落第騎士の転生先(凍結)   作:五月時雨

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続いた。

後書きで皇室剣舞について裏設定を載せてあります。長いけど。設定厨の特徴です、仕方ないね。
設定ばかりよく思い浮かぶのに、圧倒的に書くための文章力(はやさ)が足りない。

設定にこだわりすぎた結果、自分でも良くわからなくなるという杜撰さ。矛盾あったら指摘してください_(._.)_


舞踏

 

 今回の一輝との模擬戦。僕は、最初から自身の扱える技術にいくつもの制限を掛けていた。

 

 エーデルワイスの剣技、体技の不使用。

 使う剣術は、皇室剣舞(インペリアルダンス)のみ。

 使う魔術は三回だけ。

 魔力による身体強化をしない。

 本来の能力である《竜》の力の不使用。

 《模倣剣技(ブレイドスティール)》及び《完全掌握(パーフェクトヴィジョン)》の不使用。

 

 我ながらかなりのハンデを背負っていると思う。だがエーデルワイスの剣技と体技は理事長がレフェリーをしている時点で使うわけにはいかない。《竜》はそれこそ試合を一瞬で決めかねない。一輝として培った技術は使わず、ステラとして体得した技術だけで戦うつもりだった。

 使う魔術も、最初から決めていた。《妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》、《焦土蹂撃(ブロークンアロー)》、そしてステラの最高火力を誇った《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》。

 

 他には絶対に使わない。

 

だからこの模擬戦の結果は、最初から僕の敗北で決まっている。

 

 

 

__________

 

 

 

 ステラさんの使う剣は、さながら舞のようだった。まず、音がない。いや、剣撃の音はするけれど、着地や踏み込みの動作がまるで無重力を思わせ、次の動きに繋げる時に無駄な力が全くない。舞を意識したような一見無駄に思える身体動作は、目の前にいる相手(ぼく)が見惚れてしまうほど美しく、だが確実に次の、そのまた次の攻撃の予備動作に繋がっている。フェイントは洗練とし、本当に攻撃するかのように錯覚する。攻撃性と錯覚した荒々しさなど微塵もなく、だが苛烈な攻めは強制的に踊らされる。

 何より、つま先から頭、指先に至るまで、彼女の動き全てが優雅だった。剣舞。剣の舞とはこういうことを言うのだろう。

 

 《模倣剣技(ブレイドスティール)》。それが、僕がステラさんの意表を付き、上回るための策だった。

 どんな相手にでも上を行き、先手を取るためにはどうすれば良いか。その答えとも言うべき僕だけの剣技。相手の剣技から枝葉を読み取ることで理を暴き、その場で欠点を是正した完全上位互換の剣技を作り出す。それが、《模倣剣技(ブレイドスティール)》。

 だがステラさんの剣技…いや、剣舞というべきそれは、予想以上に研ぎ澄まされていて。

 どんな技、コンビネーション、相手への対応があるのか等を暴くことはできた。だが、

 

「《模倣剣技(ブレイドスティール)》を以ってしても超えられない…いや、ステラさんが使うもので既に()()()()()()()()()()()っ!」

 

 上位互換なんて作れない。彼女の使うあの型が、既に完成されているっ!事実として今、僕は彼女の剣舞を使っていてなお、攻めきれないのだから。

 

「当然よ!私の皇室剣舞(インペリアルダンス)皇室剣技(インペリアルアーツ)を基礎に()()()()()()()()()()!徹底的に無駄を隙を欠点を、修正し是正し排してきた、本当の意味で私だけの剣!見切られはしても、そう簡単に超えさせやしないッ!」

「ッァ!!」

 

『すごい……模擬戦じゃないみたい』

『あぁ…まるで舞踏だ』

『あの留年生、皇女様と互角だぞ!』

 

 確かに今、全く同じ皇室剣舞を使っている様子を観戦すれば、二人で舞踏(ダンス)を踊っているようにしか思えないだろう。現実はそんな易しいモノじゃないけど。

 久しぶりだよ。こんな経験、《模倣剣技(ブレイドスティール)》を初めて使った頃にしかなかった。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 互角?そんなわけない。僕は今でも食らいつくので精一杯だ。五分もの時間を要し、枝葉を読み取ってなお、完全上位互換は作れなかった。

 

 

 剣の腕で圧倒されたのは、本当に久しぶりだ。

 

 

「ふふっ。楽しそうね、一輝」

「え?……ははっ、そうか。ああ、そうだね。剣戟で圧倒されたのは久しぶりだったから、どうにも楽しくてね」

 

 互いの剣がぶつかり合い、その反動を利用して二十メートルほどの距離を取る。偶然にも、模擬戦を始めた初期位置へと降り立った。

 僕は笑っていた。どうしようもなく、込み上げてくるこの感情が抑えられなくて、頬が釣り上がるのを止められない。

 

「楽しい、ね。剣術バカはどこまで行っても剣術バカなのかしら」

「ははっ。僕が剣術バカなら、ステラさんは剣術オバケかな?」

 

 自分で言うのもなんだが、この年代で僕以上に剣術を磨く人は少ない。いないとすら思える。それだけの無茶をしてきたと思っているし、それだけの力があるとも思っていた。だけど……なにせ

 

「なにせ、それだけの才能を持ちながら、僕以上に努力を欠かさなかった。《模倣剣技(ブレイドスティール)》でも盗みきれない君の剣舞が、その証拠だ」

 

 一体、どれほどの修練をすればその境地に到れるのだろう。一から剣舞を創り上げ、弱点を一つ一つ潰す。修正に修正を重ね続けた先の今が、どれほどの道のりの先にあるものなのか、僕には想像もつかなかった。

 

 このままじゃ、良くてジリ貧。悪くてすぐにでも押し負ける。偶然にも流れの切れた今、僕の伐刀絶技(ノウブルアーツ)で押し切るしか勝機は無い。

 

 

 そう思い、勝つための唯一の手を切ろうとする僕の前で、ステラさんが左の剣を鞘に納めた。

 

 

 

__________

 

 

 

 思ったとおり、一輝は食らいついてきた。《模倣剣技(ブレイドスティール)》でも盗みきれない自負はあったし、それだけの努力もしてきた。かつての自分ではあるが、努力バカ+剣術バカな一輝に認められる程に。嬉しかったです、まる

 だが、このままじゃ『私』の最強も一輝の最弱(さいきょう)も出さずに終わってしまう。となれば、こうして流れの切れた今こそ、使うべきだろう。

 

 そう決意し、僕は左の剣を鞘に納めた。

 

 

 

__________

 

 

 

「ねぇ一輝。これ以上続けても決着はつかないと思わない?」

 

 ………何を言ってるんだろうか。明らかに自分が優勢であるにも関わらず、そして剣で決着をつけると言ったにも関わらず、ステラさんは何を思ってそんな事を言うのだろうか。

 

「それにほら。観戦席の人達も、そろそろ飽きてくるでしょう?」

「………戦いにエンターテイメントを求める必要は無いんじゃないかな?」

「私の想像以上に、あなたは私に食らいついてきた。そのご褒美みたいなものよ。………最大限の敬意を払い、私の最高火力(さいきょう)を見せてあげる」

 

 不敵に笑い、宣言するステラさんに、流石の僕も理解した。

 

「次で決着をつける…ってことで良いのかな?」

「ええ。そして、私にも見せてみなさい。あなたが持つ、たった一つの強い輝きを――っ!」

 

 『一輝』という名前に掛けて言ってるんだろうな、と考えなくても分かった。それに元より、僕にできるのは最初から一つだけ。

 

 ステラさんが、一足飛びで観戦席との間を隔てる壁際まで飛び退いた。まさか、また《焦土蹂撃(ブロークンアロー)》を?いや、それは既に破った。ステラさんがもう一度使うはずは無い。ステラさんは最強を見せるといった。なら僕も、僕にできる最弱(さいきょう)を。

 

 

 ステラさんを中心に、膨大な量の魔力が、竜巻の如く吹き荒れる。それは炎という形に変換されずとも、自然と赤い魔力光を放っていた。

 

「蒼天を穿て、煉獄の焔」

 

妃竜の双罪剣(レーヴァテイン)》の右剣を天に掲げた瞬間、剣に宿る炎がその光度と温度を一層猛らせ――もはやその在り方を炎ではなく、光の柱に変え、ドームの天井を溶かし貫いた。

 

『な、なんだこれぇぇえ!!』

『滅茶苦茶じゃねーか……っ。これで同じ人間なのかよ………!』

 

 百メートルを超える太陽の如き光の刃は、あらゆるモノの存在を許さない滅死の極光。

 これぞAランク騎士ステラ・ヴァーミリオンが誇る最大火力(さいきょう)伐刀絶技(ノウブルアーツ)

 一輝との剣での競い合いをやめ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「さぁ………死に物狂いで足掻きなさい。あなたの実力で、敗北を受け入れた先にある普通の幸せを否定してみせなさい……っ!!」

 

 敗北の先にある普通の幸せ、か。確かにここで敗北を受け入れ、魔導騎士になる道を諦めれば、ごく普通の幸せを手に入れることはできるだろう。

 

「妹にもよく言われたよ。『お兄ちゃんは魔導騎士以外なら何にでもなれるんだから、そっちを目指した方がいい』って。……確かにそうだ。ここで敗北を受け入れ、普通の幸せを甘受した方が身のため。僕には、魔導騎士の才能が無いから」

 

 僕が魔導騎士になるには、()()()()七星剣舞祭で優勝しなければならない。それは、さながら笹舟で滝登りをするが如き無謀。僕自身が一番理解している。

 

 でも。今のステラさんの言葉はどうだ?こんな才能が無い僕に発破をかけ、妹にすら否定された魔導騎士への道を応援するかのように、()()()()()()()()()()()()()()()()。これまでの僕の努力なら、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は…はははっ!あぁ退かないよ、ステラさん。魔導騎士になるのは、僕の夢だから。今この場を降りることを、僕を僕たらしめる誓いが許さない」

 

 だから、

 

「だから考えた。最弱の僕が最強に打ち勝つための方法を。僕が僕を貫き通すためには、何をなせば良いのかを」

 

 《陰鉄》の切っ先を持ち上げ、勝敗より僕への試練を優先してくれたステラさんに感謝して。

 

「これが、その答えだ。

 

 

僕の最弱(さいきょう)(もっ)て、君の最強を打ち破る―――!」

 

 そう宣言し、全身から炎のように揺らめく魔力光を発する。それに呼応するかのように。

 

 

「《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》―――!!」

 

 

 光の刃が、振り下ろされた。




皇室剣舞(裏設定)

 拙作の中では一切出てこないので、ステラ(一輝)ちゃんが創り上げた剣舞の設定です。

皇室剣舞(インペリアルダンス)
 皇室剣技を基盤として、歴史ある流派から独自の技能まで、あらゆる剣技や体技を《模倣剣技》で習得し、皇室剣技に合わせて作り変え、組み入れたもの。
 組み入れたのは前世を含む百を超える剣術や体術の他に、皇国で対戦した多くの伐刀者の技術。
 剣技の中に舞のような動きを取り入れており、見惚れるほどの完成度で相手の判断を付きにくくさせる。
 創り始めたのは三歳。魔力を暴走させたことが原因で、一時期は魔術より剣を振るった。まだ一輝としての記憶も断片的で、全身を大火傷したことが炎に対する恐怖心を煽り、剣に逃げたとも言える。
 だが剣技に邁進するステラの姿を見て、パパさんが『ステラは剣なんか持たなくていいんじゃー!』と怒った結果、ステラは舞踏(ダンス)を習い始めるのだが、それすら剣技に取り入れたため、皇室剣舞ができた。
 パパさんが怒ったのは、さすがに三歳から剣技を磨くのはやりすぎと思ったかららしい。

 皇室剣舞として認められたのは、ステラが八歳の時だが、型ができたのは七歳。前話で『十年近く〜』とあるが、事実は八年である。
 七歳の頃には、一輝としての記憶は完全に蘇っており、《竜》を持っていたことも分かっていたため、完全にコントロールできるように魔術の鍛錬を始めた。

 そして、この剣舞の最大の特徴は、()()()()()()()にある。《模倣剣技》により様々な技術を皇室剣技に取り入れた戦闘技術であるため、今後も技術を取り入れることができる。
 原作一輝の剣技が、様々な剣に先手を取る為に至った《無形の剣》であるならば。
 拙作ステラの皇室剣舞は、皇室剣技を主軸に成長し続ける《無限の剣》。

 本文にある一輝の“習熟している”やら“完成している”的な発現は、皇室剣舞を成す理の量を読みきれず、完全な模倣ができなかった。

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