約20年ほど前ーー聖地 マリージョアにて。
10月の23日その日、ドンキホーテ家長男ドンキホーテ・ドフラミンゴは誕生日を迎えていた。
「めでたいえ、ドフラミンゴ!」
「わちきからはこれをやるえ!」
「大きくなって! これをあげるアマス!」
自分と同じドンキホーテの姓を持つ親戚中からお祝いの嵐とあって、家の中はてんてこまい。
料理は用意するわ客への対応はしなくてはで、奴隷もメイドも執事も父も母も、とても忙しそうであった。
ロシナンテからは花冠をもらい、たくさんのケーキを前にしたドフラミンゴはこれでもかとご機嫌。
なのだがひとつ、気がかりなことがあって素直に祝われることができない。
その理由は、姉である。姉のロレンソは先ほどからムッスリと機嫌悪そうに椅子に座って、むしろ少しばかりこちらを睨み付けているくらいに思えた。
なにがそんなに気に入らないのか。今日の主役が自分ではないから? いや、姉はそんな子供っぽくないし、なによりこういうことは誰より祝ってくれるから、なおさら怖いのだ。自分は姉に睨まれるようなことをしただろうか。
「姉上? なぜ怒っているんだえ?」
途端、姉はきょとんと自分を見る。どうやら無意識だったようだ。
眉間のシワをほぐすような仕草をすると、ロレンソはドフラミンゴをこれでもかと抱きしめた。「誕生日おめでとう」という言葉も添えて。
「怒ってたわけじゃないわ。ごめんね?」
「大丈夫だえ! …でも、何かあったのかえ?」
いつも笑顔の姉のあの表情は、なかなか怖いものがある。だから訳を尋ねると、とても微妙な顔で、ドフラミンゴの手元を見つめた。
どうやら姉は、ドフラミンゴが誕生日プレゼントに貰った「とある物」が気に入らないらしい。
「…ドフィ、お願いだから、その銃は使わないでね。飾りにして。お願い」
「なぜだえ? みんな持ってるえ」
「……お願いだから」
頭痛でもしたのか眉間を揉むような仕草をした姉は、すぐに悲しいような表情をする。
そういえば姉は、こういう武器は嫌いだったか。
男心というものをくすぐるそれを片手に持ちながら、銃への憧れと大切な姉のお願いの狭間で、ドフラミンゴは揺れていた。
…まあ結局、姉のお願いとあらばドフラミンゴは頷くことになるのだが。
「いい? ドフィ。人や奴隷に銃を向けるときは、私やロシー、父上や母上にも銃を向ける覚悟を持ちなさい」
「!? そ、そんなの嫌だえ!!」
「無理でしょう? なら、使わないで」
…あのころは素直だった、とドフラミンゴは笑う。昔は意味も分からぬまま頷いていたが、今なら多少はわかる。
簡単に言えば、自分がされたら嫌なことを他人にするなということだ。
それから毎回、イラついて奴隷に銃を向けることはあれど、撃ったことはなかった。
…初めて銃を撃ったのは、父を殺すときだったか。そして、あんなものは昔のはなし。
(…アンタを撃つ覚悟も、コラソンを撃つ覚悟も、してきたつもりだ)
心の中で、しばらく会えていない姉に語りかける。実弟への疑いは、確信に変わりつつあった。
そして姉が弟と居ることも知っている。そこに自分の将来の右腕が居ることも。
手の中の銃を見つめて、息を吐いた。
結局血の繋がりなんて、なんの意味もないものなのか。そう考えると、すごく空虚な気持ちになる。
ーー証明してほしい。血の繋がりは、何にも代えがたい強いものなのだと。弟と姉は自分を裏切ってなどいないのだと。
安心させてほしい。もう自分は家族を失う必要などないのだと。
願わくば、この銃をつかうことのないように。
「…コラソンに電話をかける」
「ウハハハ! とうとうか、ドフィ」
「あァ…」
ついこの間、オペオペの実の情報を手に入れた。
どんな病気も治せる上に、ドフラミンゴの長年追い続けた夢ーー不老不死の手術。
元天竜人の上に覇王色の覇気持ち、そしてこれからドレスローザという国の頂点に立つ予定の男とはいえ、寿命と年齢、肉体の衰えには敵わない。
一刻も早く不老手術をする必要があった。それに、コラソンを使う。
ローを治させ、自分に不老手術を施させる予定だ。
例え裏切り者かもしれなくとも、こうして使えばいい。万が一違うなら…その行動で証明してほしい。
「ーーおれだ、コラソン」
自分はドフラミンゴの弟なのだ、……と。