人形指揮官   作:セレンディ

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改造

 FNCとかM14とかステンMk-Ⅱとかスコーピオンとか、いたらある程度の人員変更で昼戦夜戦への対応が便利だったのだが……ま、ないものねだりをしてもしょうがない。

 とりあえず、そろそろ四人が到着するそうだから、迎えに行こう。グリズリーも別便で出発してて、ほぼ同時に到着するんだってさ。さっすが快速製造要求チケット。

 

 で。

 

 兵員輸送カーゴトレーラーと、兵員輸送ヘリの臨時便が到着し、受け取りのサインやら何やらを済ませ。あとは兵舎で並ぶ四人と、その前に立つ私、と59式。

 一通り自己紹介を済ませてとりあえず何か訓示でも垂れなければいけないかなあ、と考えていた所、どこか困惑したような視線を感じる。その出処は、目の前の四人。

 

「……あー。なんで59式が指揮官やってるの、って顔してるね。うん、私は偶然にも59式にクリソツだっただけの人間だよ。ホントホント」

 

 と言ってもうっそだー、みたいな雰囲気がある。G&Kの指揮官用制服を着てるし、人形なら人形自身が指揮を取ることはできない、というのはわかっていて欲しいものだけれども、いや、意外と知らないのだろうか?

 

「人形が指揮を取ることは、例外を除いてできないって知ってるでしょ?」

 

 こう言うと納得してくれた。

 

「まあ、対外的にそこの59式のダミーリンクの一人としてカモフラったこともあるけど。PMC出身なのよ、私。違和感なかったらしいわよ」

「5Link人形で~す」

 

 そこのお調子者の発言はともかく、これは本当なのだがジョークとして取られたようだ。クスクスする声が聞こえた。

 

「あと、59式ほどちんちくりんでもない」

「しきか~ん?」

 

 初見にはウケがいいのよねえ、このネタ。笑い声まで聞こえた。さて、つかみはオッケー、次にいこうかしら。

 

「それじゃあ、多分一番使う部屋を紹介しておこうかしら。きっとみんな驚くわよー。ついてきて」

 

 ということで、五人を伴って指令室内を移動する。途中にすれ違ったりした職員に挨拶と四人を紹介しながら。

 この指令室――基地と呼ぶにはまだいろいろと足りない――意外と人員の配置数が少なく、兵装やら資源の管理はカリーニンを責任者として麾下何人か、修復及び整備開発室管理責任者私部下なし、データルーム同左、宿舎管理は住み込みらしきご老人、食堂は責任者一名に麾下数名、などなど。他にも警備はいるが、人手のいる整備室が私一人にぶん投げられているので驚くほど人数が少ない。なので、私が風邪を引いたり怪我をしたりしてダウンすると、指令室の機能が一気に止まることが想像できるので怖い。さすがに、アイツ式治癒能力は持ち合わせていない。幼い頃は普通に風邪を引いたし、転んだりして擦りむいたら普通に数日かかった。

 さて、そんなこんなで整備室。いっぺんやってみたかったのだ。

 G&Kのコートをばさぁ、と脱ぎ捨て放り投げ、いでよ作業用ツナギ姿の私!

 

「さあ、ここはわたしのしろだ! ぜんいんじゅうをだせ!」

 

 ……。しまった、スベった。

 

「コホン、この指令室の一番特異なところがこの整備室ね。なにせ、整備責任者と整備を実行するの、私だから」

 

 ポカンとした顔が唖然とした顔になったのを見れたのでとりあえず満足。

 

「えぇと……その、どういう……?」

 

 さすがに何か聞き返すのを我慢できなかったのだろうFive-seveN。よくぞ聞き返してきてくれた。

 

「言ったでしょ、PMCにいたって。その時から、人形と銃器の整備改造してるのよ。59式、見せてあげて」

「カシコマ!」

 

 言うが早いか、助走なしでその場から斜めに壁へ飛ぶ。壁を蹴って逆方向へさらに飛び、天井に足をつけて逆側の壁へ。もう一度壁を蹴って再び逆方向へ飛び、元の位置へとすたっと戻ってきた。つまるところ、横から見ると長方形の形の部屋の中を、ひし形を描くように動いたわけだ。

 

「軍用なの? この59式」

「いいえ。PMCにいたんだから、民間モデルよ」

 

 SPP-1の疑問も最もだが、人形躯体の強度と出力を高め、それに対しての戦術人形自身の感覚のミスマッチを修正、つまるところ最適化できているならばこれぐらいはできる。問題は、躯体との最適化データが、標準躯体の場合と比べて全くの別物になってしまうということか。ゆえに、カスタム躯体と標準躯体との二つの最適化データを59式には持たせていて自由に切り替えられるようにしている。カスタム躯体が継続的に供給できない場合は標準躯体を使わざるを得ないわけで、そのときにカスタム躯体データで動くと当然ぶっコケるからだ。逆に、銃器はASSTに影響が出ないように気を使っているので1パターンのみ。幸いにして、躯体駆動データを切り替えても最適化具合に問題がなかった、というのは助かった。ダイナミックに動けないのならばそれはそれでやりようがある、ということなのだろうか。あるいは、出力を落とした状態をエミュレートでもしているのか。ただ、そのアプローチでは最適化データを統合できなかったので、別の感覚なのだろう。

 

「だからまあ、まずは全員の銃器の改造調整と、躯体の抜本的改造ね。躯体は改造と維持が大変だから、手が空き次第順次、だけれど」

「指揮官、維持とは?」

「人間だって飛んだり跳ねたりしたら疲れるし筋肉痛にだってなるでしょ? 戦闘機動を行ったら、ボディは整備が必要になるからね」

 

 生体部品があっても、その下のシャーシ等には常日頃のメンテが必要になる。いまいち、グリズリーには実感がないのだろうか? あるいは製造したての人形特有の乖離感とかそういうのなのだろうか? まあ、消耗部品の交換で大抵は済むので、あまり手間ではない。手間ではない……が、さすがに例えば二百人の人形にそれを維持とか言われても無理であるのも事実である。

 

「ま、それは標準躯体だって変わらないけど、人を呼べば手数が増えるでしょう? でも、私の改造をしちゃうと私しか手が出せなくなっちゃう」

「確かに。でも、パーツが用意されていれば、整備員でもとりあえずできそうな気もするわね?」

「改造後の規格統一がなされてればいいんだけど、割とワンオフ、一点物に近くなっちゃうのが欠点といえば欠点ねえ」

「ああ……そういうことなのね」

 

 それは私も考えないでもなかったが、必要なパーツをその場でぱぱっと作成して使うほうが手間も著しく少ないのがネック。素材のロスを減らせるために、前もって部品を作成しておくよりも効率がいい、というのもある。

 

「ま、そんなわけで、まずは銃器から始めましょ。とりあえず全員、取り回しを変えないようにしつつ、耐久性とか威力とかをガッツリ引き上げるわよ」

「……信じがたいけど……どうせ最適化率1%だ。なんでもやってくれ」

「ちゃんと斧の強化だってするわよ?」

「指揮官、一生ついてく」

 

 うっわこのCZ75ちょろい。ともかく、銃火器がメインの時代に斧を持ち出すやつはそうそう多くないし、ましてや投げるとは。でも、投げ物として考えると、斧は実に威力重視な選択肢としてふさわしいブツだったりもする。単価は上がってしまうだろうが、ブレードを赤熱させてみたり、あるいは爆発物を括り付けて着弾後に爆発するとかもありだろう。回収できるなら回収しているようだし、まずは赤熱化か? 単価とかも、定期的に近くの産業廃棄物処理場を漁れば劇的に下げられるだろうし。

 ……改造とかそういう話になると思い切り脱線するのは私の悪い癖だ。

 ともかく、全員分の銃をまずは改造。レシーバーをアレコレしたり、部品強度を上げてみたりと色々とやる。その後に、シューティングレンジに全員を連れ込んで試射させ、ストック状態の銃と比較させてやると全員の顔がもう凄い凄い。

 後は躯体の改造であるが、こちらは時間がかかるので一人ずつやるしかない。物資もだいたい一人分。二人分はない。ので、誰から始めるかを考えてまずはSPP-1から始めようと思う。

 

「なんで私からなの?」

「なんとなくとしか言えない。強いて上げれば勘。単純機動力じゃなくて、夜間とか河川水域とか、そっちでの戦力充実が必要かなって思ったの」

「そう……水中のお仕事があったらぜひお任せください」

「オッケー。それじゃあ始めるわよ」

 

 

 

「さあ、この改造が成功すればお前の機動力は三倍になる!」

「本当!?」

 

 ……。

 

「しきか~ん。だからコミックネタとか製造直後の子には通じないってば……。あと、そのネタは結構古いし。私は指揮官に色々と振られて知ってるけど」


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