ゆっくりと目を開けると、そこには見慣れた天井があった。
金で装飾されたそこには、天使だとか星だとかメルヘンチックなものが描かれていて、目を刺激しない程度のライトは温かい。
ふかふかのベッドは体を包み込むように私を受け止めていて、起き上がるのが億劫になるようだ。
「…レン? 起きたの」
そっと扉が開かれて、トレーに水の入ったグラスを乗せた女性が、私のもとへとやって来た。
その姿に、息が止まる。
「…はは、うえ」
「おはよう。よく眠れたかしら?」
天竜人のはずなのに、わざわざ自分で水を持ってきて私のおでこに手を当てるそのしぐさは、紛れもなく母上だった。
ひんやりとした細い手が気持ちいい。猫のように目を細める。
「魘されていたようだから、水を持ってきたの。…何かあった?」
「ん、…んーん。ない」
そう、と微笑んで頬を撫でてくるその手つきが懐かしい。
もしかして、今までのことは全て夢なんじゃないだろうか。
母上が死んだことも、父上が死んだことも、ロシーがあんな目に遭ったことも、ドフラミンゴと喧嘩したことも、…かわいそうな子と、かわいそうな国があったことも。
全部全部長い夢で、全部嘘で、本当は何もなくて、このままベッドから起き上がって服を着て部屋の外に出れば、ドフィとロシーが抱きついてくる。それを微笑ましそうに眺める父上と母上がいる。そんな普通だった毎日に、戻れるんじゃないか?
そう考えて、母上を見た。
にこ、と首をかしげつつ微笑むその姿は、私の心を締め付けるに十分すぎた。
「うそ、なんだよね」
「…レン?」
「全部嘘で、全部夢で、全部…なかったこと、なんだよね? ねぇ、そうでしょ、母上」
いきなりこんなこと言ったら、私の夢のことなんて何も知らない母上は困るだろうな。
そっと顔をあげた。
「レン?」
……あ。
少し、目を見開く。
「何を言っているの、レン」
滑るように頭を撫でる手。
私は、気づいてしまった。
「全部、夢よ?」
ーーーこの人は、母上じゃない。
×××××××××××××××
ゆっくりと目を開けると、ざぁざぁと雨の降る音が耳に届いた。朦朧とする意識に鞭をうち、起き上がろうとする。
「い”っ……!!?」
雷に打たれたように身体中を駆け抜けた痛みに、私はベッドへと舞い戻った。
じんじんとした消えない痛みが私の上半身を支配して、どうしようもなくいたい。つらい。
首だけ起こして自分の体を見ると、上半身を全て包帯が覆っていた。そこにはじんわりと血が滲んでいて驚く。
一体なにが。……あのあと、どうなった?
ぼうっとしたまま必死にロシーをシャクに結びつけていたのは覚えている。その間にめちゃくちゃ撃たれたことも。
けど、そのあとが…。
(…ロシー、……ロシーは?)
ロシーはどうなった?
あの出血で海に飛び込んで、助かったとは思えない。
気絶する直前、ロシーに何か能力をかけたような覚えがないこともないけど、何せ記憶が曖昧だし、何をしたか覚えていないのだから不安すぎる。
痛みを理性でねじ伏せて起き上がった。
しんと静まり返ったここは…ザクロの実、だろうか。
「ぁ、アオさ……」
呼ぼうとして、自分の声が死ぬほど掠れていることに気がついた。
すきま風みたいな声しか出ない。何てこった。
こうなったら歩いて探しにいこう。そう意気込んで……止まる。とある人物を視界にいれて。
「……え」
それは、かわいい男の子だった。
美しい金髪はくるくるといろんな方向にとびはねては、その少年の瞳を隠していて、ちょこんとしたその愛らしさは、ーーうちの次男に酷似していた。
ぽかん、と数秒見つめ合って、…先に動いたのは少年だ。
「姉上!! 起きたのか…っ!!」
「えっえっ」
「あっ、まだ寝ててくれ!! ちょっと待ってろ、今アオさん呼んでーー」
「ちょちょ、待って…っ」
涙目で鼻をすすりながら振り返った少年は、記憶は曖昧ながらも昔のロシーによく似ていて、目をぱちくりさせる。
これは、一体…?
「っ姉上…! 姉上のお陰で、おれ、いきてるんだ…!! ありがどう、……よがっだ…!!!」
「ろ、しー…?」
私の問いかけにコクンと頷いたロシーらしき少年は、嗚咽混じりに私にこう言った。
「姉上がおれに“巻き戻し”を使ってくれたから、おれの体は13年若返って、傷が消えて助かったんだ」