人形指揮官   作:セレンディ

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深夜にも投稿しておりますので、未読であればそちらを先にどうぞ。


クリティカル

 パワーアーマーのダッシュ機構を使用して高速で移動しつつ、時折残る脚に向けて銃撃を繰り返す。コア残量は残り八十パーセント。二百パーセントコアを作っておけばよかった、もしくはNuclear Physicistを用意しておけばよかったと思うが後の祭り。どう考えてもゲーム中みたいな、コアを所持していれば自動交換、なんてものがあるとは思えないので、コア残量がゼロになる前にどこかで一度パワーアーマーから降りてコアを交換する必要がある。だが、プラズマライフルでは当然ガトリングに時間あたりの火力は劣るし(一発単位であればこちらのほうが高いのだが)、不意打ちでもないし、よろめいてないし、ダウンしてもいない。時折周囲にあった車の残骸などでガードされるしそれを投げ込んでくるし、建物から建物へ道路越しにジェットパックを使って飛び移ったり、窓を蹴破って建物を通り抜けたりを繰り返していると、どうにもコアの消費が早すぎる。一時的に認識を切ることは可能だが、昇降中は隠密が途切れるためどうあがいてもそこで補足されて死が見える。最悪、壊されないように地下鉄入り口に停めていくしか無いかもしれない。

 

「ガアアアアアアッ!」

 

 もぎ取られた交番が宙を舞う。近くの家に着弾して派手に土煙と破砕音をあげ、その誘導性能のせいでどうにも距離を離すような方向に移動することが難しい。一方で、建物を遮蔽に使ってベヒモスが通れないルートを使ってチクチクと残る脚を刺していく。残量六十パーセント。

 パンチ一発、吹き飛んだ壁より建物から脱出。その直後、パンチ一発破砕される建物。そろそろ缶コーヒー連打はお腹タプタプです。土煙がもうもうと上がる中、振り返ってターゲティングHUDでハイライトされたベヒモスのシルエットを撃つ。残量四十パーセント。

 

『デパートから出たよ! お嬢今ど……土煙が遠いよ!?』

『逃げないとあたしだってぺしゃんこだわ!』

 

 消火栓チョップとか勘弁して! ていうか少しぐらい見失って余裕くれてもいいのに! 主にAP回復のために! APのために! 缶コーヒーはもうお腹いっぱいだからジェットを使うよこの依存性マシマシの薬はあまり使いたくなかったのに!

 逃走方向の制御に意外と気を使う。脚を砕いた私を完全に敵視しているようで、時折狙撃班の攻撃が脚に刺さっているようだがタゲが移る様子が欠片もない。逆を言えば、見失わせても警戒状態がずっと続くようで、何か非隠密が必要な行動を起こせばそれに気づいてすぐこっちに来る(一度試した)。走り抜けた高架歩道橋が消火栓チョップで瓦解し、高いところから放り出されるもそこはパワーアーマー、ドッスン着地ながらもノーダメージで次の遮蔽に駆け込む。一瞬遅れて乗用車が着弾、怖いっつの。窓からチクチクとプラライで脚を刺してやり、いい加減骨でも折れろと祈らずにはいられない。コア残量は二十パーセントを切った。

 つい使うのを忘れる地雷とフラググレネードを、人形たちのチャンネルに警告を入れてからぶん投げる。どぉんばぁんがぁん、と連続して炸裂して、多少はよろめいたらしい。今までがノーダメージではなかったし回復されてもいないとわかったので多少やる気が出た。もう引っかからないだろうし、牽制代わりに残りの地雷を全て起動してばらまいてダッシュ。地下鉄入り口に走り込み、階段の下でパワーアーマーから降りる。地上からまた連続した炸裂音と、ベヒモスの不満げな唸り声が聞こえてきた。当然階段を戻ることはできないので、地下鉄の案内図を参照して別の出口から地上に出る。地下に潜ったと見えた私に相当のご執心のようで、すでに砕いた脚を投げ出して姿勢を落とし、地下鉄入り口に腕を突っ込んでいる。

 チャンスである。好機である。うおおやったるぜである。隠密を保ったまま、道路の反対側から照準をつけ、O.A.T.Sで可能な限りの連射を、その無防備な膝裏に叩き込む。

「グウアァッ!?」

 ワンマガジンまるごと叩き込んだが、まだ負傷レベルで重傷に至らないらしい。発見された感覚はしないが、そういう場合にあれが取りそうな行動というと……。まずいな、少し引き際を見誤ったかもしれない。ベヒモスが近くの自動車や標識やらなにやらを、手当たり次第にこちらに向けてぶん投げてくる。大半は明後日の方向だが、いくつか私が遮蔽にした建物に着弾、盛大な破砕音を上げて、特に屋上近くにヒットした道路標識が、何もかもをなぎ倒す回転をそのまま屋上の構造物に与えて……おい、あれ、屋上温室!? ガラスとか農機具とか鉄板とか、まずいこれは避けきれな

 

 

 

 

 

「……かん! しきかん! しっかりしてください!」

「……んお?」

 

 目を開く。スプリングフィールドの顔。いつもにこにこ微笑んでるタイプのはずだが、ひどく取り乱していて顔色が悪い。こういうところまで再現するとかI.O.Pも凝り性よね。

 

「……スプリングフィールド……?」

「はい、スプリングフィールドです! 指揮官、動かないで……すぐに救援を呼びますから!」

 

 身体を起こそうとして、動かない。というか脚の感覚がない。首だけ起こして下を見てみると、私の腰から下がなかった。まいった、リアルてけてけかよ。寒めの地域なのが良かったのか出血が控えめだが、このままだとまずいな。

 

「スプリングフィールド」

「はい、指揮官、だめです、喋らないで……」

「ああ、いいからさ、そこらへんに、私のバックパック、無いかな」

「ば、バックパック、ですか!?」

 

 慌てて周囲を見回すと、手の届くところに転がっていたようで、それを掴んで引き寄せる。

 

「ああ、それそれ。で、スティムパック、ここに入れてたのよね……ああくそ、眠くなってきた」

「し、指揮官!」

 

 悲痛な声、というのはこういうのなのだろうなあ。まあ、このまま行けば単なる取越苦労で終わってくれるのだが。

 

「やべ……力が入らなくなってきた。これ、私に打ってくれる?」

「こ、これですね……!? ど、どう使えば」

「服の上からでいいから、刺して。注入式……なんだ。やばい、くらい」

「い、いますぐ、あ、あっ……え、えいっ!」

 

 胸元に何か押された感覚。そこを皮切りに忍び寄ってきていた死神が、暗い感覚が吹き散らされる。

 

「よっと」

 

 身体を起こす。スプリングフィールドがぎょっとした顔をしているが、まあ仕方あるまい。慣れてくれ。

 

「59式、ベヒモスどこ?」

『さっきの場所にいる! 脚砕いてやったよ!』

 

 通信を聞いて、ひょい、と先程の道路に目を向けてみれば、デパート班全員掛かりで総攻撃の真っ最中だ。ただ、いかな人形の身体能力でも、避けきれない時があるのか、ダミーの数が減っている。座り込んだ態勢ながら相当の暴れっぷりだ。ゲーム内ではレベル上限が割と低かったのでそんな強い印象はなかったが、「リアル寄り」なベヒモスがここまで厄介なものだとは思わなかったよ。

 

「スプリングフィールド、銃貸して」

「ふぇ、へ、は、はい」

 

 動揺が凄いのか、普段聞こえない声が聞こえた。録音しときゃよかった。

 バックパックからサイコ、冷えたバリスティックビール、を取り出し投与して呷る。ジェットも三本取り出しすぐに使えるよう準備。

 スプリングフィールドを構え、神経を限界まで研ぎ澄ませる。

 

 タァーンタァーンタァーンタァーンタァーン

 

「クリップ」

「は、はい!」

 

 手に置かれたクリップをすぐに装填、ボルトを引く。ベヒモスは頭を抑えて仰け反っている。エネルギー耐性が高かったのか? それともサイコと酒の二重強化がそこまで強力だったのか。ジェットを一本キメてクリアになる視界の中、トリガーを引く。

 

 タァーンタァーンタァーンタァーン

 

 残弾数一。

 

「くたばれ、化け物」

 

 |O.A.T.Sも併用した最大限集中して研ぎ澄ませた《クリティカルの》弾丸を撃つ。

 弾丸は、ベヒモスの頭蓋を貫通し、後頭部から血と脳と脳漿の入り混じったものをぶちまけた。

 

「はー……最初からこうすりゃよかった」

 

 ぼやきながらスプリングフィールドにスプリングフィールドを返し、その場に座り込む。直に尻に舗装と小石が食い込んで痛い。ていうかなんで私は地下鉄でフュージョンコア交換をしなかったのだ? 焦って冷静な判断ができていなかったんだろうか……まあいいか。

 

「ねえ、スプリングフィールド」

「な、なんでしょうか?」

「パンツちょうだい」

「……え、嫌です」

 

 思わず、といった調子での返事が帰ってくる。私も苦笑し、

 

「だよねぇ~。私の下半身どこ? 剥ぎ取ろう」

「せめてそこは私の白衣とか巻いてよお嬢!」

 

 59式が駆け込んできて、自分の白衣っぽい上着を私に掛けてくれた。

 

「ごめんごめん」

 

 上着を腰に巻いて下半身裸族を卒業し、下半身を探しに行こう。特に靴がないと困る。なんとなくジェットを一本キメ、依存症が出ていることに気づいたので慌ててアディクトールを自分に処方した。

 大きくため息をつく。

 

 ……ぜってーこれあとで大説教だよね気が重いわぁ……。




とりあえずベヒモス戦は終わりですぷしゅー

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