ご迷惑をおかけしました。
SPP-1の躯体を改造した段階で、一度時間切れとなった。一度、というのは鉄血の哨戒部隊の巡回間隔が来てしまった、ということだ。意外と躯体には戦術人形ごとに個性があって、59式の時に色々と記録しておいたことがあまり役に立たなかったのもある。
さて、任務の話をしよう。R08地区周辺は、有り体に言うととても地形が悪い。山に近く、所々枯れているとはいえ木々が生い茂るために見通しが悪く、そこかしこに狭い道があり、ついでに沢もあって所々水深が深いところまで散りばめられており、ごくごく稀に汚染されているために立ち入りを遠慮したほうがいい領域すらある。ふざけんなFPSのクソマップかコラ、と周辺地形にいちゃもんを付けたくなるぐらいだ。こんな地形でも地味に別の地区への輸送路となっており、ロケットで粉砕して封鎖して終了、とはできない。いや、最終的には山とかを切り崩して新しいルートを作り出したいところなのだそうだが。迂回路は汚染やらE.L.I.D出現率が高めやらでこの対戦マップを掌握することが望まれているそうな。芋砂りてぇ……。いや、芋砂ってかゲリラ戦術繰り返すだけでも相手には相当の被害が……ああ、同じことされたら輸送路としてはやべーわ、だから掌握したいのか。
慣らしを終えたSPP-1達を含め、とりあえず全員2Linkには届かせてある。なんとか今回を凌いで、次の任務にはせめて3Linkまでは上げておきたい。贅沢を言えば4Linkか。多Link人形は弾薬や食費が高騰する、なんて話が指揮官の手引きには書かれていたが、そこはHG型人形たちばかりなのでかなり軽いのはこれからの助けになるだろう。……後で知ったが、G&Kでの一般的な戦術人形のLink数は3らしい。え、4じゃないの……? うちの59式上位なの……?
全員を集めて、執務室でマップを壁に投影する。頭数が少ない上に全員がHG型なので、機動力を生かして射程ギリギリから狙撃、みたいなゲリラ戦術をせねばならない。射程向上とか精度向上とかはもちろん施してあるが、それだけで真っ向から打ち合って勝てるとは思っていない。
「なわけで、注意すべきポイントはこことここ。取り付くべきポイントはこっちね。今回はそこまで大きかったり数が多かったりしないけど、ドローンでの光学観測では三部隊が見えてるわ。ハイエンド機の姿はなし、装甲目標の姿もなし。全員分の改造サイレンサーも用意したから、使って。後はゲリラ的に、指示ポイントから一方的に弾丸をぶっこんで排除すればオッケー。質問はある?」
「補給は?」
「うーん、弾薬が尽きる前にケリを付ける予定だから必要ないと思っていたけど……そうね、念のために、この地点に弾薬と糧食を投下しておくわ。ちなみに、緊急撤退時のRZも同じ地点の予定よ。他に質問は? ……ないわね? それじゃあ出撃準備、三十分後にヘリポートに集合」
「了解したわ」
「了解です」
「了解」
「了解よ」
「カシコマ!」
……59式?
「いや、だって~、私、軍属でもG&K所属でもない、お嬢所有の戦術人形だもの、この辺りで差をつけておかないとね?」
「……なんの差よ……まあいいわ、とっとと準備にお行き」
「カシコマ!」
クスクス笑いながら出ていく他の四人に、大きくため息を付いた。
なんで私、こいつに思いっきり似てるんだろう……。下手にカモフラの有用性があるから、髪切ったりできないのが嘆かわしい。
カリーニンの視線にはケリで返事をした。
さて、出撃前に最後の小細工をする。
ささっと整備室に駆け込み、作業台で作ってしまいこんでおいたスナイパーライフルを取り出し、コアの電源を入れる。
これは実銃ではない。完全な架空銃であり、高熱のプラズマ弾を射出する鉄血のお家芸のようなエネルギースナイパーライフル。弾速に優れる上に弾道降下がないのが特徴なので、とにかく遠距離から狙い撃って支援するのに向いている。一方で、弾自体がめちゃくちゃ目立つので芋るとすぐに反撃が飛んでくるという面倒くさい代物だ。緑色の光球がえらい勢いで飛んでくるってすげぇ目立つよね……。が、今回の出撃チームを後方から支援するには打って付けのブツだ。
そして、カモフラも一緒に行うので、青のベルト留めチューブトップワンピースに白衣、メガネ、カラコン、ニーソにシューズ……遠目から見られるだけだろうので今はこれで十分だろう、ついでにサイドアームとしていつもの改造59式を二丁。完璧である。スリングを付けてスナイパーを背負い、ヘリポートまで移動して、みんなの到着を待つ。初めての出撃にわくわくどきどきでもしてるのか、あるいは念入りに準備してるのか、時間が近くなってもまだ誰も来ない。
と、バタバタと足音が聞こえてきた。
「一番乗り……じゃありませんでしたか。59式はダミーを全員呼びに行ったのにはや……59式? いえ……指揮官!?」
「ふふ、正解」
一番乗りであるSPP-1を少しでも混同させられたのであれば、遠景であればなおさらだろう。
「指揮官がカモフラージュ、とおっしゃっていた意味がようやくわかりました。59式に混ざって5Linkの振り……これは戦闘行動中の人形でないとわかりませんね」
「うん? 戦闘行動中ならわかるの?」
「はい。指揮官、電波出せませんよね? あと、何よりコア反応がありません」
「あーーーー。そこかーーーー。ジャマー今度作ろう」
盲点だった。通信とか索敵とか、人間と人形ではそもそも視点が違うのを忘れていた。
「ふぅ、まずいまずい、少し遅くなっちゃったわ。って、まだSPP-1と59し……指揮官ね? うわ、凄いそっくり、これはカモフラージュになるわけね」
Five-seveNも到着。一瞬迷わせたようだが、そこまで驚きはなかったのだろうか? ……と思ったが、ちらちらこちらを見ている辺り、動揺をなんとかして取り繕った、というところ? ポーカーフェイスが普段からできるのは便利だし見習いたい所。
「……。……指揮官、コスプレ? 確かにそっくりだけど」
CZ75はクールだった。動揺もしやがらない。この斧フェチめ。
「指揮官、風評被害はお断り」
「何も言ってないわよ?」
顔に出したりはしていないのだが……。PMCやってたんだ、ポーカーフェイスにはそれなりの自信がある。
「結局ギリギリじゃない、59式のせいよ?」
「ダミーが多いんだもん、仕方ないじゃない! ……お? え、なにこれ、鏡?」
ラスト、グリズリーと59式が同着。実を言うとこっちから59式に着衣その他まで含めて姿を寄せる、ということは初めてなので、59式も困惑したのだろうか? とりあえず反応が欲しいので、59式のよくやる有能のポーズを真似てみる。
「むぅぅぅぅ!!」
……張り合って59式まで有能のポーズをやってきた。というかなんなの、有能のポーズって。真似ておいてなんだけど。
「よし、全員揃ったわね、これよりヘリに搭乗、目標地点まで移動。後はブリーフィングどおり、指定のポイントから攻撃を加えてちょうだい。それと、私も今回は後ろから狙撃支援で参加するわ。この格好は、見た目で指揮官ってバレたら強引にでも殺しに来るかもしれないからのカモフラージュね。今後、これに類する格好の時は59式と呼ぶように」
「ちょっとちょっとお嬢、ボケ倒した挙げ句放置はさすがにちょっと酷いんじゃない!?」
「……ごめん。やっといてなんだけど反応に困っちゃって」
「うわ〜、無責任にも程がある」
「ねえ、指揮官」
と、CZ75が少し頭を抑えながら割り込んできた
「59式。で、何?」
「しきか……59式と59式でどっちを呼んでるかわからないんだけど」
「ニュアンスで」
「にゅあんす」
CZ75の顔にはいや、無理だろ、って書いてある。
「……しょうがないわねえ、なんか別の呼称考えておくわ。とりあえず今回はダミーでお願い」
「了解。それならわかる」
「よし、それじゃあ出撃よ、全員搭乗!」
左右から手早くヘリに乗り込む。将来的には5Link×五人の総計二十五人が乗り込むことができるはずのヘリは大きく頑丈で、それゆえ輸送能力に特化しており戦闘に耐えうる機動力や攻撃能力は保持していない。が、この辺りはG&Kの勢力圏内なので飛行自体には問題ないことになっている。ジュピター砲?とやらも運用を聞く限り対地攻撃用の砲であり地対空ができるものではないはずだ。スティンガーやらなにやらの地対空軽火器を鉄血が所持している、なんて話も聞かない。ただ、こちらも将来的には持ち出してくるかもしれないので、何かしらの急制動と同時に撒くためのフレア、チャフなども必要になる前に作っておこう。
ちなみに、私はシミュレーターでヘリを落としまくっているので、実際の操縦桿を握ったことはない。
さて、着地地点から私含め総計十三人が展開。私は戦域把握用のドローンを飛ばし、確認用のPDAを起動する。戦域全体を俯瞰して状況把握ができるこのドローンシステムは、本当に優れ物だ。戦闘中に撃墜されない対策なども盛り込んであるらしい。今度調べよう、等と考えつつ、自分で指定した狙撃ポイントの一つに到着。整備室から暖気させておいたエネルギーコアの駆動状態を起動暖気から臨戦に引き上げる。銃身の一部にエネルギー残量割合がニキシー管表示されるのはレトロなんだか進んでるんだか。トリガーロックしたままスコープを覗き込み、59式以下全員が配置についたのを確認して、鉄血の姿が最初に見えるならここ、という地点にスコープを向ける。時折ブースターを倒したり起こしたりして周囲にも気を配る。
ドローンからの情報では、鉄血はもう少しで到着する。部隊数にして三。前衛にProwlerとScoutの斥候部隊、続いてRipperとGuard、VespidにJaegerと続く平均的な鉄血部隊。
編成種別が多くてよござんすね。全員、クズ鉄にジョブチェンジしてもらおう。
Jaegerが見えた瞬間、頭に向けて発砲。どれがダミーでどれが本体かわからない以上、全部ぶちのめせば良いという単純な結論に基づく力押し作戦。今の全員の火力であればそれが十二分に可能、という推測にも基づいている。Jaegerの顔に穴が空き、突っ込まれた高い熱量にボン、と爆発。
「……威力が高すぎたか」
これでは電脳部分がジャンクとして回収できない。
……が、現状そこまで贅沢は言っていられないのも事実。特にJaegerの危険度は高いので、狙撃支援でコイツらをとにかく無力化して頭数を減らす必要がある。最適化の進んでいる59式なら早々心配はいらないが、改造したとはいえ最適化具合の甘いSPP-1や、改造もまだの他三人に危険なRF型の銃口が向くことはできる限り回避したい。
59式達も射撃に入ったようで、見える範囲のProwlerやScoutがみるみるうちに地に落ちていく。改造サイレンサーの消音率は驚異の99.99%。横で聞いていてもわずかに音がしたか? というレベルまで落とすので、こちらが見つかるまでにまだまだ攻撃を加えられるだろう。ズビューン、ズビューンと私のスナイパーの音が響く中、最後のJaegerが沈黙。
これ以上は狙撃支援はいらないだろう。案の定、59式が飛び出して残的掃討に移っている。やはり多Link人形による数の火力というものは圧倒的で、銃口を向けられれば即溶けるように倒れていく鉄血人形たち。その一方で、最適化率に劣るために連動して頭数も劣る他4人は、共同してターゲットを絞って確実に落とす方針で数を減らし続けている。暇なので首を狙ってぶち抜こうかとも思ったが、ドローンを操作して状況を記録、さらなる敵の出現を警戒、ということで周辺を索敵にかかった。
妖精建造が流行っていますね。
ようやっと新種がうちにも来ました。
挑発と防御でした。