皆様のおかげです、ありがとうございます。
「あ、あの、指揮官様、そんなご無体な……お願いですから、どうかお考え直しを……」
戸惑った顔を向けてくるカリーニンに、私は厳かな声を装って、告げてやった。
「いいえ、カリーニン。私の指示は撤回しないわ」
さて。
任務に出たからには報告書を出す義務というものが存在する。
だが、報告書のフォーマットを見て、割とこう、絶望めいたものを感じずにはいられなかった。高度である。非情に(誤字にあらず)高度な内容なのだ。人形自身が判断した事柄全てにおいて、その判断は適切であったか、何か暴発したなどの影響はないか、問題があると考えられる場合の適切な対策は何か、それに問題はないか、エトセトラ。特に、人形の機動についての報告がえげつない。同じように、回避機動についての向き、速度、タイミングの考察、はまだいい。機動においての演算の検算、は地獄である。
なんでこんな手間と無理難題揃いかといえば、前提がPCと専用解析ソフトによる出力があるということなのだ。で、ご存知の通り、うちのデータルームにPCはない。なので、カリーニンには昔から愛用していた私の関数電卓を貸してやった。目のハイライトが消えた顔でさっきのセリフを投げてきたが、バッサリ却下。同じく目のハイライトが消えた麾下幕僚達と共に計算についたのを見送る。
「まあだから、今度近くの産業廃棄物処理場漁りに行きましょうね♡」
「うぅ……」
そして、私から見てカリーニンと逆サイドで呻く59式4Link。ダミーともども書類作成(手書き)マシーンになってもらっている。タブレットから書類原本データを取り出し印刷して書いて判子押す、とかいう非効率なことはしていないので感謝して欲しい。それは本当に色々とあれこれの決済書類と申請書類だ。周りの設備がレトロを通り越して原始的な通信設備すらないので、そうならざるを得ない。色々と更新していけば、総電子化もできると思うのだが……。電力確保のために、やっぱり核物質ほしいなあ核物質。
「やっぱりおかしいよ! なんでこんなに書類が多いの!?」
ついに59式がキレた。ダミーともども、文字通りの異口同音に訴えてくる、ものの、結局やるべきことのリストが減らないということは変わらない。
「データルームにPCすらないからよ。タイプライターすら無いから全部手書きだし、演算も全部人形の頭脳と関数電卓だより。終わったらPCとか作るために、産業廃棄物処理場で資源漁りしましょうね♡」
というか、書類作成(手書き)マシーンぐらいならまだましではないかな、と思う。
別のテーブルでは、うちのハイエンドモデル人形達が、カリーニン指揮のもと報告書に必要な演算の手伝いをして頭からぷすぷすと煙をあげている(比喩表現)。SPP-1は各テーブル間の書類運搬と、作業が遅れてきた所にヘルプ。USPコンパクトは茶坊主とハンコマシーン。
ガチの修羅場である。
加えて、今回はイレギュラーが一件。USPコンパクトの回収は、つまるところ人形の回収はよくあることなので報告書ルーティーンに含まれている。つまり、小物とはいえE.L.I.Dに遭遇してしまっている以上、それに関する報告書も必要だということだ。グロ耐性はあるので、その後死体をひっくり返したりなんだりして、本当にエネ砂二発でくたばるような小物だったのか、それまでに他勢力と交戦して傷を負っていたからではないか、何か生物的急所を偶然射抜いたために即死したからなのか、その辺りの考察だの何だのが、テンプレートなしでくっついてきた。
まあ結論としては、いわゆるはぐれ個体がやってきただけのようで、どこから着たのか知らないが移動の過程でそれなりに消耗していたようだ、ということぐらいしか判らない。アボミネーションのような定型的な身体構造をしていることのほうがE.L.I.Dとしては稀で、今回も、結局射抜いた二箇所の上に重要臓器でもあったのではないか、という推測ぐらいしか立たない。結局、決まった対策戦術というものが立てようがないのがE.L.I.Dであり、それゆえ軍が重武装してガチ対応しているのがE.L.I.Dであるのだ、ということを思い出した程度だ。後は、曲がりなりにもコーラップスに感染しているはずなので、例え腐敗しようがなんだろうが焼却処分とかができない。ゆえに頑丈なコンテナボックスに密封し、内部と外部を遮断することしかできない。そして多分これでも隔離処理としては不十分で、軍だかI.O.Pだかどこが持っているか知らないが、コーラップスの保存容器に入れておかねば不意の流出でコーラップス汚染とか考えたくもない事態に陥ってしまう。
というわけで、本部にはすでにコンテナは先行報告として押し付け、もとい、移送を行ってあるのだ。死体検分の時は、手製の防護服を使って、それごと送った。だってコーラップスついてるかもしれないしー?
とりあえず周辺調査不十分のツケは払ってもらうぞ、ヘリアントス氏。
結局、指令室総出で合計十五時間かかった。
PC等設備が最低限でもあれば、多分カリーニン一人でも十時間以下で済むのだろう。データルームの設備を最低限未満にするとこうなるという実例として役立てていただきたい、ヴォケが。
「終わったぁ~」
デスクワークで固くなった体を伸ばし、こきこきという音を立てつつ肩や腕や腰をぐるぐると回す。それはともかくとして、演算担当の人形たちは全員がダウン。もう記録映像は見たくないと口々に溢して自室へと戻っていった。演算する頭は本体だけにしか無いので、ダミーがいても役に立てないのがこの分野。一方、単純な書類作成で人海戦術を求められた59式とそのダミー達は、これまた全員がダウン。虚ろな目でテーブルに突っ伏したり床に寝てたり椅子の上で伸びていたり。本体だけは何かお菓子かなにかを要求する視線を向けてくる辺り、まだ元気なのだろうか。カリーニン及びその麾下幕僚達は、報告書の提出手続きのためにふらつく体を支え合いながらデータルームを出ていった。唯一、USPコンパクトと私だけが、なんとか動けそうな状態と言えよう。
合計十五時間、休憩睡眠時間を含めると一日弱かかったのだから、時刻的には今は昼過ぎ、といった塩梅である。いっそ、そこで物欲しそうな視線を向けてくる59式も連れて、パブリックワークステーションもとい産業廃棄物処理場へ資源を求めに行くのもいいかもしれない。あまり厳密にカウントしたわけではないので確かではないのだが、鉄血人形の残骸だけでは、PCを作るのに細かく資源が足りない気がするのだ。あと、やっぱり核物質欲しい、核物質。アトミックパワーは偉大だよ!! あ、アトムの光教団はお呼びじゃねーです。
とりあえずシャワーを浴びよう。作戦任務をこなしてからUSPコンパクトを修復し、そして報告書を作成する間、仮眠こそ取ったがシャワーも何もしていないので体がベトベトする気がする。
「それよりも私はアイスクリームが食べたいな!!」
そう叫ぶ59式にちょっぷ。ギャーギャー騒いでしょうがないので、とりあえず全員シャワーを浴びたらアイスクリームを奢ってやる、と言ったらUSPコンパクトまで目をキラキラさせていた。いやまあ、一人も二人もそんな大差ないけどさ……。
シャワーは別に特に何も、特筆すべき事はなかった。そのうち大浴場も作ろう……。
「「「「んんんんんま~い~」」」」
「お、美味しいです……」
「で、そこのポンコツ人形、なぜダミーまで連れてきた? どっかの漫画みたいなオチにしてるんじゃないわよ!?」
「「「「だってー。味がいくつもあるからどれにしようか決めきれなくてー」」」」
「本当に同じオチじゃない!! おんのれ……いいわよ、このあと産業廃棄物処理場でた~っぷりコキ使ってあげるから!」
なんとか3回分の資源を確保できたので実行しました。
SPAS12が来たので満足です。
ですが、通常任務に支障をきたすレベルで配給が枯渇しました。
やったね☆