人形指揮官   作:セレンディ

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ああ勘違い

『お初にお目にかかります、R08基地指揮官。私はフランシス・フランチェスカ・ボルドー、U05基地の指揮官です。初めまして』

『同じくU05基地所属、副官の夢子・ロスマン。よろしく』

 

 通信を開き、U05地区基地からのもののそれで、通信に出てきた二人、指揮官と副官はそう名乗った。

 女性にしてはちょっと、いやかなりまっしぶりーな指揮官なので、前線に出るタイプだろうか? アメリカ式でなくミニガンとかぶん回しそうだ。そして、もうひとりはどうみても……。

 

「……夢想家?」

『鉄血とは縁切り済みよ』

「それは失礼。では、夢子さんとお呼びしても?」

『問題ないわよ』

「ありがとうございます。それで、ご用件は? 物資の到着連絡などでしょうか? 単純な連絡などでしたらメールでも構わなかったのですが……もしや届かなかったのですか?」

 

 プロビジョナーが物資の輸送をしくじることなど無かったが……ここは「現実」だしそういうこともありえるのだろうか?

 などと内心考えていたところ、フランシス指揮官が実に言いにくそうに口を開いた。

 

『そのぉ……物資援助は辞退したいのよ』

「おや?」

 

 意外だ。協力要請を投げてきて、おそらく状況から物資もあまり潤沢とはいえないだろうに。こちらとてアパラチア式資源採掘をしていなければとうに行き詰まっていたはずだ。しかも、あちらの周囲にはよりによってキメラとネクロモーフ、他にもわんさかヤバめのやつらが近くにいるとか物資はいくらあっても困らないはず。なのに断るとなると……もしや対価で借金漬けとかでも警戒したか?

 

「そちらは物資が潤沢とはいえないはずでは? もしや対価を気にしてらっしゃる? 同じグリフィンの基地ですし、味方への支援も任務ですからね。こちらは今の所資源は潤沢ですし、今回はこんだ量程度であれば、対価はいらな……いや、それだと遠慮しますかな。近隣のE.L.I.Dの情報程度で十分ですよ?」

 

 言ってて何だが、怪しいなと自分でも思う。型にはめて落とすトークというやつだ。これはいただけない。

 

「……いや、駄目ですね、対価が少ないのもまた問題。となると、当てずっぽうで言いますが、見合うようであればキメラ製の武器を数種類いただけませんか。キメラの技術に興味がないといえば嘘になりますし」

 

 なんだっけか、マーキングして誘導弾連射とか、地形透過銃みたいなものもあったはず。あれがあれば地形に潜んで一方的に相手をボコるなんてこともできる。マーキング銃とか、O.A.T.Sで初弾さえ当てておけば、あとはAP消費抜きで撃てば当たるとか素晴らしいじゃないか。量産できれば人形に訓練させてみてもいい。ああ、新しい武器は心が躍る。

 だというのに、フランチェスカ指揮官も夢子副官も渋い顔……に、見えるぐらいの雰囲気を醸し出した穏やかな顔。見たことがある、主に鏡の中で。これは自棄になった時の顔だ。

 

「……な、なにか問題でも……?」

『あなた、何者?』

「……は?」

 

 夢子副官がなにかぶっ飛んだことを言い出した。

 

『あなた、何者なの? 悪いけどこっちでも調べたのよ、あなたのこと。ぼるとてっく?は知らないけど、ロブコの技術を持ってるなんて尋常じゃない。あれはアメリカにしかなかった企業で、こっちにはないの。なのに、あなたは当たり前のようにロブコの技術を、いいえ、アメリカ式の色んなものを持ち出して当たり前に使う。でも……あなたに、あなたの前歴に、アメリカのことを学ぶ機会は無かったはずなの。重ねて問うわよ、あなた、何者?』

 

 ……ロブコ実在してたのか。

 いや違う、あれ? 転生者ですよー、と言外に示すために魔改造ロボットプロビジョナーとかバラモンとか出したけど、まさか裏目った? ていうか、フランシス指揮官、転生者じゃない?

 

 ちょ、え、これ、まずくない? まずくない? まずくなくなくない?

 

「えぇっと……その、これ、私の同類かどうかチェックする質問なんですけど……フォールアウトの名を関したRPGゲームってご存知です……?」

『何よそれ。知らないわ』

「えっ。じゃ、じゃあ、MICA-TEAMとかSUNBORNとかパン屋少女とか……」

『そちらも知らないわ。開発チームか何かなの? パン屋? ……フラン?』

『私も知らないわ』

 

 マジか。思わず顔に手を当て天を仰ぐ。通信ウィンドウの二人の顔が不審げになるが、これはどうしたものか。

 

「……え、嘘、これは予想外……あ、いや、なんですか。状況などを見て、私てっきり私の同類……あー、なんて説明すれば良いんだ……?」

 

 転生者だなんて通じるわけがない。むしろ、頭おかしいのかと思われて、異常者の何かが偶然機能しただけとか思われてどっか飛ばされるのもゴメンだ。さて、どうしたものか……。

 

「おい、指揮官」

 

 考えあぐねているところに、ふと、こちらの処刑人が割り込んできた。

 

「お前では説得力がない。少しこちらに任せろ。向こうにむそ……夢子だったか、がいるなら都合がいい」

「処刑人?」

『……処刑人?』

 

 何やら腹案があるみたいだが……一体なんだろう。

 

「おい、夢子。私の言う事なら、いいか、『私』の言う事ならある程度は信用があるだろう?」

 

 割り込んできた処刑人に、いくらか戸惑っていたようだが、夢子副官は結局続きを促した。

 

『続けて』

「この指揮官、前歴や素性と現在能力に意味不明な乖離があるのは事実だが、その性根は掛け値なしに善人だ。これは保証する、この私の刀を賭けてもいい」

『……』

「だが、だ。善人だがやることなすことが全て良いように働くかと言うと否だ。驚くことにこの指揮官、自分の持つ技術がどれだけ規格外で非常識で意味不明で物理法則に喧嘩を売っていることすらあることを自覚していないらしい」

「ちょっと?」

「話がややこしくなるから黙っていてくれ指揮官。まあそんなわけで、だ。どうやらこちらの指揮官は、そちらの……フランシス指揮官を自分と同類の、どこか隔絶した意味不明な技術持ちだと誤解していたようだ。ゆえに、同類ならば許される無体な物資の送り方をしたわけだ。同類ならば許される方法で」

 

 ……耳が痛い。

 

『つまり……協力要請の受諾も、物資の送付も、全部、「あ、困ってる仲間がいる! 助けなきゃ!」程度の感覚でやったと?』

「その通りだ」

『その、軽い気持ちであれだけの被害が出たわけね、こっちは……』

「どんな被害が出たのか知らんが、どうせ輸送隊にでも撥ねられたんだろう?」

『あら、よくご存知。こちらを監視でもしているのかしら?』

「いいや。だが、想像はつくからな。……私も、『とりあえず軽い気持ちでやった』程度の心意気で、戦闘中にもかかわらずハッキングされて鉄血から切り離されたからな」

『……鉄血のプロテクトって、そんな軽い気持ちで、しかも戦闘中に破れるものなのかしら』

「私もそうでないと信じたかった。だが、事実として私はシャットダウンされ、鉄血から切り離され、ウィルスなども駆除された、というわけだ。空恐ろしいのが、それだけの事をされたのにアクセスログすら形跡が残っていないことだな」

『……怪談と称して差し支えないわね』

「全くだ。まあ、そんなわけでな。協力要請の受諾も物資の送付も、どちらも受け取っておけ。積み込みは私も見ていた。目録もあるだろうが、中身は何のことはない鋼材と弾薬、あとは大量の電子部品だ。何だって作れるだろう」

『ああ、そういう……』

 

 呆れ顔で大きくため息を付く夢子副官に、つい、私は問うてしまった。

 

「……というか、そちらで一体何が起きたんです……?」

『あなたの輸送隊のバラモンが、プレハブに引っかかっていたところを誘導しようとしたら、突如動き出してね……巻き込まれた人形が、言語化するもおぞましい動きをしてロッカーに挟まったの。本人、目撃者、どちらも精神的に重症よ』

「ま、まるでHAVOK神の祟り……」

 

 そしてうっかり、そんなことを口走ってしまった。

 

『ハヴォック神? あなた何を知っているの?』

 

 当然、聞きとがめた夢子副官が問い詰めてくる。

 

「指揮官、頼むからそれ以上事態をややこしくしないでくれ!!」

 

 うんざりした顔で処刑人は吐き捨てた。

 

 

 

「ところで、侵入者のいそうな場所を知らないか?」

『悪いけど知らないわ。鉄血の情報は殆ど何も思い出せないの』

「そうか……残念だ。鹵獲して、指揮官の前歴と現在の乖離の原因を探ってもらおうと思っていたのだがな……」

「いや、だから私は素性は全部オープンにしてるからね? 嘘ついてないからね!?」

 

 だが、ふたりとも、いや、フランシス指揮官を加えた三人共、それを信じてくれることはなかった。

 解せぬ。

 いや、だって、転生しましたなんつって信じてもらえるわけ無いじゃん……。

 

「ああ、そうだ指揮官。私に介入してくれといいに来た59式に感謝しておけよ?」

 

 ……。感謝したいところだけどそこで超ドヤ顔で有能のポーズ取ってるので台無しです。

 

 

 

「……しくったわ……転生者じゃないとか予想外すぎる」

 

 あれから、細々とした情報交換も交えた通信を終えて、私は一人ごちた。

 いや、まさか、U05基地周辺のミュータント祭りな状況、馬鹿が馬鹿をやらかして馬鹿なことになった結果とはいえ、いわゆるスクリプト湧きではなく自然発生的なものだったとは……。

 こわ。近寄らんとこ……とできたらいいのだが、キメラとネクロモーフだけは本気でアウトブレイクの可能性がある以上、放置はできない。連中がコーラップスに感染したらそのままE.L.I.D行きだというのが気休めにはなるだろうか……。まあ、遠隔地の状況に憂いても仕方がない。あっちはあっちでなんとかしてくれるだろう、こっちは支援するだけだ。場合によってはロボットも送りつけられる。なんだっけ、有能なコンサルタント?もいるらしいし。あ、指揮官じゃなくてこっちが転生者なのかもしれないな。日本人名だったし。

「終わったー?」

 カメラ範囲外に移動していた59式たちが戻ってきた。まあ、あちらについてはこの程度にしておこう。

 処刑人と法官の姿が見えないが、まあこちらの要件は終わっていたことだし、基地の案内にでも行ったのだろう。

 さて。

 鉄血の大侵攻を退けたので、大量のジャンクが手に入った。解体を考えるとちと憂鬱になるが、その結果として得られる資材量はまさに膨大の一言に尽きる。ジョークではないが、「今回の戦闘で得られた物資の量を考えてもみろ。これでわれわれはあと十年は戦える」とか言ってもいいかもしれない。59式以外からは確実に合いの手が来ないので口には出さないが。

 本部への報告はカリーニンに任せてある。大体は人形の作戦データを持ってきてそこから報告書を作る形になるが、相応にタレットで撃退とか破壊とかした鉄血もいるため作戦報告書作成は手間取るだろう。一方で、法官が指令室所属に加わったため、交代人員に回すのでなければまた部隊拡張と人形製造を行うことになる。人員の軛からはなるだけ解き放たれたいので、製造を回すのもよい……と思ったが、製造に使える公称の資材量が心もとない。しばらくは内政タイムということか。あるいは、ヘリアントスやペルシカリアあたりに相談して、こちらが独自に調達した資材を提出してもよいか聞いてみるのも一興か。

 ともあれ、ここまで働いたのだ、いい加減休暇をとってもバチは当たるまい。索敵は、囮の囮のロボブレイン足プロテクトロンと、囮のアイボットと、本命の迷彩アイボットにさせておけば十分であろう。今回の襲撃にもそれなりに早めに察知できたことだし。追加で本部にメールを送っておいて、私は休暇と洒落込もう。

 

「カリーニン」

「はい、何でしょうか指揮官様」

「私、この後と明日、休暇を取るわ」

「……はあ。まあ、大丈夫だとは思いますが……どこかお出かけのご予定などはございますか?」

「特に無いわ! 寝て曜日&長風呂の予定!」

「かしこまりました。入浴中の連絡の必要が生じた際は、お近くの人形経由でになると思います」

「あいよー」

 

 かくして、私は休暇を強引であろうが取得するのだ!




勘違い発覚!
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