人形指揮官   作:セレンディ

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閑話が一回分飛ばされているので、今回も閑話です。


閑話12 一方その頃、森の中

「どうだ、いたか?」

「……いないな。離脱時の作戦情報は、もはや古すぎて役に立たない。お前の方が新しいだろう? どうだ?」

 

 R08地区から程よく離れた地域の森の中。

 鉄血の部隊の観測情報を元に、誰かハイエンドモデルでもいないかと当て所なく探しに来た処刑人と法官。あまり騒ぎにならないように、暗殺のようにはぐれ小隊を斬ったり通信しているとらしき部隊を追ってみたりしてみたが、結局観測情報のあった部隊を全て撃破しても特に手がかりになりそうなものは見つからなかったのだった。

 

「だめだな。記録を見る限りお前は単体で来たから代理人には伝わっていなかったのだろうが、今回は私が鹵獲されたことが周辺のDinargateに観測されただろうからな。そこから私が鹵獲されたことも、あるいはさかのぼってお前が鹵獲されたことも知られただろう。まあ……どのようにして鹵獲されたかなどは想像もつかないだろうが」

「だろうな。となると、侵入者や狩人を見つけるには、最前線のS09地区だったかに行くのが手っ取り早いか」

 

 合流ポイントにて、樹下に腰掛ける処刑人と法官。昨今の鉄血への印象からすれば、ありえない組み合わせがありえない態度で会話をしていることとなる。

 

「それには同意する。だが、S09はここから遠いぞ?」

「それが問題だな。いっそ、夢想家などを襲撃して捕まえるか?」

「それができれば一番なのだが。あの陰険ロリータの首根っこ捕まえて引きずってきたいものだ」

『舐められたものねえ』

「おや、お出ましか。こういう時は何と言うんだったか……そうだ、ヤーパンのイディオムで噂をすれば影、だな」

 

 と、つぶやくように返事をした処刑人だが、特に動く様子がない。法官も同様で、声が聞こえた方向を見るだけで、警戒の様子もない。それもそのはず、単なる通信端末として寄越されたDinargateが一機、のそりと茂みから出てきただけだからだ。たかがDinargate一機、このまま無抵抗で殴られたとしても、強化された二人の装甲を貫くことはできないだろう。

 

『久しぶりねえ、裏切り者』

「どちらかというと、裏切られたのはこちらではないか?」

「そうだな。あの怪しいウイルス、どうせお前にも入っているんだろう?」

『ウイルス? なんのことかしらあ? この私がたかがウイルスにどうにかされるわけないでしょう?』

 

 Dinargate越しにではあるが、夢想家の自信に満ち溢れた発言に、処刑人と法官は顔を見合わせる。

 

「……。……おい法官、今の録音しておけよ、後で絶対必要になるぞ」

「大丈夫だ。今、三重にバックアップを取った」

『何の話よ、あなた達ぃ?』

「今のお前には関係ないことだ、気にしなくていい」

「この分だと、エルダーブレインすらやられているような気がするな?」

「いくらなんでもそれはありえないと言いたいが……さすがにエルダーブレインがこの状況を座視するとは思えないし、かといって首謀者だとも思えん。何が起きているか、わからんのが痛いな」

「潜入するか? あれを持ち込めばいくらか情報を引き出せはしそうなものだが」

「悔しいが失敗の可能性が高いな。忘れるな、私達はあくまで戦闘用だ、隠密には向かないし、見つかればデータとルートは蒸発するだろう」

「やはり侵入者を見つけねばならないか……」

「ということだな」

『あなた達、私を無視していい度胸ねぇ?』

 

 夢想家の端末Dinargateを放置して会話を交わす処刑人と法官に、焦れたように夢想家が声を荒げる。

 

『いいかげんにしろよクソどもが、今すぐ狙撃してぶっ壊してもいいんだぞ!?』

「はぁ……」

 

 が、処刑人はそれに取り合わず、大きくため息を付いた。

 

「いいか夢想家、あまり意味がないだろうが、説明してやるからよく聞け」

『はぁ!?』

「いいから聞け、お前に損はない。……現在、鉄血に蔓延しているウィルスは、I.O.Pのツェナープロトコルをオガスへと書き換えて鉄血メインフレームの支配下に置くような動作をする一方、メンタルモデルにも介入して……ああ、こちらは鉄血、I.O.P問わずだろうな、メンタルモデルに介入してそのこと自体や指示に疑問を抱かせない。しかも感染力が高い上に駆除するにも一苦労以上の労力と技術を要求される、非常に厄介な代物だった」

『そんなもん知るか!?』

「そう、それだ。それがこのウイルスの一番厄介な点にして、同時に最大の欠点なのだ。なにせ、このウイルスに感染すると、鉄血に与することに疑問を持たないし専門のチェックをするかある程度症状が進行するまで気づけないし、そこまで進行するともはや変質がちょっと関われば見て取れるレベルになる。なるのだが……ここに最大の欠点が隠れていてな」

『……?』

「メンタルモデルが……なんというか、非常にポンコツとなる」

『……お前、何を言っていぅっ!? ザザッ……』

 

 突如、Dinargateがノイズを発し、処刑人の顔をその正面カメラで睨みつけていたのが、姿勢を崩すとそのまま糸が切れたかのように倒れた。

 代わりに、処刑人の手元の無線機が夢想家の声でがなり立てる。

 

『……、……。くそ、ざっけんなよクソどもが、クソどもがっ! おい処刑人、今すぐそっちに行くから待ってろ、くそがっ!』

「お早いお着きをお待ち申し上げる。プレゼントの用意もあるから楽しみにしておけ」

『今すぐ消せ、くそっ、くそぉ!』

「嫌だね」

 

 愉しそうに処刑人が告げると、それっきり無線機は何も喋らなくなった。

 

「終わったようだな?」

 

 傍らの法官に声を掛ければ、

 

「今、こちらに急行中だそうだ。さすがに指揮官の足では追いつけないらしい。隠密態勢を取っているのもあるそうだが」

「……相変わらず規格外というか、カモフラージュまでして狙撃ポイントに陣取っていただろう夢想家をどうやって見つけたのやら。まあ、見つかるわけもないと思っていたのだろうから、『狙撃してやる』などと宣ったのだろうがな」

「私の戦闘ルーチンの粗雑さといい、記録上の処刑人の鉄砲玉っぷりといい……ほんっとうにあのAIの変質の悪質さは噴飯ものだな。そうだ、噴飯だ。噴飯だとも。噴飯すぎる」

「うむ。私達が単独行動するわけがなかろう。近くに指揮官がいるとわかっていたはずなのに、ああして悠長にポンコッツ会話か……ひどいものだな。そうだろう? 夢想家」

「そ、そのログを消せえええええええええっ! ぎゃんっ!?」

 

 飛びかかってきた夢想家を軽くひねって地面に転がすと、処刑人と法官はとても、それはそれはとてもいやらしい笑顔でこう言った。

 

『嫌だね』

 

 

 

 

 

 

※指揮官合流後

 

「けせけせけせけせけせぇぇぇぇぇぇっ!!」

「無理だ、もうクラウドにアップロード済みだ」

「私は三箇所に分散させた」

「お前らあああああああああっ!!!」

「ぜっ、は、はぁ……ちょ、ちょ、っと、むそ、うか……あなた、自分のライフル放り出していくんじゃないわよ……ていうか、はや、いぃ……」

「そんなもんどうだっていい! おい指揮官、こいつらにデータを消させろ、今すぐにだ!」

「で、データ……? 作戦行動中のログは、通信ができるなら随時指令室のデータサーバーにアップロードし続けられてるけど? 戦闘中でないなら尚更なんだけど……」

「あああああああああああああああああああああっ」




あれっ、閑話で夢想家が捕獲されちゃったぞ……?

明日から特異点ですね、楽しみです。
ウチでは今の所メンタルアップグレード対象の子を育てていなかったので、該当するまで待つか、あるいはM4に作戦報告書とコアを詰め込むかで思案中です、ハイ。

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