人形指揮官   作:セレンディ

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あけましておめでとうございます。
今年も人形指揮官をよろしくお願いいたします。


閑話11 強化外骨格

 強化外骨格、通称パワーアーマー。

 いくつかのタイプがあるが、現在指揮官が運用しようとしているのはシャーシをベースに外装を取り付け、その外装が多種多様な機能を持っているタイプ。

 単独での戦闘能力は眼を見張るものがあり、走甲打全て揃った(?)人間戦車である。

 

 正座させられて人形たち全員から全周囲から説教されまくってヘロヘロになった指揮官だったが、懲りずにパワーアーマーの性能デモンストレーションを提案、というより強引に実行することにして射撃場へと全員を連れて赴く。

 ダミーSKS人形にパワーアーマーを着用させ(本人は自分が入っていないとテストにならないと力説したが59式がしがみついたまま離れないので諦めた)、射撃場に立たせる。で、人形たちが正面からそりゃあもう好き放題撃ちまくって、手榴弾を投げて、破壊しようと試みた。これが成功しないどころかある程度のダメージを通すこともできなければ、性懲りもなくこの指揮官はまた前線に出て、調子こいて下手打って四肢のどこかを失って戻ってくるだろう。もしかすると全部かもしれない。あるいは、それが頭ならそのまま死んでしまうかもしれない。さすがに頭だけになったところにスティムパックで全身復活とかいうちょっとヤバすぎる芸当はやめて欲しい、というのは人形たちの総意だった。

 結果。

 

「ろ、ろくにダメージが通っていない……!?」

「HGとSMG、SGの攻撃はほぼ全て跳弾してしまってダメージになっていませんね」

「ARも角度が悪いと跳弾だね」

「MGとARがなんとか……?」

「ダメージの大半はスプリングフィールドのカームショットと処刑人の斬撃か……」

「悔しいがスリップフィールドは意味がないようだな」

 

 指揮官、満面のドヤ顔。

 なお、テストに用いたのはこの間のデパート作戦の時に作成したT-60型とかいう装甲タイプで、これをX-01型と呼ばれるハイエンドモデルに交換することで、さらなる防御性能を獲得するらしい。そう聞いた人形たちは訓練を開始。ここぞと指揮官が置いていった強化カプセルの束を消化できるようにと模擬訓練プログラムを走らせまくっている。核動力発電でもなければその電力消費は賄えず、超電導エネルギーカートリッジが乱用されることだったろう。つまるところ、指揮官が前線に出ざるを得ない状況というのは、強力なE.L.I.Dが出てきたときであり、人形たちの攻撃が今の所通用しない相手である。今の所は。なので、能力上昇を図ったり、あるいはその上昇した能力でより強力な火力チューンを銃器に行えるようになったり、の強化を図る。

 

 一方、全体的にはあまり実りある行為とは言えなかったが作戦討論会みたいな物も行われていた。人形のAIには創造性とでも言うべきものが欠けていることは指揮官も踏まえているので、予め小隊編成を与えた上で対鉄血、あるいは対E.L.I.Dでどのような小隊行動が効果が高いかを議論したのである。

 で、ここで本領を発揮したのがスプリングフィールド。本来機密ではあるが、指揮官とか等の直に接するものとか、あるいは察しの良いものが感づいている通り、彼女は完全な自我が覚醒しているため創造性がないといった制限がない。指揮官が見ていたら「意図したとおりだけど、小竹槍のことよねそれ」とでもつぶやきそうな作戦を提案し、実際にテストしてみてテスト用ターゲットのダミーSKSは派手に吹き飛んだことに人形たちは目を輝かせた。パワーアーマーを着用させたダミーSKSに打ち込んだところ、それなり以上に有効なダメージを叩き出せたことに、人形たちは歓声を上げている。通常の弾丸が通らないE.L.I.Dへの有効打を得たことになるからだ。なお、同様の手段でCZ75でも似たようなことができたことも添えておく。

 

 ここで人形たちは一つの意見を纏め、指揮官へとエスカレーションを行った。

 

「……え、増員要求? それもあなた達から?」

「ええ。まずはこれを見てちょうだい」

 

 説明担当として、代表としてやってきたFive-seveNが、スプリングフィールド作成の資料を指揮官に提示して、それの解説をする。

 

「ああ……これね。いわゆる小竹槍編成って言われてる、ジャイアントキリング用の戦術ね」

「あら、ポピュラーなの? 作戦報告書だと見なかったんだけど」

「躯体性能と銃器性能の両方に精通してないと組めないからねえ……S09の噂の指揮官なら運用してるかも」

「そう。ともかく、知ってるなら話は早いわ。例の爬虫類二足歩行型を含む、E.L.I.Dに私達人形だけで対抗するためには、この小竹槍戦術が必要だわ。鉄血やテロリスト相手なら、指揮官の指示した編成がベストだと私は思うけど、E.L.I.Dに対抗するには、火力が足りないの。皆でライフル人形を補佐して最高の一発を叩き込む必要があるわ。だから指揮官、HG人形とRF人形を増やしてちょうだい。CZ75でもできなくはないけど、やっぱりライフルのほうが射程も威力も上だから」

「CZ75の斧に着弾後時間差爆発のクァンタムグレを装着するのは?」

「青色発光物恐怖症の人形をPPS-43以外にも増やしたいの指揮官?」

 

 真顔で返してきたFive-seveNに指揮官は舌打ち一つ。

 

「……チッ、だめか。でも、クァンタムグレはデスクローすら仕留めたんだから、最悪、小型クァンタムグレを斧につけて投げてもらうことは考えておいてね」

「……、まあ、CZ75に伝えておくわ。ともかく、増員を考えてほしいの。今のところだと、いなくちゃ始まらない狙撃役ポジションが、スプリングフィールドとCZ75しかいないのよ。ItBM59は狙撃よりも速射が得意なほうで、針の穴を通すような射撃には向いてないの」

「まあ、だろうねえ……ていうか、私が出るんじゃだめなの?」

「そう言って最初は左腕、次は下半身を失ってきた人にそういう意味での信用は無いわ」

 

 半ば吐き捨てるように、ジト目で告げられた内容には何も言い返せない。一つ間違っていたら死んでいた可能性が非常に高かったのもあった。

 

「うぐぅ……パワーアーマーがあるのにぃ……と、とりあえず、わかったわ。とりあえず、増員はしましょう。同時運用は小隊あとひとつかふたつぐらいが指揮の限界だけど、交代要員が居てもデメリットはないはずだしね」

「ええ。肝心な時にバッテリー切れでアーマー脱ぎ捨ててちゃ意味がないわよ」

「勉強したもん! 核技術勉強してNuclear Physistとったもん! 200%フュージョンコアだって用意したもん! 当社比四倍だもん!」

「何言ってるのかわからないけど、増員はお願いね。あと、ホイホイ前に出たがるのをなんとかしないと、59式がずっと腰にくっついたまま離れないわよ?」

「……うぐぅ」

 

 トイレに行きたくても離れてくれない59式に、指揮官が音を上げてホイホイ前線に出ない約束をするまで後数時間であった。

 

「だって、お嬢って一秒目を離しただけで行方不明になれるスキルがあるじゃない」

「事実なだけにぐうの音も出ないわ……」


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