そして、いつの間にかランキング9位に入っていたことに驚きです。
皆様のおかげです。ありがとうございました。
都合よく綺麗な夕日など見れない住宅街に建てられた我が家の鍵を慣れた手つきで解錠する。
「ただいま」
「ただいま~」
今のうちに改めてウチの家族構成を説明しよう。
ほのぼの~と生きている母さんとこの前帰った時は丸一日寝ていた社畜の親父との間に生まれた一人息子の僕。それが都築家だ。
そんな母は旅行へ、父は相も変わらず出張へ出かけています。
では、僕以外に誰がウチで”ただいま”と言って入るか。
「こーく~ん。モカちゃんのお泊まりセットをすーはーすーはーしてないよね~?」
「お前は僕をなんだと思っている、モカ」
青葉モカ。現在16歳。
だからもっと淑女としての嗜みでも学びましょ?玄関空いてるんだから堂々と言わないの。
躊躇いもなく家の中に入っていった16年の付き合いとなる幼馴染に鍵を内側からかけながら心の中でオカンの口調で注意をする。
「ありゃりゃ~。こーくん、寝る時のパジャマなかったー」
「取ってくればいいだろ?」
「えぇー、めんどくさーい」
昼食をすませてまたバイトに戻った僕はバンドの練習が終わったモカに合わせられて帰ってきたのだが、僕の部屋にお泊まりセットとやらをいつの間にか置いていたモカが颯爽と取りに行く。
帰省中に僕はモカのギターを預かっていたので丁寧にリビングに置いているとトテトテやって来たモカが駄々を捏ねてきた。
溜息を吐きながら、僕は自分の部屋に向かって歩いた。
「ジャージでいいか?」
「ん~?そだねー。Yシャツあるなら裸Yシャツしてあげるー」
「答えになっていない」
それに、あーたそこら辺のネタは弱いだろ。
今もほんの少し頬が薄紅色に染まってるぞ。
……しかしあれだ。こんな展開になるなら無駄なお節介じいさんから無駄なお告げがあるはずなのに。
─────おーい、じいさーん。生きてるかー?
『……………』
─────……え、マジで天に召された?
『ピンポンパンポーン』
うわ!何この昭和のアナウンス!
『えー、本日連絡をしてきた皆よ。今日は家族サービスをせんとおni───ばあさんから怒られるのでの。明日の朝には戻ってくるから部下の皆よ、書類仕事よろ~。オデノカラダハボドボドダ!』
ドゴォぉぉぉおおおン!
……あれだ。このメッセージが流れた三秒後爆発します的なあれを再現したんだろう。だから昭和かっ!
後、最後。マダオになるないけません!
っと、現実逃避はそこまでにして、今回ばかしは本当の意味でモカと二人きりでのお泊まり会になりそうだ。
だからってまあ、何か起こるわけでもないが。
素早くジャージとTシャツを取り出してモカにパスする。
少しよろめいてキャッチしたモカは礼を言って何処かに消えてしまった。まぁ家の中の何処かだが。
「さて、晩飯の準備をしようか」
と言っても僕の料理の腕はそこそこだ。簡単なものしか作れないから無難にカレーにしよう。
早速準備に取りかかる僕。
え?モカ?
あいつは料理できるっちゃできるがやろうとしないので僕が作りますはい。
適当な大きさに具を揃えて色々入れて煮込むのみ。はい簡単。手順知りたいなら食○のソーマでも見てください。イケメン君がスパイス使って本格的なの作ってるんで。
一人虚しく何考えてるんだかとじいさんとの暇つぶしの会話に慣れていた僕はぼーっとするのもあれなんで火に気をつけて台所から離れた。
そして、すぐに溜息が漏れる。
「はぁ……モカ、上着はちゃんと掛けてくれ」
「これ読んだら~」
今は春も終わりを迎えている時期。
一応上着を着ていたモカだが家に入るとそのままソファーに掛けていた。
注意するもモカはソファーに寝転んで僕が買い込んでいたマンガを大量に持ってきていて読みふけていた。
仕方なくハンガーに上着を掛けると今度はテレビをつけて鑑賞し始めたモカを見た。
薄い長袖を着ているが丈が短いのか臍あたりのラインがしっかりと見える。そして下はショートパンツのためちょうどいい肉付きをした白い足が諸に見えていた。
「一応言っておく。男がいるんだから自分の格好くらい弁えろよ」
「だいじょーぶ~。こーくん以外の男の人の前では気をつけてるから~」
いやいや僕の前でも、じゃなきゃだめだから。
一応と言った手前、今からモカが服を正すと思えないのでもう何も言わない。
だがモカはイイ笑顔で僕を言葉で攻撃してきた。
「どーしたのー?こーくんヤキモチ~?」
「先程のセリフの何処を切り取ればそうなる」
「なーんだ。違うんだ~」
そう言ったモカはゆっくりと起き上がってソファーのスペースを広げて僕に座るよう促してきた。
大人しく従って、ソファーに座った僕の膝に少々耳が赤いモカが頭を置いてきた。
あら珍しい。モカが甘えてくるなんて。
呑気にそんなことを考えているとふと、モカが読んでいたマンガのページが膝枕をしている男女の描写だったと見えた。
勿論男が膝枕をされるほうで今の僕達とは立場が逆だ。
「どうした?」
「モカちゃんはねー、こー見えて怒ってるんです!」
何を?と尋ねる前にモカがごそごそと頭の定位置を変える。くすぐったい。
最終的に僕の顔が見えるように動き終えたモカは精一杯頬を膨らませた。何この生き物かわゆい。頬をつついたら怒るかな?
だが、僕とは違ってモカは本当に怒っていたらしい。
「こーくん。こーくんは女の子の前でだらしなくしてなーい?」
「当たり前だ。そもそも僕は男子校だぞ」
「つぐと彩さんの前でもそーいえる?」
「…………」
三大天使の内二人の名前がでたため何もいえなくなった。
あ、もう一人はかのちゃん先輩です。かのちゃん先輩がふぇぇ~言う度にいただきました!と二人喜んでます。
え?あと一人?家族サービス(泣)の最中のどっかの変態だよ。
「あと花音さん」
「…………………………………」
更に、何も、言えなく、なたよ。
思わず視線を離していると腰ががっちりホールドされた。
ごめん、何か言い方が卑わーいだわ。詳しく説明するために視線を戻すとモカが僕の腹に顔を埋めるようにして抱きついていた。
「why?」
「……なんでじゃないよ。ちょっとでいいからいつもみたいに変なこと考えないで聞いて」
綺麗な発音で言えたwhy。
だが、あきらかにモカの様子がおかしい。
いや違う。
何か我慢してたのか。
「私はね、こーくん。絶対に男の人の前でだらしなくしてない。おとーさんは違うけど、とにかく、こーくんだけ普通にしてる」
力強く断言するが、その中には他に弱々しいものがあった。
腕に回す力が強くなるが痛いような強さではない。
「私とこーくんは一番幼馴染してるの。でも、それだけなの。それだけってわかっているんだけどねこーくん。私は今日、こーくんがまりなさんに抱きつかれてたり、つぐにいいお嫁さんになるって言ったり、彩さんを探したりしてるの、ほんとーに、いやだった……」
早口でいったわけでもない。ゆっくりいったわけでもない。
あくまで普通に、いつもの会話のようにモカは本音をさらけ出した。
暫くの間、何も言えない僕は目元を重点的に僕の腹部に擦り付けるモカの頭に手を置いて撫でることしかできなかった。
つくづく僕が最低な野郎だと理解させられた。
人の気持ちをわかっているようでわかっていない。
だから僕は、前世の僕は過ちを犯した……はずだ。
神様のじいさんは黒歴史がどうこう言ってたが、本当は僕が逃げ出したのだろう。今ならわかる。
ずっと引っかかっていた鍵がほんの少しだけ開かれたような気がした。都築光琲の前の、ーーーーとしての僕の記憶。
僕には二つ選択肢がある。
一つは、ーーーーとしての記憶を完全に思い出して、前に進もうが停滞しようが先の自分に任せること。今の僕ならもう少し記憶を辿れば全て思いだせる。そう確信できる。
この選択が一番の王道だろう。とにかくめちゃくちゃ強くなるコミックの主人公ならこれを選ぶ。
だけど、
「こーくん…こーくん───」
僕は───都築光琲はおそらく、いや、
卑怯かもしれない。
だけど、それでいい。思い返せば度々じいさんからはこう言われていた。『お主が選べ』と。
僕は別に前世の思い出など引きずってない。
ならば、僕の思うがままに、
「聞いてくれモカ」
「……こーくん?」
「僕はこれからもモカに嫌な思いをさせるかもしれない。でも、これだけは断言する」
腕の力が緩んだ。そこからゆっくりと顔を上げるモカの表情は悲しくて、苦しくて、辛くて。16年一緒にいたからこそ、やっと向き合えた顔が見えた。
視線が屈折しないよう、モカの目元を指で掬う。
硬い表情筋を和らげて、少しでいいから笑顔を作ろう。自然と開く口を抑えることはしない。
そして、モカの目を見つめて改めて僕は───
「お前は僕のものだ。一度たりとも離すつもりは無い。だから黙ってついてこい(訳:僕はモカが好きだ。絶対にモカだけを見ている。だから僕に着いてきてくれ)」
───この自動言語変換システムが搭載された強化顔面の恐ろしさを理解した。
***
(男のヤンデレなんて需要ないやーん!)
ごろごろごろ───
心の内で叫びながら、僕はベットの上で転がっていた。
ドンッと壁に衝突して転がることをやめた僕は数時間前のことを思い出していた。
何故かヤンデレ風もしくは少女漫画の俺様系ヒーローが言いそうなセリフ―――いや、笑顔を作ろうとして引き攣った恐怖の顔面になっていたらヤンデレか。まぁ、今となってはどうでもいい似合わないキャラのようなセリフに変換された告白(笑)を聞いたモカは一瞬で沸騰したかのように顔を赤くして逃げていった。
そこから互いに無言の食事を終えて、客間を整えてから、風呂に入った僕はそのまま部屋に閉じこもっていた僕は今に至る。
僕の強化顔面について愚痴りたい時に限って不在のまるでダメな神のじいさんに祈るという約束を完全に白紙にして恨みを念じた。
時計を見ると寝る時間。モカも客間で寝るだろうと思い電気を消そうとした時だった。
「───こーくん」
呟くように僕の名前を呼ぶ声がした。
僕をそのように呼び且つ家にいるのは僕を除いて一人しかいない。
「モカ…………モカ?」
「き、今日はー、こーくんのベットで寝るね~」
そう言って僕の是非を聞かずに布団の中に潜り込んできたモカ。ご丁寧に電気を消してくれたのはありがたいが、あーた今僕が貸したジャージを着ずにTシャツだけじゃなかったかい?
下着がぎりぎり見えないような危険な格好だったような気がするも、布団に潜り、電気が消えた状態では確認できない。
ま、まぁそれは置いといて、
「モカ……もういいのか?」
「……うん。もー落ち着いたよ。まったく~これも全部こーくんがあんなこと言うからだぞー!」
頭もすっぽり布団の中に入ったモカはいつもの調子でそう言ってきた。
「悪かった。忘れてくれ」
「いや。ぜーったい!忘れないよ」
先程までとは打って変わって嬉しそうな声色のモカは少し動いて、僕の胸に頭が来るようなポジションに移行すると思いっきり抱きついてきた。
遠慮のない感情が溢れた暖かく柔らかい感触に、僕は不味いと声を上げる。
「モカ、それダ──」
「ダメじゃなーいよー。モカちゃんはこーくんのものらしいから、ちゃんと引っ付いてないと~」
くっ、やるな策士モカ!
いや、その場合は馬鹿なことを口走った僕が雑魚兵士なのか。
反論できない僕はこれを楽な選択肢に逃げた報いだと思い、彼女に襲いかからないように理性の壁を厚くした。
それでも、微笑みながら抱きついていると何となくわかると自然と口元が緩んだ。そんな感じがした。
さあ!今夜はレッツ武者修行だ!
徹夜覚悟で理性を保とうと意気込んでいた僕は布団の中て囁くモカの声が聞こえなかった。
【ちゃんとわかったよ。こーくんが
結局、モカの寝息にドギマギしながらもモン○ターエナジーを摂取していない僕は爆睡してしまっていた。
起きたのは翌日。あれからずっと抱きついたまま離れなかったモカは未だに夢の世界にいた。
「んにゅ…”この超絶かわいい美少女の名前はモカ神様。かつて世界にはモカ神様しかいませんでした”………んんぅ…」
ははは、可愛らしい寝言だな。
でも、モカ神様か。本当にいるんなら、
『ほほえま~(意味深)』
このクソ神を成仏させてくださいませんかね?
現在時刻朝の3時。
眠たい頭で僕は勉強していた成仏のお経を唱えながらモカも眠るベットで二度寝を続行した。
今回評価してくださった
櫛菜さん、セイトさん、メロンパン型染色体さん、リュウォールさん、かつどぅーん1号さん、(*^-°bさん
ありがとうございました。