人形指揮官   作:セレンディ

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警戒態勢

 DinergateとScoutがそのへんにいる事自体も問題だが、何より問題なのは、そうやって隠れながら光学観測を受けていたっぽいことである。

 防壁もあるにはあるが、さすがにDinergateの強力な直接打撃を受けて無事とは限らない。

 

「カリーニン」

「はい」

「ステルス型第一種警戒態勢に移行。すでにここは光学監視下にあることを念頭に置いて、警戒開始」

「了解です、発令しました」

 

 基地全人形の視覚半分に通知を出す。人形なので読んで理解するのは一瞬だろう。後はそのまま、休日プランで活動しつつ、警戒態勢を作らせる。この段階で非戦闘員は地下バンカーへ全員避難。

 

「それと、59式を呼んで。ダミーも一人」

「はい」

 

 合わせて59式を呼ぶ。

 

「はーい、有能な59式様に何の御用かなお嬢!」

 

 執務室に入ってくるなりのその口上と例の有能のポーズ。いつもと変わらない59式の様子にクスッとする。その59式の後ろに、同じポーズを取っているダミーが一人。

 

「警戒態勢に入ったから、私とあなたのダミー一人の服を交換するわよ」

「はーい」

 

 さて、どうせこっちを観測してるだろうから、それなら混乱させてやろうじゃないか。

 更衣室にダミーと入って服を交換。……下着はしていないぞ。プラスしてカラコン等もしておき、髪型を弄ってから更衣室を出る。……意外に凝った髪型してるのよねえ、59式。おっと、ダミーからメガネを奪っておくことも忘れずに。

 更衣室から出る。ダミーはキリッとした表情(それは私の真似なのか?)、私は59式っぽい笑顔を意識して。私と59式は暫しにらみ合い……お互いに

 

「イマイチ」

 

 とつぶやいた。なんでやねん……。

 

「まあともかく、この有能な59式はこれから指令室の防衛設備を増強してくるから感謝するといいよ!」

「それじゃあ私はいつもどおりだね! 訓練も兼ねてちょっと走り回ってくるよ!」

「了解!」

「りょーかい!」

「……指揮官様。めちゃくちゃ紛らわしいので、せめて執務室ではいつも通り振る舞っていただけませんか……」

「あらそう?」

 

 苦笑するカリーニンの横で、USPコンパクトがこくこくと頷いていた。

 

 

 

 59式ダミー(グリフィン指揮官用制服)を先頭に、私&ダミーもう一人を伴って移動して、外壁の上のマシンガンタレットを、ヘビーレーザータレット二、スポットライト一、ミサイルタレット一のカルテットに換装していく。もちろん電力供給も忘れずに。核融合発電機二連装は伊達じゃない。

 指令室内で人形とすれ違うと、真面目なタイプの人形は敬礼をしてくるが、きちんとそれが私ダミーに向いている。入れ替わっていることはもちろん司令室内通信で周知してあるが、違和感なく偽装に付き合ってくれているようだ。私ダミーいわく、普段よりテンションを三十%ぐらいに落とせば割と違和感なく偽装できるそうな。私ってそんなダウナー系か……? あるいは、そもそもの59式達のテンションが高いのか……? まあそれはいい。スポットライトのおかげでタレット達の射程が伸びているので、時折射程を読みそこねたのか、ミサイルが唸りを上げて飛んでいって爆発する音が聞こえる。

 さて、これで時間を稼ぎつつ、この侵攻を本格的に撃退する術を考えねばならない……といっても、大体は決まったようなものだ。これだけの隠密優先的な侵攻の仕方をしてきているのだから、その背後には鉄血ハイエンドモデルの誰かがいるに決まっている。それの撃破、撃退、ないし捕獲が勝利条件。鉄血お得意の、ロー、ミドルモデルを大量に引き連れてのハイエンドモデルの侵攻、というわけで数だけは非常にあるに違いない。つまり、この戦闘の結末は、こちらがハイエンドモデルを見つけてぶっ潰すか、鉄血部隊を壊滅に追い込むか、あるいは我々が壊滅するか、物資切れで降伏するかのいずれかか。もっとも、食料の生産が可能であり、溜め込んだ物資もあり、極論鉄血人形を拾ってきて解体すれば物資が得られる我々に物資切れはほぼありえないが。

 

『指揮官、質問が』

「ん? スプリングフィールド、どうしたの?」

 

 次の手を考えていたところに、スプリングフィールドから通信が入る。

 

『少し、外壁に上がって狙撃してきても良いでしょうか?』

「んー。いいけど、カウンタースナイプが怖い。JaegerかJaguarのどちらかを確認したらすぐに戻ってくることを約束できるなら」

『了解です』

 

 言うが早いか、銃声一つ。そんな遠距離射撃はできないと思ってたんだけど、実際は違うのかもしれない。はて。とりあえず。

 

「グリズリー、M1895、急で悪いんだけど、スポッターしてあげて」

『了解よ指揮官』

『了解じゃよ指揮官』

 

 追加で二人に指示をだし、少し考えて。

 

「それから……処刑人」

『なんだ、指揮官』

「こういう作戦を立ててくるやつに心当たりはある?」

『この手の追い詰めるようなやり方だと、当然私だ。だが、狩人や侵入者も候補に上がる。夢想家も候補だろうな、としか言えん』

「情報が少なすぎてわからない了解サンキュ、とりあえず迷彩ドローンでの索敵を続けるしか無いか」

 

 これは持久戦の構えかもしれない。いっそ、フルスニーク体勢で私が暗殺に行くのも手か。

 

 

 

 ところが、持久戦目的で食料を増産でもするかな、と思っていた夕方ごろ、事態を動かすピースが転がり込んできた。

 

『指揮官、報告です』

「あいよ、どうしたのスプリングフィールド」

『鉄血部隊を率いているハイエンドモデルを目視、そのまま画像として切り出しました。送ります』

「……は? え? あ、ありがとう?」

 

 そう、今回の襲撃を率いるハイエンドの情報がポロッと。

 遠目の写真ではあるが、電子拡大ではなく光学拡大のために姿かたちをはっきり捉えている。

 ロリロリしい外見なので破壊者かと思ったが、それにしては外見特徴が不一致すぎる。いわばトレードマークとも言える銀髪ツインテと榴弾砲二丁持ちなどではなく、黒い髪でまとめずにロングを後ろに流し、両肩に……ツインマシンキャノンかこれは。マガジン部が大きく装弾数が大きそうだ。そしてだいたいへそ少し上辺りから上しか見えていないが、なんだこの、この……ええい服飾用語には疎いんだ、とにかく露出度の高い、肩紐なしかつ前開き紐閉じかつへその拳ひとつ分ぐらい上までの丈のビスチェとでも言えばいいのか、私から言わせてもらえばよくそんな格好できるな、代理人を見習えよ、という出で立ちのハイエンドモデル。(もしかしたら、マシンキャノンの接続部のせいでまともなデザインの衣装が無理なのか?)問題は、私はこいつを知らないということだ。案山子、処刑人、狩人、侵入者、破壊者、錬金術師、夢想家、設計家、計測士、代理人、そしてウロボロス。どれも該当しない。

 

「知らないなこいつ……」

 

 であれば問い合わせるしかあるまい。

 

「処刑人、私こいつ知らないんだけど、あなた知ってる?」

『なんだ、我々のことについても何でも知っていそうなものだったが、そうでもないのか。……ああ、こいつは法官だ。ジャッジとも呼ばれている』

「良かったわ知っててくれて。性能は?」

『端的にいうと、高機動高命中対複数。両肩のマシンキャノンで掃射しつつ、リロードの隙は特徴的な電磁地帯を生成する蹴撃で潰してくる。バリアデバイスも搭載していて、マシンキャノンのエネルギーを一部回すことでかなり強固なシールドを形成できたはずだ』

「……うぇ。かなーりウチをメタっていない?」

『当然だな。私が敗れた以上、単純火力ではこの指令室は陥落しないだろうからな。鉄血工造は、物量と狙い撃ちでここに対応することにしたわけだ。さて指揮官、どうするつもりだ?』

「そうね、暴れさせてもらうわ」

『ほう?』

 

 通信越しの処刑人の顔が、興味深そうに笑った。

 結局、法官をハックしてウィルスを掃除してやらねばならないので、私が出なければならないのも事実なのだが、おそらく非常に精度の高いマシンキャノンの掃射の前に、うちの回避型の人形を出すのはカモにされるだけだからだ。その辺を何とかできるのは、AA-12と処刑人と、私だ。後は、

 

『お嬢ー? 突撃する気でしょ、私も行くからね』

 

 59式も。

 すぐにでも出ていきたいところだが、その前に少しばかりやることがある。

 が、

 

「お願いです指揮官やめてくださいお願いします後生ですからお願いします指揮官それ以外なら何でもしますから」

 

 大砲でクァンタムグレをぶっこみ、雑魚散らしを行う案は、PPS-43の土下座により中止となった。いや、その、ごめん……どこまでトラウマは根深いのだろうか……。

 

 

 

 さて、発見以来法官の位置は常に迷彩潜伏型アイボットで把握している。

 さすがに、硬いやつ勢揃いとは言っても、無策で集団の中に乗り込めば袋叩きにされて蓮コラにされるのがオチだろう。よって、法官には向こうからこちら側に来てもらわねばならない。PPS-43の懇願によりクァンタムグレを投げ込むことこそ中止になったが、逆に通常仕様のプラズマグレネードを投げ込むことについてはやる気なので、大砲を改造したグレネードスロワーにて法官のいるあたりへ各種グレネードを放り込んで炙り出し、ライフル系人形達で取り巻きを引き剥がし、私以下四名で法官を取り押さえる計画である。

 

「うてーっ!」

「てーっ!」

 

 ぽん、と気の抜けるような音とともに射出されたプラズマグレネードは、施した仕掛けにより一定距離を飛ぶとピンが外れ、地面への落下よりおよそ半秒後に爆発する。発生した球状のプラズマが消え去った後には、焼け焦げ、半ば融解した地面と、ぐしゃぐしゃになった鉄血兵の残骸。上空のアイボットを観測手として、そのままポンポンと通常のフラグレ、冷凍グレ、パルスグレ、焼夷グレ、と普段使わない爆発物のオンパレード。なお、モロトフカクテルは瓶の強度の都合上発射できない。加えて外壁の上からは、スプリングフィールドに加えてItBM59も狙撃に参加。つまるところ、襲撃を察知して反撃体勢を整えてしまった以上、向こうの勝ち筋はもはや強引に攻撃を実行して押し切るしかない。が、グレネードの雨であぶり出され、下手に散発的に近づくとヘビーレーザータレットとミサイルの餌食。残るは撤退か、強行かだが、バックアップから復帰できる鉄血ハイエンド人形はそれなりの確率で強行を選ぶことが多い、というのを処刑人から聞いている。事実、

 

『指揮官、敵ハイエンド、多数の鉄血兵を伴って基地正門へ向けて侵攻中です。ロボット防衛部隊、出します!』

 

 USPコンパクトの報告も入るが、そんなの聞くまでもなくドローンからの映像で強行突破しにかかっているのが見えていた。ぞろぞろとプロテクトンやらアサルトロン、セントリーボット(直庵部隊付き)が展開を始めてるのを横目に、私も外壁の上から狙撃に参加して法官に照準を合わせる……ものの、やはり取り巻きが邪魔で直撃軌道は得られない。仕方がないので、ガトリングプラズマに持ち替えて、パワーアーマーがないせいで精度が低かろうがこれだけいれば当たるを幸いにぶっ放し続ける。

 さて、ここまでやっても結果がようやく、『ハイエンドから取り巻きを引き剥がす』に留まっているのが、今回の襲撃の規模を物語っているといえよう。

 彼方では爆弾が次々と落下し爆発して破片火炎オイル冷気パルスプラズマその他が溢れ、狙撃とガトリングプラズマによる攻撃でバタバタと鉄血兵が倒れるかメロンソーダになり、弾と爆弾の雨をくぐり抜けてきた猛者を出迎える新たな容赦ないレーザーとミサイルの雨に灰となる、この光景を見た処刑人は、顔をゴツくない方の手で抑えて少しかぶりを振った後、こう、呟いた。

 

「普通ならば物量に押し潰されて終わりなんだろうな……」

 

 タレットカルテットは偉大である。無論、タレットの射撃が届く=鉄血兵の攻撃が届くでもあり、度々タレットの破壊報告は入っていてその度に直している。私が戦闘に入ったら修理ができなくなるので、持ちこたえている間に法官を仕留めねばならない。

 

 さあ始めよう、ショータイムだ。




VA-11 hall-Aコラボ、セイとステラの回収が完了しました。
それぞれ、220周と75周でした。
ステラがびっくりするほどさっくりと出てくれて助かりました……。

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