人形指揮官   作:セレンディ

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ふらりと見かけた企画をやってみたくなってしまったので、つい。
なお、企画概要はこちらの方のツィートを御覧ください。
https://twitter.com/pow_kaccho/status/1121959991768829952


閑話の閑話 収集のつかない実験は本当にやめて欲しい

 

 

「は? イメクラ?」

 

 不審そうな声を上げる指揮官に、その上司は少しだけバツが悪そうな顔で名刺大の黒いカードを渡す。

 

「まあ、そういう顔をしてくれるな。私だって、これを配れと言われて困惑してるんだ」

 

 指揮官はぼりぼりと頭をかくと、そのままその黒いカードを受け取った。

 

「……私の性別は、もちろん理解してらっしゃるのですよね?」

「当然だ。というか私とて女だぞ。合コンに出るからといって、こういうものを配れと渡されても、その、なんだ、困るのは一緒だ」

 

 胡乱げな視線を向けられつつも、厄介払いが優先なのか上司はカードを回収しようとはしない。

「一体何でまたそんなことを始めたんですか?」

「ペルシカ曰く、業務外で予想外すぎることをさせられた場合のメンタルデータがほしい、とのことだ。多分、誰かがうっかり口を滑らせたイメクラという単語に、ペルシカが食いついたのだろうな。あれのやることに反対できる研究員はそういない」

「それで、期間限定とは言え、あんな感じの風俗モドキが出来上がったと……」

「そうだ。まあ、その、なんだ。成人向けサービスを受けてくることは必須ではない。カードを渡して、一般的なサービスを受けてくればいい」

 

 胡乱げな視線の数が二対に増えて、その視線の向かう先は、けばけばしいネオンサインや看板にゴテゴテと飾り付けられた小会議棟、もとい、今はイメージクラブG&K、があった。

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 受付にはスプリングフィールドがいた。意外とこの人形、カフェも経営してることもあるあたりこういう接客系の業務が好きなのかもしれない。とりあえず、どう見ても見た目はちんまい指揮官を見ても表情一つ動かさなかった。

 

「とりあえず、これ」

 

 さっさとこの疫病神カードを出しておく。

 

「かしこまりました。念の為、G&Kの認識票をお出しください」

「……二十一よ」

「いえ、どれだけの指揮官にカードが配布されて、こちらに来たのかの調査のためですので、年齢確認などでは」

「……本当かしら」

 

 何も聞かれなかったのは、年齢確認を認識票で済ませるためだったのか、などと思ったが、口に出してみるとスプリングフィールドはそれを否定した。

 

「本当ですよ。それで、誰かご指名とかシチュエーションのご希望などはございますか?」

 

 話をずらされた。が、ここは乗っておくべきだろう。

 

「そうね……特に希望もないし、おまかせで」

「えっ」

 

 予想外な顔をされた。

 

「……なにかあるの?」

「い、いえ、大抵の方は、副官や気になる人形がいますので、そういうのをお選びになりますので……」

「私、副官は後方幕僚だし、立ち上げて間もないからハンドガン人形しかいないんだけど」

「ハンドガンだけ? ……サブマシンガンも……?」

「サブマシンガンも」

 

 指揮官が頷くと、スプリングフィールドは驚愕の限り、という顔をした。

 

「その……カタログご覧になりますか?」

「大体は知ってるけど……そうね、見ようかしら。知らない子とかいたら、その子にしてみよう……」

 

 タブレットに指を走らせ、在籍名簿を流し見していって、たまたま目についた知らない人形の顔を、タップ。

 

「それじゃあ、この子で。シチュエーション? は、お任せで」

「はい、かしこまりました」

 

 なにか大事なものを売り飛ばしてしまったような気が、ちょっとだけした。

 

「どうも~、指揮官、今日はHK45の貸し切りライブに来てくれてあっりがとぉ~!」

「あ、そういう趣向なのね?」

「も~、だめですよ指揮官、ステージに上ったら役どころになりきらないと」

 

 サイリウムを両手に持った指揮官を、そう彼女がたしなめる。彼女はGr HK45。プレイルームに入ってから、来るまでの間にプロフィールを読んでみたところ、ダンスが好きな人形らしい。P38と同じようなアイドル志望の人形なのだろうか、と思うような、アイドル風衣装での登場だった。

 

「そんなわけで、今日はいーっぱいダンスするから、楽しんでいってくださいね!」

「ええ。でも、ダンスだけ? 歌とかは?」

「歌は、うーん……」

 

 ダンス一本のようなので、聞いてみれば渋る顔。なにか、条件とか苦手意識でもあるのだろうか?

 

「とりあえず無理は言わないわ。それじゃあ、まずはダンス、見せてちょうだい」

「わっかりました! それじゃあ指揮官、楽しんでいってくださいね! ミュージックスタート!」

 

 持ち込みのデッキから、割とポップな曲が流れる。指揮官も聞いたことのある流行曲で、少し前に流行ったやつだ。

 HK45は、それに合わせて力強くステップを踏む。もとのアーティストの振り付けなどは知らないが、これはこれで曲にあったダンスと言えて、曲調に合わせて振ったサイリウムの明かりが、なんとはなしに楽しい時間を演出してくれているような、そんな気がした。

 結局、三曲ほどをHK45は続けて踊った。指揮官は知らなかったが、それがもとのアーティストたちの鉄板の組み合わせだった。

 

「いかがでしたか、指揮官!」

「うん、素直に見てよかったって言えるダンスだったわ」

「ありがとうございま~す!」

 

 一礼するHK45を横目に、時計を見てみればまだ経過時間はほんの十五分程度。ブラックカードによる貸し切り百八十分にはまだまだ遠い。三時間ダンスを堪能するのもそれはそれで悪くはないが、それはそれで上司やらスプリングフィールドやらに邪推されそうで、それはそれで気に食わない。

 

「……まあ、いいか」

「まあいいかって、何がですか指揮官」

「配布されたブラックカードで来ただけだし、そろそろ引き上げかなって」

 

 指揮官のその言葉に、HK45は愕然とした顔をする。

 

「えええええええ!? し、指揮官、まだたったの十五分ですよぅ!?」

 

 ダンス用に除けたスペースから、駆け寄ってきて指揮官にすがりつくHK45。

 

「そんなに早く指揮官をお帰ししちゃったら、怒られちゃいますぅっ!」

「えぇ……いや、まあ、なんかそういうのありそうだけど……」

「ね、ですから、あと二時間ちょっと、二時間ちょっとでいいですから、いてくださいよぉ! 私、目一杯踊っちゃいますよ!」

「いや、あなただけ踊らせてそれを見てるだけってのも、なんだかなぁ……」

「それなら指揮官も踊りましょうよ!」

「二時間ちょっとっていうか、三時間弱ぶっ続けで踊るってハードル高いわよ!?」

「だから私が踊りますと……あ、そうか、そうなんですね指揮官!?」

 

 ふと、何かに気づいてしまったかのように、HK45の目が座る。あるいは、漫画的に例えるとこう言うだろう。ぐるぐるおめめ、と。

 

「いっつも、一曲目の途中でそれはもういいからって止められて、あっちに連れてかれるんです。なのに、三曲も踊っちゃったからご不満なんですね!?」

「……あっち?」

 

 嫌な予感がしつつも、そちらを見やれば、そこにはダブルサイズのベッド。お忘れかもしれないが、この建物は今はイメクラで、この部屋はその中のプレイルームの一つである。

 

「待って!? 待って!!??」

「大丈夫ですプロデューサー、私、頑張りますから!」

 

 すがりつかれたそのまま、ずるずるとベッドの方向へと引きずられる。戦術人形の出力にはどうやっても人間では抵抗しきれず、ずるずると引きずられていく。今更取ってつけたような呼称変更とかマジやめて欲しい。

 

「待って、お願いだから待って! それに私! 私女だから!」

「大丈夫ですよプロデューサー、私、ちゃんと女性用データもインストールされてますから!」

「それは大丈夫な理由じゃない! むしろだめな理由だから! ていうか放せ、放して!?」

「えっと、こういう時のデータは……嫌よ嫌よも好きのウチ、なんですよね?」

「ちがううううううううううっ!!」

 

 そう、叫んだところで、指揮官はHK45に、ベッドに組み伏せられた。

 

 

 受付の前を、足早に指揮官が通過する。

 

「あ、お疲れ様です」

 

 それに気づいたスプリングフィールドが声を掛けるも、反応はなくそのまま足早に歩いていってしまった。

 

「アンケートがありましたのに……」

 

 とはいえ、帰っていってしまったのはしょうがない。後日、メールで送るように手配をしたあとで、スプリングフィールドは掃除用具を手に、プレイルームの掃除へと向かった。 




企画ついでに個人的な宣伝をば一つ。

たぬき0401氏の、「私は大変に臆病なので、」シリーズはいいぞ。
ただ書いている私と違って、心理描写とかがとてもとても、エクセレント。
この企画も、氏がやっているのを見てやってみたくなった次第です。

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