人形指揮官   作:セレンディ

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襲撃

 襲撃。

 しゅう‐げき〔シフ‐〕【襲撃】[名](スル)襲いかかること。不意をついて攻めること。

 

 まあつまり、襲いかかってくればもう大体は襲撃と扱って良くて、そこを撃退したところで誰に咎められることもない(逆恨みを除く)。

 どこから漏れたのかはわからないが、今の指令室の防衛戦力が大幅に低減している、という話がどこかから漏れたようだ。ただ、そこに、当然付加されているべき情報の、防衛担当が「5」Link人形の59式であり、ついでにPMC上がりである私もいる、という情報がごっそりと抜け落ちている辺り、どっかの誰かが皮肉などではなく本当に気を回してテロリストに情報を流してくれたのかもしれない。あるいは以前、経過報告と言うか、恙無く過ごしていますよとメールを父達に送った時にわざとセキュリティガバガバで送ったかいがあるというものだ。私や59式にとって、テロリストなど歩く資源である。

 

 ふと思い返してみれば、この指令室は私が発掘してきた資源がメインで防衛が整えられており、公式の防衛能力は至って低いというかないも同然のままだったような……もしかして襲撃原因これか? いや、曖昧な推測はやめておこう、混乱するだけだ……。

 

 ともかく。

 

「59式、そろそろ準備しておいてね。今日あたり、昼か夜かわかんないけど襲撃がありそうだから」

「え、もう? 私達だけになって即日って、気が早くない?」

 

 周囲に唸るほど設置したタレットの強力さを十分知っている59式は早くも趣味満喫モードのようだ。59式デフォルトの趣味設定がどうなっているのかは知らないが、うちの59式はクラシックを聴きながらお茶を楽しむのを趣味としていて、ちょうどヘッドホンを掛けようとしていたところだった。整備し直した銃器の59式と弾薬を渡して、とりあえずいつでも出撃できるように調整しておいてくれと言っておく。

 まあ、私でもあのセントリーボットと正面切って打ち合いをするぐらいなら逃げる。あまつさえ、一般モデルと違ってツインショルダーミサイルランチャーなんぞ装備しているのだから、そんなモデルがいたら見つかる前に逃げるのが正解。思い切り距離をとって、あるいは回り込んでこれない高台などから狙撃を繰り返すのが一番だろう。ついで言うと、大きな戦闘行動上の弱点であった排熱問題は依然として存在しているが頻度はかなり現状させているし、カバーを取ることもプログラムしたので、マシになっていると思いたい。それに、排熱中に露出するコアを狙うとイチコロだなんて、本邦初公開のセントリーボットについて知っているわけがない。……フラグじゃないぞ。

 念の為の侵入対策に(あのタレットとセントリーボットの警戒を完全にすり抜けて侵入してこれる手合には無意味だろうが)私はすでに59式カモフラモード。私にはダミーが二人ついている。そもそも執務室で合計五人でワイワイ騒ぎながら作業してたら、本当に59式5Linkに見えるだろうなあ。

 まあ、それはともかく、くるならこいこい骨の一片に至るまで資源として再利用してやるから。

 

 と、思っていたら本当にさっさと来たのである。

 

 ぴここここっ

 ぴここここっ

 ぴここぴここぴここぴここここっ

『警告。あなた達は我々の敷地に侵入しています。直ちに退去するか、G&K関係者IDを提示してください。指示に従わない場合、武力を含む排除を実行することがあります。繰り返します、警告、』

『お嬢お嬢、もうきたよ、あっさりタレットとかセントリーに見つかってるー!』

 

 おいおいまだ昼前だぞ? しかも、あっさり見つかる練度なんて、資源に足が生えてこっちにやってきちゃったようなもんだぞ……ってオイ。

 

「こっちからも見えてる。……うっそ、あんな人数で無防備にやってきたっていうの……?」

 

 ちょっとした物見櫓っぽいものの上からの映像を59式が送ってきたが、なんというか、うじゃうじゃと言うレベルでテロリストがぞろぞろと……。だが、本当にそうか? いくら考えなしの享楽主義的な連中とはいえど、命を捨てるような無謀な突撃を無意味に敢行するとは思えない。それに、銃声も激しく聞こえている……!?

 

「セントリーボット、被害状況を確認!」

『皆無です、お嬢様』

「59式、レイダーの後ろになんかいる! そいつと交戦してる! 何か見えない!?」

 

 非人間か、あるいは鉄血あたりでも来てるのか。プラズマライフルをひっつかんで射撃台へと走りつつ、59式にさらに索敵指示も投げる。

 

『土煙とテロリストで全然見えないよお嬢! でも、なんか後ろから走ってきてて……! あ、誰か薙ぎ払われた!?』

「またデスクローっ!?」

 

 なんで出てきた!? 今回は警戒してドローンで周囲をずっと見てきたのに!

 

「全タレットの優先攻撃対象をオーバーライド、正体不明存在を最優先! セントリーボットは後退しつつ射撃! 近づかれるのを防げ!」

 

 ぴここぴここぴここぴここここっ

 タッタッタッタッタッタッタッタッタッ

 タタタッタタタタタタタタッタッタタタタタタ

『攻撃を開始』

 ガガガガガガガガガガガガガッ!

 ばしゅばしゅぅーん……ちゅどきゅどぉーん!

 

「……うっへ、あんまりこたえてなさそう……」

 

 物見櫓もどきに滑り込み、プラズマライフルを構えて伏せ撃ちの体勢を取る。59式に周囲の警戒と観測を頼みつつ、その、数多の銃弾ミサイルをその身に受けながらもテロリスト達を次々薙ぎ払ってゆくデスクローによく似た個体へ、クロスヘアを合わせてトリガーを引く。緑色の光条がE.L.I.Dの頭を貫いて、のけぞりはするものの活動停止には至らない。やはり、重要器官が頭部に詰まっていないのだろう。狙いを変えて、足の付根を吹っ飛ばす心づもりで出力を上げて貫く。忌々しいことに、左脚をふっ飛ばしても片手を脚のように使って機動力が落ちない。

 

『お嬢! あれ、拳銃弾じゃ全然効いてないっぽい!』

「こっち!」

 

 プラズマカートリッジを交換する傍ら、ASST範囲外となるのがネックだがプラズマグレネードが五つはいったバッグをぶん投げる。遠投するなら私よりも人形の59式のほうがよく届く。それに、爆発物の扱いにどこに投げ込むか以上はここでは関与しないだろう。きゅぼっ、という耳慣れない破裂音と同時に、緑色の閃光が踊る。それが五回。それでいてなお、倒れずに近くのテロリストを切り裂き続けているのは一体どういう理屈だ!? 

 ともあれ、高出力射撃で使い切ったカートリッジの交換を終わらせ、再度銃口を向ける。カートリッジそのものは大量にあるので、よく言う銃身が焼け付くまで打ち続けても問題はない。問題は殺される前に殺すことができるかどうかだ。

 

「くたばれっ!」

 

 出力を中程度に切り替えて、トリガーを引く。

 緑色の光条が右足付け根を灼ききって飛ばし、E.L.I.Dは両足を失って倒れ伏した。だがまだ死んでいない。

 

「クソッタレ!」

 

 カートリッジの残りを全部使って、頭から胴体を貫通するように、プラズマをぶち込み、結果を確認せず全力でカートリッジを交換して再度同じ場所を感覚で合わせてスコープを覗き込む。

 

「……!?」

 

 いない。カートリッジ再装填のために確かに目を離したが、たったそれだけの時間であれだけの距離があったデカブツを見失うものか?

 

「総員、射撃継続! 59式!? あのデスクローもどきはどこ!?」

『お嬢が今、光の弾を撃ち込んだら、どろっと崩れちゃったよ!? あれはなんなの!?』

 

 ……は、なんだって!? 緑の粘液にジョブチェンジさせちゃった!?

 

 

 E.L.I.Dに襲われて、いわばうちに向かって逃げ込んできたテロリスト達は、その相当数がばらばらになって数を減らしており、生き残ったものにも戦意を保っているものはいなかった。とりあえず武装解除して営倉予定の部屋に押し込む。これにも抵抗はせず、大人しく武装解除して部屋に入って座り込んだ。むしろ、あのE.L.I.Dの虐殺から生き延びることができた、という喜びのほうが大きいらしい。すげえ、ぱねえ、銃もグレネードも通用しなかったアレを殺しちまった、さすが5Link人形だ、などなど。お前ら私へのお礼参りに来たんじゃなかったの? 目的を達成度0%の段階でデスクローに横から殴られて忘れちゃった?

 ともかく、今はE.L.I.Dだ。対生物威力を重視してプラズマライフルを使ったのは事実だが、プラズマで倒されたエネミーは一定確率で緑の粘液にジョブチェンジしてしまうことをすっかり忘れていた。ばらばらすぎる人体の残骸の始末は、プロテクトロンを一体人格サブルーチン不作動で作成してとりあえず対処、指令室から見えない所に穴をほって埋めさせている。あの量の死体を放置は、指令室から見える場所では取れない選択肢だ。一方、緑の粘液になって地面にわだかまっているE.L.I.Dの残骸はどうしたものか。切り飛ばした両足は残って転がっているが、前回コンテナに詰めて送った所、次はもうこっちで始末しろとのお達しを貰ってしまっているので、E.L.I.Dの微量ではあるがコーラップスを含んだ死体をなんとかしなければならない、というのは非常に気が重い。足の爪ではデスクローガントレットは流石に作れないし、そもそもコーラップス汚染が怖いので作る気もない。そういう意味では、両足も粘液になっていてほしかったところだった。

 

 ……しかし、ここまで完全に緑の粘液になってしまっているのであれば、コーラップス汚染も粘液化して消えてしまっているのだろうか? 念の為、密閉型コンテナに詰めてプローブを入れる形で検査でもしてみるか?

 周辺の土ごとコンテナボックスに詰め込み、プローブを入れてみた。




自律作戦三連便利ですね。
ようやく春田さんの専用弾が手に入りました。が……これ、強化きっついですねぇ……。

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