人形指揮官   作:セレンディ

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駆除

 さて、二日酔いといえば。

 通常アルコールは分解されてアセトアルデヒドになり、更にこれが分解されて無害な水と二酸化炭素になるという分解過程を持ち、この際のアセトアルデヒドがなんやかんやと悪さをするせいでなるものである。詳しくは覚えていない。

 

「お嬢~……二日酔いが酷いの、お薬頂戴……」

 

 普通に水飲んで寝なさい、その状態にスパッと効く薬なんてありません。

 ……いや、あるにはあるが、それは敵襲とかの緊急事態用で、使用自体が戦闘行為として扱われるのでこういう時には使えない。

 

「そんな~」

 

 人形たちだけにとどまらず基地職員まで加えて、ほぼ全員すぐカパカパ飲んでいくので、最近は増産した穀物類に留まらず、余剰備蓄分まで酒類に姿を変えている。近隣都市からの交換品リクエストにも酒がリスト上位に来ることになり、それも増産に拍車を掛けていた。で、ある程度溜まった酒類をまとめて出したところ、基地総出-1名(私)の大宴会となった。私も久しぶりにヌカ・コーラ・ダークでも傾けてみたが、結局私にとって酒類は戦闘前や物を運ぶ時に一杯引っ掛けるもの、という認識があまり変わらない上に、特に酔った感覚も何もないので早々に引き上げてしまった。あと、こういう場って上司がいるの良くないらしいし。一方で、嗜好品の名の通り、酒が大好きという人形、職員は大挙して押し寄せる。あまつさえ、以前は安酒と呼ばれたものでも高級品になってしまった今や酒に飢えている上に、私の作る酒は以前の安酒というよりは中~上等品質らしくうまいうまいと飲んでいた。

 

 その結果がご覧の有様だよ!!

 

「これだけ飲んだのだから、しばらく控えなさいよあなた達!!」

 

 レクリエーションホールに転がる死屍累々、全部酔っぱらいの群れ。窓の外とか見たくもねえ。そことトイレの掃除は宴会に出た人形たちでやるように。私はやらないからね!

 

「うぐぐ、し、しきかん、おおきなこえださないで……」

 

 PPS-43までこのトドの群れに参加していた。ロシア系人形でも酒強くないとかあるんだろうか。いや、周りに転がってる瓶の数からしてより多量に飲んだのか……。

 そう、人形でも二日酔いになるのである。なるのである……。通常の食事も取ることから、食べたものを消化なり何なりしてエネルギー転換やら生体部品の維持やらに使うのだろうが、アルコールによる酩酊と二日酔いまできっちり再現されていた。ゲームのシナリオでは59式はダークマター(オムレツ)を食べて入院したことさえある。私が人形の躯体に手を入れたのはいわゆる運動系のみであり、代謝系には手を入れていない。ペルシカとか鉄血の彼の、自律人形の設計思想は第二の人類じゃあるまいな? そう思うぐらい、処刑人含めた人形たちは酔っ払って正体をなくして騒ぎ、酒癖の悪いやつの中には脱ぐやつもいた。本人の名誉のために誰かは明言しないでおくが、きっと昨日の出席者には体中余すところなく見られたんだろうな……。

 

「……とりあえず、全員水飲んで寝とけ!」

 

 全員にきれいな水を配ってたっぷり飲ませた後、私はプラズマライフルを担いでハンティングに出ることにした。無論、一人で無防備に出るわけではなく、アサルトロンとセントリーボット一機ずつを伴って。正直、酔っぱらいのテンションにはついて行けない……。

 

 

 防備がいる以上特に難なく危険もなく、デスクローを手当たり次第に仕留めて周り、ついでに核物質もいくつか確保できたのでホクホクで帰ってきた。コンポストNo.2にデスクローの死体をぶち込み、コンポストNo.1の中で腐敗したデスクローの死体をケミストリステーションで肥料化する。私のレベルが高い扱いなのか、それともそもそもそういうものなのか、発光するデスクローが出てきていささかビビりもしたが、脚を破壊してしまえばデクになるのは変わらず、メロンソーダとなって地にわだかまり、核物質へと姿を変えた。

 さて、核物質が調達できたのならば、ついにアレの出番である。アレですよアレ、ヌカシャイン。

 

>ヌカシャイン

 >レイザーグレイン×5

 >トウモロコシ×5

 >ヌカ・クアンタム×1

 >木材×5(醸造燃料用)

 >核物質×3

 

 以上が放射性同位体入コーラが原料の酒、もとい、ヌカシャインのレシピである。

 うむ、目を疑った諸兄は真っ当な神経をしてらっしゃる。私のようにゲラゲラ笑ったタイプは同じようにあとみっくに汚染されているであろう。あとむに包まれてあれ。名前を忘れた地下バーのバーテンダーっぽい作業用ロボブレインも、出来上がったヌカシャイン(ビンテージ)を飲んで、うまい、とは言っていたが、放射性ありとか脳に不可逆的損傷の可能性ありとか物騒なことを言っていた気がする……が、まあその辺りはどうでもいい。プレイヤーすら酔っ払って正体をなくしてハッピーハッピー状態で野山を走り回る強烈な一品である。具体的に言うと二分後に適当なところにテレポートする。考案者であるイトペトだっけ?の連中が客に出したときにはそんな事はなかったようなので、まあ大丈夫だろう。……念の為、59式を騙して飲ませる前にビーコンは持たせておくつもりだが。59式になんとかして飲ませるのは確定事項である。……いや、テロリストを一人捕まえてきて人体実験すべきか。無いと思うが、まさかアパラチアに飛ぶとかされると困る。

 話が脱線したが、ファットマンも完成した。射出用携帯カタパルト自体はとっくに完成していたが、その射出する弾体が今まで作れなかったのだ。ただ、一点気にかかることがこちらにもある。先日使ったヌカ・クアンタム・グレネード、実はゲーム内での爆発は威力が非常に高く小さなキノコ雲こそ立ち上がるものの、爆発範囲は「ちっさっ!?」と思わずつぶやいてしまうほどに小さい。ところが、現実でヌカ・クアンタム・グレネードを投げたところ、文字通り何も残らないクレーターと、爆風、閃光、キノコ雲と、元のイメージの数十倍の威力が出た。では、ミニ・ニュークの炸裂がどれだけの威力になるものか、いくら推測してもその推測が正しいと断じることができない。後に「何も残らない」のは確定だが、どれぐらいのエリアがそうなるのかがわからない。どうやって実験したものか、である。

 通常のファットマンでは最大に飛ばしても自爆距離を脱することができない可能性があり、むしろ使い捨てアイボットドローンに搭載して、ブラストゾーンが発生しても問題ないぐらいの遠くに落下させるのも手だろうが、派手になりすぎて逆に本部とか環境団体過激派とかその辺りの目を引いてしまうのがネック。追加で言えば、処刑人とかヘリアントスとかに揺さぶられそうな気もする。あと誰かのドロップキック。あれは未だに誰か判っていない。

 後は何本か、バリスティックビールを仕込んで、指令室の冷蔵庫に「戦闘用ドラッグにつき持ち出し禁止」とメモを貼って仕舞った。

 サイコ、MED-X、ジェット、バファウト、その他の戦闘用ドラッグと中毒治療用のアディクトールも多数集まってきたので、ガチ戦闘前にキメる準備もOK。

 後は、あのデスクローの楽園を徹底的に破壊してデスクロー共や他のアボミネーションを駆逐してやれば良いだけだ。

 

 

「と、いうわけで、掃討作戦を開始します」

「またこのパターン?」

 

 そう、このパターンである。

 狭窄路に新しく取り付けられた電動バンカー用ゲートをくぐり、いくつかぽつぽつと作られた狙撃用土台を横目に進み、予定された平定領域のおよそ半分ほどまで着たところにあるこれまた狙撃用土台の上。今までと同じように第一及び第二部隊を伴って、銃声でこちらを察知してくる小物の排除は人形たちに任せつつ、私が手をくださないとどうにも倒せないデスクローは私が担当する。駆除方法が確立した以上、後はやることをやることとして粛々と進めるだけでよい。すなわち、

 

「一匹高速接近ちゅ……撃破確認」

「お嬢、9時半方向からもう一匹。倒れたー」

 

 と、私が固定砲台となって付近のデスクローとかその他E.L.I.Dを始末するだけだ。以前見たケンタウロス型とかがチラホラ混じっており、人形たちの総攻撃を受けてぶちゅっと潰れていく。ただ、打ち込まれる弾の数を考えると、私が子供の頃からこの謎補正は加わっており、それゆえちょっと改造したノリンコ59式で撃破できたのだろうなあ、と予想がつく。当時、父とか部隊長とかは思いっきり困惑したはずである。護身用の小型拳銃でヒグマを、特にバイタルパートを狙わずして仕留めたようなものだ。端的に言って不可能である。

 

「おぉっと発光デスクロー」

「正規軍案件がおぉっとで済まされるのか……」

 

 ばちゃっと弾けて緑色の粘液が地にわだかまる。

 

「よし、移動」

 

 ささっと足場にされていた土台が撤去され、そのまま全員が落下、着地。地図と指令室からのビーコンを元に移動して再度土台を設置。上に登ってそこから見えるデスクローを狩り尽くす。

 それを日々繰り返していると、デスクローの繁殖地はただの野生動物の楽園へと、あるべき姿を取り戻していった。なお、デスクローの巣からは、鉄血人形兵の残骸が多数発見されたことも添えておこう。こんな、E.L.I.Dの楽園と化した峡谷通路など戦略的価値は潰え、奪取を諦めて早々に引き上げたのだろう、鉄血は。後は我々が実効支配してしまい、タレットや防壁、セントリーボットで近寄らせなければいいのだ。……E.L.I.Dが新たに出てきた場合はその限りではないが、その場合は正規軍もしくは私が出撃することになるだろう。

 輸送路予定地を全て占拠し、防備も固めて、これで最初の……うむ、難度がアホみたいな事になっていたが、最初の任務は完了した。後は報告書を出すだけである。

 

 

『作戦報告書:司令番号R8-000352-01:XX-XX-2061

 担当:R-08指令室

 状況:終了

 経過:

  XX-XX-2061:鉄血の巡視部隊を撃破。報告済みE.L.I.Dと遭遇、これを撃破。

  XX-XX-2061:予測されていた鉄血巡視部隊による哨戒がなかったため、偵察を実行、地点A(添付地図参照のこと)まで侵攻。以降の地域1に爬虫類型二足歩行E.L.I.D(添付資料1~5を参照のこと)が大規模な繁殖地を形成していることを確認、一時撤退。

  XX-XX-2061:繁殖地の破壊、爬虫類型二足歩行E.L.I.Dの駆除を開始。一部未確認不定形E.L.I.D(添付資料6を参照のこと)を確認。

  XX-XX-2061:駆除終了。なお、繁殖地に作成された巣内部から鉄血人形の残骸を多数確認。付近に鉄血の勢力が見られないことから、当該地域の戦略的価値を喪失し撤退したものと推測。

  XX-XX-2061:防衛施設設置完了。輸送路形成の開始を申請。』




さて、ようやっと最初に任務が片付きました。長かったですねえ。

ヌカシャイン、2分後の効果が効果なので面白半分に飲ませたらどうなるかわからない、という点がネックで59式の瞳を曇らせるには至りませんでした(

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