さて。
「とまあ、これが今までの状況ね。軽い気持ちで処刑人をハックして鹵獲したらこれだから驚いたわ」
「処刑人は軽い気持ちでハックして鹵獲できるものなのか?」
ジト目でこちらを見やる法官。隣で処刑人がゴツい手を顔に当てて嘆いている。
「そこは私も色々と抗議したいところではあるのだが、事実だから何も言えん。とりあえず今は続きを聞いてくれ法官」
法官鹵獲後。
予想通り、通信モジュールドライバの削除と『傘』の除去と免疫プログラムの追加を行った法官は、自身がそうなってしまっていたことについて非常に強い苛立ちを感じているようだが、それ以外のところは非常に物分りが良かった。処刑人に、『今のお前が再度傘に侵食されずに補給できるのはここだけだぞ』と言われたのが効いているのかもしれないが。さすがに、オガスプロトコルをツェナープロトコルに書き換えて鉄血から完全に制御を奪うようなことは今の所できていない。努力目標ではある。
「そんなわけで、検閲も何も入っていない、生の鉄血の情報を得た結果、蝶事件は未だに終わっていなかったことがわかって、ついでに処刑人から他のハイエンドモデルの『傘』の影響下からの救出を依頼された、というわけね。で、救出第一号があなた」
「……その件については感謝している」
「俺っ娘キャラと思いこんでいたら、傘を取り除いてみれば物静かな武人キャラだったのが処刑人なのに、あなたは傘の影響の有無で変わらないのね?」
「は?」
素っ頓狂な声を上げて固まった法官をよそに、処刑人は私の後ろの冷蔵庫からシャンパン瓶を勝手に一本取り出して、ゴツい方の手で器用にコルクを抜いた。
「忘れろ」
恥ずかしいのだろうか。鉄血のハイエンドモデルのメンタルは、本当にどうなっているのか興味深い。後でペルシカリアにレポートを送っておこう。
ところで、その鉛入りシャンパンは皮膚に防弾性能をもたせるというぶっ飛んだ効果を持つ酒なので、当然作成には手間……はかからないが通常の酒の醸造の手が止まる。あまり手を出さないで欲しい。こういう時のためにただのシャンパンとかビールも入れておいたほうがいいのだろうか……。とりあえず処刑人がシャンパン一本呷ってあまり動かなくなったので、法官の方に向き直る。
「まあそんなわけで、あなたの扱いに関して何か希望とかある? 働かざるもの食うべからうということで、何かここで働いてもらうのは確実だけど。前線に出してほしいとか、逆に出さないでほしいとか、戦闘以外に色々やってみたいとか」
と、問いかけてみたところ、きょとんとした顔を返してきた。
「前線に出すなとか、ありえるのか?」
「ありえるわよ。そこのUSPコンパクトとかね。あなたが襲撃かけてきたとき、外壁付近とか正面ゲートに見慣れないロボットいなかった? あれの配置、行動指示、回収修理をしていたのがUSPコンパクトなの」
「あれか」
思い出したようにうなずく法官。
「なるほど、わかった。だが、私はそれならば前線に出たい。ハイエンドモデルとしての矜持もあるからな」
「オーケーわかったわ、じゃあこっちで戦術人形の部隊に組み込むわよ。まあ、最近出動案件が無いから訓練メインになりそうだけど」
「それも問題ない。私としても、少々訓練し直しがしたいぐらいだ。あと、この基地の人形、妙に性能が高くないか? ログを見返してみているのだが、SMG人形どころかHG人形を捉えきれないとか、SG人形にエレクトリックフィールドを発生させることすらできなかったとか、最適化率が高いだけでは片付けられない状況が発生している」
「ああ……それも説明しましょうか。59式?」
「アラホラサッサー」
「どこで覚えたのよそんな言い回し」
どこか呆れた私のぼやきが流れたその二秒後ぐらいか。最初に他の人形たちに説明した時のように、その場から59式が跳躍。壁を蹴って天井の中央を経由し、逆側の壁の中央を蹴って元の位置に戻ってくる。
「優秀な59式に、どうぞ拍手をー!」
「……特注の専用カスタムモデルということか?」
「近いけど違うわ。モデルそのものは普通の59式と何も変わらないの。違うのは私が改造してるということ」
「専用カスタムモデルではあるのか」
「……えーっと、あれ、そういうこと? まあいいわ、そういう感じで、いろんな人形を改造してるの」
「ちょっと無視しないでー! 拍手ー! 拍手ー!」
「では、攻撃の威力が妙に高いのもか? シールドの減衰がかなり速かった」
「銃器は全員改造してあるわ」
「そうか、わかった。……おい、処刑人」
ふいに、法官は処刑人の方を向く。
「なんだ?」
「何者だこの指揮官」
「知らん」
「ちょっとあなた達?」
「保有する技術が異常に高すぎるぞ、指揮官。一体どこからこんな技術を持ってきたんだ?」
「戦前のアメリカのVault-tecとロブコ・インダストリ。銃器改造については独学」
「とりあえず真面目に答える気がないのはわかった。そんな企業は知らないし独学で拳銃があの威力になってたまるか」
法官が頭を抱えてソファにどっかと座り直す。
「いや、ホントなんだけどなあ……」
「だがな指揮官」
そこを、シャンパン瓶をダストボックスに放り込んだ処刑人が口を挟んでくる。
「お前は多芸かつそのそれぞれが圧倒的にハイレベルすぎる。正直、どこかの国営機関で幼少期から徹底的な訓練を受けていたとしても驚かないぞ?」
「そんな事実は一切ございません。そもそも、前職のPMCに就職する前はフツーの戦後の私学校の学生だったってば」
「……次に確保しに行くのは侵入者にするか。色々と洗ってもらおう」
「お嬢が自重を捨ててゲテモノ化したのは割と最近だから、最近をメインに洗うほうがいいかも?」
「あなたたち? いや、本当にG&Kの公式プロフィールに書いてあること以上はないからね?」
「なんというか……建築家の持っていた娯楽小説をもっと読んでおけばよかったという気分だ」
「法官まで。よし、いいだろう、そこまで言うなら、ちょっと言いにくかったが、法官。あなたに言いたいことがあるわ」
「な、なんだ?」
気圧されたように座りながら上体を反らす法官に、正面に立っていわゆる人差し指を立てる解説するときにやるポーズで、
「むしろ最初に言うべきだったかもしれない。法官。服を着替えましょう」
「……は?」
「丈がくっそ浅いホットパンツにGストリングと、なにそれビスチェみたいな上着? 一昔前のエロゲキャラのコスプレなの?」
「エロッ!?」
「後ろに回ってみたら案の定Tバッグ部分丸見えだし。だから髪の毛長いの?」
真っ赤な顔でばっ、と手を後ろに回す法官。
「というわけで、服を着替えましょう。どういうポリシーでそんな格好しているのか知らないけど、さすがに風紀的にアウト。この基地には男性だっているんだからね?」
そこから先は至難を極めた。
「し、指揮官、スカートはだめだ、スカートは……そ、その、そうだ蹴るときに邪魔になる!」
「け、建国三百周年記念礼装!? そんなものは案山子に着せておけっ!」
「きゃみそっ……!? だ、だめだ、背中が出ていないとマシンキャノンとのコネクタが……!」
「長いパンツも駄目だ、脚部兵装と干渉してしまう。その、焼け焦げてしまうんだ」
「レオタード? これでは体のラインが浮き彫りになってしまうのではないか?」
「だ、だから言っただろう指揮官、マシンキャノンと干渉して下着がつけられないんだ……」
「ブラジャーがそもそも不要な私とお嬢への挑戦と受け取っtふぎゃあっ!?」
至 難 を 極 め た 。
結局、あのエロゲキャラ衣装も、それなりに設計者が考えて選んだ衣装だったらしい。
M1919A4の衣装のようなレオタード(背中あき)に簡易的なシャツ(こちらも背中あき)、ホットパンツは上下それぞれの丈がいくらか伸びて、他では動きが阻害されると主張する法官の要望によりGストリングは続投となった。まあ、外部から見えるわけではないのでいいだろう。
「は、鼻が……鼻がぁ……」
「服飾もできるのか……」
うずくまる59式と、その後ろでは処刑人がなにやら思案顔。
「レパートリーは見ての通り多くないけど。何かあったの?」
「なに。私はこのままがいいので特にないが……右手のせいでろくな服が着れんしな。ともかく、法官の服装は定期的にみてやってくれ。破壊者とはりあってあの軽装だったからな」
「ちょっと処刑人!?」
「ああ、チキレった結果あの半裸だったのね」
「半裸!?」
「そもそもトータルを色々とからかわれた結果だったな。夢想家の口車に乗ったのもあるだろうが」
「……ほんっとロクなことしないのねえ、夢想家って。遭遇したくないなあ……」
「そこの59式一人でどうにでもなるだろう。機動力を持つやつに弱いだろうからな、夢想家は」
「……なあ処刑人。私はやはりかつがれていたのか?」
「今更気づいたのか。夢想家の破壊者への扱いを見ていればだいたい判るだろう」
「……」
法官は、黙って私の冷蔵庫からバリスティックビールを取り出した。
いや、だからそれやめてほしいんだけど。そっちはそっちで何故か実弾武器の威力が増加する不思議なビール。同じく作成に手間はかからないが以下略。後材料に核物質が入っているので乱造乱用できない。
ぴこっぴこっぴこっ
「んお……本部からかと思ったら、U-05基地じゃない。ちょっとあなた達、ややこしくなるからカメラ範囲外にいてちょうだいね」
うーん、ちょっと短いけどいいかな!
法官の格好、どう見てもこう、ほら、アレなんですよねえ……。
特に下。なんかちょっと引っ掛けるだけで、中身が見えそう……。
おおっと、漢字表記を貫いていたのに間違えちゃったぞっと