人形指揮官   作:セレンディ

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自重

 やりすぎた。

 

 好奇心は猫を殺す(9万回生き返る猫でも好奇心につられて動くとその回数を使い切るほど死ぬ、という意味だと最近知った)、という言葉があるが、いや、どちらかというと藪をつついて蛇を出す、か。こちらのほうが近い。

 公的な資源難と人員の問題を抱えた当R08地区所属指令室。当然のことながら、ライフラインの供給やらなにやらで、私の給料から結構な額が天引きされている。もちろん指揮官の給料はそれを見越した金額設定なので無理があるわけではないが、そこをなんとかしたいというのは人情と言っていいだろう。それで、ふとした思いつきを実行に移してみた。

 ちょっと改造した大型タンクに近くの川の水(もちろん汚染されている)をたっぷりと詰めて、産業廃棄物処理場から見つかった骨や廃油を再利用して作ったファイアスプレッダー、つまるところ火炎放射器からの炎を熱源としてタンク丸ごとをじっくり炙ってみた。過剰な内圧は逃げるように作ってあるので遠慮なくボーボー炙り続けて、『徹底的に煮沸』した後で水質検査をしてみた。

 

 結果、『飲用可能』。

 

 カリーニンが訳がわからないという顔で、自分で汲んできた川の水をビーカーに入れて基地の外作業用バーナーで煮沸消毒を試みている。

 

 結果、『汚染が酷く飲用不適格』。

 

 あれ?

 カリーニンに重労働を強いて悪いが、さっき私が使ったタンクとポンプと火炎放射器で煮沸消毒をしてみてもらう。

 

 結果、『飲用可能』。

 

 なんでや。

 私が、わけわかんねー、と思いながら自分で汲んできた川の水をビーカーに入れて煮沸消毒を試みている。

 

 結果、『飲用可能』。

 

 だからなんでや。カリーニンなんかもう視線がこんがらがりすぎて頭抱えてブツブツ呟き続けている……。

 59式を呼んできて、川の水をビーカーに汲んできてもらって煮沸消毒。『飲用可能』。

 もう一度私が煮沸消毒して飲用可能出した後に、カリーニンが川の水を同じビーカーに汲んできて煮沸消毒。『汚染が酷く飲用不適格』。

 

「えぇ、なんでぇ……!?」

 

 59式も頭を抱えだした。私だって頭を抱えてジタバタしたい。

 グリズリーを呼んできて、川の水を以下略『飲用可能』。

 HK45を呼んできて、川の以下略『汚染が酷く飲用不適格』。

 シプカ以下略『飲用可能』。

 食堂のおばちゃん以下略『汚染が酷く飲用不適格』。

 AA-12『汚染が酷く飲用不適格』。

 Five-seveN『飲用可能』。

 清掃員のおじちゃん『汚染が酷く飲用不適格』。

 

 だからなんでや。

 

 最初はFallout時空に巻き込まれる形で、物理法則がそちらよりに変化しているのではないか、と考えたが、カリーニンがビーカーで煮沸消毒した水に否定された。

 Fallout発の道具を使ったから成功したのかと思えば、私がビーカーで煮沸消毒した水に否定された。

 私、もしくはFallout発の道具を使っているからかと仮定してみれば、59式にビーカーでやらせてみた水に否定された。

 前に使ったやつのが影響してるのかと思ってみれば、その後のカリーニンの水に否定された。

 もう訳がわからなくなってきて、片っ端から人形を呼んでやらせてみると、結果が酷く安定しない。とりあえず地面に小枝で表を書いて、思いつく限りの条件を書いて比較してみるが、どれもこれも一致しない。人形にやらせてみた結果すら安定しない。人間にやらせてみた結果も安定しない。どういうことなの……?

 

 同席している、おばちゃんおじちゃんふくめた全員に、何かこの条件に規則性がないか、思い当たることがあれば遠慮なく言って欲しいと伝えても、しばらくうんうんと唸り続けるばかり。

 

「あ、ねえお嬢、これなんだけどさ」

「ん?」

 

 ふと、59式が何かに気づいたらしい。

 

「お嬢はともかく、人形で飲用可能になったのって、全部改造がしてある人形じゃない?」

「それも考えたんだけど、それはAA-12もそうよ?」

「盾じゃなくて躯体は改造した?」

「……あー、躯体はまだ、ね。盾を優先してたわ」

「じゃあ、そっちで見てみようよ。この分だとSPP-1は飲用可能で、L85A1とPPS-43はだめだと思うよ」

「実験してみましょう」

 

 訓練中の三人を呼んできてもらって、実験してみる。

 その結果、SPP-1は飲用可能、L85A1とPPS-43は飲用不可という結果に、つまり予想通りとなった。

 

「なんで改造済み人形だと大丈夫なのかよくわからないんだけど……改造パーツが躯体の中にあるから、お嬢の作ったものを使いながら、ってことになるのかな?」

「カリーニンにも、火炎放射器使ってもらったらなったものね……」

「うん、だから、火炎放射器とビーカーで実験してみようよ!」

 

 というわけで、仮説を更に裏付けるべく、カリーニンとAA-12、HK45の三人に、まあ加減が難しいだろうが、チョロチョロと出す形でビーカーを火炎放射器で炙ってもらう。結果、全員飲用可能、ということで、とりあえずこの仮設は現在の観測範囲では正しいようだ。

 

「成功だねっ! だから、お嬢か、お嬢の作ったものを使ってなにかすると、結果がおかしいことになる」

「ちょっと?」

「でも、事実だよね? 私の性能とか、そもそもの銃の威力とか、さっきの水が沸かすだけで飲めるようになってるのとか」

 

 確かに、ぐうの音も出ない言い分である。

 

「というか、うすうすみんな、お嬢がおかしいことに気づいてる。私もずっと、お嬢おかしいって思ってたよ? とってもね!」

 

 とまあ、うすうす考えていたことをはっきり言われるとそれはそれでクる物があった。が、まあ、私としてはある程度は「今更」案件であり、それゆえに騒ぎにならないように自重しているものであった。が、

 

「で? お嬢。セントリーボットのときにも思ったけど、隠し玉後一体いくつ持ってるの? もしかしたらこんな回りくどい方法しなくてもきれいな水を沢山確保できる方法、あるんでしょ?」

「そりゃまあ、あるけど……」

「この際ほかも聞いちゃおう。食べ物は?」

「トウモロコシとニンジンとレイザーグレイン、ウリ、スイカなら大量生産できる。収穫単位は数日。ほかはやってみないとわかんない」

「……世の中の食糧生産に四苦八苦してる部門が憤死しそうな感じね……」

 

 やれやれ、といった調子で59式が肩をすくめる。

 

「資源……はいいや、またゴミ漁りしに行くのはすごく辛い」

 

 いいかけて遠い目になるな59式よ。AA-12が何それ、って顔をして、そこをグリズリーが説明して隈の深い顔をひきつらせている。

 

「電力……もいいや、ガイガーカウンターのカリカリ言う音はもう聞きたくないし」

 

 あなたちょっと酷くない?

 

「指揮官様、薬の類はどうでしょうか?」

「モノによる。覚えてるレシピだと調達が難しいものばかりで」

 

 今度はカリーニンから飛んできた質問に、少し考え込む。RADアウェイの光るキノコとかどーせいっちゅーんじゃ。一般に光るキノコなんて強烈な毒キノコしかなかったはずだけど。逆にスティムパックならできてしまいそうな気もする。ティックの血液嚢は、つまるところ新鮮な血液、というところだろう。ティックという巨大ダニの血液嚢だから、人間とは限るまい。それを殺菌剤で処理してインジェクターの中に詰める。やってみたいができてしまったときが困る。血液が材料って、どう転んでも魔女裁判コースだ。やるなら製法を59式以外には完全に秘密にしてやるべきだろう。

 

「ねえ。銃器は?」

「え? 例えば、私が持ってるノリンコ59式が、軍用大型拳銃並みの威力になる。反動はそのままだし、場合によっては弾の変更無しに徹甲能力も持たせられる。けど、そこまでやるとASSTが効かなくなっちゃうから、少し安全マージン取ってあるよ」

「私の、銃の方のAA-12をそこまで強化することってできる?」

「できるけど、ASSTが効かなくなるからゼロから訓練し直しだし、躯体の方も合わせる必要があって、私ができる改造のリソースをたくさん食うからダメ」

「……ちぇ」

 

 AA-12からの質問と要望も答える。私が整備専門ではなく、時にライフルやプラズマを担がねばならない状況では改造状態を整備、維持できる人数に限界があるのは先にも述べたとおり。銃器であれば修理など割とさっくり終わるので何丁でも持ってこい、資材さえあれば修復と時に改造もしてやんよ、なのだが。人形の修復も同様。生体部品の修復に時間がかかり、それを加速させる触媒の配布チケットが快速修復チケットである、という認識でいる。

 

「それでお嬢、どうするの? なんでか知らないけど、お嬢は社長に聞いたら私が来た途端に急に自重を覚えた、って聞いたよ。でも、ここでも自重しすぎたら、多分、皆死んじゃうよ?」

 

 この場合の社長とはG&Kのクルーガー社長ではなく私の父のことか。痛いところをついてくれる。というか、私が先送りにしそうだからつついたんだろうな……。

 というか、死にそうなのだ、本当に。今の所、あらゆる全てを跳ね除けているように見えるが、実際、最後に襲ってきたデスクロー強化型っぽいのが2体同時に来ただけでおそらく甚大な被害が出る。鉄血のハイエンドモデルがやって来たと仮定した場合、基地放棄を検討するレベルだ。イベントラストステージ級のハイエンドモデルが来たら、逃げることもできないだろう。

 わかっちゃいるのだ、自重してたらコイツラに勝てぬ。だが、自重しなかった場合は、別の敵を引き込みやしないか、と。

 

「別の敵って、なんだ……」

 

 過激派人権団体、ロボット排斥派、軍、あるいは同じG&Kからか。E.L.I.Dか。

 

「何が来ても、ファットマンなら大丈夫じゃない? MIRFにする?」

「そうねえ、用意しておくべきかしら……ってなんで知ってるのよそれ」

「お嬢……社長のところにいたとき、事あるごとにつぶやいてたじゃん。あいつら、ファットマンで消し炭にしてやろうか、って」

「……マジか。うーむ……。ねえ、59式」

「なーに?」

「自重、やめよっか」

「それがいいよ!」

 

 いつもの調子で、それはそれは軽く。頼りになる「5」Link人形、59式は言い放ってくれた。

 

 

 

 

「ところでお嬢、ファットマンってなに?」

「携帯核爆弾ランチャー」

「「「「「「えっ」」」」」」




ふふふ、やりましたよ、e3-2を突破できました。

が……当然というかなんというか、もちろんe3-3がクリアできず泣いております。
ARはまだ6人しか育成しておらず、頭数がたりません……うごごごごごごご。
良い機会だと思って、G11とAR-15を育てることにします……。

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