トレーボルはなんとか引き留めた。
でも、時間がない。
重い体に鞭をうって、足を動かした。
走れ、走れ、走れ。
バッドエンドがくる前に。
後ろから追い縋る死神に、追い付かれる前に。
(お願い、間に合ってーー!!)
聞こえてくる銃声は、きっと気のせいだ。
消えてしまえ。雪にかきけされてしまえ。
この銃声は、きっと、バレルズ海賊団のものに違いないーーーそう、願っていたのに。
「ーーーロシーッ!!!!」
目の前に広がる光景を、信じたくはなかった。
けれど銃口から煙をくゆらせているドフィと、血を流して倒れているロシーを見たとき、私は心のどこかで「やっぱり」と思ってしまったのだ。
駆け寄って、息を確認する。
浅いけれど、まだ息はある。意識はないかもしれないだろうけれど、まだ助けられる。
「…ひどい」
「ひどい? 裏切り者に対する罰に、ひどいも何もねェ…」
「……家族、なのに」
「あァそうさ。…だがコイツは家族でありながら、おれたちを裏切った!! …アンタもそうだ」
銃口を向けられた気配がした。
それなのに、何も感じない私は、どうかしてしまったのだろうか。…いや、元々どうかしていたんだ。
包帯では抑えきれない血を流すロシー。早く、どこか病院につれていってあげなきゃ。助けなきゃ。
私よりずっと大きいロシーを抱き上げた。火事場の馬鹿力ってやつだろうか。重みを感じない。
「…おれが逃がすとでも?」
「……どいて、ドフラミンゴ」
初めてってくらいに呼んだ愛称以外の呼び方に、ドフラミンゴは少し眉を動かした。
動揺してるんだな、と思った。それ以外になにも感情は浮かんでこなかったけど。
怒りに支配されるって、こんな感じなのか。不思議。
「シャク」
雪の中に隠れていた大蛇が姿を現したことで、ドフラミンゴファミリーが一瞬退いた。その隙は見逃さない。
シャクの背中に手早くロシーを紐でくくりつける。
「ッア……!」
胸を貫く弾丸は、気にしない。今は関係無いことだ。
朦朧としかけた頭でくくりつけたロシーに掴まって、シャクと共に斜面を滑り降りる。
後ろからファミリーの怒号が聞こえてきた。……何発撃たれただろう?
「待て!!!」
ドフラミンゴの怒号のような、それでいて悲鳴のような声が聞こえてきた。
可愛い可愛い私の天使。……そんな風に、今は呼べる状況じゃないけれど。
「っ、ローに必要なのは恨みじゃない、悲しみじゃない!!! 愛されること、ただ、それだけなのよ……っ!!」
ドフラミンゴファミリーに最後の力を振り絞って叫ぶ。
ドフラミンゴの能力からの脱出はシャクに任せた。
「ーーーあなたたちにローは、渡さない!!!」
血を吐きながら、叫んだ。
ロシーを抱き締めてる手にもベットリとした血が広がってきて、焦る。このままじゃ海に飛び込んだあと、ロシーは助からないかもしれない。
どうにかできないだろうか。どうにか……。
「っうわ!!」
シャクが糸を咬み千切り、跳んだ。さすが、毒蛇。
少し遠くにとめてある船までシャクは泳いでくれるだろうけど、ロシーの命が危ない。
ーーー咄嗟の判断だった。何が起こるかもわからずに私は……
「“巻き戻し”」
そうして意識を手放したのだ。