「おいおい、屑鉄にしちゃ変な動きするなと思ってたらまさかの人間かよ。指揮官か?」
「さあねえ」
処刑人の右腕からは火花が散っている。私の左腕からは血。
「お嬢! お嬢お嬢お嬢お嬢お嬢! お嬢ー!!」
動きを止めるにはさすがに強くぶっ叩くしかなかったせいか、左脚の足首が壊れた59式がふらつきながら取り縋ってきた。
「なんで、なんで!? 私ならバックアップあったのに!」
「バックアップからの復帰は色々と問題があるし、時に復帰失敗するでしょーが。だーいじょうぶよ、これぐらいかすり傷だから」
「んなわけねーだろ、止血できなきゃ死ぬし、この状況で止血作業させると思うか?」
「それはどうかな?」
嘲るように言ってくる処刑人に、同じく嘲るように言ってやる。まあ確かに、普通の状況ならば野戦で腕を切り飛ばされたら死ぬしかあるまい。右手で左側のポケットから出してくるのはいささか難儀するが、出してきてしまえば後はもうどうとでもなる。
スティムパック。
その効果は、Perk次第だが体力を回復し時に瞬時に全回復、加えてデフォルトで全身の負傷を治癒させる。
「お、おいおい……おいおいおいおいおい……い、今何をした……?」
「さあねえ? ……確かめてみる?」
ほぼ瞬時に現れたがごとくの、私の左腕をぐっぱぐっぱ握って確かめてから、ノリンコ59式を両手に抜いてそのままぶちまける。
「くそ、フェイクかよ!?」
さすがに目の前で抜いて構えたせいか、当たりが悪く多少ダメージを与えた程度で遮蔽を取られてしまった。だが、逆を言えばそれ以上はもう逃げられない。伝って逃げられるような遮蔽物はないし、状況把握した人形九人が銃口を向けている。
「投降をお勧めするわよ? もう逃げられないのはわかってるでしょうし」
「うるせえ!!」
さすが鉄血ハイエンドモデル、左腕だけ出して大型拳銃でこっちを狙ってきたが、ノールックなのに当然のように私のいるところを狙ってきた。まあ動いてないからだろうので、一歩避けてO.A.T.Sを起動して、そのちょっと出しの左腕へ銃弾をまるまる叩き込む。
「がっ!?」
「確保!!」
処刑人が銃を取り落とすと同時に、第二部隊が走る。59式を除く第一部隊は処刑人の隠れている遮蔽物に制圧射撃。
「そりゃあ!」
AA-12が、盾を押し付けて動きを封じた後に、脚に向かって射撃。いつの間にスラグに入れ替えていたのか、足首が一発で砕けて機動力が大幅に落ちた。そしたらもう、後は逃げられない。
「でーでっ、でーでっ、でーでっでーでっでーでっでーでっ」
寄ってたかって地に押し付けたところで、使い捨て用PDAにケーブルを繋ぎ、ジョーズのテーマと共ににじり寄る。
「お、おい、よせ、やめろ、何するつもりだっ!?」
人形のメンテナンス用ソケットの位置というのは大体においてそう変わらない。完全独自規格とかでも持ち出さない限り、大抵は接続できるし、なんならその場で接続端子を作ったっていい。幸いにして今回は手持ち変換器の中にあったので何も問題はない。PDAの通信モジュールへの電源供給ケーブルを引っこ抜いてから(なんかウィルスに感染させられるからね!)、処刑人のメンテナンスソケットにケーブルをぶっ刺す。
「があっ!?」
「おまえはわたしのものになるのだー」
我ながら悪乗りがすぎると思いもするが、人の左腕を吹っ飛ばしてくれた輩に何か配慮する気分も必要もない。
当然のようにセキュリティレベル3評価を叩き出す防壁をねじ伏せ、処刑人の通信モジュールドライバを削除、そのバックアップも削除、与えられている命令をバックアップを取ってから削除、IFF情報もリセットしてからグリフィンの情報を上書き、最後にシャットダウン。
「いっちょあがりっと。処刑人、鹵獲だぜー!」
テンションのままに叫んだところで、周りの人形たちの目が冷たいことに気がついた。
「え、な、なに……?」
「色々と言いたいことはあるけれど……」
「お、じょ、おーーーーーーーー!!!」
後ろからめちゃくちゃ怒った59式の声。
まあ、痛みからハイになっていたのも事実だけど、自分をごまかすのもそろそろ限界だろう。……うん、ごめん。
「お嬢は人間、私は人形! どうして人形を盾にしないの! 私達はそういう為にいるんだから! 今回はトリックが成功したからいいけど、なんで何度言ってもそうしてくれないの、どうして!!」
この後正座させられてめっちゃ怒られました。
「ふー、ふー、ふー……でも、お嬢。いつの間にあんなトリックしこんでたの?」
ひとしきり説教された後、ふと、59式が思い出したかのように聞いてきた。
「私も気になるわね。どうして、あんなトリックをする必要があったのかしら」
グリズリーからの視線も冷たいままだ。
「そうですねえ。この作り物の腕、本当に良く出来てるわあ。偽物と判ってなかったら、本物に間違えそう」
L85A1は、切り飛ばされた私の腕を突いている。
「あ、いや、それ、本物……」
「は!?」「え!?」「そんな!?」「嘘でしょ!?」
腕を見ていた人形たちがぎょっとした。
「待って、お嬢、本物って、本物って!? え!?」
「おいおい、冗談だろ、本当に腕きり飛ばされてたのか……?」
「腕って、生えるものだったの……?」
「ありえへんやろ!? 腕きり飛ばされて、アドレナリン出てる間ならともかく、ダメージどないなってん!?」
「……信じられない……」
口々に驚愕を示す人形たちをよそに、使用済みスティムパックを拾って指し示す。
「えーと、その、こ、これで治した……」
「嘘でしょ……」
スティムパックをしげしげと見て、口々に騒ぐ人形たち。
「こんな注射器一つで……」
「お嬢! 副作用は!? そんな強力な薬使って、副作用がないわけ無いでしょ!?」
「ゆ、揺らさないでごじゅうきゅうしきぃ!? な、ないから、ないから副作用! あってもせいぜい喉が渇くぐらいだからぁっ!?」
「嘘言わないで! そんなことありえないでしょ!?」
「ほ、ほんとだから、ほんとだからごじゅうきゅうしき、ほんとだってばぁっ!」
結局、収集がつかず、鹵獲した処刑人もここでまごまごしていたら増援等に取り返されそうだったので、休憩も兼ねて一旦撤退することにした。
無論、狙撃用陣地の上には発電機とミサイルタレットとスポットライトを並べておいてだが。
「で、これ、どうしよう」
「……なんですか? これ……う、腕……?」
指令室、執務室。つい回収してきてしまっていた仮称奇妙な腕、正式名称私の左腕。
「私の左腕」
「その冗談は質が悪過ぎですよ指揮官様?」
「まあ、信じてくれないわよねえ」
「それで、この腕は一体どなたのものなのですか? 腕だけ持って返ってくるなんて、まるで爆死した戦友の弔いのためのようですが……グリフィンのコート……?」
治してしまったので、当然私の左腕は健在だ。もっともコートの肩口から先が吹っ飛んで一分袖かつ血塗れ状態で、吹っ飛んだ袖(それと血)は奇妙な腕がつけているのだが。そのことに気づいたカリーニンが、袖口と腕が着ている袖を見て、だんだんと顔色が悪くなっていく。
「うで……?」
「うん、腕。さっき鹵獲してきた処刑人に斬られた」
「きられた……」
カリーニンの目からハイライトが消えた……。
「で、薬で治した」
「治した……再生医療はここまで進んでいなかったような……」
「自重を捨てた自覚はあるけどこれほどまでとは思わなかった」
「……」
ついに、作業をしていた事務机に突っ伏してしまった。
「なんていうか人形なのに頭が痛い気がするけど、それは置いといて聞くわよ。本当に、その腕はどうするの?」
割り切れたわけではないらしく、いささか冷たい目でFive-seveNが問うてくる。
「そうねえ……」
イマイチこの始末に困るのが正直なところだ。さすがに自分の腕を、そこら辺に埋めたりするつもりはないし、逆に一見私の左腕は健在なので火葬許可も下りないだろう。ほんとどうしたものか、このミステリーアーム。……みすてりー?
「……食べるか」
がたたっ!!
カリーニンとFive-seveNの二人に、両サイドから両腕を抑えられて、二人セットで青い顔で首をぶんぶか横に振って訴えてきたので、さすがに諦めた。
なお、59式は疲れたと言ってソファで寝ている。起きていたら三方向から抑えられていたのだろうか?
まさか、本当にスティムパックがそのままの効果を持っているとは思わなかった。MedicとかChemistだったか、その辺りのPerkの効果も発揮していたようで、一瞬で左腕が元通りになったのは我ながらホラー、そして相対していた処刑人にとってはフェイクと間違えるぐらいの現象だったのだろう。MisteryMeatが発動したかどうかは判断に困る。Radは全く蓄積していないはずだし、あれは奇妙な肉限定生産ではなく、メガ・スロスとかのなんでそれなのと突っ込みたくなる肉が出たはずだし、不発動か。そもそも持ってないだろうし。
とはいえ……今回の一件で、スティムパックはとにかく数を揃えて持っておくべきだろうという判断がついた。101のアイツとかブルーみたいな防御能力とか生存能力を持っているわけではない、というのが図らずも確証が取れた形だ。あの衝撃波、避けそこねたら腕が切り落とされるのではなく私が真っ二つだったような気がしてならない。本来ならば前線には出ないで、人形たちに指示を出して部隊指揮するからこそ指揮官という役職名なのだが……さて。
一方で、対E.L.I.D戦においては私とそれ以外における有効度合いの差がひどい、ということに確証が持てた。プラズマライフルとレーザーライフル、物理とエネルギーの配分が違うだけで、総合的な威力は実はあまり差がない。むしろ、物理面に強いと思っていたE.L.I.Dを始末するには、総弾数はプラズマのほうがかかるはずなのだ。が、私の射撃は一発で脚を引きちぎり、人形たちに渡したレーザーライフルは、雨あられのごとく降り注いだがさながら高レベルアボミネーションにパイプオートをぶっ放したかのような有様だった。つまり、
1.E.L.I.Dはプラズマライフルによる攻撃に耐性がないか弱点を持つ。ただ、過去にノリンコ59式やマチェットでケンタウロスもどきを始末したりした事があるので、あまり説得力がない。
2.「私の攻撃」はFallout風E.L.I.Dに強烈な弱点補正か何かがある。こちらの可能性が高いというのが嫌な話だ。あるいは、RiflemanやGladiatorの補正がでかいとでも言うのだろうか。
本当に嫌な話だ。
考えを整理するために、つらつらと書きなぐっていた紙をぐしゃぐしゃと丸めてゴミ箱に放る……外した。
「あーもー……そういえば、これもゴミ箱だなあ……Can Do!! なーんちゃっt」
ファンシーラッドケーキ
おおうマジカヨ、ただこれRAD汚染されてるから食べられないなあ……って、うそおおおおおおおおおおお!?
スティムパックが出ていた段階でこの流れを予期していた方も多いのではないかと……。
それはともかく、深層映写が終わりましたので、改めて第六戦役の攻略を再開しました。
……DDクリアできる戦力だと蹂躙にしかなりませんでした。