人形指揮官   作:セレンディ

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頭が良くないと最上階に行けない系デパート

 スパミュの拠点直通と思われるエレベーターのスイッチを見つけた。それはいい。

 推定直通というのが大いに問題である。

 この手のエレベーターと言うやつは、開閉は事故防止のためにゆっくりで、閉まりきらなければ当然上下移動に移ってくれない。つまり、スパミュ共を殲滅かそれに近い状況に持ち込まない限り、撤退できない状況に陥るということで、流石に地下四階から地上八階以上へはダミーリンクの圏外なのでダミーだけ突撃させて様子見させることはできない、ということだ。メインフレームは七階にいて、などのアクロバットをぶっつけ本番で試すつもりもない。全員で突撃してカチコミかけるしかないかなあ、と考えそうになっていた時に、ふと、59式が

 

「ねえお嬢、デパートの外部に中継機たくさんおいておいて、アイボットに行ってもらうのは?」

 

 私は手を叩いた。

 念には念を入れよ、ということで、四段構えにすることにした。

 

 1.囮のアイボット

 2.さらに囮の迷彩柄アイボット

 3.本命その一、光学迷彩搭載のアイボット

 4.本命その二、光学迷彩搭載のアサルトロンドミネーターをエレベーターの天井に仕込み、当然あるはずのメンテナンスハッチより出て偵察させる

 

 こりゃ正確には三段構えプラスワン、か?

 ともあれ、そういう風にすることにして、一旦トレーラーまで引き返して積んできた資材でアイボットやアサルトロンを作成し、ついでにこの先作業台をその場で作ってどうにかすることができるぐらいの資材をバックパックに詰め込んで地下四階エレベーター前まで戻r

 

『お嬢、またエレベーターが動いてる』

「オッケー、全員退避、隠密。スパミュは、警戒していようがいまいが私がやる」

 

 さすがに、地下四階から地上八階までの往復はそれなりに時間がかかる。搬入用だから出力重視で速度は早くなさそうだしね。で、レーザーライフルの電源を入れて、エレベーターの出口脇でスパミュ共を待つ。

 

 ぴぽーん、どぅん……

 

 到着チャイムと、ドアの開閉音。ずしゃりずしゃりと特徴的なスパミュ共の重量感あふれる足音。……警戒しているな、四体か。

 

「オーイ……キョウダイ、ドコダァ……?」

 

 このあたりの資材になるジャンクに手を付けないでおいて正解だった。このへんの景色に見覚えがあるのか、さっと見回すだけ見回してゆっくり歩いていく。もっと後ろにも注意を払いたまえよ。

 O.A.T.S起動、頭にそれぞれレーザー一発。謎補正万歳、見事に灰になったスパミュを適当にその辺の部屋の中までモップで掃き入れ、証拠隠滅。ボタンでエレベーターのドアを開き、内部と天井にアイボットとアサルトロンを配置。最後に八階のボタンを押して、私自身はエレベーターの外へ。PDAを出してアイボット達の視覚につなぐ。後ろから59式やAA-12達が覗き込んでいるのである程度見えるようにしつつ、録画もしつつ。

 ドアが開く。

 案の定、スパミュがやたらとたくさん待ち受けていて、飛んできたミサイルで……ああ、さすがに爆発は無理だ、三機ともやられた。しかしエレベーターは大丈夫なのか……? ……大丈夫らしい。アサルトロンも流石に無傷とはいかなかったが、行動に支障はない。エレベーターシャフトの内部を移動して、昇降装置のメンテナンスハッチを探し。都合のいいことにメンテナンスハッチの蓋は壊されていたので、光学迷彩を起動してその状態でカメラを外に出す。

 

「うっ……」

 

 AA-12がうめいた。さもありなん、スパミュ謹製ゴアバッグのお出ましだ。エレベーターの方に気が向いているのか、近場にスパーミュータントの姿はなく、辺りは荒れ果てているものの人が生活していた痕跡が残っている。残っているだけだ。その上からさらに荒れ果て、血や肉片が飛び散った跡がそこかしこにあり、場合によっては血まみれの骨が転がる。カメラだけでなく、アサルトロン自体を動かし、フロアに足を踏み入れ、あたりを探る。昇降装置の位置はそれなりに高く、ここは屋上だろう。屋上はトタン板やベニヤ板で二分されているようで、今いる側から逆側へは屋上からは行けないようだ。なぜそんな面倒な構造を? ともかく、屋上の残りを見て回るも、ゴアバッグがいくつか並ぶのみで特に収穫がない。非常階段から下のフロア、多分十階に降りる。九階へは階段が壊されていた。そろそろエレベーターに気を取られたスパミュ共も戻ってくるだろう、アサルトロンではスパミュの一体も倒せまい、ということで光学迷彩そのものは継続だが、移動モードは隠密から通常へ戻し、ドアを開けて中へなだれ込む。十階のエレベーター脇に出てきたので辺りを見回させ、ついで内部情報を集めようと適当な方向へ走らせる。

 

「……は、あ、え!?」

 

 ゴアバッグがそこかしこに転がる、吊り下げられている中を走り抜け、九階に降りる、特に何もなし。八階に駆け下りる、即被発見。ランダムに横っ飛びして回避をさせつつ走り回らせている中、それは静かに佇んでいた。

 ミサイルが着弾したのかカメラ画像が不意にふっとばされ、そしてブラックアウト。だが、確かに見えた。

 

「パワーアーマーシャーシが、ある……」

「パワーアーマーシャーシ? もしかして、お嬢がないないずっと言い続けてたやつ?」

「そうそう。あれさえあれば、私もSG並の防御力とMG並の攻撃力が手に入るやつ」

 

 いいつつ振り返ってみれば、人形たちのフカシこくにしても程々にしておけよ的な視線をひしひしと感じる。

 

「いや、ほんとよ、ホント。核動力で、ショックダンパー付きだからどんなに高いところから飛び降りても平気だし、サーボもあるから鈍器で色んな物を陥没させられるし」

「……まあ、回収したらわかるよね」

 

 その声色は信じていないな59式。まあいい、今の私はとても気分がいい、気にしないであげようじゃないか。

 さて、そうと来たら、上層階に巣食うスパミュ共の駆除を本格的に考えねばならぬ。

 エレベーターを破壊して閉じ込めてしばらく経った後に確認するのはなしだ。連中とて、階段部分の封鎖を破壊するとかシャフトを一階層分降りるとかその辺りのことはできるだろう。確か生物毒は無意味だし、外部からちくちくやるにしても、狙撃銃ではデパートの内部にいるものを狙うには足りない。屋上には出てこないだろうし。

 

「狙撃班、屋上とか窓にスパミュが顔だしたことある?」

『現状はありません』

『今の所ないわ』

「だよねー……とはいえ、屋上に出てこないとも限らないからなあ。引き続きお願いね」

『了解です』

『了解よ』

 

 そもそも外からは、屋上があのように二分されていることすら見えなかったことだし、それなりに用心か何かしているのだろう。

 そういえば、アサルトロンが走り回っている間に、カメラには自爆個体の姿が映らなかったことを思い出す。いないか、あるいは屋上の二分された反対側辺りにでもいるのだろうか。

 結局、突撃しかないかな、と思い始めていたとき、再びエレベーターが動き始めた。

 

「デパート内部班、全員地下三階以上へ。めちゃくちゃ嫌な予感がする。隠密して暗殺する。これについては反論を許さない」

 

 近くのキャビネットの上に、エレベーター方向へ向けてスパイカメラを設置し、近くの部屋へ引っ込む。エレベーター前で待ち伏せもよいが、これも勘。待ち受ける中、ゆっくりと降りてきたエレベーターが地下四階に到着し。

 

 ぴぽーん、どぅん……ダダダダダダダダッ

 

 ドアが開くやいなや、いきなりの乱射だ。エレベーター前で待ち構えていなくてよかったと思う。光学迷彩を使っているところを見られたせいか、何もない空間にも銃弾を叩き込んでクリアリングをしているようだ。

 

「ニク……!」

「……ニンゲーン、デテオイデー、オイシイタベモノガアルヨー」

 

 喋っていることはほっとこう。ただ、奇跡的に無事だったカメラから入る映像は、スパミュの姿を四つ捉えている。今までに見たような、廃材アーマーとアサルトライフル装備のスパミュが二。粗末な腰布と顔を覆い隠す頭巾、そして右腕に何か抱えたスパミュが二。

 

『でやがった。あの後ろの頭巾が自殺個体。あれには絶対に見つかるな。万一見つかったら全力で逃げて、装備も弾薬も補給も放棄していい』

 

 直接見えないのでPDAに文字入力で人形たちに情報を送る。そのまま、一度ダクトに潜って隠密開始。ステルスボーイもあったらよかったんだが、あれはゴミ箱からは出てこない。私の潜んでいる小部屋にも当然顔を突っ込んできて適当に薙ぎ払ってきたが、ダクトの中にいる私には当たらなかった。一発ぐらいならスティムパックの出番かなと思っていたが、拍子抜けだ。そのまま戻っていくので、静かにダクトから出て、レーザーライフルの電源を入れ、連中の後ろに滑り込みO.A.T.S起動。自殺個体から先に全員頭を打ち抜いてやる。見事に全員灰になったので、ミニニュークだけ回収した。他は、最終的に回収するが今は放置。

 

「デパート内部班、全員地下四階エレベーター前に集合。私込みでカチコミかけるわよ」


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