人形指揮官   作:セレンディ

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配属

 私の配属された指令室のある地区は、R08地区だった。

 てっきり、SABCD系の重要度危険度に応じた地区名だと思っていたが、単なるアルファベット順だったのだろうか? 鉄血の哨戒経路が近くにあり、G&Kの想定哨戒路と重なっているため頻繁に小競り合いが起きる地区らしい。哨戒経路を潰し、後続の部隊も潰し、最終的に他地区へ遠征ができるように地盤を固めること、というのが最初の任務のようだ。

 

「初めまして、指揮官様。あなたの後方幕僚となる、カリーニンです……どうかなさいましたか?」

「……いえ」

 

 最初に思ったのは、そりゃ当然カリーナじゃないのか、ということだった。確かにカリーナはS09地区の指令室に配属される、新米指揮官、つまるところプレイヤーの所に配属されるはずであり、当然カリーナは人間だし一人しかいないので、どこかに配属される予定があるならば別のところには別の人員が回されてくるだろう、当たり前に。ちょっぴりあの銭ゲバ(?)との邂逅を楽しみにしていただけあって、落胆が大きい。事あるごとにあの自己主張の大きい胸を鷲掴みにしてやろうと思っていたのに、現実の後方幕僚はなんかチャラめのにーちゃんである。外見的にはカリーナの兄貴とか言われても信じそうなぐらい似通っているが……どうなのだろう。名前からしてロシア系なんだろうか? そういえばスオミはロシア系人形を毛嫌いしていたが、カリーナとはどうだったんだろうか?

 ともかく、こちらも名乗って自己紹介をする。その途中、カリーニンがどうにも微妙な顔をしていたのが気になったので、その理由を問うてみた。

 

「いえ、大したことではありません」

「大したことでないなら言っても構わないでしょう?」

「……、いえ、事前に伺ってはおりましたが、本当に59式に似ていらっしゃるのですね、と。体型まで含めて、何もせずにそこまでそっくりなのはとても稀かと思いまして」

 

 失礼なことに視線が私と59式の胸を往復していたので、鼻を掴んでねじっておいた。次は折るぞ。

 

 

「以上が指令室の設備概要となります。念の為マニュアルにも起こしておきましたので、質問などありましたらこちらを御覧ください」

 

 鼻を真っ赤に腫れ上がらせたカリーニンから執務室の設備についてのレクチャーを受けた。設備仕様のガイダンスも兼ねて、本社司令部とのやり取りに使うメーラーから、初期配備人形の受領のための電子証書と、追加発注のための書類とトークンを受領する。資源も無限にあるわけではないので、初期配備の人形はある種のランダムらしい。前線に近いとか、索敵が重視されるとか、そんな指令室の事情もある程度加味されるとのこと。電子証書にサインをして送り返したので、明日の夕方には三ないし四体の人形がくるそうだ。

 楽しみである。

 

「それで、この後はどうなさいますか? データルームと、指揮官様には特別に修復及び整備所をご案内せよと指示を受けておりますが、時間的に今日はどちらか片方までにしておいた方がよろしいかと」

 

 誰が来るか想像していた所に、カリーニンが続きを促してきた。が、珍しいことにまだまだ日は沈まないにも関わらずそんな事を言う。

 

「え? 両方行けない?」

「あいにくと、どちらも説明が長くなることが予想されますので」

 

 真っ赤な鼻ながら涼しい顔をしてそんな事を言ってくる。

 思い返してみれば、最初期のデータルームは物置レベルだったので第一段階までアレコレするだけでも相応に時間がかかった。バッテリーの入手量が少ないのも一因だったか。整備所はゲームにはなかった項目なので、説明内容が推敲されていないのだろうか? まあ、いずれにせよどちらも回らねばならない。早いか遅いかの違いだ。後は救護室だが、あれ、これ私の負傷のためにも開発しておいたほうがいいんでないか?

 

「資料では救護室もあったと思うのだけれど」

「そちらは専門の職員もおりますので書面で十分ですので。ただ、職員からは、怪我や病気の手当てのために早めに設備を整えてほしい、との要望が上がっております」

「もう要望が来てるの?」

「はい。職員は数日前より務めてございます」

 

 意外にも早い。多分、御多分に漏れずに古い建物を修繕なり拡張なりして作られた指令室なのだろう。執務室の設備が申し分ないのに対し、喫緊の要がない設備はアンティークまで動員してとりあえず揃えただけ、と。かといってせっかく作ったものを放置するわけにも行かず、職員はとりあえずいれて警備して指揮官の着任をまつ、といった段階だったのだろう。

 いずれにせよ、データルームも救護室も早急になんとかせねばならない。

 

「まずはデータルームから。時間が余ったら整備所に行きましょ」

「かしこまりました。では、こちらでございます」

 

 

「……」

「こちらがデータルームでございます」

「……わぁお……」

「なんもないね~」

 

 暇だからとついてきた59式の言う通り、データルームと称すべきここには、割とものがなかった。せいぜい、ドローン操作系のクソ時代遅れセットと、人形向けの操作ステーションの二つだけだ。デスク……は、最初は手書きだったから何もなくてもいいとして、保存机もコンピューターも通信出力設備も何もなかった。

 

「はい。ですが、ドローンの操作は戦闘中の指揮を行うためにも必須ですので、こちらは時間を割いてご説明することとなっております」

 

 確かにそれは必要だ。が、その前にその他の設備が何故ないのかを問いたださねばならない。

 

「それは必要だと思うからいいわ。でも、なんで他の設備がないの?」

「……グリフィンも、実を言うとかなりの物資不足でございまして。端的に言えば予算が足りず、この指令室の体裁を整える段階で真っ先に切り捨てられたのがデータルームと救護室です」

 

 切り捨てどころを間違っちゃいないかそれは?

 まあ、いい。それならそれで、資材を色んな所から、それこそ鉄血人形の電脳から基盤まで何でも集めてきて、でっち上げるだけだ。

 

「とりあえずわかったわ……。それじゃあカリーニン、本部に陳情してジャンクでいいから、動作保証はなくてもいいから回路基板とか銅とか金とか集められる?」

「申し訳ありません、指令室の所によってはジャンクを設置しているところもあると聞き及んでおります」

「まぁじでぇ? G&Kって意外と貧乏なの? シェアトップじゃなかったの? えーと……じゃあ、廃棄場とか処分場とか埋立地とか、この近くにある?」

「は? 廃棄場……でございますか?」

 

 私の質問にびっくりした顔をしていたカリーニンだったが、数秒で持ち直すと手元のタブレットを操作して検索。

 

「……近くに旧産業廃棄物処分場がございますね」

「よっしゃあ宝の山キター!!」

「え~またゴミ山漁るの~?」

 

 59式がうんざりした顔をしているが、父の部隊にいた頃は、私の一存で動かせる人手など59式しかいなかったから仕方ない。人間の部隊員に頼もうものなら後が恐ろしい。何をおごらされるかわかったものじゃない一方で、59式ならアイスやケーキでコロッと流されてくれるので便利だったのだ。詐欺だなどと言うまいよ、キミのボディの整備素材を集めたりもしていたのだ。

 そう、産業廃棄物の山は宝の山と同義である……アパラチアでは。こっちでは私にとってぐらいだが。

 まあ、コーラップス流出と第三次世界大戦でぼろぼろになった世の中ではまさしくゴミの山かもしれないが、フォールアウト式資材リサイクルが可能であれば資源の山と見ても問題ない。効率の多寡はあれど、資材が集まるのはよいことだ。後は、アレが欲しい。

 

「ねえカリーニン、手段はともかくとして、核物質手に入らない? ウランが一番いいんだけど、この際使用済みプルトニウムでもいいわ」

「はぁ、核物質でございますか……、……か、核物質でございますか!?」

 

 やはり驚かれるか。核ミサイルが飛び交って、やべーぐらいに人類の生存圏を狭めたこの時代、核兵器に通じるものは忌避感が大きいのは当然か。

 

「な、何にお使いになるのですか? ま、まさか……」

「物騒なものには使わないわよ。核融合発電機を作るの。追加、もしくは非常用電源としては優秀よ?」

「発電機……? と……とりあえず、手配できると確約はできませんが、陳情はあげさせていただきます……」

「ええ、それでいいわ。理想は、産業廃棄物の中に核物質入りのバレルが不法投棄されてるパターンだけど」

「冗談でも恐ろしいことを言わないでくださいませ!?」

「……前~あったよ、それ……」

「なんですって!?」

 

 とりあえず過去の行いをなんか遠い目で思い出している59式を立ち直らせ、その日はドローンの扱いを学ぶことで終わった。

 それにしてもこのドローンコンソールは使いにくい。後継機はなんだかんだでフィードバックを揃えて扱いやすくなっているそうなので、とっととグレードアップしたいところである。バッテリーを揃えるより、自分で作ったほうが早そうだ。

 ……まさか、そこも予定に組み込まれてるとかあるんじゃなかろうな?

 ありそうだ……。




PCがフリーズして調子が悪くなり、編集中のものがぶっ飛ぶというしなくても良い経験をしました。
個人的な趣味嗜好から編集作業はよくただのメモ帳で行っているので、自動保存など無かった次第です。

何か別のものに乗り換えますかねえ。

ともあれようやく指揮官配属にこぎつけました。

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