後半は結構てきとーになりました。
後書きと活動報告でお知らせがあります。
「で、なんでアンタがここにいるのよ」
「あら?私がここにいる事の、どこがおかしいのかしら?」
始業式から一夜開け、早朝。学園の校門前では、二人の少女が向かい合っていた。
「私は以前から早朝トレーニングを行っているんです。それが、偶然お兄様と同じ時間に、偶然同じ場所になっただけのこと。ステラさんが思っている破廉恥な事なんてありません。
ね〜お兄様?」
「そういえば、僕が黒鉄家を出る前もよく一緒にやったよね」
「懐かしいですね。……と言う訳で、私がいることは納得しましたか?」
「うっ…」
昨日の一件から、珠雫に微妙な苦手意識を感じたステラは、二人の会話に入りづらかったのだが、やっぱり納得できない。なぜなら、
「で、でもアンタ昨日の事で
そう。珠雫は昨日、ステラを気絶させた時に異能を使ったことが理事長先生に伝わり、大事には至らなかったものの、三日間の謹慎処分を受けた。もちろんそれは前代未聞の事態であり、新聞部によって今日にも全校に広まるだろう。一輝としては、『俺の腕の中でMOGAKE』が発行されなくて安堵した。
「何を言うかと思えばその事ですか。確かに私は謹慎処分をされましたが、イコール部屋から1歩も出るなとはなりません。第一私達は、学生とはいえ騎士。騎士が日頃のトレーニングをサボるなど愚かなことです」
だから、普段通りのトレーニングをしているだけだと、珠雫は宣った。
「まあまあ、ステラ。珠雫も。そのまま問答してもトレーニングなんてできないし、早いところ始めない?遅くなっちゃうと、朝食に間に合わなくなるよ」
「そうですね。私はゆっくりできますが、お兄様を困らせたくありませんもの」
「うぅ〜っ…分かったわよっ」
そんなこんなで走り始める三人。一輝のランニングは二十キロ。しかも心肺に負荷をかけるように、全力疾走とジョギングを交互に挟んで、だ。ステラも、必死にこれについて行こうとしているが、少しずつペースが落ちていくのが、目に見えてわかった。対して珠雫はというと
「お兄様。私、最近また少し距離を伸ばしたんですよ」
「そうなんだ。四年前は五キロまでだったけど、今はどれくらい?」
「ついこの間まで十キロでしたので、今は十五キロですね」
「結構伸ばしたんだね。無理はしないでね?」
「ふふっ、大丈夫です」
距離こそ一輝より短いものの、平然と一輝と並走していた。わざと全力疾走中に会話することで、より心肺機能に負荷をかけている辺り、抜かりがない。と、そこへ無理やり追いついてきたステラが、珠雫に声をかける。
「あ、あら。シズクは十五キロ、なのね。私は昨日…二十キロ、完走したわよ?」
無理に追いつこうとした為、既に若干息が上がっているが、それでも何とか食らいついてくるステラ。
「無理に限界チャレンジするなんてバカですかステラさん。いえ脳筋でしたね、ステラ・ヴァーゴリオン」
「人の国をゴリラにするなっ。アンタの罵倒のボキャブラリー本当にヒドイわね!」
「それに昨日、私は遠距離主体だとお兄様から聞いたでしょう?近接戦は、敵に距離を詰められた際に適度に迎撃できる程度で良いんです」
「スルーっ!?」
「珠雫の場合、その迎撃だけで大抵の相手には勝てちゃうんだけどね」
そんなこんなで、ただのランニングのはずが言い争いをしながらのため、普段より体力を消費した三人だったが、十五キロを走ったところで珠雫が声をかけた。
「では、お兄様。私は先に戻って、魔力制御の鍛錬をしていますね」
「分かった。僕も走り終えたら、そっちに行くよ」
すでにかなり後ろにいるステラは無視し、スタスタと校門に戻っていく。
「さて、始めましょうか。《天尾羽張》」
(ここ最近は秘剣をこの身体でも使えるように、剣術ばかりでしたからね。魔術の方は鈍ってなければ良いんですが)
霊装を幻想形態で顕現させる。前世のような身体能力は無い。現段階の一輝と比較しても、やや下回るだろう。だからこそ、前世で作った独自剣術に、珠雫なりのアレンジを加え技術を磨いたが、今回はそうじゃない。
「《
空中に、二十余りの氷で創られた刀身だけの剣が出現する。柄は必要ない。これは、手に持って扱うものじゃないから。
珠雫が霊装を振るうたびに、踊るように空を舞う剣群に規則性はなく、全てを珠雫の意思で完全に操作する。相手がいないので、氷剣同士で剣戟を交え、時に砕き砕かれる剣閃は、全てが一級品。
やがて、二十余りもあった氷の剣たちは一本を残し、全て砕かれ、目に見えないほどに細かい氷の礫となり珠雫の周囲を漂う。
「《
そう言霊を発すると、ダイヤモンドダストのように陽光をキラキラと反射する無数の氷片が、残った氷剣に殺到。竜巻のごとく渦を巻きながら、鋭利な欠片がぶつかり合い、剣を一瞬で削りきってしまった。
これは、二段構えの伐刀絶技。大量の氷の剣による剣戟。それだけでも一級品の剣戟は、並の相手を圧倒できるが、本番は氷剣が砕かれてからだ。学園序列二位《紅の淑女》貴徳原カナタの伐刀絶技《
対処するには、砕くより一瞬で蒸発させるほどの熱量をぶつける他ないが、そんなことできるのはステラだけだろう。中途半端に溶かして水にしても、別の攻撃で利用されそうである。
「ふぅ…少しラグがあったかな。剣術の方ももっと磨きをかけたいけど、並行して魔術もやろっと」
伐刀絶技の発動に、以前よりラグを感じた珠雫は、剣術と並行して魔術をもっと鍛えることを決めた。ラグと言っても、並の伐刀者では感じ取れないほど軽微なものだが。
しかもこんなことを言いながらも、実はずっと魔力制御の訓練を行っていたりする珠雫。
体内の隅々まで、至るところに魔力を循環させ、魔力による身体強化をより体内で完全作用させる技術。魔力を手足のように操る訓練は、いつ如何なる時にでもできる。それこそ珠雫にとって、やっていないなのは寝ているときだけだ。今では手足より正確に動かせるかもしれない。
魔力を意識的に、全身に淀みなく行き渡らせているだけなので、身体強化などにはなっていないが、血管の隅々――いや細胞の一欠片にまで魔力を完全かつ均等に行き渡らせる所業は、人間業ではない。
「ここまで出来なくても、もっと魔力を体内で完全作用させられれば、お兄様の《一刀修羅》も更に上に行けるんでしょうね…」
事実、自分が魔力で再現した《一刀修羅》も、完全作用させることにより、更に上の段階に進むことができたから。《一刀羅刹》も斬撃の瞬間のみ刀身にだけ魔力を纏わせることで、使い勝手の向上と魔力消費を抑えることができた。
だが、これも教えるつもりはない。現段階でも、七星剣舞祭まで問題ないし、何より一輝なら自分で気付けると信じているから。あくまで自分は見守るだけだと、改めて認識する。
「久しぶりに見たけど、珠雫の技はすごいね」
「っ…お兄様でしたか。早かったですね」
「うん。ステラは…もう少しかかるかな」
遠くにいるステラを見る一輝に、話しかけられるまで気付かなかった珠雫は苦笑した。さっきの独り言が聞こえていなければいいのだが。
「魔力制御の評価がAではなく、遂にSに届きましたからね。普段から続けていれば、このくらいは簡単ですよ」
「さすが水使い最強だね」
「まだまだです。最近は剣術に傾倒していたので、魔術の発動にラグがありましたし」
「………無理はしてないんだよね?」
まだ、前世の技術を半分も使い切れていないので、本心からそう思う珠雫なのだが、一輝としては妹がどこまで駆け上がっていくのか、少々心配だった。
「心配してくださるのは非常に嬉しいですが、問題ありませんわ。というより、無理無茶無謀はお兄様の十八番ではないですか」
「あはは……返す言葉もないです」
《一刀修羅》なんて博打技を切り札に持っている一輝は、それを相手に切り抜けられれば攻撃の手段を失うも同義だ。しかもその性質上、防御面は紙も同然。無理無茶無謀と言われても仕方ない。
「無理だけはなさりませんように。なんて言っても、お兄様は聞かないんですもの」
「珠雫には、昔から心配をかけちゃったね」
本当です。と珠雫は笑う。珠雫は誰よりも近くで一輝の鍛錬を見てきたからこそ、誰より一輝を心配している。だが同時に、信じてもいる。それは、かつての自分もそうだったように、黒鉄一輝の魂は、この程度では挫けないと知っているから。
だからこそ、そんな暗い話を続けるつもりは無いし、ステラが走っている今がチャンスなのだ。
「お兄様、今週の末なんですが、何かご予定とかありますか?」
「ん?いや、何も無いけど、どうしたの?」
この時、珠雫は心の中でガッツポーズをした。今のうちに誘ってしまえ。できればあの
「では、珠雫の買い物に付き合っていただけませんか?実はまだ、寮生活で必要なものとかが分からなくて……。お兄様に来て頂ければ、アドバイスしてもらいたいなぁと!」
「そういう事なら、全然構わ―――」
「ちょぉっとまったぁぁぁああ!!」
(ちっ。やっぱり来たわね)
この展開を半ば予想すらしていた珠雫としては、驚くことはないのだが、ズドドドッという効果音が当てられそうな勢いでこちらに走ってくる紅蓮の猪女の形相は、ちょっと鬼気迫っていた。
「ちょっと!何二つ返事で了承してんのよイッキ!アンタには危機感ってものが無いわけ!?」
「い、いやステラ。危機感も何も、ただ買い物に付き合ってくれるよう頼まれただけなんだけど」
「シズクがその程度しか考えてないわけ無いじゃない。絶対に何か企んでるに決まってるわ!」
「あ、お兄様。近くの大型ショッピングモールなら、色々揃いそうですよね。あとあと、映画も見に行きたいです」
ステラが絡んできても、サラリと
「構わないよ。でも映画とかあんまり見ないから、珠雫の好みに任せることになるけど」
「うぅぅ〜〜……っっ!」
「あら?良いんですか?なら、当日までに決めておきます」
「ガルルルゥ……ッ!」
ステラが横で唸っていても全力でスルーする。
一輝は、唸り声を上げるステラに横目を向けているが、珠雫は全く気にしない。それどころか現状を楽しんでいた。
(素直について行きたいと言えばいいのに……。全く、可愛い人)
どうやってステラを煽ろうかと。
とはいえ、珠雫から誘うつもりはない。ステラ自身も戸惑っているその感情に、誰より先に気付いているからこそ、珠雫はステラに手を貸すことはない。むしろ壁となるつもり満々である。
「あら?ご主人様であるお兄様に牙を向く、躾のなってない奴隷がいますね。どうしたんですか?私達について来て、奴隷プレイでもしたくなりましたか?」
「牙向いてんのはイッキにじゃなくてアンタによシズクっ!誰かどどど、奴隷プレイなんかするのよ!良いわよ付いてってやろうじゃない。アンタが変なことしないか、アタシが見張ってやるから!」
奴隷プレイは全力で拒否しながら、監視の名目で付いていくと言うステラ。
「あ、お断りします」
「なんでよー!」
そんなステラをバッサリと切り裂くはやはり珠雫である。即答でステラの申し出を切って捨てた。
だが、これには理由がある。
「ステラさん、残念ですが、行く予定のショッピングモールには、ペットは入れないんです」
「誰がペットか!」
「貴女のことですが?え?
「いらないわよそんな気遣い!」
奴隷ってご主人様の所有物。つまりペットと類義語でしょう?と首を傾げながら宣う珠雫。
その口元は孤を描いており、ステラはからかわれていることに気付いた。まだ僅かしか話していない両者なれど、流石に分かることは分かる。
まぁ、それはもちろん
(あら、挑発がバレましたか。まぁ、バレようがバレまいが関係ありませんね)
珠雫も同じなのだが。
「まぁ、付いてくるならお好きにどうぞ」
「えっ、良いの?」
だって、付いてこようがこまいが、珠雫にとってどちらでも構わないから。一輝がいるなら、珠雫はなんら問題ない。だがきっと、一輝はそこにいなきゃいけない。
「お兄様とのデートのつもりでしたが、それはまたの機会にしましょう。折角なので私も一人、連れてきても良いですか?」
「し、珠雫。流石にデートっていうのは…ほら。僕たち兄妹だし」
「お兄様。兄妹だろうと男と女が共に歩いていれば、それは端から見ればデート以外の何ものでもありませんわ」
(前世の記憶は殆ど無いけれど、
こういう時、断片でしかない記憶が恨めしい。『珠雫にまつわる記憶』ではなく、あくまで『一輝目線での珠雫との記憶』だ。そこに他の人が何人いようが、顔も体型も分からない。分かるのはおおまかな人数くらいだ。
だが恐らく、もう一人は前世でのルームメイト。入学したてのこの時期に、珠雫がもう親しくなっている相手となるとルームメイトの線が濃厚だろうか。
(となると、寮の実力分けは助かったわね)
今年度の入学者で、恐らく次席にいるだろう人物。それが、最後の一人だ。実力による区別は、実に分かりやすい。しかも珠雫としては、もう相手に目星はついている。
「では、詳しくは追って連絡しますね」
「うん。とりあえず、四人でいいのかな?」
「むしろ四人より増えません増やしません」
減るかもしれませんが。という内容は伏せておく。まだ決定はしていないので、詳しくは追って知らせるつもりである。ステラが来れなくなる戦略も練らなければ。この際《
そんな物騒なことを考えつつ残りのトレーニングを消化した珠雫は、一輝の後を付いて行き、わざわざ第一学生寮で朝食を食べた後、自室へと戻っていった。
補足
珠雫ちゃんは謹慎くらったぜ。でもトレーニングに乱入してステラをからかっちゃうぜ。お兄様も認めてるしステラちゃんなんて怖くねーぜ
その2
若干の前世の記憶から四人いねーといけねーと思ってる。誰を誘うんだろーなー
お知らせ
作者の事情で次回の更新が一ヶ月近くできません。次回は、2019年6月の中旬くらいを予定していますが、結構空いてしまうことをここにお知らせします。
ただ、遅くとも6月以内には次回、その後はまた週一更新でやりますので、気長にお待ちください。