人形指揮官   作:セレンディ

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帰還

「うむ、世話になったのう」

「元気でね、おばーちゃん」

「何かあったらこの59式に連絡するんだよ! はい、連絡先」

「お主も、お主の指揮官の非常識っぷりに負けるでないぞ?」

「無理」

「ちょっとあなたたち? 全身の制御奪われてトレーラーの横に吊るされたい? ここで模擬格闘戦しましょうか?」

 

 護衛任務の到着点、確かH-23地区司令部だったか。R-08地区司令室から近くはないが遠くもない、そんな距離の司令部にM1895を送り届け、最終段階として救助した本人であるM1895から確認サインを貰った。で、短い時間とはいえトレーラーの中でガヤガヤやったので、M1895は59式を始めとしたうちの人形たちにずいぶんと仲良くなってもいた。

 

「……普通は最高最適化率の人形に人間の指揮官が暴行できるわけ無いだろ、って言うところだけど、実行できそうなのが怖いんだよな……」

「シャラップAA-12。シュガーボム食わせるわよ?」

「勘弁してください指揮官お願いします」

 

 AA-12にシュガーボムをちらつかせると、瞬く間に下座った。HK45がその上で……じゃないな、AA-12のシールドの上で踊りだした。何故?

 

「えい」

 

 その、よそ見した瞬間を狙って繰り出された59式の拳を軽く払って打ち込んだ掌底を避けた59式のカウンターとばかりの足払いを軽くステップを踏んで回避しお返しに打ち込んだ下段突きを

 

 めきゃあ

 我ながらいい音がした。

 

 

「……何しておるんじゃ、こやつらは……」

 

 無駄に高度な動きで華麗にクロスカウンターをキメ見事にダブルKOを達成した59式と指揮官を見てM1895はぼやいた。

 作戦行動中で指揮官は59式に擬態しており、細かな違いはあれど今日あったばかりのM1895には見分けがつかない。しかも二人共アホ面晒してダウンしているため、違いを探す気にもならなかった。

 

「さて、儂はそろそろ行くのじゃ。ここであまり長居してものう」

「そうね。指揮官には、倒れてる間に戻っていったと伝えておくわ」

「うむ、お主らも息災での」

 

 そう言って、M1895はトレーラーから飛び降り、司令部ゲートへと走っていった。それを見てから、グリズリーはトレーラーのハンドルを握る。

 

「確か指揮官はこう……」

 

 嫌な予感がしたFive-seveNが止めに入ろうとするが既に遅く、軍用車両の強力な馬力で一気に動き出したトレーラーは、少しばかり中身をシェイクしてから止まった。

 

「この、免許ないなら触るんじゃないわよ!!」

「指揮官だって免許持ってないじゃない!」

「このご時世にどこが免許発行するのよどこが!」

「指揮官はPMC時代にずいぶん練習したって」

「このボタン何?」

「ばっ!?」

 

 『射撃体勢』と日本語でラベルの書かれたボタンを(当然この場の人形たちは59式を除いて誰も読めない)迂闊にも好奇心に駆られたSPP-1が押すと、車体からアウトリガが四方に飛び出し地に突き刺さり、車体上部から大砲が姿を見せた。そう、大砲である。

 

「……」

「……」

「……」

 

 無論、ただの大砲であるわけがなく、いうなれば迫撃砲のようなもので、砲撃支援が必要になったときに指揮官がこれを操ってぶっ放せるように、という移動支援砲座としての機能を指揮官がトレーラーに持たせていたことが判明した。

 

「……しまって」

 

 そして味方司令部の近くとはいえ、そんなものを展開させたままにしていると色んな意味で疑いをかけられる。Five-seveNに静かな声で促されたSPP-1が再度ボタンを押すと、大砲が格納されアウトリガが地から引き抜かれてこれも格納された。

 

「まあ、あれや。安全運転や、安全運転」

「そうですねぇ〜」

 

 L85A1がハンドルを握り、幾度かその操作感を確かめた後、それなりの速度でR-08地区へと向かい始めた。

 

 

「……んぉ?」

 

 ぱち、と目が開く。確か59式にいいのを入れたがいいのを貰った所で記憶が途切れている。うっかり気絶したのだろうか。最近気絶することが多い気がする。

 

「お目覚めですかぁ?」

 

 間延びした声が横からした。見てみれば、前を向いたままのL85A1がトレーラーのハンドルを握っており、私が運転するよりは相当ゆっくりだが、基地へと向かってトレーラーは動いていた。私が起きたのはナビゲーターシートであり、トレーラーには寝台になるようなものを積んでいないのでここに座らさせられていたのだろう。

 

「運転なさいますかぁ?」

「いや……急ぐような用もないし、このままでいいや」

「かしこまりましたぁ」

「59式は?」

「先程再起動してピンピンしてますよぉ」

「ならいいや」

 

 外を見る。意外にもう司令室の近くだ。司令室近隣の、見覚えのある農場が見える。

 

「……おや?」

 

 見える……が、何か、余計なものも見える。

 

「どうされましたぁ?」

「L85A1、停止。運転変わって」

 

 Perceptionももちろん鍛えたつもりであり、実際に私の感知能力は高く、ときに人形の感知能力を上回ると自負するときもある。銃声と、マズルフラッシュ。確かに聞こえたし、見えた。即座にL85A1がトレーラーを停め、運転席へと入れ替わり、後部車両への通信用マイクを取る。

 

「総員、戦闘用意。司令室付近の農場がレイダーに襲われているのを確認したわ。これより急行して介入する」

 

 放送の間にL85A1は後部車両へのハッチに消えた。

 

「何かにつかまってね、飛ばすわよぉっ!」

 

 アクセルを踏み込み、一気に加速する。トレーラーの巨体はそれ自体が武器であり、防具であり、そして暴力的な使い方が可能だ。レイダー達の近くまで飛ばすにつれて、正面装甲が銃弾を弾く音が激しくなる。

 

「対衝撃用意!」

 

 それだけ叫んで、ハンドルを一気に切りつつサイドブレーキを起こす。後部車体を振り回し、レイダーの何人かを轢き潰したところで後部車両ハッチを開放、人形たちが飛び出した。そして始まる銃声と悲鳴のオーケストラ。

 逆側、つまるところ近隣農場側は、早くも気づいて応戦していたのか、侵入はなく被害はそうでもないようだ。レイダー掃討は人形たちに任せて農場側の負傷者の手当に回る……も、慣れているのか簡単な手当で済むだけの負傷ばかりだった。

 レイダーの掃討から後始末までは滞り無く進んだ。農場を襲っていたレイダーなので、レイダーの物資は農場のものだろうとまとめて渡したところ、資材として役立てられないので酒か何かで買い取ってもらえないか、という打診を受けたので快諾した。現状、司令室では酒の材料である食料はほっといてもバンバン生産されてくるため、時折収穫を近所の農場からアルバイトを雇って手伝ってもらっている。給金ももちろん出しているが、一緒に酒も出しているため人気が高くむしろ競争率が1を越えているので、生産量を増やしてもいいかもしれない。

 とりあえず、酒と食料は後で届けることにして、レイダーから剥ぎ取った物資をトレーラーに積んで農場から出発した。無論、我々がいないときに撃退とか抹殺とかしたレイダーの物資は、持ってくれば同様に酒と食料で買い取るし、銃器や農耕機械のメンテナンス、対応する銃弾の供給を対価にしても良い、と伝えておいた。

 

「……みんな、酒蛮族になった……」

 

 ぽそっとシプカがつぶやいていたのが印象的だった。

 

「え、そう? レイダーなんて歩く資源でしょ?」

 

 返事をしたら、じっと見つめられ、

 

「そうだった。指揮官が一番の蛮族……」

 

 とつぶやかれた。

 解せぬ。こんなにも資源を生産しているというのに。

 

 

 数日後。

 

「……んー?」

 

 どうにも違和感が拭えない。

 我がR-08地区司令室は、そもそもの人数が少ない。整備士よこせと何度か言ってるが未だにこないので、毎週のように陳情と督促を上げるのはいつものこと。ともかく、その人数が少ないために、なんというか、人数分の気配、というものを常に感じている。が、その気配が、最近は目に見える人数から少し増えている。敵対的な感覚はしないため、気のせいかと流しかけていたがやはりなにか気になる、むずむずする、気持ち悪い、といった感じを受けている。誰かがDinargateでも連れ込んだか? 飼うのは構わないから、スパイ機能付きDinargateを指令室に連れ込むのはやめろ、きちんと処理してやるから、とは張り紙で告知しているのだが……はて。

 

「指揮官?」

 

 ふと、手を止めて意識に集中していたせいか、USPコンパクトが怪訝そうにこっちをみている。

 

「んー、なんかいるな。USPコンパクト、ちょっと見てくるからしばらく後は任せたわ」

「へっ!? あ、は、はい、行ってらっしゃいませ!?」

 

 見回りと称して、いや、事実見回りなのだが、そうしながらあちこちを回り歩き、気配を一つずつ目視してマーキングしていく。基地職員のおっちゃんおばちゃん達は全員確認できた。今日はアルバイトはいない。人形も一人ずつ確認していく。

 残りは一人、59式。だが、残る気配は二人分。

 59式の部屋に向かっていると、中で何やらドタバタした気配を感じる。さて、いるのはDinargateか、犬猫か、大穴で鉄血ハイエンドモデルか。

 指揮官権限で59式の部屋のドアを強制開場して開ける。

 

「ど、どうしたの指揮官様!?」

 

 思いっきり動揺している59式がいた。しかもなんだその指揮官様って。あなたはふてぶてしく「ちょっとお嬢、なんでノックもしないで入ってくるの」とかでしょうに。

 

「んー……」

 

 さて、59式の気配は確認できた。残る一人……は、そこか。もっともらしく部屋のあちこちに散らしてある、ガンケース、椅子、弾薬箱を積み上げ、その上に乗る。こうすると小柄な私でも天板に手が届く。一枚押し上げ、屋根裏を覗き込んで見れば……と、いた。

 

「……のう59式よ、だから言ったじゃろ、この指揮官には隠れても無駄じゃと。素直に打ち明けておいた方がよかったんではないかの?」

 

 人権主義者どもの拠点で救助したときの格好そのままのM1895がいた。




あっぶねー……おばあちゃんの名前間違えてた……

最近VRCなんぞ始めてみまして、うろうろしております。
色々と漁ってみて、UMP9だったかはアバターがあるみたいですが、
やはり59式はない……。

ところで、サトハチカリバーくるって本当ですか?



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