人形指揮官   作:セレンディ

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ちょっと下品……かも……?


収穫

 というわけで、どん、とできましたトウモロコシ畑。

 以前、司令室の建物は公民館のようなものを再利用していると述べたが、そうすると当然近くには人里があるのである。というか人里近くでないと防衛や輸送路の意味がない。もちろん襲撃対策にある程度人が住んでいる建物からは離れた位置になっているが、近くには人が住んでいる以上そこは食料を生産している。ので、こちらで用意した修理用品等の物資や、あるいはダイレクトに修理すべきものを修理して、対価として食える期限は問わないトウモロコシの山他いくらかの農作物を貰ってきた。後は、産業廃棄物処理場から資源抽出した後の残渣であるゴミ山から作成された肥料(物凄く臭うかと思われるが、きちんと処理したのでそんなに臭わない。59式が我慢して扱ってくれるレベル)とともに、司令室の裏手の草を刈った後の広場に一気に植えてみたのである。

 

「お待ち下さい指揮官様、あの、農作業とはそんな簡単なものでは……」

 

 カリーニンがいささか常識を疑っているが、資源生産にはとりあえず自重を捨てると決めたので無視。後は、生産方式がアパラチア式っぽいので、このまま放置しておけば食料が無限に溢れ出すはずである。まあ、虫の駆除とか余分な草の処理ぐらいはしてもいいかもしれない。

 

「まあ、これでデンプン源は確保できただろうから、タンパク質とビタミン……大豆とキャベツかなあ……」

 

 とりあえずやってみるべきであろう。採りたての大豆を一揃いと、キャベツ六玉。自分でも特にキャベツが意味不明だと思うが、これを……植える!

 

 というわけでできました大豆畑とキャベツ畑(?)。トウモロコシもそうだったが、恐ろしいことに植えた瞬間ある程度の大きさに育った状態で植わっており、いきなり数ヶ月経過したかのような錯覚を受ける。しかも、その下の地面は別に農地や畑というわけでもなく、草を刈ってできた広場そのままなのがまた混乱に拍車をかける。我ながらとんでもねーものを作り上げてしまったかもしれない。

 

 

 さて、成長するまでは少し時間がある。食料ときたら次は水だが……少しばかり問題がある。現状で司令室の発展()に制限を仕掛けているのが、水ではなく電力の不足だ。

 一応、基地施設で使うための電力は外から引いているが、この料金が意外と高い。この基地用電力で工業用浄水器を動かすとすると、翌月からの料金がきっとおっそろしいことになる。

 発電の手段の至上はやはり核融合発電機だが、核物質の備蓄量が目標の10%にも満たない。無い袖は振れないので一旦は核融合発電機は諦めて、発電機(大)もしくは風力発電機でなんとかしなければないだろう。自転車型? 場合によっては2%の確率で死ぬやつとか乗りたい?

 

 それで、近くの川に工業用浄水器を設置して、その周囲に風力発電機をドカドカと設置。電線を繋いで稼働させて、蛇口を捻って水を出すと、ついてきていた人形たちがどよめいた。なお、所要時間およそ十五分。

 

「きれいな水があんなに……」

「もしかして、お風呂入り放題になる?」

「ちびちび使わなくてもよくなる!?」

 

 まあ、水の料金高かったからね……。調子に乗って立てた風力発電の列に合わせて、もう二台工業用浄水器を設置して、パイプラインで基地まで線を引く。ついでに周囲にはタレットを設置して、浄水器に手を出す不逞の輩を撃滅してもらうことにした。

 

 

さて、運命の数日後。

 

「トウモロコシは実の部分だけ折り取って。大豆はサヤの部分だけ摘み取る、キャベツはここでこう、スパッと」

 

 豊作である。量はもちろん作っただけだが、それが数日で出来上がるとなると破格の供給量となる。警備はセントリーボットに任せてまずは人形総出で単純に植えた数と同数のトウモロコシとキャベツ、豆も数え方とかの問題があるがほぼ同数の豆が収穫できた。さて、後はこのまま放置しただけでは普通はただの枯れ葉の畑になるだけのはずだが……。

 とりあえずその日の夜はトウモロコシパーティーだった。仮にあのまま枯れてもそれはそれで問題ないし。対価は私の調達資源と技術であるし。内心危惧していたRADの存在、つまるところ放射能汚染はなかった。

 

 さらに数日後。

 

「よし、ちゃんと育ってる」

 

 数日前に時間が戻ったかと思うような感じに、トウモロコシ、大豆、キャベツが並ぶ。

 

「これはちょっと、予想外かも……」

 

 引きつった笑みで畑をみやる59式。

 

「あら、自重しなくてもいい、って言ったのは59式よ?」

「わ、私に責任を押し付けないでよ!?」

「まあ、収穫は手が追いつく程度でいいんじゃないかしら。収穫しなかったら腐るってものでもないはずだし」

「おかしいよ……ほんと、おかしいよ……」

 

 ま、手が足りなくなったらプロテクトロンを作ろう。あるいは、司令室と人里の間に畑を移して誰か雇うのもいいかもしれない。

 場合によっては人手を資源がある限り無限に生産できるとか、ほんっとオートマトロンはヤバい。

 

 

「で、こうなるわけ?」

「まあ、妥当じゃないかなー」

 

 司令室付属、大浴場。前はシャワールームぐらいしか使えなかったが、今日は浴槽になみなみと湯が張られ、待ちきれない人形たち全員+私が思い思いにくつろいでいる。PMC時代にもそうそうできなかった贅沢ではあるので、私も順番待ちをすることなく全員で一緒に入ることに同意した。なお、他の基地職員たちが順番待ちしていることも添えておく。

 あれから、追加で収穫できた作物と補給品の食料の肉と酒でBBQパーティーが催された。まあ、収穫祭みたいなものだろう。今後数日おきに開かれることはないことだけは保証しておくが。で、人間として収穫作業で汗をかき、老廃物などもある私と、飲んで食って騒いだ人形たちはさらなるレクリエーションとしてお風呂突撃と相成ったわけである。電力がもっとあれば、数日おきではなく二十四時間お風呂に入れるようにできるので核融合発電機を早く作りたいものだ。

 私も、あるいは血筋としても日系の血を引くからとしても、お風呂そのものは大好きである。第三次世界大戦が始まってから、シャワーはともかくお風呂は少々縁遠くなっていたのは本当に残念だったのだ。というわけで、このような両手両足伸ばしてだらーんとできるお風呂は堪能する以外手はないのである。案の定とも言うべきか、さっそく飛び込もうとした59式をひっつかんで洗い場へ連行してざぶざぶ洗い、他の人形たちにも先に洗い場オアシャワーで体を洗ってから入れとだけ言ってから私も自身を洗う。ついでに細かい手入れもしていると、人形たちに興味深そうに見られた。

 

「……え、なに? ……ああ、そうか、あなた達、手入れいらずなのね、羨ましい……」

「そうね。例外はいるかもしれないけど、私達にとっては、手間暇かけるコストが趣味でしか無いもの。指揮官を見てると、その手間が無くてホッとしてるわ」

 

 湯船の縁にそのでかい胸部を載せて、こっちを見ているFive-seveNが言う。

 

「……あと、それ、しょっちゅうぶるんばるんしてるけど、垂れないわよね?」

「垂れないわねえ。指揮官には、垂れるほどはなさそうだけど」

 

 はなせ59式、あの邪智暴虐のHGの鼻を捻ってやらねばならぬ。

 

「というか、指揮官が色々と小さすぎなんだよ。小柄な人形に偽装できるって段階で色々と大概だろ?」

「まあ、ねえ」

「HGの中でも特に小柄な方の私にそっくりだもんねえ」

「やかまし」

 

 CZ75の言うことも最もなのだ。父が、私の体型に合わせて小型化カスタムをしたのかと思っていたが、59式は実にカタログ通りのスペック、サイズで父のPMCにやって来た。つまり、もともと小柄なHGなのが59式であり、それに偽装できる私は人間としてかなりの小柄なのだ、

 それにしても、風呂で髪を下ろしたCZ75はかなり印象が違うな。

 

「ん? なに?」

「なんでもなーい。それよりも、優秀な59式が、資源でも銃器でもなんでもよういしてあげよう! みんな、あがめて!」

「アハハ、似てる似てる」

 

 ノリで59式のマネをしてみれば、まあ先程までの騒ぎの名残もあってそれなりに受けた。

 

「核物質さえあればなあ……」

 

 おい59式、それは私のマネか? なんだよその哀愁漂うつぶやきと内容……。

 

「こっちもそれなりに似てる似てる」

 

 マジでぇ……。

 

「お嬢お嬢」

「ん、なになに?」

 

 ふと、59式が寄ってきて、腕を組んで私ごとぐるぐる回りだす。ああ、これは、

 

「「せーの、どーっちだ?」」

「「「「「そっちが指揮官」」」」」

 

 うそん、モロバレですやん?

 しかも、回りだす前はこっちを見てもいなかったシプカまで的確にこっちを指さしやがった。

 

「指揮官、虹彩の色が違うのですぐわかります」

 

 おっと、それではしょうがない。USPコンパクトの指摘を受けてリトライ、目を閉じて腕くんでぐーるぐるー、念の為シャワーブースの衝立の向こうでやった。

 

「「どーっちだ?」」

「「「そっち」」」

 

 目を開けてみると、再度モロバレだった。おや? 瞳以外に何か他に判別部位がある? が、ざっと思い浮かべても思い当たらない。両方共メガネは外しているし、目は閉じていたし、うーん?

 

「え、なんでわかったの?」

 

 隣の59式を見ても、彼女も予想外らしくてはてなマークが飛び交っている。

 

「そっか、自分は見えづらいもんな」

「なに、何が違うの?」

 

 風呂でも飴を手放さないAA-12のつぶやきに反応した59式が飛んでいく。

 

「簡単です! プロデューサーだけ生えてるんですよ!」

 

 おぶっ!?

 ……うえ、え……あー、マジだ、マジかよ……。が、まあ、とりあえずだ。

 

「えっちけーよんごぉーっ!!」

 

 新たに現れた邪智暴虐に対して、私はドロップキックでの制裁を試みた。

 

 

 

 余談。

 安全かみそり片手に五分ほど真剣に悩んだが、そんなところを晒してまでの偽装が必要になる状況ってそもそも詰んでるとしか言いようがないし、あるいは本当に必要とあらば辞さぬつもりだが、全裸かそれに近い状態での戦闘もしくは撹乱行為が必要だなんてどこのニッチジャンルだよありえねーよ、と気づいて私は正気に戻った。




e3-3も突破して、e3-4にとりあえず様子見で出撃してみたのですが、4Linkなりたて部隊では雑魚にすら蹴散らされてしまいましたおのれ……。
とりあえず416とG11を育成中です。あとAPAS-12。
立派なタンクに育っておくれよ……。

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