落第騎士の転生先(凍結)   作:五月時雨

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ステラちゃんと一輝がメイン
前回の続きのような…。思いつかんかったから、前回の補足的な話になります


《深海の魔女》

 

「さて、こんなものでしょう。これ以上は、ステラさんの歯止めが効かなくなりそうでしたし」

 

 ステラの意識を奪った珠雫は、ステラをそのまま一輝に預けた。

 

(ステラさんの実力は想定通り。やっぱり、まだ弱いですね。《抜き足》にも対応できていなかったですし、魔術を出すのは遠そうだなぁ)

 

「珠雫、今のは一体…。それに、ステラは大丈夫なの?」

「ご心配なく。異能を利用して、体内の水分を操作して脳への酸素の供給を少しばかり止めただけです。後遺症も無いようにしましたし、効果も弱めたので、十分程度で目を覚まします。それと、私はただ近づいて、ステラさんに触れただけですよ。お兄様も見たでしょう?」

「うん、見てた。でも、()()()()()()()()()()()()。違うかい?」

 

 流石だ。たった一度、一瞬しか見ていないのに、その事を見抜いてきた。もう自分にはできない、優れた洞察眼は非常に高い水準にある。

 

「フフフッ。それに気付くとは、流石ですわ。お兄様。そして、だからこそ私から言えるのは一つです。―――この学園でこれが使えるのは、私を含めて三人。一人は西京先生」

「あと、一人は?」

「さて?誰でしょう?……ですが、お兄様もいつか必ず、戦う相手です」

 

 前世では戦ったか分からないが、その確信があった。彼女は七星剣舞祭常連で、去年もベスト4。順当に行けば必ず対戦するだろう。そうでなくても、きっと『僕』の《一刀羅刹》は、彼女がいたからできた技だ。

 

「いや、良いよ。今ので何となく分かったから」

「そうですか」

 

 自分を認識できなくさせる体術。そんな技が使える人が、並の相手であるはずがなく、珠雫の口調から剣舞祭常連と分かる。だから一輝は、珠雫の言う三人目が誰か理解した。

 

 伝わったなら良かったと珠雫は思う。尤も、こんな体術、もう一人の剣舞祭常連である《紅の淑女(シャルラッハフラウ)》が使うはずがないので、当然とも言えた。

 

「生徒会長は、そんな技術も持ってるんだね」

「やはり分かりますか。えぇ、私は独力ですが、彼女は《闘神》南郷が教えたそうです。以前立ち会った際に教えていただきました」

「《闘神》南郷寅次郎と……っ!?」

「シニアの合宿で少しだけですがね。会長より筋がいいと褒められました」

 

 前世から使い方を知っていて、ずっと鍛錬を続けたのだから、当然といえば当然だが。

 

(そろそろ部屋に戻りましょうか。お兄様には会えましたし、今の私の動きは、大多数には恐怖しか映さないから)

 

 目の前にいるのに、認識できなくなる。そんな技術を持つ存在に、静観していた多くの一組の生徒が呆然としていた。その目の奥には、確かな恐怖がある。この技術だけならマシかもしれない。だが、相手は《深海の魔女(ウロボロス)》。都市一つ沈める存在に、皆どうすればいいのか分からないのだ。

 

「それよりお兄様。ステラさんに伝言をお願いしても良いですか?これ以上ここにいても、皆さんを怯えさせるだけでしょう」

「あ、うん。分かった。でも珠雫、皆はそんなこと思ってないと」「思ってますよ」

 

 だから、たとえ兄の言葉でも遮って。同学年だからこそ、差を歴然と感じ、中にはシニアで戦った者もいるだろう。その多くが最初にこの教室に入った時から逃げ出し、そうでなくとも恐怖していた。その事実に、少しばかり寂しさを感じるが、それは置いておく。

 

「では、こう伝えてください」

 

 

 

__________

 

 

 

 

「あ、目が覚めた?ステラ」

「あ、れ………?アタシ、確か」

 

 珠雫が教室を出ていき、言った通り十分程度で目を覚ましたステラに、一輝はお茶を渡しながら話す。今日はもう用事もないので、既に教室には二人しかいない。

 

「珠雫に気絶させられたんだよ。と言っても、寝てたのはほんの十分くらいだ」

「そっか……。アタシ、シズクに負けたのね」

「そもそも、珠雫の不意打ちみたいなものだけどね」

 

 自己紹介が終わったと同時に接近し、触れたと同時に意識を落とす。二人の距離が近かったこともあり、その間二秒とかかっていない。初見で対応しろと言われる方が難しいだろう。

 

「まぁ、ステラが全力でぶつかっても、どの道勝てなかったのは確かだ。それだけ、珠雫は強い」

「えぇ。流石にあれだけ言われれば、いつの間にか意識を奪われれば納得した……いえ、させられたわ。シズクが、《深海の魔女(ウロボロス)》。アタシたちの代で、そして全水使いの中で《カンピオーネ》と並び最強と謳われる存在」

「正確には、珠雫が『最強』。《カンピオーネ》カルロ・ベルトーニさんは、『最高』。そして《白衣の騎士》薬師キリコさんが、『最巧』って区分けされてるけど、その実珠雫は、『最高』にも『最巧』にも並ぶ水量と魔力制御技術を持っている。間違いなく、全水使いで最強に君臨しているんだよ、珠雫は」

 

 言いながら、一輝はため息を付きたくなった。兄である黒鉄王馬、妹の黒鉄珠雫。そのどちらもが最高位(A級)で、間の自分は最底辺(F級)。同じ親から生まれたのに、ここまで両極端なのも珍しい。

 

「ホントに、いつの間にか意識を奪われたわ。接近にも気づけなかったし、何あれ?あれこそジャパニーズニンジャってやつ?」

「いや、あれは体術らしいよ。そのことで珠雫から、ステラに伝言だ。……………えっと、怒らないでね?」

「何よ?言われて怒ることなの?」

 

 妙にそわそわと、言いにくそうにしてる一輝の様子に、業を煮やすステラだが、一輝は意を決して伝言を伝える。頼まれた際、妙に楽しそうだったのを思い出しながら。

 

「珠雫からありのまま伝えてほしいって言われてね……。んんっ。ごほんっ!

『この程度の体術も見抜けないとは、《紅蓮の皇女》(笑)さんどんな気持ちですか?私、遠距離主体なんですけど?ねぇねぇ?魔術師タイプの人に体術で気絶させられた感想は?NDK?』

………だってさ」

「ア、アイツはぁぁぁあああっ!!!」

 

 一輝の懸念通り、伝言を伝えた瞬間に大噴火したステラ。

 

「まぁまぁステラ、落ち着いて。珠雫の煽りは気にしない方がいいよ。特にステラにはクリティカルヒットみたいだし」

 

 珠雫の煽りが的確にステラの急所を抉っていったのは、流石の一輝でも軽く引いた。だからこそ気にするなと言いつつ、続ける。

 

「でも、僕も珠雫に教えてもらって知ったんだけど、ステラが珠雫を見失った体術の使い手が他にもいる。それも、七星剣舞祭で高成績を残している騎士だ。あのくらいの体術に対応できないようじゃ、僕もステラも、勝ち上がれないだろうね」

「誰なの?」

「破軍学園生徒会長《雷切》東堂刀華。それに確証はないけど、同じ技術を習った人は、他の学園にもいるはずだ」

「つまり、学内選抜戦でも当たる可能性があるってことね。そうなれば、何かしら対策を建てないと、あの体術は攻略できない」

 

 まだたった一度しか見ていない二人には、攻略法なんて見えない。どんなカラクリがあるのか分からない技術に対応は出来ないので、早急に対策を講じたほうが良いだろうが。

 

「単純な騎士としての実力も高い人だ。油断は」

「すると思う?」

「少なくとも、僕と珠雫にはしてたよね」

「うっ…。だ、だってイッキもシズクも、ぱっと見強そうに見えないし…。でも、シズクとの差は流石に理解したわ。あれは、アタシなんか足下にも及ばない。本物のA級」

 

 しみじみと語るステラの様子に、一輝は笑う。本当の本物が、何を言っているのかと。

 

「総魔力量世界一位が何言ってるの?こういう言い方はあれだけど、才能の大きさでは、間違いなくステラの方が上だ。それに、珠雫は最初からA級認定されていたわけじゃない。元はB級だったんだ。それでも十分才能は高いけどね」

「そうなの?禁技まで持ってるんだし、最初からA級だと思ってたわ」

「珠雫がちょっと言ってた《青色世界》。あれは、体組織を分子レベルで分解、再構築することで、瀕死の重症からでも無傷にまで回帰させる伐刀絶技(ノウブルアーツ)だ。肉体の損傷が少なければ、()()()()()()()()であることが証明され、リトルの頃にA級に上がったんだ。」

「あれもシズクなのね…。昔から伝説作りすぎでしょうが…」

 

 小学生(リトル)で《青色世界》。中学生(シニア)で禁技。死者蘇生というこれまでのどんな水使いも不可能としてきた技術だ。正確には、他人の体組織を正しく再構築できる人がいなかったのだが、それを初めて成し得た珠雫は、ある意味で伝説である。

 

「だからこそ、既に学生レベルではないと判断もされている」

「どういう意味?」

 

 そんなことは言われなくても分かっているステラは、あえてそう言ってきた一輝に問いかけた。

 

「ステラは残念かもしれないけど、禁技保有者が七星剣舞祭に出たら、分かりきった大会になってつまらないらしい。―――珠雫には、日本支部から出場停止が言い渡されている」

「はぁっ!?今度こそ試合でけちょんけちょんにしてやろうと思ったのに、シズク出場できないのっ!?」

「そうみたいだよ。僕もさっき教えてもらった」

 

 実のところ、これは対外的な適当な理由付に過ぎない。禁技と言われるだけあって平時の使用は禁じられているので、単なる戦闘での勝敗に関係なく、相手が勝てる可能性だって十分ある。

 それでもなお、参加が禁じられているのは、珠雫が人としての運命を超えた先に立つ《魔人(デスペラード)》だからだ。強い運命への強制力を持つ彼女は、《魔人》ではない相手に負けることはない。『けだものの魂(ブルートソウル)』を持つ珠雫は文字通り、存在としての格が違うから。

 理由は違えど、学生騎士では絶対に勝てない理由はそれだ。運命的に勝てないと決定された試合など意味がないとされ、そのことを知る月影獏牙によって日本支部に圧力が掛かり、対外的には禁技保有者が出ても結果が分かりきっているという理由で出場停止されている。

 

「まぁ、出れないのは分かったわ。仕方ないけど、別のことでけちょんけちょんにしてやるんだからっ」

 

 からかわれたことを根に持っていたステラの様子に、どっちもどっちの似たもの同士と思う一輝は、言ったら怒られそうなので心に留めておくことにした。

 

「そういえば、シズクがいるのに、なんでアタシが首席なのかしら?どう考えても、シズクの方が上でしょう?」

「あぁそれは、珠雫が入学試験を受けてないからだよ」

「……またとんでもないこと言うわね」

「禁技を持ってるのも理由にあるけど、ただでさえ珠雫の実力は抜きん出ている。非常時及び緊急性を伴う事件があった際、正規の魔導騎士と同等の権限を持っているのもそうだ。『特例招集』と違って、珠雫はに自由裁量の余地が与えられているんだ」

 

 つまり珠雫は、街中での霊装の使用を許可されている正規の魔導騎士と同じように、事件に巻き込まれた時のみではあるが、誰の許可を必要とすることはなく霊装を使用できる。

 

「でもまだ、正規の魔導騎士とは言えないから、魔導騎士養成学校のいづれかに属するよう言われたらしい。代わりに試験等は一切免除されているらしいけどね」

「なるほどね。シズクがとことん規格外なのは分かったわ」

「うん。実力主義で部屋割をしてる理事長も困ったんだろうね。明らかに実力がかけ離れているのもあって、珠雫は一人部屋らしいし」

「アタシとも違いすぎるもの。今度こそもっと粘ってみせるけど、実力差を痛感したわ」

 

 自分との差を実感してもなお諦めないステラは、今後はもっと粘ると誓う。今はまだ足下も見えないけれど、いつか追いつき、追い越すと心に刻んだ。

 そして一輝もまた、偉大な妹に兄としての威厳を示したいと願う。

 

「なら、どっちが先に珠雫に勝てるか、勝負だね。ステラ」

「イッキでも勝てないの?」

()()()()()だけなら、僕の方が上だ。―――でも珠雫の剣技は、まだ誰にも見せていない先がある。そんな気がするんだ」

 

 単純な剣技だけなら、元々の身体能力や、近接戦闘への珠雫の不得手さで有利に運べるだろうと、一輝は言う。だが、違うのだ。まだどこか、本来の技術を使っていないような気がする。必要な歯車をわざと付けていないような、そんな違和感を。

 

「それに、珠雫は元々魔術戦を得意とする伐刀者だから、剣で勝っても意味がない。その瞬間、本物の怪物が目を醒ますだろうね」

「ホント言葉通りの怪物ね、アンタの妹」

「だから、いつか勝ちたいんだ。全力の珠雫に」

 

 全力の剣技も魔術も全部を出し尽くした珠雫に勝って、示したい。黒鉄珠雫という巨大な運命(かべ)をも乗り越えた(斬り裂いた)先で、言いたい。

 

「諦めるなって言った龍馬さんとも違う、どんな運命でも斬り裂けると信じて断言した珠雫に、ちゃんと『ありがとう』って伝えたいんだ」

 

 龍馬さんと珠雫。二人の言葉があったから、ここまでやってこれたから。一輝のことを最初に、そして今なお信じ続けてくれている妹に、勝利した後に感謝を伝えたい。

 

 そう、一輝は静かに誓った。




その1
手助けはしないけど、情報はあげちゃう

その2
ステラちゃんは《深海の魔女》=珠雫というように繋がらなかっただけで、実は知ってた

その3
唯一自分を信じ続けてくれた珠雫に、一輝くんは原作よりシスコン度が上がってます。
分かりにくいけどねっ
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