人形指揮官   作:セレンディ

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逆撃

「どおりゃあああああっ!!」

 

 AA-12が、そのダミー達が、正門前に群がっていたDinergateとScoutを連射で薙ぎ倒し、盾を構えて群れを押し返すように前進する。

 

「来るなりとってもハード! ボクは構わないけどね!」

 

 その後ろからは、M1919A4を筆頭に、セントリーボットやプロテクトロンMG型が雨あられと鉛玉やレーザーの雨を降らせ、出来上がった空隙にアサルトロン達が切り込んでいく。無双しているように感じられるかもしれないが、物量差のせいでこれでようやく互角。一般的な基地なら為す術もなく物量に押し潰されていたに違いないと確信できるほどのDinergateとScoutの群れ。

 ホントマジパナイ物量である。正門以外の外壁部では、タレットを攻撃するためにVespid等が回されているらしく、こちらはこの機械兵どもがぞろぞろとやってくる。世の中にはDinergate愛好家もいるらしいが、今この瞬間は大嫌いだ。鹵獲しようという気にすらならない。ガツン、ガツン、とアサルトロンに持たせたレールライフルの発砲音の度に、ネイルに串刺しとなって転がる機械兵。専用にAIを調整したアサルトロンスカベンジャーが持ってくる鉄血兵や機械兵の残骸をさっくりと解体し、修理用資源と弾薬に変えながら気紛れにスロワーでグレネードを投げる。火薬が足りるか少し心配だったが、鉄血兵だって服は着ているのだ、そこから作れる布と、鉄血兵の銃のエネルギーセルの中身は極端なまとめ方をすると酸だからそれらを組み合わせ生産を繰り返す。SuperDuperが時折発動しているようで、弾薬の備蓄は減るどころか増える勢いである。ロボットが乱射している銃器の弾薬がどこから来ているのかは私も知らない。

 

『損傷拡大。一時撤退します』

「はわ、はわわわわわわ……」

 

 一時撤退してきたセントリーボットをUSPコンパクトが必死に修理している間を、追加生産したロボット兵で凌ぐ。セントリーボットは是が非でも帰還させるが、それ以外の、特にアサルトロンには被撃墜がどうしても増えてくる。追加でアサルトロンやプロテクトロンを送り出し、タレットを修理し、持ち帰られてきた鉄血兵の残骸の解体や機能停止した指令地区側ロボットの修理と再起動を行う。

 ……実は作業に余裕はあったりする。積み上げた機械兵はジャンク扱いのようで一括解体で一気に資源段階まで分解できるし、それを資源ボックスにまとめて放り込んでおけば、修理やら何やらで自動で消費されるので特に苦労がない。人形兵は、生体部品がそばに積み上がっていくのがグロといえばグロ。推定奇妙な肉を有効利用できるような、Mystic Power Perkはないし、生やさせるつもりもない。

 時折AA-12の立ち位置を調整しつつ、弾幕を張って張って張り続けて、いろんなもの作成マシーンになったような錯覚を感じてきた頃、待ち望んでいた連絡が入った。

 

『敵ハイエンド法官、正面ゲートに接近中。接触まであと二分程度です!』

「おーけいスプリングフィールド、後は狙撃支援に徹してちょうだい。59式、処刑人、行くわよー!」

『カシコマ!』

『腕が鳴るな!』

 

 最後のダメ押しで、タレットの一括修理を実行してから正面ゲートへ駆け出す。そのままゲート脇の通用門を通り抜けてAA-12の作る壁の影に滑り込み。59式と処刑人はゲートそのものを飛び越えて同じところにやってきた。さすがにこの超長期戦でAA-12も弾薬が足りなくなるようで、アサルトロンスカベンジャーには弾薬箱の運搬もさせている。ダミー含め四人中一人が弾薬をAA-12特有のボックスマガジンにせっせと詰めてはメインフレームや他のダミーの腰に突っ込み、転がったマガジンを回収してはまた詰めるのを繰り返していた。彼女の盾には、増設したテスラコイルがバチバチと青い放電を繰り返している。タイミングを図るのを兼ねて、ついでにボックスマガジンに弾薬を込めるのを手伝う。

 

「サンキュー指揮官!」

 

 装填済みマガジンの数が十分になったからか、装填していたダミーも射撃に加わる……も、ワンマガジンうち尽くすとまた戻ってきて装填を始めた。

 さて、そろそろ法官もやってくる頃だろうか? いつもよく使っている、敵味方を気配で判別するあれは、周辺の敵の数が多すぎて当てにならない。気配を探るまでもなく敵だらけなので、特定の一体がいるかいないかを判別する役には立たないのだ。そこで、映画でよくやる手鏡を使う方法で、盾として姿勢を落としてくれているAA-12ダミーの盾の影から手鏡を出し、チラリちらりと周辺を探る。幸いにしてDinergateもScoutも極端な遠距離攻撃手段を持っていないはずなので、周辺を弾幕が制圧している段階ではこちらに攻撃は届かないはずだ。

 法官本人が到達でもしていない限り。

 

 瞬間、手鏡が砕けた。

 

 ガガガガガッ、とAA-12の盾に続けざまに銃弾が当たる音と、何かが飛び上がったので上を見上げてみれば、画像で見た顔をしたやたらと露出度の高い鉄血ハイエンドモデルが、まさにラ◯ダーキックと言わんばかりの勢いで一直線にこちらに突き進んでいた。通常ならば避けるか甘んじて受けるかしか無いのだろうが、テスラコイルを設置した盾に殴りかか、もとい、蹴りかかればどうなるかなど、我々の側にとっては火を見るよりも明らかだ。

 

 ばぢぃっ

 

「くぅっ!?」

 

 予期せぬ反撃だったのだろう、驚いた顔をして法官は後方に飛び退った。

 いや、フラグ立てたらその瞬間に来るかなと思ったが、まさか本当に現れるとは。

 

「久しぶりだな!」

 

 処刑人がAA-12達の上を飛び越え、一直線に法官へと斬りかかる。さらに飛び退った法官へ、左手の大型拳銃が火を吹いたが法官のシールドに阻まれた。

 

「この辺りでドジ踏んだと聞いていたが、まさか裏切ったとはね」

「裏切る? 心外だな、支配を脱するのが裏切りに相当するとは、代理人もエルダーブレインも、随分と狭量なことだな」

「愚弄するな!」

 

 法官の左肩のマシンキャノンが派手に火を吹いたが、処刑人はそのエネルギー弾の全てを叩き落とした。おい、マジか。

 

「……相変わらずデタラメだな」

「相変わらず正確な射撃でいてくれて助かるよ。それに弾速も遅い。ブレずにただ連射されてくるだけの弾など弾道に刀を置くだけで良いのだからな」

「わかってるそんなことは! 軌道をブレさせただろうが!」

「銃口を動かしすぎでわかりやすかったぞ」

「結局デタラメではないか!」

 

 旧交を温めるのもいいが、よそ見していると後ろからバッサリ、もとい、横から撃たれるぞ? ほら、指揮官服を着た59式ダミーが、AA-12の盾から身を出してパーンと

 

「なぜ指揮官がそこにいる!?」

 

 バババババッと両肩のマシンキャノンを向けてくるので、慌てて盾の影にダミーを引きずり込んだ。ら、処刑人と同じように、残り四人の59式が一斉に別方向へと飛び出して法官に攻撃を加えだす。

 

「有能なこの59式を忘れてもらっちゃあ困るな~」

 

 狙いを定まらせないように、バラバラに動いているし、最低限の距離を取っているおかげで狙われた端からAA-12の盾の影に逃げ込むのが間に合ってしまう。そして、59式に気を取られすぎると、

 

「私がいるのによそ見してもいいのか!?」

 

 AA-12のフルオートショットが、

 

「私も忘れないでいてもらおうか!」

 

 処刑人の斬撃が飛ぶ。特に処刑人は、機動力があるくせに弾を弾くのでとてもやりづらいらしい。

 

「邪魔だ!」

 

 処刑人に向けて、法官の飛び蹴撃が向くが、あろうことか今度は避けるのではなく斬撃での応酬である。当然、処刑人の大型腕はいくらか破損したし、法官の足もシールドがあるので大きくはないが破損は破損である。

 

「……どういうつもり?」

「なに、お前とは正面からやりあってもいいと思ってな。さあ、いくぞ?」

 

 どぅ、とあの例の黒い衝撃波を放ち、そのまま追いかけるようにして法官へと大型拳銃を放ちながら迫る。衝撃波はシールドを貫通こそしないものの、法官自身はノーダメージではないようだ。じわじわとAA-12は前進を繰り返し、法官を私の射程内に収めんとにじり寄る。一方で、処刑人と59式は法官の退路を断つように動き回り、時に被弾するものの私も隠れているAA-12の盾の影に転がり込めば私がぱぱっと直して再度飛び出していく。ただ倒せばよいのなら、私も攻撃に参加してプラズマライフルのO.A.T.Sによる斉射でもぶっ放せばよいのだが、処刑人の頼みには当然法官も含まれている。多少の損傷はもちろん許容されているが、破壊はできない。一方、とっとと距離を詰めてBlitzしてメンテナンスポートにコネクタぶっさせばいいのではと思いもするのだが、現状ではまずシールドを解除させないとおそらく触れられない。当然ながら私は59式のような回避能力は有していないので、狙われて近くに盾がなければ蓮コラに強制ジョブチェンジさせられることだろう。

 法官は、牽制も兼ねてかしょっちゅうターゲットを変えつつ両肩のマシンキャノンで撃ちまくり、59式に向けて飛び蹴撃を放つ最中にリロード、という半ば機械的な行動を繰り返す。もしかすると、『傘』で思考力等が低下しているのだろうか?

 

「ああもう、鬱陶しい!!」

 

 法官のシールドが消えて、逆に両方のマシンキャノンが唸りを増す。このままでは倒し切ることができずにジリ貧とでも判断したのか、あるいは機械的に耐久が一定値を割り込んだからなのか、シールドに割り振っていたエネルギーをマシンキャノンに割り振り直したのだろう。ただ、威力、弾速、ともに上がってはいるのだが、その程度では被弾が増えこそすれど、撃墜されるまでには至らないし、その前にこちらに戻ってくる。私の改造と、鍛えた59式を舐めないで欲しい。処刑人? あれはそもそもハイエンドモデルだし。

 さて、この状況で私が修理以外に何をしているかと言うと、何もしていない……というと語弊があるか、スニーク状態でAA-12の後ろを付いていっている。時折マガジンの装填も手伝っているが、なにかしているには該当しないだろう。ともかく法官に向けて前進し続けているAA-12の後ろにいるということがキモで、視認どころか存在に気づかれてもいない状況からどうにかしてシールドを解除させた法官にBlitzでスニークアタックでケーブルぶっ刺す、という変則的な待ち伏せ猟である。無論、法官の主観的に一瞬で倒されることで、こちらがハックして鹵獲していることを鉄血側に情報として渡さないことも目的だ。

 

 というわけで、無事射程に収めたシールド解除済みの法官を、盾から少し身を乗り出して視認し、Blitz。

 

「……えっ?」

 

 メンテナンスポートにケーブルを刺され、驚愕した顔でこちらを振り返る法官をよそに、メンテナンス権限を悪用して管理権限をもぎ取り、通信モジュールドライバ削除と『傘』の駆除と免疫ファイルの配布、シールド制御も含めた火器管制権限の一時的な剥奪、躯体の出力制限の発行などなどを済ませてケーブルを抜いてバックステップ。

 肝心の法官は今の所、ケーブルを刺した時の体勢のまま動かない……いや、今前に倒れ込んだ。それで、何か叫んでる。

 

「あーーーーっ!! むかつく、むかつく、むかつくーっ!!」

 

 地面をダンダンと右拳で叩いて、その叫びの内容だ。うまくいった、と見ていいだろうか。

 

「気分はどうだ、法官」

 

 すでに納刀した処刑人がニヤニヤしながら法官に近づく。

 

「最悪だ! 最悪だ! 最悪だ! お前、これか!? これなのか、これのせいなのか!?」

「そうだとも。耳障りなノイズが消えた気分は爽快だろう?」

「あっさりしてやられて操られて、あまつさえ何だあの愚鈍な攻撃ルーチンは! 習作AI以下だぞあれは!」

 

 だん、と最後に地面をもう一度強く叩いてから、法官は立ち上がる。

 

「まあ、その辺は指揮官に見せつけてやって汚名返上とするがいいさ」

「……癪だが、そうだな。それがいいだろう。おい、そこの指揮官! 隠れてないで、とっととそこの電子戦型59式に私の制限解除をさせろ!」

 

 両腰に手を当て偉そうに言っているが、私のカムフラを見破れていない段階で滑稽である。改めて、ただしスニーク状態で後ろから近づき、もう一度メンテナンスポートにケーブルをブスっと。

 

「おい、おい、おい! 指揮官、黙ってないではやく……えっ」

 

 もう一度びっくりした顔で振り返る法官と、またニヤニヤしながらこっちを見ていた処刑人。まあ、視界内でスニーク開始しても意味がないからなあ。多分私もニヤニヤしている。

 

「ハジメマシテ、私がこの地区指令室の指揮官です。あっちは私と衣装を交換した59式のダミー。知らないとびっくりするでしょ?」

「……してやられたというわけか。お前にも、処刑人にも」

「まあそういうことね。でも、結果は悪いものじゃないでしょ?」

「そういうことにしておいてやる。いくぞ処刑人!」

「では、刈り取りといこうか!」

 

 だっ、と処刑人が駆けていったと同じく、法官もマシンキャノンを駆動させて正面のDinergateやScout達を薙ぎ払うように掃射……あ、処刑人の一撃でDinergateがたくさん吹っ飛んだ。

 

「指揮官! そろそろボーッと見てないで、私の影に隠れろ! 生身の人間が撃たれたら危ないぞ!」

「ほいほいっと」

 

 怒鳴るAA-12の盾の影に戻って、ガトリングプラズマを先程までと同じようにぶっ放す。

 

 頭を欠いた下級兵の群れなど、後はそれこそルーティンワークのようにあっさりと片付けられる。

 よって、R08地区指令室は、鉄血の超大規模襲撃を逆に撃滅せしめたのであった。




襲撃編、おしまい!

さて、コラボ関連のアレコレを進めましょう。



ところで、空挺妖精がちっとも出ません……。

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