AA-12を先頭に、再び九階、十階へと登ってゆく。
大雑把な感覚的なマッピング的に、仕切られていた屋上の反対側へは、恐らく通常のエスカレーターで登ってゆくことで行けると判断した。デパート内部の案内板から、屋上は通常はキッズプレイエリアらしいのだが、イベントプレイスを兼ねているようで階段だけでなくエスカレーターでのアクセスが可能なようになっていた。エレベーターも十階、屋上間を移動する小さなものが設置されていたが、そちらは動かなかった。
エスカレーターを登った先は小さな風除室であり、当然ガラスは砕けている。外には、何やら装備がゴテゴテしいスパミュが一人。それ以外は何もおらず、その少し後方ではよく見るタイプの燃料式発動機がなにやら唸りを上げている。屋上の残り半分が見えるかと思っていたがその残り半分はさらに半分に仕切られていて奥が見えない。発動機から伸びるラインはそのベニヤ壁の向こうに伸びているようだ。
「ココマデカ……アトハマカセタゾキョウダイ!」
『なんだと?』
「え、なに、お嬢あいつなんて言ってたの!?」
ごてごてしいスパミュ、恐らくはスーパーミュータント・ウォーロードは、なぜか私達ではなく燃料式発動機にミサイルランチャーを放ってそれを破壊すると、ランチャーを投げ捨てスレッジハンマー、いや、スーパースレッジに持ち替えて雄叫びを上げながらこちらに向かってきた。
「ウオオオオォォォォォォッ!!」
だが、悲しいかな。
キュイイイイイドドドドドドドドドドドドッ
パワーアーマーにより安定性を獲得したプラズマガトリングの前では等しく緑の粘液にジョブチェンジさせられる弱者でしか無いのだ。
「……。あまりにあっさり過ぎて逆に哀れに思えてきたぞ。もう少しこう、手心というものをだな……ともかく、あやつは一体何を言っていたのだ?」
『もはやこれまで、兄弟よ後を頼んだ、ってところかしら』
「跡を頼んだ? つまり、こいつらにはまだ残存戦力があるということか?」
『今の所気配的にはそういうのが引っかからないのよね。あなた達のセンサーには?』
聞き返してみると、処刑人も法官も首を振る。ウチの人形たちにも目を向けてみたが、揃って首を横に振った。
ベニヤ板の向こうでも覗いてみるかな? と思ったとき、ふと、壁の向こうに強い気配をPerceptionが引っ掛ける。同様に気づいたのか、鉄血人形二人と、HG組が戦闘態勢を取った。
『……なによ、これ』
嫌な想像が頭をよぎる。外れて欲しい想像だが、スーパーミュータントが兄弟と呼び、単数で「任せられる」ほどの戦闘能力があり、発電機を破壊する=電力喪失により動き出すやつなんて、一つしかいない。
ウォーロードが落としたスーパースレッジを拾い上げ、覗き込む手間も惜しいのでベニヤ板をフルスイングして叩き壊す。想像通り、電気的で今や無意味な枷を叩き壊し、スーパーミュータントをそのままさらに大柄、というか巨大化させたようなやつがそこにはいた。
『デパート班、総員十階まで退却! 急げ!』
唖然としていた人形たちが、弾かれたように駆け出していく。こういうときの殿役のAA-12の更に前で、牽制のためにプラズマガトリングをぶっ放すものの、少しひるませるぐらいでそこらにあった拘束用機材を盾にして防がれた。とはいえ視線が切れたのも事実で、その間に私は隠密、人形たちは十階まで退避。
『指揮官! 屋上に巨大なスーパーミュータントが! あれはなんですか!?』
『ベヒモスよ! 頭を狙って!』
『了解! なんなのよあれ、信じられないわ!』
ItBM59のぼやきも当然だろう、あんなデカブツ、普通はありえない。身体がそのまま大きくなるということは、相対的には脆くなることと同義だ。ただ、ファンコミュニティの考察にもあったことだが、スーパーミュータントは貪食の果てに際限なく成長を繰り返し、最終的にベヒモスへと至るのではないか、というものがあった。第三次世界大戦に端を発する無政府化により、自力で拠点を築いて生き抜いていたコミュニティが、スーパーミュータントに襲撃を受け、食い尽くされ、あるいは時に共食いすら果たした個体がベヒモスになったのではないか? 勝手に私が呼んでいるだけだが、Type4、すなわちボストンに生息するタイプのスパミュは頭は悪くなく、それゆえに枷を作って封じ込めていた。最終手段兼用として。
私を見失っているようで、ベニヤ板近くにしゃがみこんでいる私には目もくれず、ベヒモスの巨体では腕ぐらいしか通らぬ十階へのエスカレーター口をほじっていたが、すでにその近くには人形はいない。苛立ったらしく咆哮を上げながら地団駄を踏む。屋上がいくらか崩落したが、それでもベヒモスが入り込めるサイズではない。
と、ベヒモスの頭部がかくんと揺れる。その直後に
タァーンタァーン……
後を引くライフルの銃声。二人の狙撃が頭部に命中したのだろうが……わかっていたことだが、浅い。が、このまま屋上から出られないベヒモスを狙撃し続ければそのうち倒せるだろう……と考えてやばいそれはフラグ、と思い至るも、少し遅かった。
「ガアアアアアアアアッ!」
どこから攻撃されているかに気づいてしまったベヒモスが、屋上に転がっていた室外機(業務用の大きいやつ)を掴み、ブチンバチンと固定を引きちぎるとそれを振りかぶって投げた。あの方向はItBM59か?
『BM59、回避じゃなくて遮蔽をとって! あれは、追いかけてくる!』
『はぁ!? ……うわ、本当ね指揮官、屋上にいて遮蔽が近場になかったダミーが一機潰されたわ』
『マジか。狙撃班、全員遮蔽のとれる位置へ。そうじゃないと、BM59のダミーみたいにぺしゃんこよ!』
ベヒモスの投擲、ゲーム内では岩だったが、あれは奇妙かつ非常に強い誘導性能を持って回避しようとするママンパパンに襲いかかった。まさかこっちでも有効とか聞いてねーよ。
『……遮蔽が取れるなら問題ありませんね。狙撃、続けます』
『まっさか、ダミー落とされるとはね……仕返しよ!』
タァーンタァーン
「ゴアアアアアアアアアッ!」
銃声と咆哮、屋上設備が引き剥がされて投げられるという応酬が続くが、そのうち、当然やってくる弾切れがきた。屋上に、もう投げられそうなものはない。まあ手詰まりだろう、そろそろ横からガトリングぶっこんで膝でも砕くか、とスピンを始めようとしたところ、ベヒモスは思いもよらない行動に出た。
つまるところ、屋上から飛び降りたのだ。
『え!?』
『はぁ!?』
『嘘でしょ!?』
『ちょっとお嬢どうなってるの指示ちょうだい!?』
慌てて屋上の縁まで駆け寄って下を見たところ、着地して、特に支障もなく動けるらしい。嘘だろ!?
『狙撃班、退却、いや市街区へ潜伏。まともにやりあったらぺちゃんこにされるわよ。デパート班、デパート外へ移動して。ベヒモスとやり合うわよ!』
『エレベーター動かすから指揮官も早く!』
『私は屋上から飛び降りるから先に行ってて! パワーアーマーにはショックアブソーバーがあるから平気なのよ!』
『ちょ、指揮官待っ』
返事を聞かず、私はそのまま屋上からその外へダイブ。スーパースレッジで薪割りダイナミックできないかなと思ったがさすがにそこまで精密な落下点制御はできていない。ので、スーパースレッジは空中で放棄。プラズマガトリングを着地時に壊さないようにしっかりと保持する。目測三、二、一、
ずどぉんっ!
ひどい音がした。足元のアスファルトとかヒビが入るを通り越して粉々だ。
だが、私は無傷だ。念の為の各部コンディションチェックにも異常なし。
『着地成功、ベヒモスに攻撃を仕掛けるわよ!』
幸い、ベヒモスは視界内にいる。近くにいるスプリングフィールドを攻撃しようとしているようだが、あのスプリングフィールドの誘導するような動きからしてあれはダミーだろう。では遠慮なく膝カックンと行こう。突くのは膝ではなくプラズマガトリングだがな!
キュイイイイイドドドドドドドドドドドドッ
緑の光球が列をなしてベヒモスの右膝裏に殺到し、よろめき、膝を付き、倒れ込む時には自然と手は何かにつかまろうとするので余計に脚はがら空きになる。無防備になった脚にしつこく攻撃を加えて、ズタボロの血塗れのグズグズになった辺りで、脚がClippedになったことを確信してトリガーを緩めた。
というか、プラズマガトリングという武器の最大の欠点はその耐久力のなさであり、ワンマガジン、といってもかなりの弾数があるのだが、ワンマガジンちょっとで耐久が限界を迎える。よって、プラズマガトリングはここまでで、次はプラズマライフルによる引き撃ちが適当だろう。実際、怒りに燃え、敵意に溢れた視線のプレゼントを受けている。ま、どうせ、片足を砕いたとはいえ、デスクローの例もあることだ、ベヒモスとて同じ様に、
『ああくそ、やっぱりお前もかよっ!』
片腕を第三の脚のようにして移動してくるベヒモスに対し、私は距離を維持すべく走り始めた。