人形指揮官   作:セレンディ

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おまたせしました


火力信仰

 人形の火力が足りない。

 先日、ベヒモス、もとい巨大人型E.L.I.Dを撃破したときの経験による問題点がそれだ。本来……本来、戦術人形に求められるシチュエーションとは、鉄血工造の人形の排除だとか、テロリストの排除だとか、であって、E.L.I.Dの排除だのは正規軍の管轄のはずである。はずであるが、何故か我々はE.L.I.Dとの遭遇頻度が高く、なおかつ近隣に居座っているだとか補給路予定地に居座っているとかで回避手段が無く、その撃滅には現状、殆どの場合において私が直接手を下す必要があった。例外はPPS-43に投げさせたヌカ・クアンタム・グレネードぐらいであろう。逆に私が投げるのであれば火炎瓶、モロトフカクテルでもいい。

 私の火力は、推定「3とか4とか76とか(もしかするとNVも)のSkill・Perkを習得しているため重複適用が発生し火力がおかしいことになっている」ということができるが、一方で私と同じ火力増強方法は人形たちには使えないということだ。最初期からしょっちゅうGunslingerやRiflemanの習得を促してみていたのだが、今に至るまで効果は上げられていない。故に、躯体と銃器の性能向上でしか火力向上は見込めないのである。メカニック・ガンスミスとしての私の腕の見せ所ではあるのだが、やはり限度というものがあるのは如何ともし難い。ASSTを全員まるっと無視してガウスライフルを持たせるのも手ではあるのだが、それは本当に最後の手段だろう。オリジナル人形の開発? ハハハ、無茶を仰る。

 目標は正規軍MBTの正面からの撃破、と大風呂敷を広げておこう……。

 

 

 さて、その火力を補うために、運用で補おうと人形たちが提案してきたのが、いわゆる竹槍戦術。

 そのためのHGとRF人員の増強のための製造の大量申請、大型装備製造申請を行ったのが先日。そして結果通知が来たのが今。結果は、

 

『そんなにいきなり大量に生産できるわけ無いだろ生産部署はお前だけを相手にしてるんじゃねえもっと待て!!』

 

 ……盲点であった。受付はしてくれたので、他支部への兼ね合いを見ながら生産して届けてくれるそうな……。

 

 ということでやってきたのは二人。

 コンテンダーとM99である。原理不明のアンプリファイダメージ弾をぶっ放すコンテンダーと、きちんと補助してやることでエゲツねぇ威力の弾をぶっ放す、世界平和のためにボディとマインドがロリくなったM99である。一応、目的は達成しているので良しとしよう。

 ……あとは、そうだ。もしかしたら、夢想家ならガウスライフルとかレーザースナイパーとかうまく扱ってくれるかもしれない。

 

 

「というわけで、夢想家さんや、これ使ってみない?」

「何がというわけで、よぉ?」

「いつものお嬢の話の切り出し方だから気にしたら負けの類だよ」

「……あなたも苦労してるのねぇ。それで、これは何?」

 

 まいどまいど、59式が苦労してるかのような扱いをされているが、私が何のために骨を折ってあれこれ改造だのなんだのしているのは理解されていないのだろうか?

 まあいい、とりあえずは解説だ。

 

「ガウスライフル。専門のセルとプロジェクタイルを使って強力な射撃を行うレールガン。着弾時に微弱ながらもスプラッシュするので、それなりにべん……あ、いや、貫通するかも? レールガンだし」

「……はぁ?」

 

 射爆場。基地外壁の内周に沿って設置された射撃場ではなく、外壁の上からロボットが配置するターゲットに向けて強力な武器の威力試験を行うために急遽設置したものである。

 外壁の上に、私と夢想家と59式と、後は野次馬少々。見るのは構わないが、危険だから指定ラインから前には絶対に出るなと厳命してから、私はガウスライフルを構える。あまり意識したことはないが、こいつにはバックパックが必要なときとそうでないときがある。単純に、バックパックに機構を分散しなくても担げればよいのであるので、人形である夢想家は楽々、私も楽々である。私だってミニガンだろうとぶん回せるんだゾ。

 

 びしゅぅぅぅん……ずがぁぁぁぁん

 

 元暴言バラマキマシーンをターゲットに、ニーリングスタイルでガウスライフルを一発。意外に遠くまで離れていた元暴言バラマキマシーンに着弾、中規模な爆発を経て辺りに破片が散らばる。

 

「うむ、なかなかの威力」

 

 つぶやいて、ガウスライフルをそのまま夢想家に渡す。

 

「面白いライフルねぇ」

 

 それをしげしげと、角度を変えつつ見つめながら夢想家がこぼす。

 

「分解してもいいかしらぁ?」

「いいけど、とりあえず試射してみてからね」

「……うん? 分解してもいいのかしらぁ?」

 

 まさかOK出されるとは思っていなかったらしい。とはいえ、ガウスライフルも私が作ったもので、資材さえあればいくらでも作り出せる上に、その資材は現状唸るほどあるわけなので、そもそも私も改造研究のために作っては分解してを何度かやっている。プロジェクタイルがプラズマ化するほどの威力で打ち出しているので、サイレンサーは無理っぽいなと諦めた。

 

「資材さえあれば作れるからね」

「G&Kは資材に逼迫していたのではなかったのぉ?」

「うちはゴミ処分場漁って資源再生産してるからね」

「……」

 

 夢想家はそれ以上は何も言わず、軽く頭を振るとガウスライフルを射爆場に向ける。

 

「ターゲットをいただけるかしらぁ?」

「固定? 移動?」

「移動式で」

「オッケー」

 

 元暴言バラマキマシーンを再度走らせると、距離を見ていたのか私が撃った時と同じぐらいに至ったタイミングで夢想家は引き金を引いた。

 ぴしゅぅん

 高速のプロジェクタイルが元リベレーターを貫いて地面にめり込む。爆発は起きていない。なんというか……3準拠ではなく76準拠のようだ。

 

「おや……? 夢想家、ちょっと貸して」

「ええ、どうぞぉ」

 

 受け取って、MFセルを交換してチャージ、コンデンサOKの表示を見てからとりあえず構えて撃つ。

 びしゅぅぅぅん……ずがぁぁぁぁん

 

「……何故かしら?」

「……お嬢だから?」

「……あながち間違いと言えないのが辛いわねそれ」

「……」

 

 頭が痛い様子で、夢想家は彼女のレーザースナイパーを私に押し付け、代わりにガウスライフルを持っていった。ただ持っていっただけではなく、自分のメンテナンスソケットとガウスライフルのメンテナンスソケットを結線して、リミッター解除的なことをするようだ。一方で、私は私で鉄血の手持ち兵器に興味があったので、レーザースナイパーを射爆場に向けて一発撃ってみる。

 

 びしゅぅぅぅん……ずがぁぁぁぁん

 

「驚かないわよぉ、もう」

 

 ただのレーザーのはずが、着弾箇所が高熱になりすぎて弾けたようだ。

 一方で、ハッキングによる臨界駆動をしたガウスライフルから放たれたプロジェクタイルも、

 

 びしゅぅぅぅん……ずがぁぁぁぁん

 

 私と同じ様にスプラッシュが発生した。ただ、ガウスライフルにもかなりの負荷がかかったようで、異常発熱によりセイフティが働いて射撃できなくなっている。強引に撃とうとすれば、発射する前に弾けるか爆発するかするだろう。

 ともあれ、夢想家は、ガウスライフルがそれなりに気に入ったらしい。場合によっては他のライフル人形、ItBM59は嫌がりそうだが、スプリングフィールドならなんとか持ってくれそうな気もするので、持たせてもいいだろう。

 目標は大きく、ベヘモスを私の指揮下にない、つまり予め与えた方針や作戦のみでなおかつ1ないし2部隊で撃破することである。


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