人形指揮官   作:セレンディ

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緑のもの

「よし、定刻。これより、放棄市街区確認作戦を開始。作戦目標は市街区中央のデパートの確保、及び敵性存在の排除」

『了解』

『了解!』

『了解だ』

『了解です』

『了解しました』

 

 正直、未確認地区の偵察かつ敵性存在の暗殺は私の最も得意とするところなのだが、指令室の最高責任者がホイホイ敵地に乗り込むんじゃないと59式を含む人形、カリーニン、そしてヘリアントスに怒られては仕方がない。周辺警戒はロボット部隊に任せて人形部隊を放棄市街区に派遣した。

 

「ブリーフィング通り、日没までに作戦終了に至らない場合は一度撤退、再度夜明けを待って突入よ。それでは、地上部隊前進。スプリングフィールドとItBM59は、登れそうなところあった?」

『非常階段が残っているところがいくつかありましたので、メインフレームとダミーそれぞれ分散して移動中です』

『こちらも分散して登っているところよ。スコープなしだと、デパートの中や上に何かいるようには見えないわね』

「オーケー。作戦指揮用ドローンは飛ばしてるけど、索敵の役には立たないから、自力での周辺索敵も忘れずにね」

『了解!』

 

 ドローンから入る視覚情報と位置情報を元に、ホログラフで作戦マップがドローン操作ターミナルの隣に浮かぶ。試しにスプリングフィールドの視覚にアクセスしてデパートを覗き見てみるも、特に収穫はなかった。スパミュが巣食ってるなら、ゴアバックとか骨肉のトーテムとかあってもおかしくないので、ここにスパミュはいないのではないか、という考えが頭をよぎるものの、勘の部分が『それはない』と大声で騒ぎ立て続けている。

 かなり、というよりすごく出撃したい。分隊構造をしている都合上、人形たちは引き撃ち等が臨機応変にできるわけではない。いきなり近場にスパミュ、特に自爆個体が出てきたら目も当てられない。が、ドローンを操作して全体の指揮を取れる者も私しかいない。最低限の幸いとして、私のいる指揮車両は放棄市街区の近くまで来ていることか。三式ガウスライフルも作ったので、遠距離から大火力を打ち込む準備もOKだが、それを持ち出す機会に恵まれてほしくもない。大砲も私一人だと命中率がなあ……。

 

 とりあえず、59式の部隊とグリズリー&Five-seveNの部隊はデパートの麓までたどり着いたようだ。人形達からの情報でそこまでの市街区には物資はそれなりにありそうだとわかったが今は無視。クリアリングもある程度済ませて、デパートにどこから入るかが問題だ。正面のガラス戸やら大判ガラス窓やらは見事に砕けているが、そこから入るのは隠密に長けていない人形たち、特に後続のAA-12達にはキツイものがある。やるなら一階をクリアリングしてからだ。まあ、この手のデパートには従業員用通用口やら、裏手の小さめの入り口等があるものなので、それを探させる。程なくして見つかった従業員用通用口は、電力が来ていないのでナンバーキー式電子錠の電源が落ちておりそもそもハックすることができなかった。ので、さらに探して裏手の小さめの入り口を見つけた。こちらもガラスは全損しているが、見通しが良くないため偵察部隊が侵入するならまずはここだろう。とりあえず、足元にワイヤーなどが張られていないか、不自然に体重計などが置かれていないかなどに注意して進むように指示をした。……私ならそういうの全部まるっと無視できるんだけどなあ……って、トリップワイヤーはだめか。

 

『お嬢、一階には特に何もいないみたい。上と下に進む道があるんだけど、どっちを先に見てくる?』

「迷うけど下ね。大抵は、下のほうが上よりも狭いから。……このデパートは市街地区の真ん中にあるけど、商品搬入のためのルートと地下駐車場がかならずあるはずだから、そこにいけるルートが有るかどうかも探索対象よ」

『了解』

 

 地下に潜る59式たちと連絡を取るために、中継器ドローンを飛ばして追いかけさせる。

 地下一階フロアを周り、従業員用エリアも探したが、特に収穫なし。従業員用兼荷物運搬用エレベーターも反応がないし、資源になりそうなジャンクはいくらかあったが回収は今じゃない。案内板から地下駐車場は地下四階以降で、そこまでは食料品や酒類、書籍類のフロアが続いていたようだ。今は閑散としてなにもないか、元は食料品だと思われる土がわだかまるフロアで、頻繁に何かが通った形跡も無いらしい。念の為壁や天井にも何か痕跡が無いかチェックした上で次のフロアへ。

 地下六階以降は、瓦礫に埋もれていてそれ以上降りられなかった。案内図では地下八階まであるらしいが、結局は駐車場スペースでしか無いはず。

 

『指揮官!』

 

 ふと、悲鳴のようなSPP-1の声。

 

『え、エレベーターが動いてる!! 降りてきてる!!』

「スプリングフィールド、ItBM59、外になにか変化は?」

『現状何もありません。屋上などにも何もいません』

『こちらも何もないわ』

「59式達は隠密、隠れて。ダクトとかそういうのの中が望ましいけど、それがなければ物陰でもいい。とにかく隠れて頂戴。……それにしても、電源はどこ? ナンバーパネルが死んでるぐらいなのに、エレベーターが動くとか、誰か電気工事士がジョバンニでもしたの?」

 

 地下なのでダクトは必ずある。人形の膂力でダクトの入り口を強引に引き剥がし、59式とSPP-1はダクトに潜り込み、入り口をはめ直す。パネルの隙間から見えるだけだ。暗視機器のぼんやりした視界の中、エレベーターの戸が開いて、光が通路に零れ落ちる。その中を、ずしゃりずしゃりと音を立てて歩く巨体。

 いやがった。スパミュの、どっちだ。三か、四か。ミュータントハウンドを連れている以上は、四か? 四なら感染増殖はしないはずだからまあいいが……いや、自爆兵もいるはずだから一口に喜べないな。

 

「AA−12」

『何、指揮官』

「万が一……万が一レベルだけど、コイツらは会話可能な可能性があるの。連中が地上一階に差し掛かる辺りでわざと発見されてくれないかしら。連中に無線技術は無いわ」

『あいよ、了解。私向きだね』

『ココニハミドリノモノガナイ……』

『な、何か言ってる……!?』

 

 スパミュの発言にSPP-1が思わずといった感じにつぶやき、59式に蹴られてすぐ黙る。幸いにしてスパミュたちには聞かれてはいなかったようだが。

 

「ここには緑のものがない、って言ってたわ。それにしても何でここで唐突にヤーパン語なのかしら……」

『緑?』

「あれね、元が人間限定のE.L.I.Dなのよ。人間に特定ウィルス株を感染させることで繁殖する……のだけど、ここにそのウィルス株が無いことを嘆いていたわ」

『あ、あの、指揮官様? 本当に何でそんな事知ってるんですか?』

「いい女は秘密があるものよ、ということにしといて。ちんちくりんの自覚はあるから。ともあれ……万が一の可能性が億が一の可能性ぐらいになったわね。AA-12、連中、多分ほぼ間違いなく出会い頭にミサイルランチャーぶっこんでくるはずだから、耐爆態勢を忘れずにね」

『了解指揮官、任せろ』

 

 AA-12のチームは、すでに地下への入り口の前に陣取り、AA-12を囮に射撃体勢を整えている。

 そして、この間に地下のエレベーターを59式とSPP-1が調べている中待つことしばし。

 

『ニクダ!』

『アソボウゼーニンゲン!』

 

 AA-12の視覚にアクセスすると、ネイルボードを手に突っ込んでくるの一人、案の定的にミサイルランチャーを構えているのが一人、突っ込んでくるのが一匹。

 

「奥から倒して。あの棍棒モドキと犬ではAA-12の装甲を貫けない」

『了解。まあ、私は自衛もするんだけどな』

 

 タタタタと銃弾が奥のスパミュに降り注ぐ一方、AA-12がまずはハウンドに狙いを定めてダミー含めて一斉射するも、やはり倒れない。

 

『硬すぎんだよ』

 

 AA-12がぼやいたところにミサイルが着弾、大きく爆発が広がる。……というか、ゲーム内のミサイルランチャーより爆発でかくね? 味方のはずのハウンドは吹っ飛んでるし、もう一人のスパミュも無事ではない。

 

『へぇ……確かにこのボディアーマーは優秀なんだな。大したダメージがないぞ。指揮官だと一発お陀仏だろうけど、なっ!』

「失敬な。パワーアーマーさえあれば正面から殴り倒してやるわよこんな奴ら」

『ぱわーあーまー、なんぞ知らへんけど、あらへんのやから無理や、なっ!』

 おや……ガリルのやつ、いつの間にかアイホールショットなんて覚えたのかしら……。

『Aigesのようなものでしょうか~?』

「あんなブリキ人形と一緒にしないで頂戴」

 

 L85A1もミサイルランチャーを撃ち抜いたのか、奥のスパミュが……よりによってスレッジハンマー取り出して来てんぞおい、大丈夫かあれ?

 

『対処の仕方、わかっちゃいました~』

 

 マガジンを交換したL85A1が、膝立ちになって一気に連射。いかな硬いスパミュとはいえ、両膝に五人分のフルマガジンをぶっこまれると流石に持たないらしく、どしゃっと倒れ伏す。

 

『アアアアアイイイイイイエエエアアアアアアアアアアーッ!!』

『ypaー!』

 

 トドメはPPS-43の手榴弾。文字通り触れるような至近距離での爆発に、ばちゃっと頭が砕ける。さすがにあれでは生きてはいないだろう。

 

『キョ、キョウダイーッ!!』

『よそ見してる暇があるのか?』

 

 仲間がやられて動揺していた残りのスパミュは、顔に銃口を押し付けての発射で、こちらも頭が砕けて崩れ落ちた。

 

『なるほどな。L85A1の言うように、なんかコイツラ相手のコツがわかってきた気がするよ』

『ですよねぇ~。指揮官みたいに、コツとか抜きに大火力で倒すのはできませんしそもそもの手足すら硬い、えぇと……で、ですくろー? は無理ですけどぉ』

『せやな。あれは指揮官の謎パワーやろ。とりあえずうちらは手足武器砕いて、最後に頭砕いてみれば倒せるっちゅーこったな』

『……目を抜いて倒しておいてそういうか?』

『ぐーぜんやぐーぜん』

『謙遜もすぎれば嫌味だよ』

 

 あらあら頼もしい。部位破壊(?)で即死誘発(?)、かぁ。あのデスクローの攻撃力はともかく、防御力は本当にやばいレベルらしいからなあ……。正規軍が対応した時は、対物ライフルでようやく手傷、戦車砲で負傷させて追っ払うのがやっとだったらしい。一方、私がプラズマライフルを持ち出すと三発でカタが付くのは一体なぜなのやら。当然私のプラズマライフルには戦車砲並みの威力があるという事実はない。言うなれば、私が攻撃するときだけ威力に特攻倍率が掛かっているかのような……?

 

 まあいい、今は作戦だ。

 

「59式、上は片付いたけどそっちはどう?」

『全然だめ。そもそも電源が入ってるように見えないんだけど』

「だめかー……。じゃあ、さすがにそっち行くわ。地下のクリアリングは済んだのだから、上を見てきて頂戴」

『了解』

 

 指揮用トレーラーを降りて、隠密態勢で放棄市街区へ向かう。隠密と探知を全開にしながら移動したが、ルート上にはなにか隠れている様子などはなかった。とりあえず習慣となっているジャンク回収をしながらデパートへ。正面入口はすでにクリアリングされているのでそのまま侵入。下り階段前で隠密を解いて声を掛け、ミュータントハウンドを解体して肉を採ってから再度隠密態勢に入って地下へ降りる。ハウンド肉はRAD汚染対策に便利だからね!

 途中で59式とすれ違ったので、肩を叩いてすれ違ったことを伝えておいて、そのまま地下四階の搬入用エレベーター前へ。確かに、電源が来ているようには見えないが……さっきは動いていた以上、何らかのドアを開く仕掛けがあるはずだ。とりあえず、正規の手段であったと思われる呼び出しボタンは長い間触られていない形跡がある。となれば、この周辺になにかある、というかなければおかしくて、いかに高知能型のスパミュといえども比して高いだけでありいうほど知能は高くないのでそんな難度の高い隠蔽は行っていないはず。

 スパミュ目線で見る、感じる、考える……、……。あった。背の高い棚の上、普通の人間や人形の身長だと見えず、スパミュの身長ならちょうど見えるところにボタンが増設されており、ヤーパン語で「えれべーたーにのりたいときおす」と書かれていた。おそらく、スパミュはこのデパートを何らかの形で後から乗っ取ったのだと推測される。ボタンの増設や隠蔽型施設化したのは誰か別の、それこそかなりの腕のエンジニアで、一方でそういう人材は得てして荒事には弱い。おそらく、上へ上がる手段はどこかで潰されており、そのための代替かつ隠蔽された入場手段がこのエレベーターなのだろう。

 

『お嬢、七階でエスカレーターも階段も全部破壊されててそれ以上登れなくなってた』

『というより、二階以降は地下以上に埃だらけで、誰かが通ったような痕跡が全く無いわ』

『エスカレーターも階段も、破壊だけでなく強引によじ登ることができないように塞いであるから、これ相当ね』

 

 ほら、ね。




ああ~、イベントが進まないんじゃあ~
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