人形が足りない。
それは確実である。このままでは二部隊しか運用できず、三方面作戦……は私がガチ無理して一方面請け負うとして、四方面作戦を強いられたときに戦わずして負ける可能性がでてくる。
ここのところの任務報酬やら、差出人不明で何故か届いたやらで資源は潤沢にあるため、人形製作依頼をすべきであろう。さて、ここで欲しいのは何か、と問われれば、RFやMGの後衛高火力組が欲しい。AA-12にコンビを組ませてやる、あるいは沢山いるHG人形の演算能力を最大限活かすべく、それぞれ一体分の注文を出しておくべきだろう。あといい加減本当に追加整備員寄越せ。ほんと、出撃後はてんてこまいなんだぞ……。
さて、時折支給される製造依頼チケットを2枚切り、RF向け配分とMG向け配分で提出。快速チケットも良し。私の整備の負担が増えるのを恐れて切ってこなかったが、いい加減増員要求も兼ねてたくさん切ってしまうのもありかもしれない。改造維持はともかく、整備自体はさくさく進められる。私が根性入れて全部担当、は、私がパンクするので、USPコンパクトに整備パッケージを作ってインストールするのもありやもしれぬ。
……ていうか、やるか。
「おーい、USPー」
「はい、なんですか?」
「整備、興味ない?」
唐突だが、近くで執務の手伝いをしているUSPコンパクトの前に、PDAで概要を表示させて見せてみた。
「え、ええっ!? わ、私がですか!?」
何故か、戦闘に出ろと言ったわけでもないのにガクガクし始める。もしや、プレッシャーにも弱いタイプ?
「大丈夫大丈夫、このモジュールがだいたいのことは指示してくれるし、プロテクトロンとかセントリーボットを指示して防衛するときに、ヤバくなったやつを一度撤退させて修理して再出撃とかできるようになるっしょ?」
「修理して再出撃……」
ただ、私がチューンしてあるうちのプロテクトロンはともかく、セントリーボットに一時撤退が必要になるシーンとか、相当ヤベーやつが集団で攻めてきたとか、伝説のデスクローが集団で押し寄せてきたとか、鉄血の波状攻撃第105Waveとか、そういうのかな……? あと、セントリーボットは撃破されると核爆発が起こるので要注意……まて、
脳天気にセントリーボットちょーつよーいwwwwwwミサイルいたのーwwwwwとか言ってた過去の自分を殴り倒したい。核爆発が起こる可能性のあるものを放置してるんじゃないー!!??
「し、指揮官……? その、何か急に無表情になったと思ったら、青い顔して脂汗流して……もしかしてお昼か何かにあたっちゃいましたか?」
失敬な、だが都合のいい勘違いをしてくれているので、それに乗ることにする。
「……ちょっと外すわ。その、整備と修理パッケージのインストール、真面目に考えててね」
顔色がヤバイのは自覚しているので、その顔色のまま執務室を出て、トイレの個室にこもり、便器に座り込む。
セントリーボットと、ミニニューク以外に核爆発を起こすものを作っていないか、必死に検討した。とりあえず、この二つ以外には無かったはずであることを思い出して、ホッとする。
セントリーボットの運用を見直さねばなるまい。場合によっては、直庵機代わりのアサルトロンやアイボットを多数用意することも検討せねばならないだろう。このご時世で近接機とか資源を溶かしたいのか、としか思わなかったが……破壊されたらマジで何が起こるかわからないセントリーボットを破壊されるよりはマシだろう。幸い、資源備蓄をある程度進めていたから、プロテクトロンやアサルトロン量産も可能だろう。射撃補助も欲しいが……ロボブレイン頭はなあ……。セントリー頭やプロテクトロン頭、あるいはハンディー型で射撃援護機を作ることも視野に入れておくか。
よし、なんとかなるなんとかなる、備えあれば憂いなし、私は大丈夫!
コンコン
と、考えていたところに、トイレ個室のドアがノックされる。
「……ん? ん、はいってまーす」
あれ、掃除の時間だっけ? というか、近くの個室も空のはずなんだけど。
「あの、指揮官、私です。その、お帰りが遅いので……」
USPコンパクトだった。そして、ドアの下の隙間から、トレイに載せられたナプキンと下痢止め一包分。
「……。あ、いや、大丈夫よ、違うからね……? その、違うからね?」
執務室に戻った後、USPコンパクトは、整備と修理パッケージのインストールを承諾してくれた。
「いやー、助かるわー」
「きょ、恐縮です……」
簡単な、銃器整備、躯体整備演習をさせてみたところ、私より多少時間はかかるものの、整備や修理自体は問題なく行えることがわかった。驚くべき所は、予めRobotics Expertを併用した完全な設計図を与えておくことが条件だが、改造状態を維持することすらできた。なんというか、このパッケージは我ながらヤバイ出来ではないのか? とすら思ったが……後で知ったことだが私が私の配下にインストールするのでない限り、ただの破損パッケージとして扱われることがわかった。どぼじで……? 同様に、フォールアウト時空産の薬剤なども、この間の水の浄化実験と同じ条件、つまり、私か私が改造した人形が投与する、もしくはされる場合でしか効果を発揮しなかったことも報告された。どぼじでなの……?
さて。
あれだけトイレに篭って懊悩していたんだ、製造依頼の結果も出てきていることだろう。
執務室に戻って、執務用タブレットをなぞり結果通知を呼び出す。
RFの方は、ItBM59。……えーと、あの子か。括りは低レアリティだったが、まあ問題ない。ライフルならば銃器を改造してしまえばハイエンドモデルじゃない一般的な鉄血にはなんだってオーバーキルだろう。ところで、イタリアの銃器がモチーフの人形って、華やかな格好してるのが多いよね、なんでだろう。ま、悪いことではない。そしてこの子も59である。深い意味はない。
MGの方は、M1919A4。あいつか。レオタードとタイトスカートが融合したようなやつ+白ストッキング+コートの。オフィス風が元なのかしら……まあいい。ハロウィンにはGrMk23にロッカーに閉じ込められていたっけな。メンタル的な最大の特徴は一人称がボクということだろう。
そして案の定、ペルシカリアからのメール着信である。ここまで読み進んだらメールが飛ぶようにでもされているのだろうか……ぬ、今回は件名に全部書いてあるわけではない、だと……?
『やあ指揮官。
この間はうちの子とかうちの子とかが世話になったね。立場上手出しがそこまでできなかったから助かったよ。
M4にもメールは件名に全部書くなと怒られたから本文に書いているよ。SMSでいいんじゃないかな、これぐらい。
ともかく、今回もお礼の代わりに、人形を一人つけておいたよ。
スプリングフィールドだ。以前イメクラで受付をやっていた子だよ。面識のある子の方がいいだろう?』
天丼……。マジでスプリングフィールド来やがった……。いや、まあ……いいんだけどね……。
到着スケジュールは今晩早々。この間に引き続き、歓迎会かな? 後は、M1895は最適化率がある程度高かったために不要なプロセスだったが、製造直後の人形には必要だろう、というのがデータセンターに溜め込んである、記録上のものも加えた最初期から最近までの作戦報告書一気読み会である。無論、人形なのでメンテナンスソケットにケーブルを繋いでデータインストール、という形だが。後は、酒が好きかどうか、かな。私には重要である。
さて。
「はーいちょっと食べながらでいいから聞いてちょうだいねー」
晩ご飯タイム。見回りなどはタレットとプロテクトロンとアイボットに任せ、人形たちを全員集めた。
「連絡が二つ。まずは増員ね。少し前にヘリが来たから、知ってるのもいると思うけど、新しい人形が増えたわ。ライフル人形のItBM59と、スプリングフィールド。マシンガン人形のM1919A4よ。早いところ馴染めるように仲良くしてあげて頂戴」
「ベレッタBM59です。様々な改造を施された私なら、皆さんを失望させることはないでしょう!」
「ボクはブローニングM1919。よろしくね!」
「スプリングフィールドです。お役に立ちますね」
新規製造組二人は性格がデフォルトに近いため、よく聞いたデフォルト挨拶とほとんど変わりはなかったが、問題はスプリングフィールドだ。同様にペルシカリアが送りつけてきた人形、という意味ではAA-12と同様だが、M1895と同じく新規ではなく、経験を持った人形が配属されてきたのだ、性能は期待してもいいだろうが性格がどのように変化しているかわからないのが玉に瑕。とはいえ、問題のある性格になった人形を送りつけてきはしないだろう。
「それと、もう一つ。本部にいっくら督促しても来る気配がないから、人形の希望者に整備と修理パッケージを導入することを検討中よ。ただ、私が作ったのだから、完全な個人カスタムパッケージになるから。興味があるのは、後で私の執務室まで来て頂戴」
「それでしたら、私が」
なんと、挙手したのはスプリングフィールド。
「おやおや。新入りだとそれはキツそうに思うのだけれど……?」
いかな一気読みによる経験インストールができる戦術人形だとはいえ、整備のアレコレを学ぶのと一緒に進められるとは、ちょっと考えにくいのだが、その難点は当の本人によって覆された。
「指揮官、私は新造ではなく、移籍ですからね。最適化もそれなりに進んでいますし、いろいろとコツも弁えておりますよ」
と、言うので、後でパッケージをインストールすることにして、その場は酒を出して宴会へと突入。翌朝、死屍累々の雑魚寝が広がる中、私と、M1895と、スプリングフィールドだけが生き残っている。そう、R08地区指令室飲まないやつ三号だった。
瓶を片付け、相変わらずの吐瀉物を掃除し、そこかしこに転がるトドどもに一日分の減俸を宣告し(だから宴会をするのはいいが潰れるまで飲むんじゃねえと私は言ったよな?)、後はプロテクトロンに任せてM1895とスプリングフィールドと朝食をとる。
「……壮観じゃなあ。まさか、ここまでの騒ぎとなるとは思うておらんかったぞ」
「酒に関してはホント自重して欲しい……」
適当に作った、パンの内側を切り抜きフライパンに乗せ、その枠となったパンの内側にベーコンと卵を落として塩コショウチーズ。切り抜いた内側を上から被せて押しつぶす。まあそれだけの簡単なメニューだが、なにせ食堂担当まで酔いつぶれているのだから私がやるしか無いので、なんとなく前世で食べたメニューを思い出して作ってみた。
「気軽に食える良いメニューじゃな。この間、どこぞの本部では宴会にベジタブルオムレットレーションが出て阿鼻叫喚じゃったようじゃぞ」
「……食べたことはありませんが、あれはそんなに酷いのですか?」
「まともに食べたのは味音痴のライフル一人だけじゃったそうじゃぞ?」
「その報告だけでどんだけヤベーのかよく分かるわ……。ここでも酪農とか畜産とか始めようかしら」
「む? できるのかの?」
「見た目クソヤベーものを飼育することになるけど」
「……なんじゃと?」
肥料生産所。
文字通り肥料を生産する施設である。外観は粗末な餌置き場と猫車一つ。つまるところ、バラモンを飼育し、糞を集めて肥料とする施設なのだ。
んもぉ~
バラモンがのんびりと飼料ケースに二つある頭の双方を突っ込み、指令室内の雑草を刈り込んだものをもしゃもしゃと咀嚼している。
「……なんじゃこれ……」
「なんでしょう、これは……」
この施設は、建築すると何故かバラモンが付いてくる。ミルクを絞ってよし、撃ち殺して肉にするも良し。バラモンが死亡した場合の再補充は施設破損扱いなので僅かな資源で行なえます(
「バラモン。戦後のアメリカで見つかった、放射能変異を起こした牛らしき生き物。E.L.I.Dと違うのは、性格は無抵抗主義レベルで非常に温厚、乳の生産もできて、肉も食える。荷重に対してとても頑強だから、原始的な荷馬として扱うこともできるタフネスも持ってる。問題はこの見た目だね。頭二つとかヤベーし、全身無毛なのもやべー何かにしか見えないもの」
「そういう問題でしょうか……?」
「むしろこいつどこから出てきたんじゃ……?」
頭が痛い様子の二人の前で、バラモンの頭の片方が飼料ケースから顔を上げて、M1895をそのクリクリした目で見つめていた。
とりあえず新入り三人の銃は改造した。ライフルの発射レートを引き上げ、ハンドガン人形の随伴による射撃補助があれば、Dinargateの一群さえ処理可能にちがい……いや、無理か。M1919A4は、純粋にスペックアップを行った。MG人形の問題は常にリロードにおける火力停滞である。最適化が進めばその時間は短くなるとはいえ、現在時間が短くなることは悪いことではない。
次は、部隊数増加のための申請書類である。……どういう理屈かしらないが、基地に編成できる部隊数の上限は申請することで無条件に増やすことができる許可制であるが、本当にどういう理屈かしらないが、申請書類はそれなりの金額でPXで売られている。それなりの金額で。それなりの金額で! それなりの金額で!! ていうか高えよ!? ダイヤ880とかそういう次元じゃない! ともかく、PXに向かったところ、店員がダウンしていたので(カリーニンではなく、専属の従業員)、何故かスプリングフィールドが店番をしていた。
「……なんで店員を?」
「あら、指揮官。ご存知とは思いますが、私、本部では受付や臨時店舗店員等をしておりまして。経験がある以上適任と思いまして、専属店員の方に了承を得て臨時店員をしております」
「……あ、そう。コーヒーの配給は自力生産できないから、うちじゃカフェは開けないわよ? というか、生産物的にバーになるんじゃないかしら」
「いいじゃありませんか、バー。私、各種カクテルレシピやスナックレシピ等も覚えておりますので、問題なく。ところで指揮官、PXに来たからには何かをお求めでは?」
「あー。そうだったそうだった。部隊拡張許可申請書ちょうだい」
「かしこまりました」
頷いて、ごそごそと棚の申請書類を取り出すスプリングフィールド。小憎らしいことに、前世のプリペイドカードのように、購入処理をかけないと書類が有効化されず、あまつさえ指揮官級認識IDでないと購入できないシステムになっている。つまり、人形に命令して持ってこさせても無意味なのだ。後は、バレても面倒なので、ハッキングで処理をごまかすということもしたくない。技術的に可能でも、辻褄合わせから露呈する恐れも十分にあることだし。
「G&K認識票のスキャンを……はい、確かに。後日指揮官の口座から引き落とされますが、足りない場合は給与から一定額を残して控除されますのでお気をつけくださいね」
「あいよー。まあ、こっちだとろくにクレジット使えないから、んー……多分8部隊目ぐらいまではなんとかなるんじゃないかしら」
「ご購入されますか?」
リーダーを持ってにっこり笑顔のスプリングフィールド。
「買わないわよ、部隊編成できるだけの人形がいないんだから……あ、そうだ。結局の所、あなたの最適化率っていくつなの? ペルシカリアの書類、めっちゃ雑でその辺の細かい情報、ちっとも書いてなかったのよ」
「あら、指揮官。ご存じなかったのですね。どうりで……」
「そーなのよ。で、いくつ?」
「十一です」
「……十一? 六十一とか七十一とかでなく? イレブン?」
「はい、イレブンの十一です」
めっちゃ笑顔で、スプリングフィールドは言い切った。
「十一って、新造人形に毛が生えたレベルじゃないの!? 店番してないであなたも作戦報告書読書会に参加してきなさいよ!?」
「……指揮官」
すっ、と指を一本立てて、カウンターごしに、至極真面目な顔をしてスプリングフィールドは言う。
「外見年齢が思春期以降の自律人形にそういうオプションがあるのは事実ですが、私はそのようなオプションは未搭載です」
とりあえず問答無用でハックして躯体動作を完全停止させてから、データルームにそのまま引きずっていった。
なんなのよこの言動のセンスがオヤジのスプリングフィールド……。
気がついたらお気に入りが100件を超えていました。
いつもありがとうございます。
更新を追っているドルフロ二次創作の方々が、
次々コラボしているのを見ると、私もコラボしたくなりますねえ……。