そこからは、なんとも早かった。
マリージョアを出て、島に着いて、チップを回収されて…私たちはこの瞬間から、人間になった。
ただ心配なのが、この両親。ほんとに…ほんとに…!!
(こんなでっかい家買いやがってぇぇええ!!!)
慎ましく暮らそう、なんて言ったくせに家は全然慎ましくないし!! ていうか、こんな豪華な家を持った家族がいきなり越してきたら不自然極まりないし!!もう、なんていうか、全部に言いたい。アホなの!!? ねぇ、あんたアホなの!? 知ってたけどさ!
金銀財宝の山にがしゃんと飛び乗ったドフィが、早速奴隷を買いに行こうとはしゃぐので、父上が「もう奴隷は買わない」と宥めると、一瞬でドフィの顔が困惑に変わった。うん、そうよね。なるよね。
でも、やっぱりここで長く暮らしていたいなら、ドフィを教育し直さないとダメだ。
この子はたぶん、すぐに「天竜人独特のアレ」を発動させるだろうから。…マリージョアから持ってきていたあの銃、捨てた方が良さそう。
ーーなんて考えていたのが、数日前。時って速い。
おやあ、大丈夫そうかな? ってくらいなにも起きなかったのは、たぶんドフィが不貞腐れて外にでなかったおかげ。
「姉上、外に行こう? 空気がとってもきれいだよ!」
「うん、ロシー。…ドフィ、一緒に行こうか!」
「……帰りたいえ、こんなところ。…奴隷もいないし遊ぶものもない! つまらないえ! 姉上!!」
ロシーはここへ来て少し成長したような気がする。ただの甘えん坊さんだったのが、自分でいろいろなところに行くようになったし、何より言葉がはっきりしてきた。
代わりにドフィは感情が少なくなって、退屈も寂しさも全て怒りに塗り替えてしまっていた。…私、ドフィの怒っているところ、苦手なんだけどな。
「うんうん、いきなり生き方変えるのは難しいよね。…今は父上が仕事がなくて、持ってきたものしか使えないから好きなものたくさんは買えないけど…楽しいこと、探しに行こう? ね?」
「……」
「ドフィの新しい楽しいこと、見つかるかも」
「………うん」
のろのろと立ち上がると、ぶすっとした表情でドフィは私と手を繋ぐ。
仕方ないかあ、今まで完全な天竜人ライフだったんだし。慣れないのもわかる。
外に出て、空気を肺いっぱいに取り込むように息を吸った。
うん、すうっとしてて気持ちいい。
「行ってきます、母上…かあさま!」
「いってらっしゃい」
私たちの家は海沿いの、街からちょっと離れたところにあるから、街までは歩かなきゃいけない。
それもまたドフィの不機嫌の原因であったのか、さらに怒りのオーラが強くなった。
まずいなあ、お菓子買ってあげたら機嫌直んないかな、と考えつつ、街のコンクリートを一歩踏んだ、その時。
「おい!!」
ドフィが鋭い声で叫んだ。…まずい!!
「なぜひれふさねェ!!! きさまら無礼だぞ、おれの前を横切ったな!? 誰か銃をもて!!! おれを誰だと思ってるんだ!!!」
「ドフィ!!」
「姉上、だってこいつら…ムグッ」
ドフィの口を塞いで、ロシーの手を引いて、駆け出した。まずい、まずい、まずい!!! きっと何人か勘づいた。ここは政府非加盟国。無法地帯にほぼ等しい。
ああもう、街につれ出すんじゃなかった、不機嫌なドフィを!!
「姉上…!」
「ムゴ、ムガ!!」
「ちょっと静かにしててねドフィ! ロシーもごめんね、走って!」