緒にいると連動してドジになる女なんかいたら、この旅はお先真っ暗だとローは頭を抱えたーーそのとき。

 

 

「あの子のおとうさんとおかあさん、ちょっとドジだけど、カッコいいしキレイ! いいなあ!」

 

 

先程の子供のがらりと変わった羨望の声が耳に届く。

怖くて見れていなかったそちらを見れば、キラキラとした視線がコラソンとロレンソ、ローに注がれているではないか。

なれないそれに、ローは妙にくすぐったいような感覚がした。

こいつらが、父と母…? 少し笑える。

 

 

「…親子だって、私たち。ねぇ、アナタ?」

 

「ははっ、そう見えんのか。…あっ、もしかして嫌だったか、ロー?」

 

 

ちょっとおふざけをしながらも、自分の顔色をうかがってくる彼らは本当に不器用だと思う。

優しくて不器用で、愛を知っている人たちだ。そのまっすぐさに驚くぐらいの彼らが両親なら…とても、幸せだろう。そうとても。

 

 

「…どうでもいいよ、ばーか」

 

 

だから神様、少しだけでも許してほしい。

珀鉛病に侵されゆくおれに同情してくれとは言わないけれど、願い事をひとつだけ聞くくらい、してくれたっていいと思う。

袋から飛び出している魚の尾を見つけて、おれは笑った。

 

 

「…船に戻るぞ、とーさま、かーさま」

 

 

「い、今なんて!?」と聞き返してくる二人に、おれはもう、なにも言わなかった。

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