レンさん、という声で目が覚める。
暖かな気候と髪を揺らす風が心地いい。
……ここはどこだっけ?
「ん…ロー?」
「レンさん。朝飯、目玉焼きでいいか?」
「うん。…ん、……うん…?」
レンさん? と聞き返すと、ローはふいと目を逸らした。…この子今、私のこと、レンさんって呼んだの?
突然のことに一瞬反応が遅れてしまった。けれどすぐに体を喜びが支配する。わああ、と感動で目をキラキラとさせている私を鬱陶しそうに、けれど照れたように見るローは本当にツンデレだ。
昨日の小さく震えていた背中を思い出す。私たちの想いが伝わったんだと思うと、こそばゆくて、…でも嬉しかった。
ああ、この子を救ってあげたい。その気持ちはこういうことをされれば、増すばかり。
「な、なんだよ?」
「くっ…ふふ、ううん、何でもない。…ふふ!」
「き、気色悪ィぞ!!」
「ごめんごめんって」
とすんとそこに座れば、ローに腕をたくし上げられてくすぐったい。
ローたちと旅をしている間に、実は私はローに時たま子供の頃の傷を診てもらうことがあった。主にお腹の傷と、腕の傷。お腹の傷はもう特に心配するべきことはなくて、少し色が他の皮膚と違うくらい。
ただ腕は診てもらわなきゃいけないところが2つもあって、ちょっと時間がかかる。
釘を打たれた手のひらと、自分でぶった切った腕の繋ぎ痕。
私が一度自分の人生というものを捨てた証拠であり、自分の存在価値を思い出させてくれる誇り。
それをまじまじと見つめては、ローはいつも「ふしぎだ」と呆れたように言うのだ。
「これ本当に自分で切ったのかよ?」
「うん。落ちてたナイフでサクッと」
「…ならもっと傷口がグチャグチャで、切るのに時間がかかるはずなんだ。そしてその間の出血量でアンタは死んでるはずだ」
「ひえっ」
「一体何がどうなったらこんなことに…?」
ローは私を研究動物とでも思っているんだろうか? じっくり私の腕を見つめてみたり、振ってみたり、触ってみたり。最悪「もう一回自分で切ってみてくれよ」なんて真顔で言われるからほんと怖い。
あのときは多分脳内麻酔かなんかかかってたから痛みとかどうでもよかったけど、今やったら確実に痛みで死ぬ。できるわけない。
それでもやってみろとせがむローは将来サディスティックドクター確定だ。完全に育て方をを間違えた気がする。
「はいっドクター! 私に剣の才能が死ぬほどあるとか!!」
「そうなのか?」
「あ、いや…使ったことないっス」
なんだ妄想かよ、みたいな気持ち全部詰まった舌打ちが飛んできた。いたい!
でもでも、もしかしたらそうかもしれないじゃん!? 剣持ったことないし使ったことないけど、剣士の知り合いはけっこういる。だから気になってどうしたらそんなになるのか、と尋ねたことがあるのだが、大したアドバイスは得られた記憶がない。
だいたいみんな「斬る斬る斬る、って考えるんだよ」みたいなことしか言わない。
これだから体育会系は苦手だ。なんでも感覚で教えようとしてくる。
「んー…」
「まあ消毒もそんなに必要ないし、おれは…こ、コラさんを起こしてくる」
あーそっか、コラさんって呼ぶのも初めてだよね。ロシー喜ぶだろうなあ。
そう微笑みながら、昨日の夜中ここの近くに寄せた船から刀を適当に見つけて、鞘から抜いた。これはワノ国、という鎖国国家から流れてきた名刀…らしい。全然わかんないけど。
刀の才能…ね。あるわけないんだけど、ちょっと持ってみたい。
…あ、いいこと思い付いた。ちょっと斬り真似してみよう。かっこいー!
そうだなあ、せっかく刀持って斬り真似するんだから、カッコいい技名とか考えたい。うーん。
あ、そーっと斬る技とかどうだろう。音もなく斬る技。ロシーの能力とかぶせてさ!
姉弟の連携技みたいでかっちょいいー。
遠くで目を覚ましたロシーがくるくる回っている。コラさんって呼ばれたんだろう。電伝虫めっっっちゃ鳴ってるけどいいのかアレ。確実にドフィだけど。
まあとりあえずほっといて、私は自分の才能を探してみたいと思います!! 実際はただのごっこ遊びというか刀持ってみたかっただけというか!!
でも心だけは一流剣士のつもりなので、斬ると連呼しつつ刀を構えて岩に向かいーー
「“凪刀”」
ーーーーしーん。
特に何もなかった。当たり前だよね。だって経験ないんだもの。技名もパッと出なんだもの。
ある意味では、静かになった気がしなくもない。
だって同時にかわいいかわいい弟の声がそこに響いたのだから。
『おれだ、コラソン』
途端電伝虫の顔がにゅっと変わって、唇が弧を描く。あードフィな久しぶりー、と見えてるはずもないのに手を振ってみた。ローとロシーにすごい顔された。ごめんて。
「……ん?」
そこで、ふと気づく。
…あり? 岩、おかしくね? てかなんか、…うん、ずれてね?
なに!? と思ってソロソロと近づくと、なんとなくではあるが、岩がずれているような気がした。不安に思いながらも、そっと岩を触る。
…………と。
『オペオペの実の情報が手に入っ…』
「うわぁぁああ!!! 岩、斬れたぁぁぁあああ!!!?」
ずり、と岩がずれて、大きな音と共に地面に落ちた。
お久しぶりです、柚木彼方です。
ついに5日も更新を休んでしまいました。大変申し訳ないです。
今なぜか私の機械でルビがふれないので「凪刀」の読み方ですが、ふつーです。
「カームソード」と読みます。
音なく相手を斬れるといいなぁなんて(願望)
ロレンソ刀使えますが滅多に使わせません。ロレンソに刀は似合わない、という方。ご安心ください、ロレンソはなんでもできちゃうだけなんです。
これからもよろしくお願いします。