人形指揮官   作:セレンディ

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閑話7 404小隊

 人間は信用ならない。

 

 製造されてからの経験、苦い思い出や悔しかった記憶、それらはUMP45のマインドマップに重大な影響を与えており、それは人間への不信感となって現れていた。

 

 つい先日だってそうだ、金銭や部品の問題で仕方なくモグリの整備士から整備を受けたら、UMP9が途端に被弾量が増えた。不法入手した整備ソフトを416がインストールして(初めは45がインストールするつもりだったが、416が強硬に自分がやると主張した)整備した結果、UMP9のボディから高価な部品が一つ消えていた。真顔で装填レバーを引いた416に、45は首を振る。事実、そのモグリの整備士は、換金を巡ると推測されるトラブルで、腹部を刺されて路地裏に転がっていた。手を下したのはその辺りの元締め子飼いのチンピラだろう。

 そんなモグリの整備士(故)を頼らなければならなくなったのは、ここ最近の任務がほぼほぼ失敗続きだったことによる。

 

 VIP確保ミッション。確保したところで爬虫類型二足歩行E.L.I.Dが突如現れ、相当抵抗したが銃弾がろくに通らず、VIPをムシャムシャされてしまった。その上、曲がりなりにも居住区付近にE.L.I.Dが現れたために正規軍が出張ってきて近づくことすらできなかった。

 

 ドローン確保ミッション。作戦区域にまたしても爬虫類型二足歩行E.L.I.Dがうろついており、なんとか信号を頼りにドローンを引き上げてみれば、E.L.I.Dの巣に組み込まれて踏み潰された後だった。

 

 VIP確保ミッションその二。VIPがいると目される建物が到着時点ですでに騒がしく、踏み込んで見れば内部は酷く血塗れで、ところどころに手足の切れっ端が転がり、呆れながらVIPルームを覗いてみれば、破砕されたドアの向こうで爬虫類型二足歩行E.L.I.DがVIPが爪に切り裂かれるところだった。

 

 潜入情報確保。爬虫類型二足歩行E.L.I.Dがいて以下同様。

 

 こんな調子で、ことごとく爬虫類型二足歩行E.L.I.Dが行く先々に先回りして作戦をズタズタにしていくのだ。当然報酬などない。特に生かして確保すべき相手がことごとく死んでいることから、心象も著しく悪い。しかし、あのような銃弾が通用しない上に非常にすばやく、なおかつその前肢の一撃がAegisを切り裂くところも見たので攻撃力も著しく高い、それこそ本当に正規軍でもなければどうしようもない相手を前にして、どうやってVIPを守るとか機密情報を確保してくるとかできるのだ。仕方なく、整備費を稼ぐために別の仕事をして、仕事をするために整備費が必要になり、という悪循環。このままではあと一つか、二つ、仕事を失敗したらもう動くこともできなくなりそうだな、という嫌な予測が立った頃、珍しくというかなんというか、ヘリアントスから直接の通信と、任務指示があった。

 

『次の任務は調査、内偵だ』

 

 いつもと変わらない調子で、ヘリアントスは言う。別途、一人の指揮官のプロフィールが表示され、その指揮官は戦術人形の59式によく似ていた。

 

『59式によく似ているが、れっきとした人間で確認済みだ。それで、この指揮官、本部から供給されている資源を遥かに超える活動を行っている。副業なり自分で開発なりで手に入れた資源であるならばいいが、下手にどこかと繋がっていられても困る。資源の入手元を調べて欲しい』

「……ほっとけばいいのに、どうして?」

『言ったとおりだ。戦果がかなり優秀な上に、自力で資源を調達できる指揮官であればそれでいい。逆に、戦果が優秀なだけに、どこかの紐付きであるのは困る。今のうちに紐を切っておきたい』

「報酬は?」

『いつもどおりだ。任務が完了したら、口座に振り込もう。この指揮官には、君たちへの補給任務を発行する予定だ。整備を受けてくるといい』

 

 鼻で笑う。

 戦果が優秀? どうせ人形を使い潰して得た戦果だろう。

 資源が潤沢? どうせ人形を不正に売り払って購入した資源だろう。

 そんな指揮官が、整備? 笑いすぎてどうにかなりそう。

 

 

 本部と司令官の通信に割り込んで盗聴していたところ、あっさり察知されて対応する間もなくあっさり通信から追い出された。再接続もできない。これでも電子戦にはいくらかの自負があったのだが、それが木っ端微塵となった。上には上がいる、ということなのだろうか。

 次の手を考えていると、通信回線経由でメールが着信した。誰だそんな面倒なことをするやつは、とメールを開いてみたところ、例の指揮官の電子署名付き招待状だった。

 

「……」

 

 わけが分からなかった。ARウィンドウを思わず動かして、なにか妙な偶然でたまたまそう見えてしまったのではないかと疑いたくなるほどだった。が、ウィンドウを上下左右斜めどころか裏側から見ても、内容は変わらなかった。

 

 

 指令室を遠距離から観察してみたが、そこもそこで意味がわからなかった。人形が好き勝手生活しているし、例の指揮官は59式によく似ているせいで、あの指揮官用コートがないと判別できない。下手をするとあの後方幕僚を指揮官と勘違いしかねない。設備も意味不明で、多数の風車が立ち並び、浄水器と思しき大型機械が川に突き立ち、挙げ句小型の農場まで敷地内にあった。電子ドラッグをキメたつもりもないが診断プログラムを走らせてみたところ、劣悪な整備状態と継続したストレスへの警告以外は、メンタルは正常だった。

 

 結局、招待状に従って用意された拠点に入ってみた。

 どこかの高級ホテルの一室か何か、と思うぐらい整えられた部屋であり、水、食料、弾薬のストックが多数。キッチンスペース等も設けられてあり、ここから出ないでも生活できるだろう。驚くことに隣の部屋には整備室まであった。正直、このトレーラーハウスを用意するだけでも404小隊全員をバラして売るとかしても大幅に足が出る推測金額。地下への接続を考えると何をいわんやと。設置されていたターミナルで連絡を入れた後、G11を入り口のハッチの上に寝かせて、休息を取ることにした。

 ら、まさかの入り口など無いはずのキッチンスペースから例の指揮官がやってきた。思わず銃口を向けてしまったが、一瞬指揮官の姿が霞んだと思ったら、真後ろのソファに座っていた。

 そこからは、まあ、怒涛の展開だ。

 まず、全員、全身を綺麗に整備された。全身にpingを送ってみると全部帰ってきたのはずいぶんと久しぶり。ただし、作業時間がとてつもなく短かった。キッチンスペースから来た時点で色々とおかしかったが(ダクトの中を通ってきたらしい、通れるものなの?)、こちらも十分におかしい。

 そしてあの指揮官、実に器用に食事を作ってきた。UMP9が感動の声を上げながら食べている。だが、その後に取り出してきた、ウェイストランドグルメとか称したこ汚いパッケージの食品群は、あろうことかガイガーカウンターが反応した。あまつさえ、私達全員に勧めてくるし、あまつさえのあまつさえに自分でそれを食べている。放射能汚染されたものを食べても大丈夫なのかと恐る恐る416が問うていたが、けろりと体内蓄積した放射能を排出するための薬品があり、そのストックは基地で使う分には十年単位で持つとか言っていたが……いくらなんでもそれはない。後で排出できるからといって放射能汚染されたものを食べる勇気、いや、蛮勇はない。というか正気かこの指揮官。染色体損傷とかどうするつもりだろう……とつぶやいてしまったところ、前述の薬品で多分修復されると言っていた。多分って何……?

 次は、一日置いて。銃器の整備をするから、と言われて渡したところ、フルコンディションになって戻ってきたのはいいのだが、使用感が全く変わらないくせに火力が著しく跳ね上がっていた。416がこっそり持っていたレトロ漫画のキャラクターじゃないが、何が起きたのかさっぱりだった。確かにレシーバー等が交換されていたが、弾薬を変更していないにも関わらず威力がここまで上がるとか、もはや何かがおかしい、以外の感想が出てこなかった。本来SMGはARでは威力が高すぎる市街地などの運用を求められてうんぬん、なんて知識が頭を過ぎったが、鉄血相手にはむしろ威力過剰なぐらいが望ましいので気にしないことにした。

 そして、その指揮官の異常性をこれでもかと実感できたのが、指揮官には伝えていない補給日程の最後辺りで実に軽い調子で投げられた、アメリカ式ハッキング方法を学んでみないか、ということだった。アメリカ、という国が亡くなって久しい、というのは割とどころではなく周知の事実だ。第三次世界大戦では核が多数打ち込まれ、居住どころか調査すら厳しい地域であり、国家としての体はとうに為していない。確かに日常会話で用いられる言語はアメリカ英語だが、時折つぶやく母語と推測できる独り言が同じく滅びた日本語であるので、何か亡国同士でつながりでもあるのだろうか。まあ、それはいい。問題は、この指揮官の自作パッケージと思しきハッキングプログラムパッケージが、電脳にとって苦手なことをこれでもかと要求してくるパッケージであることだった。しかも、これでレベル3まであるパッケージのレベル1らしい。容量そのものは小さいので、三つで一般的なパッケージの容量を下回るぐらいだが、処理領域もメモリも足りない。9はあっという間に逃げていったが、416が何故か参戦してきたことには素直に驚いた。

 結局、いくら鉄血のウィルスに対して免疫作成に成功しているとはいえ、新種が現れないとも限らない、という理由で、私も416もよくわからないPDAを貰った。予備も含めると六つ。そして、これはこの電脳が苦手とする作業用にプロセッサやメモリを調整してあるようで、物理的に結線することで凄まじいハッキング効率を叩き出し、軍用セキュリティ、指揮官が言うところのレベル3であろうと真正面からブチ破り、それでいてブチ破られていることを悟らせないというわけのわからない結果を導き出す。電子戦型ではない416ですら、軍用レベルにこそ流石に歯がたたないようだが、民間上位レベルセキュリティ、指揮官が言うところのレベル2ならば破れるようになった。

 ただ、最初に習うのを渋ったときに、反応する間もなく首のセキュリティポートに結線されたばかりか、同じく反応する間もなく全身のコントロールを奪われたときは、凄まじい恐怖を感じた。自身のセキュリティだけに、レベル3クラスの防壁は十分に備えていたはずなのだが、一秒かからずに制圧されてしまったのだ。正直、メンタルモデルにいいように手を加えられるか、あるいは消されるかと内心絶望していたのだが、

 

「これ、できるようになりたいでしょ? さ、がんばろーね」

 

 とだけ指揮官は言って、線を抜いた。その瞬間体の制御が戻ってきて、躯体のログを見たが一切の侵入ログが無かったのはもはや冗談にしか思えない。主観で体が動かなかった以上なにかされたのは確実であり、やろうと思えば私達をまるごと消去することもできる、というのは本当に恐怖でしか無い。本当に、恐怖でしか無い。ここにいる間は、言うことには逆らわないでおこう……。

 

 

「次の任務?」

『そうだ、次の任務だ。お前たちの調査で、指揮官にはどこの紐もついていないことが判明した。強いて言うなら我々グリフィンだ。くわえて、自身で廃棄物処理場から様々なものをサルベージしていたこともわかった。であれば、次の任務だ』

 

 調査任務、と言う名の休暇も長くは続かない。

 ただ、現金こそ少ないままだが、整備状況や物資は段違いに回復している。次こそは何とか任務達成に漕ぎ着けなければ。

 確保任務。G&Kの支配地域の端の方にだが、人権主義者と言う名のテロリストが巣食っていることが確認された。今後の動向を吐かせるためにも幹部を捕獲する必要がある。すでに捕虜救出を兼ねた陽動部隊を出動させてあり(当然私達のことは知らない)、その部隊の影で任務を遂行すればいいだろう。

 ……前のように爬虫類型二足歩行E.L.I.Dが出てこなければ。それだけが気がかりだ。

 

 

『クリア』

 

 9からの無線通信。事前に渡されていた見取り図に従って、幹部のオフィスを一直線に目指す。よくわからないが、辺りのドアが手当たり次第に施錠されており、電子管理もされていないため錠部分を撃ち抜いて強引に開ける。そしてこんな派手なことをしているのに、セキュリティシステムがダウンしているのか、誰もこちらに来ない。むしろ、下の方から爆発音と銃声、罵声などが聞こえてくるのでそちらに掛かりきりなのかもしれない。一方で、奥からは怒鳴り散らす声が聞こえる。なぜ鍵をなくしただの聞こえるので、誰か……もう、一人しか思いつかないが、誰かがスリ取っていって、鍵をかけて回ったのだろう。

 幹部オフィスのドアの錠を撃ち抜き、蹴破る。不運なことに、ピッキングでも試していたのか、一人穴だらけになって転がっており、その向こうでテロリストが四人ばかり、こちらを見てぎょっとしていた。いつの間に、という顔だ。多分セキュリティシステム自体がズタズタにされていたことに今なお気づいていないのだろう。

 

 パン

 パパパン

 パパッ

 

 次いで銃声三種類。幹部以外のテロリストがもんどり打って倒れた。

 

「はぁい、迎えに来たわよ」

 

 確保すべく近づくと、銃を抜いて抵抗してきたが……戦術人形に生身の人間が勝とうとすると、一部の極地とも言えるような連中でもない限りできやしない。つまり、簡単に銃を弾いてその場に組み伏せ、後ろ手に親指同士で拘束できた。一方、部屋にあった端末に、416が早速ハッキングを仕掛けている……いた。終わったらしい。PDAにあらゆるデータを吐き出させている。

 

「嘘だろ、最新式のセキュリティなんだぞ……?」

 

 幹部がうめいているのが聞こえる。だが、416がハックできるのはセキュリティレベル2までであり、それでできてしまうということは最新式どころかバッタ物でも掴まされたのだろう。……もしくはあの人が何かしていったか。

 

「セキュリティレベル2で助かったわ……」

「……」

 

 ぽそりという416のつぶやきは聞き流しておいてあげた。

 さて、後は幹部を引きずって脱出するのみ、という段階で、私のPDAが何やら着信を告げた。

 案の定、差出人は例の指揮官。Type59とか署名してあるが、指揮官の電子印押していたら何も意味がないあたり、相当の愉快犯か。『本日のYA☆MA☆BA』とかいう、思わず消したくなるふざけた件名をぐっと堪え、メールを開く。

 

「……は……?」

 

 思わず声が漏れた。

 内容は爆破予告。犯行声明とかそういうのではなく、味方への被害圏と爆破時刻通知。それはまあいい。

 推定爆発圏が凄まじく広い。しかも中心はこの辺り。時刻は約二十分後。え、間に合うのこれ……と思っていると、G11が脱出用と思しきジップラインを見つけたと報告を入れてきた。

 

「撤収よ。この辺りに凄まじい爆弾があるみたい。さっきのジップラインでとっとと逃げるわよ」

 

 ギャーギャー喚く幹部を静かにさせて梱包し、9とG11の二人がかかりで抱えて脱出。クリアリング維持のために残っていた私と416も、続けてジップラインで脱出。終端にたどり着いたところでラインを切断。爆発による爆風被害を抑えるため、終端のアンカーを打ち込まれていた岩の陰に隠れることしばし。

 

 

 どぉぉぉぉぉぉぉーん

 

 

 拠点をまるごと吹き飛ばし、青いキノコ雲がそびえ立つ。いろいろと頭が痛い事態だが、ガイガーカウンターが反応していない以上、放射性ではない爆発なのだろう……。

 その時だ。

 

 ぎゃおおおおおん

 

 聞きたくなかった雄叫びとともに、拠点残骸の下から、あの爬虫類型二足歩行E.L.I.Dが出てきたのだ。

 全員に緊張が走り、416が9が、G11が、私が、セイフティを解除して銃口を向けようとしたとき。

 緑色の光球が次々飛んできて、E.L.I.Dの右足を砕き、左足を砕き、倒れ伏したところを頭を砕き、次の瞬間E.L.I.Dは緑色の粘液に姿を変えて地面にわだかまっていた。

 

「……え?」

 

 気の抜けたような、9の声。

 それと同時にまた私のPDAが着信を告げる。

 またType59と電子印と一緒にメールが届いた。

 内容は、

 

『スクリプト湧きとか絶許だよね!』

 

 意味がわからなかったのもあり、それまでのイライラが募っていたのもあり、私はそのメールを速攻でごみ箱フォルダに叩き込んだ。




閑話のつもりが偉い長くなりました。
これでもかなり端折ってるので、いっそ閑話シリーズ、とか分割したほうが良かったかもしれません。

とりあえず404小隊の出番はここで終わりです。
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