ステラ編を途中でぶった切ったら、お気に入りしてくれた人が少し減って悲しかった。珠雫編でまた少し増えたけど。
本当はネタ章も更新したかったのですが、設定が思いつかなかった。またエーデさんやったら、もうネタ章じゃなくてエーデさん編になっちゃうし。
ステラ編の連載版をスタートさせました。これの一分前に投稿。と言ってもまだ『転生先』と同じです。少し修正しただけです。
これの投稿一分後に、原作:賢者の孫でやってる作品も投稿しました。作風を原作に寄せてるので、合う人合わない人がいると思いますが、気が向いたらご覧ください。
(きっとこれは、私もやった道なのでしょう)
珠雫の目に、洗練とした動きで六人を一方的に倒した兄が映る。自分には、黒鉄一輝として生きた記憶がほとんど無いので、これをやったかは分からない。だが、心の奥底。魂が僅かに、懐かしいと感じているから。
「あ、あれ。ステラ、……なんか教室の空気が冷たいんだけど」
「そりゃそうでしょ。それだけの力を見せればこうなるわよ」
(彼女は……)
兄と呆れたような表情で掛け合いを繰り広げている、紅蓮に燃えるような髪色の女性。その姿に、先程以上の懐かしさを感じて。
「力を見せたって……怪我しないように限界まで手加減したつもりなんだけど……」
「限界一杯手加減して
でもそれ以上に、兄の洗練とした動きを称賛したかった珠雫は、無意識に拍手をしていた。その音は、静まり返った教室に反響し、否が応でも珠雫に注目が集まる。中には珠雫の正体に気づき、驚愕したり、逃げ出したりする者もいた。
(ここまで注目を集めてしまうなんて……こうなればヤケね)
「雑魚を寄せ付けない圧倒的な強さ。さすがですわ。―――お兄様」
注目を集めるつもりなんて更々無かった珠雫は、開き直って前に出る。格好良くなった兄の姿ももちろん視界にきちんと入るが、横の
「しず、く……」
そんな思考は、愛する兄の声音で霧散した。
「はい。お久しぶりです。お兄様」
「珠雫―――っ!!」
(わわわっ!お兄様が近寄ってきた急いできたから汗臭くないかな手を取ってくれた格好いいわお兄様かつての自分を自画自賛なんてしてないんだから―――っ)
表面上では、嬉しさをわずかに滲ませた表情で兄との再会をする珠雫は、思考がパニックになっていた。
「うわ、やっぱり珠雫か!こっちこそ本当に久しぶり!なんだかすっごく大人っぽくなったね!見違えたよっ!」
「当然です。四年も逢っていなかったのですから。変わらない方がおかしいですよ」
(やった!お兄様が褒めてくれた大人っぽくなったって言ってくれた成長したのにすぐに私だと分かってくれた!)
「あはは、それもそうだ!いやでも嬉しいな!まさか珠雫から逢いに来てくれるなんて!今日こっちから探しに行こうと思ってたんだけどちょっと教室でゴタゴタがあってさ――って今はそんなことどうでもいいか。……ごめん、なんか突然すぎてテンパってるな、僕」
「大丈夫ですよ。私もお兄様に早く逢いたくて、ここまで走ってきちゃいました」
本当に脇目も振らず全力疾走してきた珠雫は、恥ずかしげに呟く。
「ねぇイッキ。その子ってもしかして……今朝話してたイッキの妹さん?」
(む、なんですか兄妹の感動の再会に水を刺さないでほしいですね田舎皇女っ!)
「え、あ。ああ!うん!ステラ、みんなにも紹介するよっ」
(うっ、お兄様が私を紹介する…となるとこの女は邪魔ですが、お兄様の思いを汲むのも良き妹の努め。ここは再会の喜びに頬にキスでも落としたかったのですが、我慢いたしましょう。田舎皇女ユルサン)
「初めまして皇女様。よろしくするつもりはありません消え失せなさい」
「んなぁっ!!」
「ちょっ、珠雫何言ってるの!?」
(あ、いけない。つい本音が)
「すみません。つい本音が」
「本音なの!?建前でも無理あるけどやっぱり本音なの珠雫!」
「ねえイッキ。アナタが言ってた妹ってホントにこの子なの!?物凄い毒舌じゃない!」
「いや僕も驚いているというかおののいているというか……」
「いやですねお兄様。珠雫は変わりありませんよ?今も昔も、誰よりお兄様が大好きなかわいいかわいいお兄様の妹です。………だから立ち入る隙なんて無いんでとっとといなくなりなさい泥棒猫」
後半でステラに向かい、貴女なんて邪魔なんですよと毒を吐きまくる珠雫。言いながら、珠雫はきつく、一輝に抱きつく。
「さぁお兄様。あんな些末な事より、もっと珠雫を感じてください。具体的にはギュッてしてください。寂しかった珠雫にお兄様を感じさせてください」
「ぅ……ぁ」
(これでもキスしないだけ譲歩してるんです、邪魔だけは――)
「だめぇぇぇええええっ!!」
(これが、世に言うフラグですか。そんな運命、
キスこそしなかったが、ステラによって引き剥がされた珠雫は、内心でごちる。
「ちょっとイッキ!何アンタ普通に受け入れてんのよ!しっかりしなさいよ!」
「ご、ごめんっ!なんか抵抗しづらくて…というか助かった!ありがとうステラ!」
(もういい。この女が、お兄様にどんな気持ちを抱いているのかは分かった。まぁたしかに?お兄様は格好良くて素敵ですもの。こんなチョロそうな人がごまんと惚れてしまうのは想定内。………だからといって想定内でも許せないんですよっ!)
「どういうつもりかしら」
珠雫の瞳が、ようやくステラのみを捉えた。まるで先程までは、兄との語らいに微妙に邪魔してくる面倒くさい相手程度の認識だったステラに、まっすぐと絶対零度の視線を向けている。
「どういうつもりはこっちの台詞よ!アンタこそ、イッキになんてことするのよっ!」
「懐かしさのあまり抱きついただけですが?四年も離れ離れだった兄妹の絆を、貴女は簡単に引き裂くのですか?」
「うっ…」
「そもそも、私はこれでも譲歩してるんですよ皇女様?本当ならお兄様と、この四年間の出来事を話したかったのに、その全てを堪えてハグだけにしてるんです。会って数日程度の浅はかな相手が邪魔しないでください」
「うっ……。で、でもアンタ、今にもキスしそうな雰囲気だったじゃない!」
「本当にするとも分からないのに、そんな理由で引き裂いたのですか。それに、私は合意の上でしかそんなことしません。しても頬です。外国では挨拶として行うような簡単な行為です。……さて皇女様、貴女はどんな理由があって、私とお兄様を引き裂くのでしょうか?所詮ルームメイトにすぎないお兄様に構いすぎじゃありませんか?そこの所、どうなのですか?ねぇ?ねえ?」
容赦なかった。実際、ちょっと言動はあれだったがやることはハグだし、大好きな兄と四年も離れていた珠雫目線で見れば、物凄く場に配慮した行いだ。前世の珠雫ほどアグレッシブにはできない。だから、キスしそうな雰囲気だったとか言う、とても浅はかな理由で引き剥がされたのは納得できないし、珠雫は更に追い打ちをかけることにした。
「そもそも、貴女はお兄様の何なのでしょう?例えば、お兄様との模擬戦に大口叩いた挙げ句ボロ負けして?『アタシより強い人がいるなんて…ポッ』みたいな近世ライトノベルでも類を見ないチョロインさを発揮して?お兄様と恋仲にでもなっているなら?全く以って理解はできませんが仕方なく妹に嫉妬する狭量な人ということで大負けに負けて全殺しで許しましょう」
「珠雫それ全然許してないよねっ!むしろ許す気もないよね!?」
「ご安心を、お兄様。ちゃんと《青色世界》で生き返らせますので。………復元時に色々と欠けてるかもしれませんが」
「そ、そんなわけないじゃない!ア、アタシとイッキがこ、恋人なんて――ってアンタ最後なんてこと言うのよ!」
「あらあら?ならば何故、邪魔をするのでしょうか?どんな立場で?権利で?関係で?私とお兄様の行為を邪魔するのですか?私がやろうとしたのは、兄妹の仲が良ければ誰でも行うであろう極普通の行為です。恋仲でないなら、相応の理由があるのでしょう?もう一度聞きます。いい加減教えてくださいますか?
貴女はお兄様の何なのかしら?」
最後に問うたことを華麗にスルーし、終始珠雫のターンでめった打ちにされるステラは、もう我慢の限界だった。とはいえ、珠雫の方が言ってることは正論だし、ハグという
でも……
「さぁお兄様。幸い私は一人部屋で誰にも迷惑はかかりません。良い茶葉を仕入れたんです。四年間で話したいことも沢山できたのです。早く行きましょう」
でも、一輝のことは関係なく、このシズクとか言う毒舌女に言い返さないと気がすまないっ!!
「……関係なら、あるわよ」
だから、たとえ恥ずかしくとも言うべきだと覚悟を決めた。
「……関係あるから、イッキがアンタといかがわしい事をするのはイヤなのよっ!」
「別にいかがわしいことなんてしませんが、あえて聞きましょうか。―――ご関係は?」
なんか向こうは言ってるけど知ったことか。自分たちの兄妹とも友人ともライバルとも違う繋がりを、この場で証明してやるっ!とか考えているステラは、半分やけっぱちだった。
「イッキはアタシのご主人様なんだから!ご主人様がシスコンを拗らせた変態社会不適合者だと困るのよっ!!」
(
外野で眺めていた人たちは、『特大スキャンダルきたぁぁぁあああ!!』とか、お兄様が隠れ肉食系だとか言っているけど、まぁ肉食系ですよね。前世の『僕』もなんか赤い髪のどこかの誰かが好きだったような気がする。今の私にはほぼ理解できませんが。結構その人を独り占めしたいとか考えてたような考えていなかったような。どうでもいいけどとりあえずこいつコロソウ)
「本当、なのですか」
もし、もしも、前世での『僕』もそうだったとしたら、何かしら理由があるはずだ。だから珠雫も最後の理性で確認をした。たとえ聞いた限りでは、お兄様がすんごいナルシストみたいになっていても。『俺と同じ場所で寝ろ』とか、記憶が無くても言ってないことは分かるけど。
(こわ…)
凍てつくほどに冷たい問いかけが、一輝は率直に怖かった。否定しなければならない。でも残念なことに、今のステラの発言は、事実としては間違っていないから。
「ま、まぁ…ニュアンスにかなり悪意のあるバイアスが加わっている気はするけど、概ね間違いはない、かな」
ギリギリの言い訳だけして、肯定した。
実のところ、一輝がもし、これを否定していたら、珠雫はステラに攻撃を放つ準備をしていた。
だが、結果は肯定。だから、考える。
一輝の肯定に加え、ここまで観察したステラ・ヴァーミリオンという人の性格を考慮して。《完全掌握》が使えなくても、ある程度の性格を把握することは誰だってできる。そこから類推される初見での一輝への対応。かつての自分と全く同じ精神性を持つ一輝の行動。それら全てを統合し、推測して―――。
「―――あ、はは……フフ、フフフッ。なんだ。そういうことですか。あはははっ」
「し、珠雫?」
脳裏に残る僅かな記憶と今の情報を頼りに、全ての謎を解明した。そして、笑いが収まると、一輝に向き直り、
「そこの
淡々と、ステラに向かって心底おかしそうに言い放つ。決闘前に、ステラから提示した内容をそのままに。
まるで見ていたかのように言った珠雫の言葉に、一輝とステラは目を見開いた。
「そ、それはもう無しってことにしてるからっ。というか珠雫何で分かったのっ!?」
「ふふ、隠さなくて良いんですよお兄様?
言い当てられ、動揺混じりに弁解する一輝だが、いえいえ分かってますよと本当に正解をついてくる珠雫。そして、遂に皇女様とすら呼ばれず、あれやそれ呼ばわりされていたステラが軽く睨んできた。
「さっきからアタシのことをそれとかあれとかで呼ばないでくれるかしら?」
「あらあら?自分が負けるはずない!とか高を括ってボロ負けした下僕さんが何か言ってるわ」
「くっ!!」
「ねぇねぇ、どんな気持ち?自分で『負けた方は何でも言うことを聞く下僕になるのよ!』とか何とか言ったのでしょう?ねぇねぇ?言った挙げ句ボロ負けして自分が下僕になった人の感想を聞きたいわ?
NDK?NDK?と。まさに愉悦を浮かべた珠雫は、全力でステラをからかう。それこそ、ステラの周囲をグルグルと回りながら。ちょこまかとすばやい動きは、無駄に洗練された無駄のない無駄な華麗さを持っていた。どこかの水の女神みたいな、プークスクス!という変な笑い方も加えて、どんどんステラの羞恥と怒りのボルテージを上げていく。
(さっき邪魔されたんだもの。全力で仕返してやるわ)
たとえ、それをやる理由が単なる仕返しだとしても、自分は悪くないと言い張るつもりでいる珠雫。先にやったのは向こうだもん!と、小学生みたいな言い訳を脳内で繰り広げていた。
殺そうか悩んだが、それはやめよう。下僕とはつまり、兄の所有物。自分の一存で壊していい物じゃない。代わりに今の瞬間、この人を全力でからかい倒すっ!
とか考えてる珠雫は、かなり楽しんでいた。
そして膨らみに膨らんだステラの怒りが、爆発する。
「アンタ――いい加減にしなさいよっ!
傅きなさい、《
「ちょ、ちょっとステラァァ!?それは不味いって!それはダメだって!!物騒なものをしまって落ち着いてくれ!」
「止めないでイッキ!コイツだけはなんとしても倒さないと気が収まらないわっ!」
「だからってここでやったら停学だから――ねぇ聞いてる!?」
(あらら…完全に怒らせてしまったわね。でも、十分に仕返しして満足したし、さっきまでの分は終わらせるつもりだったんだけど…)
事情が少しばかり変わってしまった。
(まさかとは思ったけれどステラさん、私のことを知らないのね)
自身の所属する教室では、自分を知らない人はいなかった。でも、それは当然だ。
今ここに居ることすら、注目を集めた瞬間から怯え、逃げ出す者が僅かだがいた。なのに、ステラは自分に対して喧嘩を売っている。本気で倒したいと、刃を向けている。
だから――
「
「ってなんで珠雫もやる気になってるの!?」
「刃には刃を以って応えるのが、私の流儀なので。それに――」
(面白そうなんだもの)
今までに戦ってきた並とは違う、本物の才能。やり直してなお届かない、圧倒的魔力量。どんなに記憶がなくなっても、その魂は忘れない存在感。
「―――それに、私が全力でやっても、彼女は死にそうにないんですもの」
「っ!」
全力を出しても、相応に力をつけ、必ず期待に応えるだけのポテンシャルを持つ生まれながらの怪物。元B級の自分とは違う本物。
そんな相手、そう何人もいるとは思えないから。こういう全力を出せるかもしれない相手にはワクワクしてしまう所は、今世も前世も変わらない。それがたとえ、現時点ではありんこ同然だとしても、その潜在能力に期待を込めていた。
だからこそ、珠雫となって変化した霊装を構える。形状は日本刀のそれ。烏を思わせる漆黒の柄と、氷のような透き通る蒼銀の刀身。構えるだけで総身から立ち昇る剣気は、一輝をも上回る。これで遠距離主体の伐刀者なのだから笑えない。
そして、一輝もまた、珠雫の顔を見て息を呑んだ。妹が、ここまで好戦的な
(珠雫も、全力を出せる相手に飢えてるのか…)
それが分かってしまう。常勝。負けたことがないなら、まだ良い。努力の果てに、勝利を手にしているだけだから。でも、
(それでも、今のステラじゃ相手にもならないのは、珠雫も分かっているはずだ)
今なお、珠雫の剣気に圧倒されているステラが、珠雫と拮抗できるはずがない。一輝にすら剣技で及ばないステラは、魔術でも珠雫の足元にも届かない。それは珠雫が一番分かっているはずだ。
ならばなぜこんな事をしたのか、一輝には分からなかった。
「剣が震えていますよ、
「う、うっさいわね!これは武者震いよ!」
(両者の実力差を正確に感じ取っているからこその恐怖。それが感じ取れるだけ、ステラさんは強い。並大抵の相手は、何も感じないから)
何も感じ取れないのは、文字通りの桁違いに実力が違いすぎるからだ。アリが象を足元から見ても、単なる壁としか思えないだろう。つまりはそういうこと。大きすぎる力の差は、感じ取れる範囲にいるだけマシなのだ。
だから、自分にも届くやもしれない希望を込めて、今度こそ自己紹介をする。
「本当は、下調べもしてこない脳筋皇女になんて自己紹介する必要性も感じませんが」「アンタ、ケンカ売ってんのよね?」「何も知らない無知な貴女に、親切にも教えてあげましょう」
「改めましてステラさん。
私は《
禁忌の技で終焉を齎す者。
無限に呑み干す
次の瞬間、ステラの意識は闇に沈んだ。
その1
お兄様を睦み合ってたのに邪魔しくさってワレぇ
その2
下僕プレイですねわかります。
ボロ負けしてどんな気持ち?
私に教えてほちぃな?
その3
私を知らないとか無知蒙昧な脳筋皇女ですね。
仕方ないから教えてあげます能無しさん
大体こんな感じ。煽り耐性のないステラちゃんには耐えられんかったんやなって
後半の煽りが楽しかったです、まる