人形指揮官   作:セレンディ

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本日の投稿2/2です。
前話がありますのでご注意ください。




新しい任務

「ねーお嬢~。ひま~」

「ええ、もう? この間買った音楽ディスクは?」

「全部もう聞き飽きた―」

「ぇぇ……」

 

 さて、404小隊への補給整備その他支援任務(極秘)が来てからしばらくがたった。表面上次の任務までの休息及び整備訓練期間であるのだが、少し前に最適化率100%を達成した59式にとっては、ただ単にダラダラする期間にしかなっておらず、退屈を訴えて来たので執務室の書類仕事を手伝わせていた……ら、煙を吹いたので適当に音楽ディスクを与えていたところ、聞き尽くしたらしい。この辺きちんと手伝ってくれるGrHK45とかUSPコンパクトとかを見習って欲しい。スオミとかAEK-999とかのデフォルト同好の士(音楽)がいたら、もう少し時間を稼げたのだが……まあ、いい。

 

 ピピッ

 

 グリフィンからのメールがきたからだ。何らかの通達だと思っていたけれど、お誂え向けに新しい任務が来た。救出&護衛移送。派手にやれ、とのことだ。むしろ派手にやってほしい、見せしめの意味も込めて、だそうで。

 

 この時代、人権主義者、という単語には複数の意味がある。一つは、真っ当な、権利意識に目覚めた人形に自分の道は自分で決める権利を与えるべきだ、と考える連中。このタイプは、AI技術者とか、長年同じ人形を雇用というか使うというか、ともかく継続して長年人形に接してきた人が多い。この連中が真っ当なのは、「目覚めた」人形に限定していることだ。次が、人形全てに自由を与えろ、と叫ぶ連中。あらゆる人形は人類と同じ権利を有しているべきだと叫ぶ、いわゆる意識高い()系が多い。現実に即していない理想を声高に語る連中で、私としては全く賛同できない。語ると本が一冊二冊はできそうなのでこれまでにしておくが、そういう連中だ。最後が、この全人形が人類と同じ権利を有すべきだという建前を元に、詐欺、恐喝や誘拐、あるいは殺人、果てはテロまで行う連中、つまるところ過激派という名前を隠れ蓑にしたレイダーども、もとい、反社会的組織存在である。

 つまり、今回のターゲットは、この三番目の意味の人権主義者ども、なのだ。それらが、G&Kの影響下にある都市にちょっかいを掛けてきた、というわけで、ここで人権主義者どもに甘い顔をするとかつけこまれるとかすると、砂糖に群がるアリの如く、さらにさらに多数の人権主義者どもがやってくる、ということになる。害虫の駆除は、お早めに、ということで状況を探るために一人人形が潜入捜査に入ったらしいが、情報をあらかた掴んで送信してきた後に捕まってしまったらしい。その密偵ちゃんの情報で、現状はまだ騙されて配下になっている「目覚めた」人形も、あるいはそうでない人形もおらず(当然である。人形になにかさせるならば、その整備費は割とかかる。私のような自前でできるものを除いて)、密偵ちゃんさえ助け出せれば、見つかろうが騒ぎになろうがどうとでもなる事がわかっている。むしろ、先程も述べたが見せしめの意味も兼ねて、できる限り派手にやってほしい、なんてオプションすらくっついている。さすがにミニ・ニューク投下はやばすぎるのでやらない。ブラストゾーンが形成されかねないものはやばい。自重は捨てたがやって良いラインを超えることはしないつもりだ。逆にそのラインギリギリを攻める心積もりである。

 

「というわけでブリーフィングよ」

「また何がどうしてというわけなのお嬢?」

「お約束よ」

「そっかぁ……」

 

 ワケガワカラナイヨ、という様子の59式をよそに、現状の基地全員、総計十二名の人形+一名を前に作戦区域を壁に投影する。今回は都市内部での作戦であり、作戦区域が狭い。が、一方で警備部隊はそこそこの数がいる。もっとも、高Link人形ならいざしらず、テロリスト生身など未Link人形に劣ることすらある。そこを、回避にくっそ長けた59式と、防御にくっそ長けたAA-12をそれぞれ戦闘にした部隊が攻め込むのだ、まあ大体はどうにでもなるだろう。

 

「でも、派手に攻め込んでいいの? 人質が傷つけられない?」

 

 という、59式の当然の疑問。

 

「そりゃ、私が単独潜入して先に助け出してくるから問題ないよ?」

「……危険すぎませんか?」

 

 L85A1の心配するのも最もだが、

 

「遭遇戦訓練で一度も私を発見したことのない子に、そのことで私を心配する権利はないぞう、はっはっは!」

「……言いたいことはいろいろだけどぐうの音も出ないわ指揮官」

「さて、みんな納得してくれたところで作戦の流れを詰めよう」

 

 戦術は単純。私が先行して密偵ちゃんを救出した後、爆弾をセット、そののち脱出。脱出した段階で爆弾を起爆、混乱する警備部隊を制圧。後は悠々とトレーラーで密偵ちゃんを指定基地まで届けるだけである。

 

「ところで爆弾って何を仕掛けるつもりなのかしら、指揮官」

 

 ものすごくいやそーな顔をしているFive-seveNの問に、私は壁に投影した作戦図に推定爆発圏を表示させ、青く輝く爆弾を取り出すとニヤリと笑った。

 

 ら、PPS-43が卒倒した。

 ちょっとトラウマをいたずらに刺激しすぎたと思うので、暫定的に本作戦の間、PPS-43とGrHK45を配置交代とした。

 

 最近では二度目のスニーク全力モード@59式スタイル。過剰とは思うが、今回は各種ジャマー等も併用しまくって、赤外線センサーであろうと反応しない状態である。

 侵入者があったということで、それなりに警戒しているようだが、やろうと思えば人形の目の前でコサックダンスしても気づかれないことが可能な(マジ)私にとって、ただ見張っているだけの入り口などただのフルオープン玄関に等しい。ただ、不自然なドアの開閉は避けるに越したことはないので、誰かが出入りするときに合わせて中へと入り込む。後は、さすがに触れてしまうとバレるので、その辺りは注意して内部を探索。それなりの警戒では私がいろいろと漁ったりなんだりするのを察知することができず、安普請のせいで壁の向こうであってもサーマルゴーグルで大体の位置が判別できる。資料を漁ってパクり、カギをポケットからスリ取り、金庫の中身を拝借し、貴重な嗜好品もぽっけナイナイ。ついでに弾薬庫から備蓄弾薬をまるごと横領。楽しくなってきたのでついついやりすぎてしまったが、そろそろあれがないこれがないと騒ぎ出しているっぽいので、スリ取った鍵でそこかしこのドアを施錠しながら営倉だか牢屋だかっぽいところに向かう。

 見張りのごろつきを、もうおとなしくしている必要がないので消音ノリンコ59式でサクッと始末してロッカーの中に押し込んで血を拭っておく。身ぐるみ剥ぎたかったが、時間優先で断念……もちろん銃器と弾薬所持金ジャンクの類は頂いた。さて、ヘマしちゃった人形は誰かな、ウェルロッド辺りかな、とか考えつつ牢屋を覗き込んでみれば、良くみた人形だった。通称おばあちゃん、あのロリロリしい外見で? ともかく、ナガンM1895が、ズタボロになって倒れていた。銃器を奪われ片手片足の手首足首だけが露骨に壊され逃げるどころか這いずっての移動すら難しく、そしてお決まりといえばお決まりだが、乱暴された跡もあるのをみて思う。やはりここに巣食うならず者共はレイダーでしかない、と。

 

「起きて、M1895。起きて」

「うぐっ……ぐ、うぅ……な、なんじゃ、もう動けぬぞ……。……59式……?」

「ちょっと違うけど、助けに来たよ、おばあちゃん」

「お、おぉ……じゃが、わしはこれでは動けぬのでな……。手榴弾を一つばかりくれんかの?」

 

 笑顔でとんでもねー事を言う。

 

「却下却下。そういうのをさせないために来たんだから」

「じゃがのう、足手まといの儂を庇いながら逃げられる道理などないじゃろ、おぬし」

 

 渋るM1895をよそに、工具キットを取り出し即席の作業台を組み立て、おばあちゃんの脚を乗せるとぱぱっと直す。腕も同様。もちろん他も同様。

 

「ぬ……? な……!?」

 

 生体部品が乗っていないので、まさにどこぞの未来からやってきた殺人ロボットの如くのため、失敬してきていた手袋と靴をはかせ、他も使って見た目を整える。

 

「それじゃ、逃げよっか」

「ぬ、ぬあ……? え、打って出るのではないのかの? 助けが来るということは、部隊展開も直ぐ側なんじゃろ?」

「そうなんだけどね。こいつがあるから、無理に危険を犯すこともないでしょ」

「こいつ? おぬし……59式じゃないんじゃな。人間かの?」

「いかにも。こうしてると単独行動中の59式にしか見えないから本当に便利だよね」

 

 即席作業台を解体し工具キットごと仕舞いつつ、通気ダクトの下に5mm弾薬箱を積み上げる。

 

「のう……お前様や。さすがにこれは、物理法則を無視し過ぎではないかのう? いや、助かるからいいんじゃけどな」

 

 呆れ顔のM1895のご意見もご尤も。5mmの弾薬箱(一発入り)を積み上げて高所に登るのはまあ常套手段ではあるのだが、物理的な法則とかそういうのに真っ向から喧嘩を売っている見た目であるのは間違いはないだろう。

 

「登れるのだからいーじゃん? 細かいこと言ってるとハゲるよ。下が」

「抜かせ、人形はハゲたりせぬわ。ハゲるのはおぬしじゃろ。下が」

 

 軽口を言い合いつつ、ビスを回してダクトカバーを取り外す。先にM1895に入らせ、私もダクトに入り込む前に、弾薬箱の一つに30分タイマーを掛けた例の青く輝く手榴弾を入れて弾薬箱の山の下の方に並べ、ビスをつけることはできないがダクトカバーをそれっぽくつけて、内部にはダクトカバーを開けたら手榴弾が爆発するようにセットしておく。

 

「儂を直した時も思ったのじゃが、器用じゃのう」

「器用さがウリなので。あと隠密」

「あー、ここまで見つからずに来ておるしの、納得じゃ」

「ま、爆弾も仕掛けたので、30分以内に爆発圏内から逃げるよ」

「ほお、楽しい花火になりそうじゃな」

「卒倒しちゃうぐらいきれいなのを約束するよ!」

「ほうほう! 楽しみじゃなあ」

 

 無邪気に笑うM1895の笑顔を見つつ、これがヌカ・クアンタム・グレネードの爆発を目にしたらどれだけ目が曇るか楽しみだ。

 そんなことを考えつつ、近くにいる部隊とかに爆発圏と爆発時間通知を送った。

 

 

 どおおおおーーーーん

 トレーラーを停め、サイドミラーで爆炎を見る。

 爆発による強風が近くを走り抜けていったのをみた後、トレーラーを降りて振り返れば、青いキノコ雲がそびえ立ち、その足元にあった建物は見事に消滅していた。

 

「の、のう……お前さん、あれ、か、かくばくはつ……?」

 

 M1895が愕然とした顔で聞いてくるが、

 

「いいや。ただの規模の大きい爆発だよ。証拠に放射能汚染ゼロだからね」

 

 とだけ答えて、

 

「お嬢のやることに真剣に悩んでも意味がないと思うよ……」

 

 そんなことをのたまう59式をよそにプラズマライフルを担ぐ。

 

「ん? 指揮官? そないなもん持ち出して何するつもりなんや?」

「うーん、ちょっといやーな予感がね」

 

 ガリルの疑問に答えた直後、それはきた。

 

 ぐるるるるるるぁぁー!!

 

 闇夜をつんざく咆哮、すでに爆炎は消え失せ、燃え残りの火が僅かに辺りを照らす中、残骸の中からまたしてもデスクローが現れる。

 

「チッ……Demolition Expart対象外だったのかしら……まさか生き残るとはね」

 

 なんとなく、なんとなくではあるが、この救出&護衛任務のウラの任務が任務だから、もしかしてと思っていたが、まさか本当に出てくるとは。

 とはいえ、距離を離れたところに出現したデスクローなどもはやただの的。

 プラズマ三発でメロンソーダにジョブチェンジさせてやったとも。

 さ、帰りましょう。

 

「のう……今のあれ、儂、資料で見たぞ。正規軍案件じゃよな!? な!?」

「気にしたら負けだよおばあちゃん、私みたいにお嬢のやることは全部『ふーんすごいね』で済ませよ?」




おまたせしました。
前話と本話と次話で整合性を取っていましたらまたたく間に時間が過ぎていて……。

ちょっとした幸運があったり、なんだかんだがありまして、はてさて。
あ、先日の製造確率アップでやっとカルカノ姉妹が揃いました。育てなきゃ。

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