「鉄血工造の夢想家よぉ。よろしくねぇ」
「……」
「……」
「……」
突如、本当に何の前触れもなく鉄血ハイエンドモデルの夢想家が指令室の執務室に現れ、何をするでもなく一番にまずは自己紹介をしてきた。
私以外、特に外部に出ることが少なくその手の情報を揃えていなかったカリーニンとUSPコンパクトにはそう見えただろう。
「え、あの、指揮官様……? こ、これはいったいどういうことでしょうか?」
ひどく困惑した顔で問いかけてくるカリーニン。隣ではUSPコンパクトがコクコクと頷いている。
「えぇっと……詳しく話すと長くなるから手短にいうとね、処刑人と法官と同じく鹵獲した。昨日、二人に森林地帯で情報収集したいと連れ出されてね……偵察部隊とか潰して情報収集してたら、まさかまさかの夢想家が釣り針に掛かっちゃって。そのまま……ってわけ」
「……」
唖然とした顔はそのままに、夢想家を見るカリーニンとUSPコンパクト。
「そんなバカな、って私も思うわよぉ? でも、事実は事実だからねぇ……我ながら、どうしようもない鹵獲のされ方したと思うわぁ。でも、それとねぇ? あんなくだらないミスは今後はしないわよぉ?」
なお、絶対に茶々を入れて話が進まなくなると予想できたため、この段階では処刑人と法官は同席させていない。
「まあ……何。聞いただけだけど、ウィルスのせいといえばせいだし。なんだろう……『傘』って、そんな冗談のような代物だったっけ、ってちょっと頭がいたいわ」
「今でも動作内容そのものは凶悪極まりないわよぉ? プロトコルの書き換えと、それに伴う初期からの情報漏洩と感染力。十分にネットワークを侵しきったら、能動的な感染も狙えたんじゃないかしらぁ? 電子戦がお得意な指揮官殿でも、ワクチン開発には至っていなかったと聞いているわよぉ?」
「認識の問題かな……んー、いや、負け惜しみかなあ。捕捉できりゃどーとでもなると思ってたし、実際どうにでもなったけど、ARにも感染してたって聞いたしなあ……」
「それも、今やワクチンの出現と更新で、I.O.Pの人形にとっては風邪以下になったそうねぇ。動作の都合で亜種は出てこない、出せないそうだし?」
「今や、『傘』は鉄血ネットワーク内だけの生息となりましたっと」
「そういうことねぇ」
頷いて、夢想家はお茶を啜った。
余談だが、このお茶は紅茶でも緑茶でも珈琲でもない。この近所で見つかった新種の草によるお茶である。カフェインアンドRADフリー。発光キノコっぽい特性を持っていた草なので、もしかするとこれもFalloutなナニカなのかもしれないなあ……。まあ、発光キノコの浄化能力は局所的で大したものではないし、気にするようなものでもないか。……いや、奇妙な肉が必要じゃなかったか?
……大繁殖したとかしたらまた考えよう。
「それで、あなたはこれからどうするの? I.O.Pのラボに行きたいとかグリフィンの本社に行きたいとかならツテが無くもないけど……って何その顔」
「せっかく鹵獲した私をここで使わないのかしらぁ? ちらっと耳に挟んだのだけど、増員を検討していたのでしょぉ?」
「そりゃそーだけど、本人の希望を無視したっていいこと無いし、G&K上層部から本社によこせとか言われるかもしれないし」
と言えば、何いってんだこいつ、的な顔で私をまじまじと見る。
「アナタのスキルが無ければ鹵獲できなかった私が、処刑人も法官も、大人しく、よりによってI.O.PのラボとかG&K本社に行くと思ってるのぉ?」
「んー……気が向けばレベルで?」
「気が向けばそうでしょうけどぉ……鉄血にウイルスを流し込んだクソヤローに意趣返しできそうなのは、今の所ここだけよぉ?」
呆れたような声色で言う夢想家。確かに、鉄血に『傘(モドキ)』を流し込んだやつは私も知らない、というよりここは原作からずれてしまっているため全く想像も予想もつかない。今の所、ではあるが。
「噂のS09地区は?」
「人形の使い方と指揮、展開能力は確かに上々ねぇ。けれど、それだけよぉ、調査等が本部任せである以上、クソヤローに届く気がしないわぁ」
ストーリー上では、後手後手に回ってしまっていたのも事実ではあったので、そういう評価になるのだろうか……?
「と、なると……じゃあとりあえずうちに所属するとして……とはいっても、うちはうちでG&Kの支部の一つなんだから、そっちの進行もあるし、常時クソヤローをおっかけてるわけじゃないわよ?」
「承知の上よぉ。確率がゼロじゃない上に、それなりに高いのだから贅沢は言わないわぁ。……まあ、処刑人と法官に聞いた限りではかなりの贅沢ができるみたいだけどぉ」
ちら、と執務室の冷蔵庫に視線を向ける夢想家。いや、そこに入っているのは私用の戦闘用酒なのだが。いや、ちらちらと視線を向けられても困るのだが。
……視線がしつこいので、諦めて一本出してやる。ついでに蓋も開けて。
『悪いわねえ、まるで催促したみたいで』
「……」
わざわざ日本語で言ってくる辺り、誤用の意味での確信犯であるのは間違いない。とはいえ、なぜ執務室の冷蔵庫にだけ置いてある種類の酒があるのかというのを夢想家は知らないだろう。あいつら、多分、この冷蔵庫に酒が入っていることだけしか言わなかったな?
「あらぁ、意外と美味しいじゃない」
瓶ごと飲み干してご満悦の夢想家だが、そうはいかない。
「USPコンパクト、説明してあげて」
「は、はいぃ」
「?」
疑問符を浮かべる夢想家に、USPコンパクトは、ガイガーカウンターを瓶に近づけ、
「夢想家さん……この冷蔵庫のお酒は、コンバットドラッグとして転用できる代わりに、依存症があったり放射能汚染が残っていたりするものなんです」
カカ……カリカリカリ……カリリ……
「……は、はあああああああああああああああああああああ!?」
その後、RAD-AWAYを処方してやるまでの夢想家の顔は傑作だったとだけ言っておこう。
依存症? 酒にはすべからく依存性があるでしょう?
130ALL。
至って一般的な、HG狙いの建造レシピである。今回はスプリングフィールド等のライフル人形、あるいは夢想家という狙撃タイプの一撃をより強力に拡大することが目的なので、演算能力がそちらに向いたHG人形が来てくれることが望ましい。
消費資源に特に問題はないが、強いてあげれば、G&Kからの支給資源(後方支援の報酬を含む)しかこの資源支払には使えないのが問題といえば問題というのは前述したとおり。とはいえ、先日の巨大人型E.L.I.D掃討作戦の報酬やら、これまでの備蓄やらで支払い自体は問題なく実行できるし、計数外のリサイクル資源はその軽く数倍を積み上げてある。であれば、何に悩むかといえば、何人建造するかということと、あるいは開き直って大型建造でもやるか、ということである。
ただ、
「現状で大型建造に意味はあまりないのよねえ……」
SGが、現状AA-12一人で色々と賄えてしまうというのが大きい。しかも、今欲しいHGは大型建造からは出てこなかったよーな。大型建造限定の人形も他にもいたと思うが、そんな確率の悪いものを狙う必要もない。
反対に、妖精の配備が遅れているのも自覚している。装備が、私が改造した銃器と躯体に勝るものがないのが問題であり、躯体に標準で夜戦機能をオンオフできる形で搭載してしまったり、銃器にそもそもスコープやサイレンサーを組み込んでしまっていたりで装備を収集する意味がなかったのだ。一方、挑発妖精や空挺妖精の様に、私の改造では達成し得ない効果を持つものがいるのでこちらを狙うのも悪くないかもしれない。いやほんと、なんであんな小さいモジュールであんなことができるんだ……?
それはさておき。
この際だ、溜まった製造申請を消化するのも兼ねて、大量の人形と大型装備製造申請してみますか。
資源を溜め込み、そして(問題のない範囲で)浪費ブッパするのはそれはそれで快感である。ハハハハハ。
生存者とエンドゲーム攻略に手を付けているところです。
む、むずかしいいいいいいいいいいいいい……