産業廃棄物処理場、夢の島、宝の山。
表現方法は多々あれど、そこにあるのは廃棄された色んなものということに違いはない。そこから様々な残骸や形を残しているものを見つけ出し、回収分解精製して目的のものを作り出す。オイルはトレーラーやヘリによく使うためにいくらあっても困ることはなく、そういう意味で骨が大量に欲しいが、産業廃棄物処理場なので大量の骨は望み薄か? あるのは鉄や銅、アルミといった金属資材と、電気回路、貴金属類、であろうか。資源、という意味ではアボミネーションを狩猟した後の素材なども資源に入る。先日のE.L.I.Dはデスクローによく似た身体構造をしていたが、ツメが武器転用できるかと言うと否であった。なぜUSPコンパクトが爪撃でなく齧られていたのかということも勘案に入れて欲しい。それなりに硬質な素材ではあったのだが……まあ、完品は今後に期待しておくことにして、死体検分した後まるごと全て本部に送った。やはり前述の通り、コーラップス汚染が怖いというのもあるが。最悪、防護手袋というかガントレットというかとセットにして作ってみることにしよう。
……というか、いっそ、パワーアーマーだの、開き直って戦車だのを持ち出せばいいんじゃなかろうか、とも思ったが、仮に作り出せても運用ができないのでこの案は没だ。
脱線したが、ついに私はこのアルカディアへとやって来た。渋る59式をまた書類仕事がしたいのかと脅しつけ、逆にワクワクしていそうなUSPコンパクトをだまくらかして労働力をゲット、先日は職員に運転させていたカーゴトレーラーを今度は私が運転し、そしてやって来ました産業廃棄物処理場!
ちょっと臭うが辺り一面にゴミが埋められており、ほじくり返して適切に処理すれば資源の山が出来上がるというわけだ。
以前は設置効率が悪いためやっていなかったが(そう頻繁にPMC居留地と埋立地を往復できなかった)、今後は定期的に往復して資源回収ができるので、アパラチア式資源回収機を設置できる。それだけではなく、ボストン式工場ツールと組み合わせて、周辺のあれこれをベルトコンベアに乗せていけば自動で分解、資源化を行ってくれるよう改造図面も引いた。後は完全に利用不可能な汚染水などの処理機を追加設置すればいいだろう。
というわけで、まずは資源回収機を作る最初の呼び水となる資源を確保するための手作業が必要だ。
周辺の臭いにやられてすごい顔をしてむせているUSPコンパクトにはガスマスクを進呈。59式は自前で臭気遮断マスクをダミー分含めて用意していた。用意のいいことで。
コーラップス汚染とそれに続く第三次世界大戦前後まで利用されていたらしいこの処理場は、現在も周辺からの不法投棄が続いているようで壊れたパーツやら人形の腕らしきものも散見される。生ゴミ等は肥料として再利用されることが多いがそれでも捨てられている量も多く、そしてそれ以外のどうしようもない鉄クズやジャンク、プラスチック片、折れた回路基板などなどがいくつも転がっている。
まずは自動資源回収機を設置せねばならない。トレーラーに積み込んで運んできていた作業台と物資で、自動回収機の部品を作りゴミ山の上で組み立てる。嫌がる59式に手伝わせてオイル式発電機を周辺に並べて電力を確保。稼働させた後に、59式とUSPコンパクトにスコップを配布して周辺の人形の残骸や壊れた時計等の機械部品、最後に骨を集めさせる。なお、この段階で全員ついてくるんじゃなかったという顔をしていた。そして59式にガイガーカウンターを渡したら目が死んだ。
……この処分場に不法投棄核物質は無いらしい。残念だ……。
気を取り直して、ベルトコンベア部の設置に入る。先程は自動回収機をゴミ山の上で組み立てたが、ベルトコンベアの設置が進めば、次第に体積の減るゴミ山の上に設置しておく必要はない。ゴミ山から離れた所に分解機を設置し、そこの作業待ちボックスへとベルトコンベアを経由してゴミが入るようにすれば、後は定期的にベルトコンベアにゴミを乗せるだけで良い。届かなくなれば延長するだけだ。
というところで、USPコンパクトから懇願が入った。資源回収機から取り出してきた資源を入れた頭陀袋を嫌々そうに引きずり、ガスマスク越しでもめっちゃグロッキーなのが伺える。
「し、指揮官、お願いですから、回収した資源の臭いもなんとかしてください……これは、は、マスクしていても吐きそうです……ぉぇ……」
「お嬢、私も……ここ、ウチの近くよりもすっごく酷い臭いがして……なんで、お嬢、平気なの……ぅぷっ」
そして、顔色の青い59式からも。ふたりとも、ダミー含めて根性でなんとか立っているだけのような状態のようだ。倒れ込まないのは、倒れ込むとこの臭いが自分に付いてしまうからだろうか。
「……ポンプを設置して、洗浄用の水を用意するわ。回収した資源は、そこで少なくとも濯がれるようにしておくから……」
「濯ぐだけじゃだめです! 汚れをとって、臭いのもとを絶たないと!」
「ノーモア悪臭!」
「えっ」
結局、殺菌剤と洗剤と水を組み合わせた溶液で資材を一度自動処理することを約束させられたので、そのようにベルトコンベアとポンプを駆使して組み直す。論理電気スイッチとかどう使うんだこんなもん、と思っていたものを組み合わせると意外にも簡単に組み立てることができた。最終的に、資材を消費して何かを作ったり、バルクにまとめた段階で臭いは消えるのだが、それまでの段階が許容できないらしかった。そういえば、PMC時代にまとめた資材も他の隊員から絶不評で駐屯地内に保管できず、仕方なく近くの放棄された空き地に積み上げていた。あの不評っぷりを考えると、今頃はあの資材の山はもう燃やされるかして処分されてるんだろうなぁ……。
帰るなり、USPコンパクトと59式及びそのダミー全員はシャワー室に直行。
「お嬢も全身洗うんだよっ!」
「指揮官も体を洗ってください! 臭いです!」
「く、くさっ!? 一体何の臭いなのですか指揮官様!?」
通りかかったカリーニンがぎょっとした顔で鼻を覆うのを横目に私も引きずられるようにして連行。併設されている洗濯室の洗濯機に私含め着ていたものを全てダンク、洗剤漂白除菌剤を通常の倍量入れて回し(意味がないんだが……)、59式のメガネも超音波洗浄機にIN。そしてそのまま念入りに全身洗われた。
「いや、自分で入れるんだけど……」
「「「「お嬢はいつもそう言って洗うのがテキトーだからだめっ!」」」」
「この臭いが残っているなんて害悪極まりないです!」
もはやなにかに取り憑かれているのかとまで言えそうな二人+ダミー三人に逆らうことがなんとなくできず、されるがままに洗われ髪を乾かされ……さすがに下着などを着せられるのは拒否して自分で穿いたが。
「お嬢はね、こんなもんテキトーにやっておけばいいじゃんって言うけどね、そんなのありえないから!」
「ありえませんから!」
ステレオである。今までは駐屯地に射た頃はたまに言われていたのでモノラルだったのが、今日はUSPコンパクトまで参加しているのでステレオである。言いたいことはまあ理解できなくもないのだが、こんなPMCやら人形部隊の指揮官やらを務めている人間に、手入れやら化粧やらが必要なのだろうか?
「すごく必要!」
「とっても必要です!!」
怒られた。
「というか、ばっさばっさぼっそぼっその髪の毛と肌じゃ、59式さんに紛れられませんよ!?」
「そーだそーだ、そんなぼろぼろぼさぼさの髪と肌の私がいるもんかー!」
……酷い言い様だ。
「私達は人形ですから、メンテナンスの時等に髪や肌を再生してるから綺麗なんです。そういうメンテナンスのない指揮官は、もっともっと気を使わねばなりません」
「Five-seveNがそういうの詳しいから、あとで聞きに行こう、お嬢」
……えー、資材手に入ったんだから、パソコンとかそういうの作りた
「聞きに行こうね、お嬢!」
59式の気迫に負けました。
「え? 指揮官にスキンケアとかを教えて欲しい? いいけど、いきなりどうしたの? ……。……あー、それはそれは。ええ、わかったわ、ばっちり教育してあげる」
その後、Five-seveNにヘアケアやらスキンケアやら、各所の手入れやムダ毛処理まで、教わった。
どうでもいいけど、あなたたちムダ毛生えないでしょう……?
ざ あくしゅう
ゴミ収集車でアレだけ臭うのですから、その行き着く果は推して知るべし
ところで、あんまり大きい声で言えることじゃないですけど、
うちの指揮官も、どこかで出していただけると小躍りして喜びます。ハイ。
いらっしゃるかわかりませんが、その場合でも連絡などは不要です。