人形指揮官   作:セレンディ

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「し、ししし、指揮官、き、貴様ーっ!? 何をした、貴様何をした!? 自分が何をしたのかわかっているのか!?」

 

 蹴り落とされた足場へと這い上がったところ、待っていたのは処刑人のガチギレ問い詰めだった。

 

「核だよな、核爆発だよな!? 残り少ない清浄な大地を、放射能汚染したというのか貴様は!!」

 

 赫怒とはこのことか、と言うぐらいに怒り狂った処刑人にがくがく揺さぶられて反論もできない中、ちらりと見えたPPS-43は、私が引き倒したうつ伏せの姿勢のまま、

 

「私は、なんという……何ということをしてしまったんだ……」

 

 

 と打ち拉がれていた。

 

「ちょ、まっ、わっ、がぷっ、は、はなし、てっ」

 

 人形の膂力で揺さぶられ続けているとろくに発言できず、処刑人の叫びを間近で浴びせ続けられる。

 一方、視界の端で、59式が何かピンと来た顔で計器を取り出してクレーターの方へ向けたのを見て、もうちょっとで解放されそうかな、と思う。なにせ、驚くべきことにヌカ・クアンタム・グレネードはRADフリー。爆発自体は予想以上に派手で核爆発の如き有様だったが、爆発の後には文字通り何も残らないのがクアンタムグレネードの優秀なところ。

 

「聞いているのか指揮官!!」

 

 揺れる視界でよくわからないが、計器を隣のFive-seveNと見て、放射能汚染がゼロだと確認してくれたころだろうか? いい加減、ムチ打ちになりそうだし助けてほしいのだが……って、あいつらこっちをなんかニヤニヤしながら見てる、もしかして、

『いい機会だからあのままちょっと反省してもらおうよ』

『それがいいわね』

 的なやり取りがあったんじゃあるまいな?

 というか、そろそろ本気で意識が遠くなってきたので、誰か、だれかたすけてくださーい

 

 

 私が気絶したところで、ようやくタオルは投げられたらしい。

 主観的には揺さぶられていた次の瞬間綺麗な空が目に入って、ああ落ちたのか、と考えつつ体を起こす。私を揺さぶっていた当の処刑人は、ごつい右手にガイガーカウンターを持って、PPS-43と似たようでちょっと異なる体勢、つまるところ失意体前屈で

 

「なぜだ……なぜ、あの爆発で放射能汚染がゼロなんだ……?」

 

 と打ち拉がれていた一方、そのPPS-43本人は、

 

「そうなんだね、本当だね!? 私が投げたのは核爆弾じゃなかったんだね!?」

 

 と、何かに祈るようなポーズで安堵を顔いっぱいに広げさせていた。

 

「後に放射能が残るようなものを使わせるわけがないじゃない……」

 

 と抗議してみたが、『信じられるわけねーだろ』という十一対の瞳から信頼の眼差しを受けた。ひでぇ。

 

「そんな態度してると、ラジウムライフルとかガンマ銃とか作っちゃうわよ?」

「どんなものなのかはわからないけど、確実に放射線が出てきそう……」

「うむ、正解! 弾丸に放射能を付与して物理的負傷だけでなく放射能被爆を与える対人戦闘特化銃器と、放射線そのものを照射して肉体的損傷はわずかに留めながら放射能被爆で殺すこちらも対人特化銃器だね!」

「作らないで。絶対」

 

 食い気味に訴えかけてきた59式に思わず頷いてしまった。

 

「約束だよ、お嬢」

「う、うん……というか作らないって言ってるし、対人特化って言ったとおり対戦術人形や対E.L.I.Dには無意味な銃器だし、そもそも作る意義が薄いからやらないって。で、まあ、クアンタムグレの威力は上々ね、あれがあれば人形でもデスクローを始末できることがわかったわね」

 

 なんか59式からのプレッシャーがすごいので、話題をずらすというか元に戻して、追求からの退避を試みる。

 

「いやいやいやいやいや、無理やで指揮官、そもそも足止めができひん」

 

 ガリルからのツッコミが入った。顔の前で、ちょっぷの形の手を左右にブンブン振ってるあたり、パーソナリティも話し言葉に近いのだろうか、などと至高が脱線する。

 

「そうですねぇ。指揮官の作った銃器でも装甲、いえ、鱗貫通ができませんでしたのでぇ」

「投擲では遮蔽物が必要な威力だから、適切な距離を保てる保証がない」

 

 L85A1も、あるいは立ち直ったPPS-43も。

 

「一歩間違えば自爆して自分が塵になりそうな威力の爆弾をホイホイ扱う気にはなれないよお嬢」

 

 さらには59式まで。

 

「マジでか。じゃあ、ファットマン作ってカタパルト射出式にしても使う気は出ないかしら」

「「「「「絶っっっっ対イヤ(嫌だ)(断る)(無理だ)!!」」」」」

「マジでか……」

 

 火力は正義ではないのか……おお、神よ、マイケルベイよなんてこった……って、まあこの時代なら死んでるかな……?

 

「……んー、使ってくれないのはしょうがないわねえ。後日担いでくれることを祈って、とりあえず、今はデスクローの駆除ね、駆除」

「それ、うちらの出番あるん?」

「ヌカクアンタムグレを投げてくれる子なら絶賛募集中よ!」

「はーい、うちら待機な、待機ー」

 

 

 結局、その日は、目についたデスクローを片っ端から駆除し、巣を破壊し、卵を回収し、相当数の資源を回収して引き上げた。

 試験的にではあるが、デスクローの死体を基地の裏手に設置した、コンストラクションで作成したコンポスト内に積み上げ、腐敗したら肥料化を試みようと思う。うまくやれば放射能とコーラップス双方を浄化できるだろう。

 

 

「ぬぅ……グルメしたかったんだけどなー」

 

 あのでかい卵である、オムレツにしたらさぞや食いでがありそう、と考えて持ち帰ってきたが、RAD汚染はともかくコーラップス汚染はRAD-AWAYのように除去手段が無いために念の為チェックを行ったところ、残念ながらデスクローの卵はコーラップス汚染されてしまっていることが確認された。

 

「そもそも、E.L.I.Dの卵を食べようとか考えないでくださいませ」

 

 見た目はチャラ男、言動は常識人のカリーニンが隣でため息を付いた。しょうがないので普通の鶏卵で作ったオムレツを食べていたところだ。

 

「でも、あの大きい卵は食いでがありそうだったじゃない、あなたも見たんでしょ?」

「確かに、ダチョウやその他大型鳥類の卵のようでしたが……それ以前にあれは類も目も違う二足歩行型爬虫類E.L.I.Dの卵です。オムレツに適していたかはわかりませんよ」

「それは心配していなかったけどねえ」

「なんでですか」

 

 なんでって、ゲームにはデスクローの卵のオムレツやら、美味しいデスクローのオムレツやらの調理クラフトがあったからですよ、等とは言えるわけがないが。

 

「勘」

「勘って……」

 

 頭を抑えるカリーニン。その彼の前にもオムレツ。近くのテーブルの59式の前にもオムレツ。処刑人の前にもオムレツ。

 自分が食べるために作っていたところ、指令室中の人形たち+カリーニンが集ってきたので、食堂の卵を拝借して作った。まあ、59式がオムレツをうまそうに食べている所はそれはそれでほっこりする。

 いきなりこんな食料浪費して、と考えられる諸兄もいらっしゃるかもしれないが、現在のこのR08地区指令室は、自給自足を通り越して近隣地域に食料を輸出するまでになっている。ついでに、指令室では生産していない食料品や嗜好品を買い込んできてもいるが……こちらは物足りないらしい。現在の司令室では衣食住全てが満たされている状況となっているが、その一方で娯楽品や嗜好品はたくさんあるとはいい難い。連日のゴミ箱漁りによってシュガーボムなら沢山あるが、インフォームドコンセントとして、RAD汚染があることと対処としてRAD-AWAY(希釈)を渡したところ、全員が食べることを辞退した。あの甘党のAA-12すら!

 

「酒が欲しい……」

 

 一方で、処刑人がつぶやいた通りに、酒の類は実はあんまりない。

 生産拠点は第三次世界大戦でもちろん少なくなっているし、瓶というものは輸送する上では意外と破損しやすいために非常に高価だ。先日の宴の時も、派手に飲んでいたがやはり物足りなかったと述べる人形も少なくない。私は、別に酒はそんなでもないのだが……。

 

「そんなに欲しい?」

「ああ、欲しいな。食事が美味いのは良い事だが、酒がないとやはり物足りぬな……」

「あれがないと晩御飯食べた気がしなーい」

「毎晩ちょっとずつ、というのも悪くはないのだけれど、たまにはたくさん飲みたいときぐらいあるもの」

「ふぅむ……」

 

 処刑人、59式、グリズリー。

 口々に酒が欲しいと訴えてくるので、そこまでのものなのだろうか。というか、59式も欲しいと訴えてくるということに驚いた。

 

「で、お嬢? その気無いふりしてるみたいだけど、何か手はあるんでしょ? でしょ?」

 

 すすす、と横にやってきた59式が肘で私をつついてくる。ちょっとイラッとしたが、まあそれはさておき。

 

「あるにはあるよ」

「本当(か)(マジで)(でございますか)!?」

「ええ……」

 

 周囲がざわめいた。というかカリーニンまで反応してる。マジかはこっちのセリフだ。

 反応が良すぎる。よくよく見てみれば、食堂のおばちゃんとかもキラキラした目を向けてきているのだ。どんだけ酒が好きなんだよこいつら。それともあれか、中世の水の保存のために酒精が重宝された時代のごとくなってるとか? いやいやいや、いくらコーラップス汚染から確か三十年ぐらいとはいえ、いくらなんでも……。まあ、深く考えるのはやめよう。

 

「じゃあ、とりあえず作るけど……材料のレイザーグレイン、とうもろこし、サトウキビの増産と収穫は手伝ってね?」

「もちろんだよ、この59式にお任せ!」

「調子いいんだから……ああ、今はぶどうとかベリー系のアレコレがないの。任務中とかに見つけたら持ってきて、栽培するから」

 

 

 と、いうわけで。

 指令室の倉庫の一角に、醸造ステーションと発酵槽を建造した。ついでに材料植物三種も。スナップテイルリードは性質から考えてサトウキビで代用できるだろう。足りない材料が出てきたらGreen Thumbで私が収穫すればいい。

 とりあえずビール、バーボン、ウィスキー、ラム酒、と各種取り揃えて多数作り、順次発酵槽に入れて発酵完了まで持っていく。

 作成したお酒はまたたく間に人形たちに消費された。残った分も指令室職員がよってたかって持っていった。本当にお酒好きなのね……。職員で思い出したけど整備室人員はまだ来ない。後でヘリアントスに督促メールを送っておこう。

 

「はふー……お嬢の非常識機械も、たまにはとっても役に立つんだねえ」

 

 一方、59式がこのようなことを酔っ払って笑顔でつぶやいて、近くの人形がうんうんとうなずいていたのを見て、私はヌカシャインの醸造と59式に飲ませた後でレシピを教えてやることを決意した。とりあえずプラズマオートライフルの作成に着手することとする。




ちょっと難産でした。
やはり毎日更新する方とか尊敬するレベルですね。

いつも感想をくださる方はありがとうございます。
こういう難産の時に特に励みになります。


ところで、なんかDiscordで面白そうな話があるみたいですが、無知な私には検索してもなんかこう、さっぱりひっかかりません……。
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