文明開化の鐘がなる、とは誰の表現だっただろうか。
イマイチ思い出せないが、コメディシーンの冒頭に書かれていたような気がする。確か、残額二七円、だったかな?
R08地区のこの指令室は、なんかそんな雰囲気になっていた。
原因は、私と59式とUSPコンパクトで漁ってきた資源のためだ。
まず、データルームに各種用途別サーバー群とストレージとPC、出力機が出現した。カリーニンなど泣いて喜んでいた。あの、関数電卓で映像記録から様々な分析を処理するといった地獄のような報告書作成をもうしないで良いとなれば、そうもなるだろう。
「指揮官様! 私、もう感激です! このサーバーとPCがあれば、どんな報告書だってどんとこいですよ! しかし、ロブコ・インダストリ? 聞かないメーカーですね……ですが、使えるのであれば何も問題はありません!」
しかし、あのチャラめのファッションセンスでかなり丁寧なタイプの口調は違和感が大きいのだが、それもまあ本人の個性ということだろうか。
ホッとしたのはハイエンド型人形たちも同様のようだ。画像処理をクラスタリングして処理するとか本業外の演算は大いに疲れたことだろうから。
次に、回収してきた資源を用いて、施設設備の改修を行った。建物に内蔵するタイプの空調ではなかったことが幸いして、古い空調や暖房設備を一度解体して効率を高めたものを再設置。同じ電力消費での空調効率がぐっと上がった。居住性の向上は大事である。糞暑い待機室とか地獄以外の何物でもない。また、産業廃棄物処理場にも設置した、浄水ポンプを指令室にも設置することで、水の利用をより容易く、そして経費削減も果たされた。その他、細々とした設備を補修、改修した。これには宿舎設備も含まれており、人形たちには好評だった。一方で、ヘリポートが実は機能を喪失寸前だったのがちょっと肝が冷えた案件であった。
その次に、指令室周辺の防衛である。まず、指令室外周部にヘビーマシンガンタレットが多数設置された。別途電力を必要としないタイプで最も性能に優れるタイプのタレットであり、Mk世代ごとに射出する弾丸に特徴があって今回は焼夷徹甲弾を射出するMk-Vだ。どこから、あるいは誰が供給しているのか不明であるが、一度設置しておけば後は破壊されない限り認識したターゲットに延々と弾をバラ撒き続ける「きょういのてくのろじー」の逸品である。一方、IFFやら敵味方認識やらが致命的に精度が悪く、特に敵がいれば近くに味方がいようとお構いなしに鉛の雨を降らせるため、指令室所属全員に、タレットの射界には絶対に入るなと厳命した。核物質があれば、より発射レートと威力が高いヘビーレーザータレットが設置できたものだが……我ながら核物質への未練が酷い。やはり開拓すべきは裏ルートか。
「指揮官様、何をお考えかよく判るお顔をしていらっしゃいます。絶対にやめてくださいませ?」
「お嬢、それは無し。絶対に無し。実力行使してでも止めるからね?」
……鋭い連中は嫌いだよ。
欲を言えば、あのクソマップの所々に地雷とか支援兵装とかセットしておきたかったところだが、メンテナンスがやりにくいし、想定した構成だと資源を浪費するくせに効果があるかが疑わしい、ということで諦めた。太陽電池、バッテリー、スポットライト赤外LED換装型、論理電子ゲート、ミサイルタレットの組み合わせは非常にコストが掛かる。ついでに、威力の高い爆発物を使うということで、マップの道自体が崩壊しかねないというのが難点だろう。
食料が欲しい、という声もあるが、今のところ私はマットフルーツにテイト、トウモロコシの三大デンプン植物を作る予定はない。トマト味のダンボールとか評されるほどまずいって設定だしな……。あるいは、スイカやウリ、カボチャ、小麦ならば作っても良いと思っているので、次の予定が済んだら着手してみよう。
さて、こうして指令室の居住環境と防衛レベルが上昇したので、次の目標となればそれは自ずと決まっている。
指令室の人形の拡充にほかならない。とりあえずは後四人。つまるところ本部から整備用人員が送られてくるラインである。ぶっちゃけ、今の六人ですら、全員の銃器と躯体を整備しつつ、改造状態の維持、となるとそろそろ辛いものが出てきている。私達が産業廃棄物処理場から回収してきた資源は、もちろん人形や銃器の整備、あるいは弾薬や(非常に嫌がられるが)配給などに転化させることができる……人力だけはどうしようもないが。しかし、使用できる資源ではあるが、I.O.PそしてG&Kが定める資源要件を満たさないため、人形の製造に回すことができないのだ。大問題である。ゆえに、人形製造を依頼するにはまた資源問題が立ちはだかる。
結局、執務室で資源問題にウンウン唸らされるのは変わらないらしい。
「カリーニン、後方支援って何があったっけ?」
「後方支援でございますか? この指令室の独自の物が一件、それ以外の一般的な後方支援内容のものが十二件とございます」
備蓄量報告を見つつ唸りつつ問うてみれば、報告書による疲労も抜けたらしく、カリーニンはいつも通りの調子で右腕に抱えているタブレットに指を滑らせる。
「独自? そんなオンリーワン技能持ち人形なんていたっけ? 斧投げ?」
「指揮官様でございます。ですが、指令室を備えもなく離れることは推奨されませんので、指揮官様が改造を施した戦術人形一体を、可能な範囲でI.O.Pに一定期間分析させて欲しい、といった内容の依頼になります」
分析……? 何をするつもりだろうか? というか、ウェイストランド式ロボティクスエキスパートによる強化改造が、こっちの技術で理解できるんだろうか? 言うなれば別文明の技術、と言っても過言ではないはずなのだが。
「色々と言いたいことはあるけど……依頼人とかいるの?」
「はい。おそらく指揮官様はご存知ではないでしょうが、セルゲイ・ルブリョフ殿。I.O.Pの躯体研究員の方ですね」
「ペルシカじゃないのか」
「主任研究員のペルシカ殿は、現在自分の研究に掛かりきりですね。というか、主任研究員をよくご存知でしたね?」
「情報収集は怠っていないの……と言いたいところだけど、有名人だもの」
いいえ前世知識です。
「ともあれ、躯体研究員の方からの依頼はどうなさいますか?」
「んー……。まあI.O.Pだし、無体な研究だの分解だの、そういうのはないわよね?」
「いくらなんでもそれはないかと。I.O.P内部の倫理規定等にも違反するでしょうし、確かに戦術人形の所有権こそI.O.Pですが、その運用や訓練過程での使用権は指揮官様ですし、よほどのことがない限りそれは妨げられないことになっています」
「つまり、要は私のロボティクス技術を教えて欲しい、ってことでしょ? 技術体系が多分根本から違うものだからなぁ……ぱっとわかるかしら。私だって個々の動き方を調べてじっくりかけあわせたんだから、結構時間かかるわよ? ましてや、かけ合わせた結果の躯体だけ分析してたらどれだけかかることやら……」
「その辺りはわたくしにはわかりませんが……では、この後方支援依頼はどうなさいますか?」
苦笑しつつカリーニンが聞いてくる。とりあえず、資源がないのもあってこの後方支援依頼は受けてしまってもよいだろう。人形一人で満額報酬を受け取れる依頼だというのも大きい。
「受けるわ。資源もないし……そうね、SPP-1にこの後方支援は任せるわ」
「かしこまりました。その他の、一般的な後方支援依頼はどうなさいますか?」
「人数がいるのがネックなのよねえ……。ここの防備をすっからかんにするわけにもいかないし」
「……少なくとも、ここまで攻めてこられても表のタレットでどうにかなるのでは……?」
シューティングレンジに仮設置した、ヘビーマシンガンタレットの試射での威力を見たせいか、最近カリーニンの私を見る目がウォーモンガーか何かを見るような目に思えてならない。ついでとばかりに披露した、買い物カートに、タレットの上部部分を取り外して乗せると簡易移動砲台になるというレイダー発案の便利運用のせいだろうか。実際に使ってみると、防衛の際にちょっと射線をずらして物陰の対象を撃てるようになったりととても便利なんだがなあ。正面であれば自分で狙わなくても色々とぶっ飛ばしてくれるのも楽で良い。
「意外とあれ、射角に穴があるのよ。特に上と下。それに射程も長くないから、Jaegerが来たら多分一方的に壊されるわ。それを補うためのスポットライトとミサイルタレットなんだけど、ここで稼働させるには電力がちょっとね……はぁ、核物質欲しい……」
「お願いですから核物質は諦めてくださいませ……」
「わかってるわよ。でも、オイル式発電機だと稼働音がうるさいし場所取る割に電力低いし……屋上に風力並べようかしら。っとと、ずれたわね、59式以外の残り全員で、まずは人力チケットの効率がいい所にお願い」
「かしこまりました。となりますと、防備は指揮官様と59式さんで担う、ということでよろしいでしょうか?」
「それでいいわ。あとは、試したいこともあるし」
「……。」
カリーニンがものっそい嫌そうな顔をした。そんなトラブルメーカー扱いをしないで欲しい。いやまあ、処理場の悪臭は、私が慣れきっていたので平気だっただけで、指令室の人形から人員に至るまで、風呂で綺麗に洗われるまですれ違う度に悲鳴を上げさせてしまったことは反省している。
……ちょっとだけ。
「まあ、大したことじゃないわ。防衛用ロボットを作るのよ」
Name:Sentinel-001
Head:セントリーボット標準型
Body:セントリーボット重装型
LArm:ロボブレイン腕部標準型
RArm:ロボブレイン腕部標準型
Leg:セントリーボット重装型
LWep:ミニガン
RWep:ミニガン
LSWep:ミサイルランチャー
RSwep:ミサイルランチャー
『初期化終了。警告、標準ではない機体構成です。標準機体構成ではない場合、保証やサポートが受けられません。起動を続行しますか?』
「YES。特定目的向けのカスタムだから、問題ないわ」
『了承いたしました。起動完了。ロブコ・ロボティクス・アシスタンスをお買い上げいただきありがとうございます。本機には人格サブルーチンが搭載されています。人格サブルーチンを有効にしますか?』
「YES」
『人格サブルーチンが有効になりました。本機への指示をお願いいたします』
「現在は待機。居留地のセキュリティに登録を行うのと、居留地のメンバーに面通しを行うわ」
『かしこまりました、お嬢様。本機、Sentinel-001は別命あるまで待機モードに入ります。警告、本機の武装がオンラインのため、危害を加えられた場合、自動的に敵対勢力に攻撃を開始します。別途、射撃禁止エリアを設定してください』
「それは後でデータを転送するわ」
『かしこまりました』
対話型インターフェースで設定を済ませ、後ろで見ていた見物人達に振り返る。
「これは……自律人形? いえ、それにしては……」
「おおおー、ロボットだー!? ねえお嬢、私も知らない隠し玉、一体後いくつあるの!?」
無論、カリーニンと、防衛のために指令室に居残りの59式である。
「セントリーボットよ。人格サブルーチン、なんて名前のモジュールがあるから、まあそこそこの感情っぽいものをもつ機械ね。戦闘能力は、まあまあかな? あと、隠し玉っぽいのは……あと、み、みっつ……?」
アレ(メスメトロン&首輪&洗脳ヘルメット)とアレ(入植者管理装置)とアレ(ベルチボット)……でいいよね? 最後は資源的な意味でどうかと思うけど。いやそーな顔をする(持ち主に向かって何だその顔はお前ー)59式を横目に、指令室外周の塀より内部を射撃及びバックブラストで巻き込まないようエリア指定して転送。
「後は、と。59式、ちょっと手伝って」
誤射などされないように、IFFに登録するのは勿論だが、前後左右の目立つ場所にG&Kエンブレムを描く。これで、よっぽど遠距離からいきなり狙撃するようなやつでない限り、誤射はないだろう。
あとは、資源が集まるのを待って戦術人形製造チケットを切るだけである。
オートマトロンは一部例外があるもののほぼ戦闘に目的が特化されており戦術人形の頭数の代替たりえないし、実は人格サブルーチンの超長期運用には致命的なバグがあるのも原因の一つ。
さて、誰が来るかな? いい加減、ハンドガン以外の子も来て欲しいところなんだけど。
おーとまとろんはとってもべんりでしたね……
大虐殺ヘルムとかは利用したことがないのですが、プロビジョナー要因としてとても便利でした。
自律作戦3回はとても便利ですね、中程度のレベル帯のレベリングが捗りそうです。