珠雫出すところまで行こうとしたのに、朝練で終わった。
ネタが尽きてきた今日この頃
私は加々美の次くらいに珠雫が好き。メインヒロインよりサブヒロイン。それよりもっと、お助けキャラがいいという偏屈な作者です。
まだ肌寒い4月の早朝。
破軍学園の校門前には、二つの人影があった。全力疾走とジョギングを交互に行いながら、全くペースを乱さずに並走する二人。
黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンの姿が、そこにあった。
一輝には才能がない。それは、彼自身が誰よりも自覚しているし、だからこそ、こうして身体を鍛えている。いま行っているのは、二十キロのランニング。それも、全力疾走とジョギングで緩急をつけたことで、肺にかなりの負荷をかけている。同年代ではかなりの無茶だ。下手をすれば身体が壊れる。そんなトレーニングを、一輝は欠かさず行ってきた。
その為普段から早く起きる習慣ができており、模擬戦の翌日も自然と目が覚めた。
その時だ。
『あら、おはよう一輝』
声をかけられた時は本当に驚いた。自分より先に起きたらしいステラが、ジャージ姿で一輝に跨っていた。
ステラ曰く、そろそろ起きる頃だと思い軽いイタズラを仕掛けたらしい。心臓が止まりかけた。
鼻孔を擽る甘い匂いを間近に感じるし、なにやら柔らかい感触がすごい分かる。何より彼女が跨っている場所がマズかった。男性なら誰もが経験があるであろう、朝の生理現象が隠せないのだ!
急いで彼女に退いてもらったのだが、どこかニヤニヤとした顔を向けてきた時は恥ずかしさを覚えた。死にたい。なお、翌日からはやめてくれた。最初からやらないでほしい。
だが、トレーニングを始めた直後、そんなことよりも驚かされるコトがあったため、もはや気にしていない一輝である。
「まさか、ステラが僕と同じトレーニングをしてるとは思わなかったよ」
努力バカらしい驚きの内容である。ランニングのゴール地点である校門に到着し、スポーツドリンクを飲みながら呟く。
「そう?私は一輝ならこれくらいやってそうだなーと思ってたわ」
(実際、僕は前世でやっていたものと変えていない訳だし)
返すステラもスポーツドリンクを飲んでいるが、二人とも毎日行っているだけのことはあり、大量の汗を流してはいるものの、極度の疲労はない。
「そうじゃなくて、僕以上のトレーニングをしてると思ってたんだ」
「そうでもないわ。行き過ぎれば体調を崩すし、無理はしても無茶はしない程度に抑えてるのよ」
「それ、あんまり変わらないような…」
今日のトレーニングはこれで終了のため、部屋から持ってきたタオルで汗を吹きながら休憩する。もう少ししたら部屋に戻り、朝食にしなければいけない。
「ようやくね、始業式」
ふと、ステラが呟く。その視線の先には、正門にある始業式を知らせる看板があった。
「うん、そうだね」
一輝にとっては、感慨深いものがある。一年目はチャンスも与えられないまま、全てが過ぎ去った。
だが、今年は違う。新理事長・新宮寺黒乃のもと、すべての生徒にチャンスが与えられる。
待ち続けたチャンスの到来に、否が応でも気持ちが高揚する。それに、
「楽しそう――いえ、嬉しそうね、一輝。
―――もしかして、彼女でも入学するの?」
「うぇっ!?い、いや、彼女なんて居ないよ何言ってるの!?」
ニヤニヤと、それはもうニヤニヤとした顔でからかうステラの言葉に、大袈裟な反応をする一輝。その反応が余計にステラを助長――
「ま、一輝に彼女がいれば、私とのルームメイトだって断るはずだし、分かってたわ。一輝が会いたいのは『黒鉄珠雫』。違う?」
(僕も珠雫とは会いたいけど……今は僕がステラなんだし、というかステラになって、なんで珠雫がステラを度々いじめていたのか分かっちゃうし…はぁ)
することはなく、素面に戻って聞いてきた。
「珠雫のこと、ステラは知ってたんだ」
自分の考えていた相手のことをドンピシャで当てられ、流石に驚く一輝。こういう所で主導権を握られていることに気付かない。
「入試次席があなたと同じ黒鉄だったもの」
(
「でも、僕の考えていることも当てられると、ビックリするよ」
「一輝なら、そんなこと考えてると思ったのよ」
(《
「それはそれで見透かされてて怖いんだけど…」
「大丈夫よ。さすがに
「そのうち読めるようになるの!?」
(大丈夫、一輝もできるようになるよ。剣舞祭決勝戦は、それで序盤に有利を取ったわけだし)
平然と、いつかは読めるようになると宣うステラの姿に愕然としながら、どうやったらそんな芸当ができるのか、本気で考える一輝。
その姿を見て、ステラは、
「安心して。一輝なら、近いうちに使えるようになるわ」
(もともとは、《
「その、荒唐無稽な技
心を読む。まばたき等の意識とは切り離された無意識の身体反応すら、いつか読み切れるという技が、単なる技術ということに驚愕する。
するとステラが、ランニング前に行った打ち込みに使用した木刀を手に取ると、
「えぇ。………一輝、
「え――ッ!?」
突如、ステラの腕が
防御すら間に合わない、雷速の斬撃。それを、一輝は知っている。
「第七秘剣――『雷光』。……ど、どうしてそれをステラが――っ!」
模擬戦では、一輝が作り上げた七つある独自剣術は見せていない。その存在は知らないはずだ。今日まで、
知らないはずの技術を、一輝と同レベルで使ってみせた。しかも、『見てて』と言ったことから、それが一輝の技術と分かっててやった。
訳がわからない。そんな表情の一輝に対し、ステラは語る。
「私の
ステラ曰く、皇室剣舞は自身で一から創り上げた剣。その前は皇室剣技を習っていたらしいので、他の技術を身につける時間はない。でも実際には、多くの技術を身につけている。そんなことができるとすれば―――。
「ッ!……ま、まさか!」
あり得ない。一輝はきちんとした剣技を持たなかったが為に、この技術を身に着けたのだ。でも、そうとしか考えられない!
「そう。私も…あなたと同じ。あなたが《
そしてこれが、
(いつかこの技術は、一輝の生命線になる。なら、早い段階で教え、鍛えておいた方が良い)
あなたの考えを何度も当てた。その言葉に、一輝は最初は理解が追いつかなかった。その答えが、《模倣剣技》にあるというからくりも。だが少しして、考えの先読みは心当たりがあった。
「もしかして、初めて会ったときの……」
「正解よ。ネタ混じりにあなたが半裸になるのを止めたのも、この技術。《模倣剣技》を人に対して用いることで、
言葉に込められた感情や行動だけでなく、卓越した洞察眼をもって筋肉の緊張や発汗といった身体反応を読み取ることで、より早く、正確に掌握が可能になると、ステラは言う。
「パーフェクト、ヴィジョン……そうか!剣技も人も同じなんだ。剣技の型から歴史を紐解くように、攻撃から次の手を読み取り」
ここに至り、一輝はようやく理解した。そして一輝の言葉に合わせるように、ステラが続く。
「大刀筋から流派の心得を学び取るように、相手の動きから心理を
打てば響く鐘のように、ステラの言葉に一輝が続け、
「呼吸から創製の理念を暴くように、言葉と声音から思考を理解し」
「そして、筋肉の緊張や発汗から、それを生じさせる
最後にステラが締めた。これが、《完全掌握》のからくり。やっていることは、《模倣剣技》と変わらない。だが、これには《模倣剣技》にはない優位性がある。
「《
「なるほどね。事前に情報を分析し性格を解析しておけば、より効果を高められそうだ」
「やってることは《模倣剣技》と同じだから、一輝も使えると思うわ。筋肉の緊張や発汗なんかは、洞察眼を更に磨く必要があるけれど、できなくても十分掌握は可能よ」
つまり、現時点の一輝でも、《完全掌握》を使えるだけの力量があるということだ。筋肉の緊張や発汗を読み取れれば、掌握までにかかる時間や効果を上げることができるとステラは言う。
「じゃあステラは、僕のことをほぼ掌握できてるってことか」
「ここ数日でかなり精度も上がったわよ?なんなら今一輝が、
ステラが言ったと同時に、第一学生寮の方からチャイムが聞こえた。朝七時半。
食堂が開く時間だ。
「えっ……あ!そ、そうだったね!早く寮部屋に戻らないと、食べる時間が無くなる。急いで戻ろうか、ステラ」
流石にそろそろ戻らないと、食堂で食事を取る時間が無くなってしまう。そんな時間になるまで話してしまったのもあるが、一輝は今、自分の新たな可能性に興奮し、完全に時間を忘れていた。
小休止するつもりが、すっかり校門で話し込んでしまった二人は、もう一度だけ始業式の看板に目を向ける。
「一輝、遂にはじまるわね」
「あぁ。七星剣舞祭の代表を掛けた戦いが、漸く始まるんだ」
「《完全掌握》を教えてあげたんだから、負けるんじゃないわよ?」
「そっちこそ、僕のときみたいに、手加減して負けないようにね」
笑いながら、二人は寮に向かって駆け出した。
どうせ翌週の火曜日に《完全掌握》できるようになるし、ヒントくらい教えたろ的な
そしたら完全に理解しちゃった的な
興奮してお食事忘れちゃった的な